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8.王子様は淑女がお好き?
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弘毅が自分で果ててくれた。
最後まで、ちゃんとしたとは言えないけれど。それでも彼のかけらを受け止めた。
ゆるむ唇を引き締めて、頼子はせっせと施設内の掃除をしていた。休憩室のティーバックを補充して、湯のみにかけている布巾を取り、濡らした布巾を用意する。ポットの中に水を入れて沸かすスイッチを入れ、よしっと気合を入れた頼子に職員が声をかけた。
「今日はずいぶん、はりきっているわねぇ」
「そうですか?」
「なんだか、動きが軽やかよ」
エヘヘと笑った頼子は、「いいことあったの?」と問われて「慣れて来ただけですよ」と返事する。
(弘毅さんと、あんなことをしただなんて言えないもんね)
朝、目が覚めると自分の布団で眠っていた。下着をつけ、寝間着も着て。
(眠った私を、弘毅さんが抱き上げて運んでくれて、体を拭いて着替えさせてくれた……ってことだよね)
キャアッと肩を上げて含み笑いをした頼子は、本日の利用者名簿を手に取った。
(あれ。今日、昌代さんは来ないんだ)
うまくいったかもしれないと、報告をしたかったのに。
(まあでも、しかたないか)
それじゃあ今日は、だれの散歩のパートナーになるんだろうと名簿をながめていると、声をかけられた。
「あ、頼子ちゃん。今日は向田千代さんって、あたらしい利用者さんがいらっしゃるから。その方の相手をしてもらうわね」
「向田、千代さんですね」
名簿の一番下に、その名前はあった。年齢は昌代さんよりすこし若い。
「千代さん、ちょっと前まで病院にいらしてね。リハビリで散歩をしなくちゃいけないんだけど、ご家族の方々が昼間は忙しいのよ。それで、リハビリ散歩のために、今日からこちらに通われることになったの」
福々しく、肝っ玉かあさんと呼ぶにふさわしい容姿の施設社員、柳原清子が眉を下げて頬に手を当てる。ぷっくりとした頬がもりあがって、片目が肉に埋もれた。そんな仕草もなんとなく、かわいく見える彼女が頼子は好きだ。
(私も、こんなかわいいおばちゃんになりたいな)
スッキリとした都会の女にあこがれもするが、あらゆることを受け止められる包容力と、安心感を与えてくれる雰囲気はうらやましい。実際、清子は利用者だけでなく、従業員たちにも好かれている人気者だ。本人はちっとも、そんな意識を持っていないのも好感度を上げている。
(会社の事務員さんたちとは、ぜんぜん違うなぁ)
見た目はきちんとしていたし、スタイルにも気を使っていた最年長の女性事務員は、明るく活発だが、どこかとげとげしい気配をかもしていた。彼女に勘違いの嫉妬をされてしまったがために、頼子は女子事務員たちの中で孤立して、居心地が悪くなって退社をした。
(仕事は、けっこうおもしろかったのになぁ)
仕事が自分に合っていたとしても、人間関係がこじれてしまえば居心地が悪くなる。仕事だと割り切って、なんて簡単に説得されたが、あんな空間にずっといたら心が疲弊してしまう。知らないうちに削り取られた心をもとに戻すには、離れるしかない。
(職場って、一日のほとんどの時間を過ごす場所なんだから)
休日を挟んだら、余計に出社が憂鬱になる。そんな場所から逃げなさいと言ってくれた母親と、受け入れてくれた多美子にあらためて心の中で感謝する。
(ここに来て、よかったなぁ)
困った顔をしていても、ほんわかした空気が崩れない清子の姿に、頼子はつらつらとそんんことを考えた。
「千代さんね、自分ひとりでも大丈夫だって言うんだけれど、なにかあったら困るでしょう。だからちょっと強引に、息子さんがここに連れてくるみたいなのよね。それで、こんな田舎だから、顔見知りが多いじゃない? 知り合いに散歩の補助をされるのはいやがるかなと思って、頼子ちゃんにお願いしたいのよ」
「気難しい方なんですか?」
