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(だめだ、怖い……。やっぱり私には無理なんだ。ここは、謝って逃げて。そうして、明日、ラーシュに言えば……!)
――ラーシュに、言ったら。
どういう反応をするだろう。
この人たちが犯人だと言いつけたとして。でも、何の証拠もない。理由を聞かれても答えられない。
一瞬、彼の悲しそうな顔が浮かんだ。
憶測だけで糾弾するのは、ラーシュが嫌っていたことではないか。
――それに、ラーシュだったら……。
こんな程度であきらめない。一対多だって、どんなに不利な状況だって、誤解されたら、誤解が解けるまでやめない。
気持ちが通じるまで。
意思が伝わるまで。
(……そうだ。証拠ならあるんだ)
目に見えないだけで。
私は知っている。この人たちの中にある思い。隠している声。漏れ聞こえてきた本音。
――あとは、それを、彼らの心の中から引きずり出せばいいだけだ。
「で、でも、私、聞きました……! あなたたちが、ボールペン細工したって」
彼らは顔を見合わせた。怪訝そうな表情をしている。
冷や汗をかきながら、私は言いつのった。
「い、言ってたでしょう!? このコンビニの中で! 私、本当に聞いたんだから!」
うまく言えているだろうか。声が上ずった気がする。綱渡りのような感覚にめまいがする。
三人のうちの一人がさっと顔色を変えた。
「……おい。あの時、誰もいないって言ったろ。ちゃんと確認したんだろうな」
「何言ってんだよ、あれはここの裏だから、こいつに聞こえるはずな――」
(――認めた!)
言質をとった。ラーシュを陥れたのが自分たちだと告白した。これで堂々と、耳で聞いたのだとラーシュに報告ができる。
心の中で喝さいを叫んで身をひるがえした。
けれど、一足遅かった。彼らは目くばせをし、周りから見えないように私の周囲を取り囲んだ。すり抜けようとしたところを乱暴につかまれて阻止される。
――ラーシュに、言ったら。
どういう反応をするだろう。
この人たちが犯人だと言いつけたとして。でも、何の証拠もない。理由を聞かれても答えられない。
一瞬、彼の悲しそうな顔が浮かんだ。
憶測だけで糾弾するのは、ラーシュが嫌っていたことではないか。
――それに、ラーシュだったら……。
こんな程度であきらめない。一対多だって、どんなに不利な状況だって、誤解されたら、誤解が解けるまでやめない。
気持ちが通じるまで。
意思が伝わるまで。
(……そうだ。証拠ならあるんだ)
目に見えないだけで。
私は知っている。この人たちの中にある思い。隠している声。漏れ聞こえてきた本音。
――あとは、それを、彼らの心の中から引きずり出せばいいだけだ。
「で、でも、私、聞きました……! あなたたちが、ボールペン細工したって」
彼らは顔を見合わせた。怪訝そうな表情をしている。
冷や汗をかきながら、私は言いつのった。
「い、言ってたでしょう!? このコンビニの中で! 私、本当に聞いたんだから!」
うまく言えているだろうか。声が上ずった気がする。綱渡りのような感覚にめまいがする。
三人のうちの一人がさっと顔色を変えた。
「……おい。あの時、誰もいないって言ったろ。ちゃんと確認したんだろうな」
「何言ってんだよ、あれはここの裏だから、こいつに聞こえるはずな――」
(――認めた!)
言質をとった。ラーシュを陥れたのが自分たちだと告白した。これで堂々と、耳で聞いたのだとラーシュに報告ができる。
心の中で喝さいを叫んで身をひるがえした。
けれど、一足遅かった。彼らは目くばせをし、周りから見えないように私の周囲を取り囲んだ。すり抜けようとしたところを乱暴につかまれて阻止される。
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