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「俺好みにする必要なんて、ないもんな」
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行き着いた考えに、譲は喜びながら落ち込むという、奇妙なことをしてのける。
そう。女の子と付き合う、ということに関しては、恭平はきっと大学の友人たちよりもずっと、色々と知っていて詳しいはずだ。初体験はいつのときだったかなんて話題が出たときに、恭平はしれっと、高校一年生の時に年上の彼女にリードをされて、と言ってのけて、重人らをうらやましがらせたことがある。
年上とも同年とも年下とも付き合ったことのあるらしい恭平は、きっと他の誰よりもデートというものを熟知している。譲が思いつくようなデートプランは、鼻で笑うレベルのものなんじゃないだろうか。
「うあぁ」
譲は頭を抱えた。いったいどうすればいいのか、どうすれば彼氏らしく振舞えるのか、見当もつかない。見た目ならば、身長差ならば、きっと並べば丁度いいくらいになるだろう。けれど、突っ立っているだけではどうしようもない。そもそも、クリスマス前の連休、グループデートはどこで何をするつもりなのか。いや、そんなことを今から考えてしまうあたりで、もうだめなのかもしれない。
ぐるぐるぐるぐると、少しずつ譲の浮かれた気分が沈んでいく。もう少し、恋愛話に興味を持っておくんだったと後悔しても、今更すぎる。恭平にあれやこれやと世話を焼かれ、何も出来ないままに終わってしまう自分の姿が安易に想像できて、譲はさらに落ち込んだ。
「情けない」
はぁ、と息混じりに呟けば、女装した恭平の姿が脳裏に浮かんだ。
楚々としているのに華やかさを感じるのは、恭平の持ち前の魅力が出ているからだろう。ゆったりとした上着に、ふわふわとやわらかいロングスカートは、自分の好みの女性の姿だと思ったが、譲の好みがどうこうではなく、単に男の体格を隠すためだったんじゃないのか。
「俺好みにする必要なんて、ないもんな」
もともとは恭平の大学の文化祭の模擬店のためなのだから、大学の友人らと話し合って、ああいう女装に決まったはずだ。それが偶然にも譲の好みだっただけであって、そもそも譲の好みは特殊なわけではないのだから、他にもああいうタイプが好みだという人間がいただろう。そんな誰かが、恭平にはあの格好がいいと言ったのかもしれない。いや、模擬店なのだから、そうしようというふうに皆で決めたはずだ。
それなのに、一瞬でも自分の都合のいいように思ってしまったと、譲は恥ずかしさに体を熱くし、これ以上ないほどに縮こまった。
その勘違いを誰かに言ったわけでもないのに、自分自身がものすごく恥ずかしい。勘違いもはなはだしすぎると、浮かれすぎている自分にモジモジとしながら、譲は布団をかぶって細く長く息を吐いた。
でも、と譲は考え直す。
そう思ってしまったのは、恭平と身を重ねた後だったのだから、勘違いをしても仕方がなかったのではないか。恭平に抱かれた後だから、そんなふうに思ってしまったのではないか。
「あ、そうか」
俺は、恭平に抱かれたんだ。
仮であっても恭平の恋人になれるということに、意識が向きすぎて忘れていた。
もぞもぞと布団の中で動き回り、一人で照れたり落ち込んだりを繰り返しているうちに、譲は睡魔に招かれて、いつしか寝息を立てていた。
そう。女の子と付き合う、ということに関しては、恭平はきっと大学の友人たちよりもずっと、色々と知っていて詳しいはずだ。初体験はいつのときだったかなんて話題が出たときに、恭平はしれっと、高校一年生の時に年上の彼女にリードをされて、と言ってのけて、重人らをうらやましがらせたことがある。
年上とも同年とも年下とも付き合ったことのあるらしい恭平は、きっと他の誰よりもデートというものを熟知している。譲が思いつくようなデートプランは、鼻で笑うレベルのものなんじゃないだろうか。
「うあぁ」
譲は頭を抱えた。いったいどうすればいいのか、どうすれば彼氏らしく振舞えるのか、見当もつかない。見た目ならば、身長差ならば、きっと並べば丁度いいくらいになるだろう。けれど、突っ立っているだけではどうしようもない。そもそも、クリスマス前の連休、グループデートはどこで何をするつもりなのか。いや、そんなことを今から考えてしまうあたりで、もうだめなのかもしれない。
ぐるぐるぐるぐると、少しずつ譲の浮かれた気分が沈んでいく。もう少し、恋愛話に興味を持っておくんだったと後悔しても、今更すぎる。恭平にあれやこれやと世話を焼かれ、何も出来ないままに終わってしまう自分の姿が安易に想像できて、譲はさらに落ち込んだ。
「情けない」
はぁ、と息混じりに呟けば、女装した恭平の姿が脳裏に浮かんだ。
楚々としているのに華やかさを感じるのは、恭平の持ち前の魅力が出ているからだろう。ゆったりとした上着に、ふわふわとやわらかいロングスカートは、自分の好みの女性の姿だと思ったが、譲の好みがどうこうではなく、単に男の体格を隠すためだったんじゃないのか。
「俺好みにする必要なんて、ないもんな」
もともとは恭平の大学の文化祭の模擬店のためなのだから、大学の友人らと話し合って、ああいう女装に決まったはずだ。それが偶然にも譲の好みだっただけであって、そもそも譲の好みは特殊なわけではないのだから、他にもああいうタイプが好みだという人間がいただろう。そんな誰かが、恭平にはあの格好がいいと言ったのかもしれない。いや、模擬店なのだから、そうしようというふうに皆で決めたはずだ。
それなのに、一瞬でも自分の都合のいいように思ってしまったと、譲は恥ずかしさに体を熱くし、これ以上ないほどに縮こまった。
その勘違いを誰かに言ったわけでもないのに、自分自身がものすごく恥ずかしい。勘違いもはなはだしすぎると、浮かれすぎている自分にモジモジとしながら、譲は布団をかぶって細く長く息を吐いた。
でも、と譲は考え直す。
そう思ってしまったのは、恭平と身を重ねた後だったのだから、勘違いをしても仕方がなかったのではないか。恭平に抱かれた後だから、そんなふうに思ってしまったのではないか。
「あ、そうか」
俺は、恭平に抱かれたんだ。
仮であっても恭平の恋人になれるということに、意識が向きすぎて忘れていた。
もぞもぞと布団の中で動き回り、一人で照れたり落ち込んだりを繰り返しているうちに、譲は睡魔に招かれて、いつしか寝息を立てていた。
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