「そういうわけじゃ、ないんだけど。そうねぇ、どちらかというと気を遣う人ってところかしらね」
「気を遣う人、ですか」
「そう。迷惑をかけないようにって考えているから、リハビリ散歩はひとりで大丈夫なんて言っているんだと思うわ」
ふうんと頼子は名簿の“向田千代”の文字を見る。
(気を使って、それで大変なことになったら、もっと迷惑をかけちゃうのになぁ)
「わかりました。千代さんのことは、私がやります」
自信を持って「任せてください」と言えないのは情けないが、それでも精一杯やってみるつもりだ。それを聞いた清子は愁眉を開いて「よろしくね」と、玄関へ向かった。時計を確認すると、そろそろ利用者の方々が到着する時間だった。
利用者は家族に連れてこられることもあるが、近隣のだれかに連れてきてもらうこともある。こちらが迎えに行く場合もあるにはあるが、よほどのことがない限り、職員たちはここから離れない。頼子のほか全員が運転免許を持っているし、車で通勤しているが、従業員の数が充分でないことが理由だった。
利用者たちもそのへんは理解しており、自分で運転できない人や、家族に連れてきてもらえないときなどは、気軽に近所のだれかに頼む。
そういうご近所づきあいが当たり前になっているのは、いいことだなぁと頼子は感じる。都会では、隣に住んでいる人とも交流をしないことがすくなくない。頼子の場合は実家から職場に通っていたから、子どものころから知っている人たちに囲まれているので、そんなことはないが、ひとり暮らしをしている友人などは、隣に住んでいる人間の性別すらも知らないと言っていた。
(どっちがいいかなんて、わからないけど)
それでも助け合えるのはいいことだと、頼子も玄関へ向かって利用者を迎え入れた。
ぞろぞろと年配の方たちが施設の建物に入ってくる。矍鑠としている方もいれば、膝が悪くて靴を脱ぐのにも苦労する人もいる。頼子は笑顔であいさつをして、手の必要な利用者さんの世話をした。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
杖を持っている利用者さんの手を引いていた頼子は、ふと顔を上げた。見慣れない老婦人が恐縮して頭を下げている。対応しているのは清子だ。
(あの人が、千代さんかな)
上品そうな方だなぁと思いながら、頼子は手を引いている年配女性を休憩室へ案内した。
今日はレクリエーションのない日なので、散歩の時間のほかは、みんな自由に過ごしている。ただテレビを観ているだけの人もいれば、本を読んでいる人、編み物をしている人、おしゃべりに花を咲かせている方々などがいる。
その間、頼子はだれかの話し相手になるのが仕事だった。従業員のほとんどが昼食を作ったり、利用者やその家族の相談に乗ったりしていた。
休憩室を見回した頼子は、所在なげにポツンと隅に座っている千代を見つけた。知り合いはいないのか、だれも千代を気にかけてはいない。おせっかいかもしれないけれどと、頼子は湯呑をふたつ持って、千代の傍に行った。
「お茶、どうぞ」
「ああ、すみません。ええと」
「頼子です。田倉頼子。おばさ……加賀多美子さんの知り合いで、ここのお手伝いをさせていただいています」
「そう」
目を細めた千代は、まじまじと頼子を見るとほほえんで、湯のみに手を伸ばした。
「ありがとう」
「いえ」
迷惑じゃなかったみたいだと、ホッとする。慣れない場所で、なにをどうしていいのかわからなかっただけかもしれない。
「ええと、ここはみんな、けっこう自由に過ごしているんです。なにかしなくちゃいけない、なんてことはなくて。散歩のときは別ですけど。だいたいは、休憩室でのんびり好き勝手に過ごします。お茶も勝手に飲んでよくって、緑茶と、紅茶と、コーヒーがあります。テーブルの上のお菓子も、勝手に食べていいんですよ。お医者さんに止められていない限りは」
ちょっとおどけてつけ足すと、千代はクスリと表情をなごませた。
「具合が悪いとか、イスに座っているのがつらい場合は、畳の部屋もありますから」
