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小石を敷き詰められた地面を歩けば、じゃりじゃりと音がする。それは不審な者が来ても足音でわかるようにしているのだと、奥村の爺様は教えてくれた。まぶしそうに細められた目は、本当にシワの一部のようで眉毛が無ければ目の位置がわからないんじゃないかと思う。
そよ、と風が吹けば眉の尾が揺れる姿は愛嬌がある。私を連れて出ようとしたとき、控えていた男らがとどめようとするのを睨み付けただけで制してしまった爺様と、穏やかな顔をして日を浴びながらそよぐように歩く爺様と、どちらが本質なのだろう。
広い、どこまで続くのかわからない屋敷の濡れ縁と庭に植わっている木々の間を、ただ歩く。爺様は先導するでもなく、私の歩むに任せて着いてくる。
いったい、父様はどのような身分で、どのような生活をしていたのだろう。本当に、こんな広い庭のある屋敷で生まれ育ったというのなら、私と過ごしたあの家の生活は耐え難かったんじゃないのか。母様は……いったい母様は、どうなったのだろう。
私の記憶には、母様の姿は無い。覚えていないだけなのか、物心がつくころには居なくなっていたのか。居なくなったのであれば、自然死なのか誰かの手にかかったのか。――私を産み落として死んだということも、考えられる。
父様に、母様の事を聞いたことは無かった。そんなものは存在していないものとして認識――いや、認識をすることすらも無いほどだった。村の者たちと無用な接触をしない父様を見て育ち、そういうものだと感じていた。幸正が馴れ馴れしくも人の家に上がりこんでくるまで、父様を失ってからの私は言葉を発しない日もあるほどに、村の者たちと関わらなかった。村の内側に入らないまま、男と女がいることを知り、男と女の違いを知り、男と女が居て子どもが生まれることを知った。それは、人に限ったことでは無く、犬も猫も鳥も、魚でさえもそうなのだと知った。ふうん、と他人事のように受け止めたそれらは、では自分の母様は――という疑問を浮かべさせはしたが、誰かに問われることも無く誰かの母様の話を聞くことも無く、問いとして父様に向けるほどの疑問には育たなかった。
庭の道が、右に曲がっていた。そのまままっすぐ道を無視して進めば、木々の間に入る小道が見えた。少し考えてから、私はまっすぐに進むことに決めた。
庭の道を逸れても、木々の間に入っても、奥村の爺様から咎める声は出てこない。少し覚悟を決めていた胸をなでおろし、小さな林のようになっている場所に入ると、周囲の空気が変わった。日の当たる小石の道は気取っているような、堅苦しい感じがしていたが、ここは薄暗くひやりとしているのに穏やかで、心地よいよそよそしさがある。――私には、こちらの空気の方があっている。
自然、足取りが軽くなった。
木々の間の蛇行するように伸びている細い道。手入れのされた林の中の、馬が一頭やっと通れるほどの道を周囲を見回しながら進んでいく。これは、どこまで続くのだろう。このままいけば、どこにたどり着くのか。
そよ、と風が吹けば眉の尾が揺れる姿は愛嬌がある。私を連れて出ようとしたとき、控えていた男らがとどめようとするのを睨み付けただけで制してしまった爺様と、穏やかな顔をして日を浴びながらそよぐように歩く爺様と、どちらが本質なのだろう。
広い、どこまで続くのかわからない屋敷の濡れ縁と庭に植わっている木々の間を、ただ歩く。爺様は先導するでもなく、私の歩むに任せて着いてくる。
いったい、父様はどのような身分で、どのような生活をしていたのだろう。本当に、こんな広い庭のある屋敷で生まれ育ったというのなら、私と過ごしたあの家の生活は耐え難かったんじゃないのか。母様は……いったい母様は、どうなったのだろう。
私の記憶には、母様の姿は無い。覚えていないだけなのか、物心がつくころには居なくなっていたのか。居なくなったのであれば、自然死なのか誰かの手にかかったのか。――私を産み落として死んだということも、考えられる。
父様に、母様の事を聞いたことは無かった。そんなものは存在していないものとして認識――いや、認識をすることすらも無いほどだった。村の者たちと無用な接触をしない父様を見て育ち、そういうものだと感じていた。幸正が馴れ馴れしくも人の家に上がりこんでくるまで、父様を失ってからの私は言葉を発しない日もあるほどに、村の者たちと関わらなかった。村の内側に入らないまま、男と女がいることを知り、男と女の違いを知り、男と女が居て子どもが生まれることを知った。それは、人に限ったことでは無く、犬も猫も鳥も、魚でさえもそうなのだと知った。ふうん、と他人事のように受け止めたそれらは、では自分の母様は――という疑問を浮かべさせはしたが、誰かに問われることも無く誰かの母様の話を聞くことも無く、問いとして父様に向けるほどの疑問には育たなかった。
庭の道が、右に曲がっていた。そのまままっすぐ道を無視して進めば、木々の間に入る小道が見えた。少し考えてから、私はまっすぐに進むことに決めた。
庭の道を逸れても、木々の間に入っても、奥村の爺様から咎める声は出てこない。少し覚悟を決めていた胸をなでおろし、小さな林のようになっている場所に入ると、周囲の空気が変わった。日の当たる小石の道は気取っているような、堅苦しい感じがしていたが、ここは薄暗くひやりとしているのに穏やかで、心地よいよそよそしさがある。――私には、こちらの空気の方があっている。
自然、足取りが軽くなった。
木々の間の蛇行するように伸びている細い道。手入れのされた林の中の、馬が一頭やっと通れるほどの道を周囲を見回しながら進んでいく。これは、どこまで続くのだろう。このままいけば、どこにたどり着くのか。
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