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第十三章
(真夏は、今でも私を大切に思ってくれている)
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朔は何もかもを忘れ、ただ笛の音に真夏を感じ、彼の存在に意識を寄り添わせる。心の中にあった陰鬱なものがすべて浄化され、魂に翼が生えて青空を行くような清々しさと、どうしようもないくらいの真夏への恋心を体の隅々にまで行き渡らせ、それを笛に注ぎ続けた。
どれほど音の舞いを続けただろう。
意識がぼうっとなるほどに吹き続けた朔は、夢に包まれたように最後の音を奏で、唇を離した。
御簾の向こうで、真夏がはっきりとこちらを見ている。
(真夏)
今すぐにでも、彼の胸に飛び込みたかった。
(真夏は、今でも私を大切に思ってくれている)
笛の音が、彼の心を教えてくれた。
(彼の所へ行きたい。何もかもを捨てて、真夏と共にいたい)
身を引き裂くほどの激しい想いを、朔は視線に込めた。
「いやぁ、すばらしい共演でした。これほどの音をつむぎ合える二人は、まるで前世より結ばれているかのようだとは思いませんか」
音の余韻に浸っていた場に、朗らかな声が響いた。
「この大伴真夏は、無位無官の者。これほどの腕を持ちながら、それはいささか勿体無うございますなぁ」
大きな独り言という様相で、明るい声が響く。それに帝が応えた。
「大伴といえば、武門の名族。大伴真夏。そのほうの笛、見事であった。まずは兵衛佐となり、この内裏の警護をせよ。そしてその笛の音で、内裏の者どもの心をなぐさめ、余の耳も楽しませるがよい」
帝の言葉に追従するように、あちらこちらから真夏を褒める声が聞こえ、良い笛の礼にと褒美の品が、彼に与えられることとなった。
「さまざまな方々が笛の音をお褒めになり、すばらしい褒美を送ると申されておるのですから、左大臣様としては、めったなものを御出しにはなれませんなぁ」
この場にいるものを先導するような声は、最初に響いた声と同じであった。その者の姿に、朔は見覚えがあった。
「芙蓉、あれは……お父様の知らせを届けてくれた方ではないかしら」
「間違いなく、使者として参られた今出川実篤様です」
その人がどうして、真夏に褒賞を与えるという気風を生み出す先導をしているのだろうかと、朔は不思議に思いながら事の成り行きをながめていた。
「失脚なされた久我家の姫を、あわれと思われ引き取られたほどの柳原様なら、相当のものをお与えなさるはず」
どれほど音の舞いを続けただろう。
意識がぼうっとなるほどに吹き続けた朔は、夢に包まれたように最後の音を奏で、唇を離した。
御簾の向こうで、真夏がはっきりとこちらを見ている。
(真夏)
今すぐにでも、彼の胸に飛び込みたかった。
(真夏は、今でも私を大切に思ってくれている)
笛の音が、彼の心を教えてくれた。
(彼の所へ行きたい。何もかもを捨てて、真夏と共にいたい)
身を引き裂くほどの激しい想いを、朔は視線に込めた。
「いやぁ、すばらしい共演でした。これほどの音をつむぎ合える二人は、まるで前世より結ばれているかのようだとは思いませんか」
音の余韻に浸っていた場に、朗らかな声が響いた。
「この大伴真夏は、無位無官の者。これほどの腕を持ちながら、それはいささか勿体無うございますなぁ」
大きな独り言という様相で、明るい声が響く。それに帝が応えた。
「大伴といえば、武門の名族。大伴真夏。そのほうの笛、見事であった。まずは兵衛佐となり、この内裏の警護をせよ。そしてその笛の音で、内裏の者どもの心をなぐさめ、余の耳も楽しませるがよい」
帝の言葉に追従するように、あちらこちらから真夏を褒める声が聞こえ、良い笛の礼にと褒美の品が、彼に与えられることとなった。
「さまざまな方々が笛の音をお褒めになり、すばらしい褒美を送ると申されておるのですから、左大臣様としては、めったなものを御出しにはなれませんなぁ」
この場にいるものを先導するような声は、最初に響いた声と同じであった。その者の姿に、朔は見覚えがあった。
「芙蓉、あれは……お父様の知らせを届けてくれた方ではないかしら」
「間違いなく、使者として参られた今出川実篤様です」
その人がどうして、真夏に褒賞を与えるという気風を生み出す先導をしているのだろうかと、朔は不思議に思いながら事の成り行きをながめていた。
「失脚なされた久我家の姫を、あわれと思われ引き取られたほどの柳原様なら、相当のものをお与えなさるはず」
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