話を聞きながら、相づちに頭をゆらゆら揺らす千代は両手で湯呑を抱えている。飲むわけではなく、ただ中をながめている。
(緑茶、あんまり好きじゃなかったのかな)
用意されている飲み物のなかで、これがいちばん無難だと思ったのだが。
「頼子ちゃん」
三人で固まっている年配女性に呼ばれて、頼子は千代に気持ちを残して移動した。
「こんなものを作ったのだけれど、どうかしら」
見せられたのは、パッチワークのコースターだった。なかなか渋い色合いで、味わいがある。
「わあ、すごい。これ、鎌田さんが作ったんですか?」
「そうよ。時間だけはたっぷりあるから、手慰みに作っていたら、どんどんたまってしまってね。ここで使ってもらえないかしら」
「ありがたいです」
「私は、編み物で作ったのよ」
「私はちり紙入れなんだけど。頼子ちゃん、使ってくれる?」
「はい!」
ありがたく受け取った頼子は、こういうものを都会の雑貨屋で置けば売れそうなのにと考えた。
(すごく丁寧に作られているし、頑丈そうだし)
創作雑貨を販売している店に行ったことがある。がま口財布なんて大人気だった。こういう色合いの和風パッチワークなら、外国人に人気が出そうだ。
(もったいないなぁ)
だけど彼女たちにとっては、なんでもない技術なのだ。それをなんとか、すごいことだと認識してもらえれば気持ちの張りにもなるんじゃないか。
(私がすごいって言うだけでも、こんなによろこんでくれるんだもの)
チラリと千代に視線を送る。千代は変わらず湯呑を両手に大事そうに包んだまま、うつむいていた。
(千代さんも輪の中に入れるように、なにか……とっかかりを見つけたいな)
なんとなく、千代の姿が会社にいたころの自分と重なった。
そうそう妙案が浮かぶはずもなく、昼食の時間となり、千代はもそもそと申し訳なさそうに、ひとりきりで食事を終えた。
(これだけ大勢の人がいるのに、だれとも会話していない)
出された料理は、きちんとすべて食べ終えている。具合が悪いとか、そういうことはなさそうだ。ただ単に引っ込み思案なだけかもしれない。だとすれば、へたに人の輪に入るよう勧めるのは逆効果だ。
(自然と慣れてくれるまで、待った方がいいのかなぁ)
すべての利用者が食事を終えて、食堂の片づけをすると散歩の時間になる。頼子は千代の手を引いて行くものだと思っていたが、彼女は自分で靴を履き、頼子が差し出した手をさりげなく断って杖を握った。
(そういえば、気を遣う人だって清子さんが言ってた)
もしかして、世話にならないように、迷惑をかけないようにと部屋の隅にいたのだろうか。だとしたら、なんとなくさみしいなと頼子は千代の隣を歩いた。
公園に到着し、ゲートボールをするものや、そのあたりを散歩するもの。ベンチに腰かけておしゃべりをするものなどに別れる。千代の場合はリハビリも兼ねているので、周辺を歩くことになった。
「こんな年寄につき合わせてしまって、ごめんなさいね」
「いえ」
公園からすこし離れた小道にさしかかると、千代がふいに口を開いた。ゆったりとした足取りに合わせていると、いろいろなものが目に入る。道端の草や木の葉の形が微妙に違っているのを、見るともなしにながめていた頼子は空を指さした。
「雲が、ウサギみたいです」
えっと顔を上げた千代が立ち止まり、「あら、ほんと」と目を細める。
「こうしてのんびり歩かないと、ああいうものに気がつけないので。たのしいです」
まばたきをした千代が、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「そんな。気を使わなくてもいいのよ」
「それは、千代さんのほうですよ。私は素直な気持ちを言っているだけですから」
そう、とつぶやいた千代が止めていた足を動かして、頼子は隣を歩いた。しばらく歩くと、また千代がポツリとこぼす。
「病院にね、しばらく入院していたの」
「そうなんですか」
「足をくじいてしまってね。年寄だから、ちょっと入院しなくちゃいけなくなったのね」
「歩けないと、困りますもんね」
コクリと千代がうなずくと、つむじが見えた。
「ここの施設は、ほとんどが女性なのね」
「そうですね。男手が欲しいときだけ、だれかが手伝いに来てくれますけど、利用者の方々はとっても元気なので、ちょっとしたことだと利用者さんが手下ってくれちゃったりするんですよ。いくつになっても、男の人の力ってすごいんですね」
そうねと言いたげに頭を揺らした千代は、ためらいがちな微笑を浮かべた。
「男の人の力は、すごいわね。だから、介護でも男の人は重宝されるのね」
「そうかもしれないですね」
「だけど――」
千代の歩みが止まる。
「こんな年寄が、なにを言っているんだと思われるかもしれないけれど」
迷いながらの言葉を聞き漏らすまいと、頼子は耳を澄ませた。
「男性に介護をされるのは、やっぱり恥ずかしいわね」
物憂げな声に、頼子は目を見開いた。
「お風呂の介護、とかですか」
「それもあるけど、体に触られるのは居心地が悪いわ。夫や息子ならまだしも、まったくの赤の他人の男の人は、すこしね」
かなしそうな微笑に、頼子の心がキュンとなる。
「向こうからすれば、こんなしわくちゃのおばあちゃんを触ったって、なんとも感じないのでしょうけど」
「千代さん」
頼子は千代の手を握った。やわらかくしっとりとした肌は、しわしわだ。
(だけど、千代さんは女性だもん。お年寄りでも、女の人だから)
「それは、いやだと思って当然ですよ。年齢なんて、関係ないです。知らない男の人に、体を触られるなんていやですよね」
「でも、そうも言っていられない年になっちゃったのねぇ」
空を見上げる千代の目に、透明な悲しみが浮かんでいる。泣くのでも嘆くのでもなく、静かにそれを実感し、受け止めようとしている千代の姿を、頼子はいじらしいと感じた。
「この施設の従業員は、ほとんど女ですから。だから、大丈夫ですよ。それに、できないことがあったって、気にしなくてもいいんです。できる人が、それをすればいいんですから」
ありがとうとつぶやいた千代は、とてもさみしそうだった。この話はおしまいとばかりに、千代が顔を伏せて歩き出す。
(奥ゆかしくて清楚で、上品な人なのね)
そして気遣いのできる人。きっと、いやだと思いながらもしかたがないとあきらめて、ガマンをしていたのだろう。
(男の人って、やっぱりこういう女性に惹かれるものなのかな)
おなじ女性として、あこがれる。清子とは違った透明感を持つ千代は、とてもきれいだ。
(私は、どうだろう)
さわやかな弘毅の笑みを思い出して、王子様みたいな彼には、こういう上品なタイプが似合うのではと不安になった。
しばらく歩き、ゲートボールをする姿が見えてきたころ、頼子は千代に聞いてみた。
「奔放というか、強引な女って、嫌われますかね」
「え?」
「いえ、その……男の人は、千代さんみたいな清楚な人がいいのかなぁって、思って」
ゴニョゴニョと口の中で言葉をこねた頼子は、千代にじっと見上げられた。だんだん顔が熱くなる。
「ああ、その、気にしないでください」
「恋をしているのね」
ふたりの声が重なる。うらやましいわと千代はつぶやき、さきほど頼子がしたように、頼子の手をそっと握った。
「相手がどんな方なのかを知らないから、なんとも言えないけれど」
ほんのりと頬を染めた千代が、照れくさそうに幸福な笑みを見せた。
「好きな相手の前でだけなら、いいのではないかしら」
夫や息子ならまだしも、と言っていた千代の、花がほころんだような表情に、頼子の胸がくすぐったくなる。
「好きな人の前でだけなら、大胆になっても大丈夫……ですよね」
「あなたの言う大胆が、どの程度なのかは聞かないでおくわ。でも、その人の前でだけと相手に伝わっていたら、それでいいんじゃないかしら」
「そっか……そうですよね」
(私が積極的にいかないと、なんにも進まないんだし。大胆な行動をするのは、しかたないわよね)
勇気を得た頼子は、千代の手を握り返した。
「ありがとうございます」
「気持ちが伝わるといいわね」
「はいっ!」
ふたりはクスクスと笑みを交わして、公園に戻った。それから施設に戻った千代は、部屋の隅に落ち着くのではなく、顔見知りに声をかけておしゃべりに興じていた。
(私の気持ち、千代さんに伝わったのかな)
弘毅にも、長年ずっと抱え続けていた想いを伝える努力をしなくちゃと、頼子はあらためて気合を入れた。
最後まで、ちゃんとしたとは言えないけれど。それでも彼のかけらを受け止めた。
ゆるむ唇を引き締めて、頼子はせっせと施設内の掃除をしていた。休憩室のティーバックを補充して、湯のみにかけている布巾を取り、濡らした布巾を用意する。ポットの中に水を入れて沸かすスイッチを入れ、よしっと気合を入れた頼子に職員が声をかけた。
「今日はずいぶん、はりきっているわねぇ」
「そうですか?」
「なんだか、動きが軽やかよ」
エヘヘと笑った頼子は、「いいことあったの?」と問われて「慣れて来ただけですよ」と返事する。
(弘毅さんと、あんなことをしただなんて言えないもんね)
朝、目が覚めると自分の布団で眠っていた。下着をつけ、寝間着も着て。
(眠った私を、弘毅さんが抱き上げて運んでくれて、体を拭いて着替えさせてくれた……ってことだよね)
キャアッと肩を上げて含み笑いをした頼子は、本日の利用者名簿を手に取った。
(あれ。今日、昌代さんは来ないんだ)
うまくいったかもしれないと、報告をしたかったのに。
(まあでも、しかたないか)
それじゃあ今日は、だれの散歩のパートナーになるんだろうと名簿をながめていると、声をかけられた。
「あ、頼子ちゃん。今日は向田千代さんって、あたらしい利用者さんがいらっしゃるから。その方の相手をしてもらうわね」
「向田、千代さんですね」
名簿の一番下に、その名前はあった。年齢は昌代さんよりすこし若い。
「千代さん、ちょっと前まで病院にいらしてね。リハビリで散歩をしなくちゃいけないんだけど、ご家族の方々が昼間は忙しいのよ。それで、リハビリ散歩のために、今日からこちらに通われることになったの」
福々しく、肝っ玉かあさんと呼ぶにふさわしい容姿の施設社員、柳原清子が眉を下げて頬に手を当てる。ぷっくりとした頬がもりあがって、片目が肉に埋もれた。そんな仕草もなんとなく、かわいく見える彼女が頼子は好きだ。
(私も、こんなかわいいおばちゃんになりたいな)
スッキリとした都会の女にあこがれもするが、あらゆることを受け止められる包容力と、安心感を与えてくれる雰囲気はうらやましい。実際、清子は利用者だけでなく、従業員たちにも好かれている人気者だ。本人はちっとも、そんな意識を持っていないのも好感度を上げている。
(会社の事務員さんたちとは、ぜんぜん違うなぁ)
見た目はきちんとしていたし、スタイルにも気を使っていた最年長の女性事務員は、明るく活発だが、どこかとげとげしい気配をかもしていた。彼女に勘違いの嫉妬をされてしまったがために、頼子は女子事務員たちの中で孤立して、居心地が悪くなって退社をした。
(仕事は、けっこうおもしろかったのになぁ)
仕事が自分に合っていたとしても、人間関係がこじれてしまえば居心地が悪くなる。仕事だと割り切って、なんて簡単に説得されたが、あんな空間にずっといたら心が疲弊してしまう。知らないうちに削り取られた心をもとに戻すには、離れるしかない。
(職場って、一日のほとんどの時間を過ごす場所なんだから)
休日を挟んだら、余計に出社が憂鬱になる。そんな場所から逃げなさいと言ってくれた母親と、受け入れてくれた多美子にあらためて心の中で感謝する。
(ここに来て、よかったなぁ)
困った顔をしていても、ほんわかした空気が崩れない清子の姿に、頼子はつらつらとそんんことを考えた。
「千代さんね、自分ひとりでも大丈夫だって言うんだけれど、なにかあったら困るでしょう。だからちょっと強引に、息子さんがここに連れてくるみたいなのよね。それで、こんな田舎だから、顔見知りが多いじゃない? 知り合いに散歩の補助をされるのはいやがるかなと思って、頼子ちゃんにお願いしたいのよ」
「気難しい方なんですか?」
「そういうわけじゃ、ないんだけど。そうねぇ、どちらかというと気を遣う人ってところかしらね」
「気を遣う人、ですか」
「そう。迷惑をかけないようにって考えているから、リハビリ散歩はひとりで大丈夫なんて言っているんだと思うわ」
ふうんと頼子は名簿の“向田千代”の文字を見る。
(気を使って、それで大変なことになったら、もっと迷惑をかけちゃうのになぁ)
「わかりました。千代さんのことは、私がやります」
自信を持って「任せてください」と言えないのは情けないが、それでも精一杯やってみるつもりだ。それを聞いた清子は愁眉を開いて「よろしくね」と、玄関へ向かった。時計を確認すると、そろそろ利用者の方々が到着する時間だった。
利用者は家族に連れてこられることもあるが、近隣のだれかに連れてきてもらうこともある。こちらが迎えに行く場合もあるにはあるが、よほどのことがない限り、職員たちはここから離れない。頼子のほか全員が運転免許を持っているし、車で通勤しているが、従業員の数が充分でないことが理由だった。
利用者たちもそのへんは理解しており、自分で運転できない人や、家族に連れてきてもらえないときなどは、気軽に近所のだれかに頼む。
そういうご近所づきあいが当たり前になっているのは、いいことだなぁと頼子は感じる。都会では、隣に住んでいる人とも交流をしないことがすくなくない。頼子の場合は実家から職場に通っていたから、子どものころから知っている人たちに囲まれているので、そんなことはないが、ひとり暮らしをしている友人などは、隣に住んでいる人間の性別すらも知らないと言っていた。
(どっちがいいかなんて、わからないけど)
それでも助け合えるのはいいことだと、頼子も玄関へ向かって利用者を迎え入れた。
ぞろぞろと年配の方たちが施設の建物に入ってくる。矍鑠としている方もいれば、膝が悪くて靴を脱ぐのにも苦労する人もいる。頼子は笑顔であいさつをして、手の必要な利用者さんの世話をした。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
杖を持っている利用者さんの手を引いていた頼子は、ふと顔を上げた。見慣れない老婦人が恐縮して頭を下げている。対応しているのは清子だ。
(あの人が、千代さんかな)
上品そうな方だなぁと思いながら、頼子は手を引いている年配女性を休憩室へ案内した。
今日はレクリエーションのない日なので、散歩の時間のほかは、みんな自由に過ごしている。ただテレビを観ているだけの人もいれば、本を読んでいる人、編み物をしている人、おしゃべりに花を咲かせている方々などがいる。
その間、頼子はだれかの話し相手になるのが仕事だった。従業員のほとんどが昼食を作ったり、利用者やその家族の相談に乗ったりしていた。
休憩室を見回した頼子は、所在なげにポツンと隅に座っている千代を見つけた。知り合いはいないのか、だれも千代を気にかけてはいない。おせっかいかもしれないけれどと、頼子は湯呑をふたつ持って、千代の傍に行った。
「お茶、どうぞ」
「ああ、すみません。ええと」
「頼子です。田倉頼子。おばさ……加賀多美子さんの知り合いで、ここのお手伝いをさせていただいています」
「そう」
目を細めた千代は、まじまじと頼子を見るとほほえんで、湯のみに手を伸ばした。
「ありがとう」
「いえ」
迷惑じゃなかったみたいだと、ホッとする。慣れない場所で、なにをどうしていいのかわからなかっただけかもしれない。
「ええと、ここはみんな、けっこう自由に過ごしているんです。なにかしなくちゃいけない、なんてことはなくて。散歩のときは別ですけど。だいたいは、休憩室でのんびり好き勝手に過ごします。お茶も勝手に飲んでよくって、緑茶と、紅茶と、コーヒーがあります。テーブルの上のお菓子も、勝手に食べていいんですよ。お医者さんに止められていない限りは」
ちょっとおどけてつけ足すと、千代はクスリと表情をなごませた。
「具合が悪いとか、イスに座っているのがつらい場合は、畳の部屋もありますから」
話を聞きながら、相づちに頭をゆらゆら揺らす千代は両手で湯呑を抱えている。飲むわけではなく、ただ中をながめている。
(緑茶、あんまり好きじゃなかったのかな)
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「頼子ちゃん」
三人で固まっている年配女性に呼ばれて、頼子は千代に気持ちを残して移動した。
「こんなものを作ったのだけれど、どうかしら」
見せられたのは、パッチワークのコースターだった。なかなか渋い色合いで、味わいがある。
「わあ、すごい。これ、鎌田さんが作ったんですか?」
「そうよ。時間だけはたっぷりあるから、手慰みに作っていたら、どんどんたまってしまってね。ここで使ってもらえないかしら」
「ありがたいです」
「私は、編み物で作ったのよ」
「私はちり紙入れなんだけど。頼子ちゃん、使ってくれる?」
「はい!」
ありがたく受け取った頼子は、こういうものを都会の雑貨屋で置けば売れそうなのにと考えた。
(すごく丁寧に作られているし、頑丈そうだし)
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(もったいないなぁ)
だけど彼女たちにとっては、なんでもない技術なのだ。それをなんとか、すごいことだと認識してもらえれば気持ちの張りにもなるんじゃないか。
(私がすごいって言うだけでも、こんなによろこんでくれるんだもの)
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(千代さんも輪の中に入れるように、なにか……とっかかりを見つけたいな)
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(これだけ大勢の人がいるのに、だれとも会話していない)
出された料理は、きちんとすべて食べ終えている。具合が悪いとか、そういうことはなさそうだ。ただ単に引っ込み思案なだけかもしれない。だとすれば、へたに人の輪に入るよう勧めるのは逆効果だ。
(自然と慣れてくれるまで、待った方がいいのかなぁ)
すべての利用者が食事を終えて、食堂の片づけをすると散歩の時間になる。頼子は千代の手を引いて行くものだと思っていたが、彼女は自分で靴を履き、頼子が差し出した手をさりげなく断って杖を握った。
(そういえば、気を遣う人だって清子さんが言ってた)
もしかして、世話にならないように、迷惑をかけないようにと部屋の隅にいたのだろうか。だとしたら、なんとなくさみしいなと頼子は千代の隣を歩いた。
公園に到着し、ゲートボールをするものや、そのあたりを散歩するもの。ベンチに腰かけておしゃべりをするものなどに別れる。千代の場合はリハビリも兼ねているので、周辺を歩くことになった。
「こんな年寄につき合わせてしまって、ごめんなさいね」
「いえ」
公園からすこし離れた小道にさしかかると、千代がふいに口を開いた。ゆったりとした足取りに合わせていると、いろいろなものが目に入る。道端の草や木の葉の形が微妙に違っているのを、見るともなしにながめていた頼子は空を指さした。
「雲が、ウサギみたいです」
えっと顔を上げた千代が立ち止まり、「あら、ほんと」と目を細める。
「こうしてのんびり歩かないと、ああいうものに気がつけないので。たのしいです」
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「そんな。気を使わなくてもいいのよ」
「それは、千代さんのほうですよ。私は素直な気持ちを言っているだけですから」
そう、とつぶやいた千代が止めていた足を動かして、頼子は隣を歩いた。しばらく歩くと、また千代がポツリとこぼす。
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「そうなんですか」
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「歩けないと、困りますもんね」
コクリと千代がうなずくと、つむじが見えた。
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「そうですね。男手が欲しいときだけ、だれかが手伝いに来てくれますけど、利用者の方々はとっても元気なので、ちょっとしたことだと利用者さんが手下ってくれちゃったりするんですよ。いくつになっても、男の人の力ってすごいんですね」
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「男の人の力は、すごいわね。だから、介護でも男の人は重宝されるのね」
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「だけど――」
千代の歩みが止まる。
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ありがとうとつぶやいた千代は、とてもさみしそうだった。この話はおしまいとばかりに、千代が顔を伏せて歩き出す。
(奥ゆかしくて清楚で、上品な人なのね)
そして気遣いのできる人。きっと、いやだと思いながらもしかたがないとあきらめて、ガマンをしていたのだろう。
(男の人って、やっぱりこういう女性に惹かれるものなのかな)
おなじ女性として、あこがれる。清子とは違った透明感を持つ千代は、とてもきれいだ。
(私は、どうだろう)
さわやかな弘毅の笑みを思い出して、王子様みたいな彼には、こういう上品なタイプが似合うのではと不安になった。
しばらく歩き、ゲートボールをする姿が見えてきたころ、頼子は千代に聞いてみた。
「奔放というか、強引な女って、嫌われますかね」
「え?」
「いえ、その……男の人は、千代さんみたいな清楚な人がいいのかなぁって、思って」
ゴニョゴニョと口の中で言葉をこねた頼子は、千代にじっと見上げられた。だんだん顔が熱くなる。
「ああ、その、気にしないでください」
「恋をしているのね」
ふたりの声が重なる。うらやましいわと千代はつぶやき、さきほど頼子がしたように、頼子の手をそっと握った。
「相手がどんな方なのかを知らないから、なんとも言えないけれど」
ほんのりと頬を染めた千代が、照れくさそうに幸福な笑みを見せた。
「好きな相手の前でだけなら、いいのではないかしら」
夫や息子ならまだしも、と言っていた千代の、花がほころんだような表情に、頼子の胸がくすぐったくなる。
「好きな人の前でだけなら、大胆になっても大丈夫……ですよね」
「あなたの言う大胆が、どの程度なのかは聞かないでおくわ。でも、その人の前でだけと相手に伝わっていたら、それでいいんじゃないかしら」
「そっか……そうですよね」
(私が積極的にいかないと、なんにも進まないんだし。大胆な行動をするのは、しかたないわよね)
勇気を得た頼子は、千代の手を握り返した。
「ありがとうございます」
「気持ちが伝わるといいわね」
「はいっ!」
ふたりはクスクスと笑みを交わして、公園に戻った。それから施設に戻った千代は、部屋の隅に落ち着くのではなく、顔見知りに声をかけておしゃべりに興じていた。
(私の気持ち、千代さんに伝わったのかな)
弘毅にも、長年ずっと抱え続けていた想いを伝える努力をしなくちゃと、頼子はあらためて気合を入れた。
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でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
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2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
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