9 / 20
9
しおりを挟む
パーティーなんて億劫だと思っていたけれど、なかなかどうして。外交お仕事モードのマルクス様を同じ場で拝めるときたら、悪くはない。むしろこれだけでパパ上この席を用意してくれてありがとうの気持ちだ。
私は距離こそ遠けれど営業スマイルを振り撒くマルクス様をオカズに、立食仕様の豪勢なディナーをひたすら皿に取っては食い取っては食いしていた。本当に発光しているのではと思うほどに煌びやかなオーラを放つマルクス様が、一般庶民の美女に入れ込んだ挙句放尿プレイやら言葉責めおせっせやら強要しているんだもんなぁ。人は見かけによらないありがとうございます。
その隣で同じように挨拶を交わす、彼によく似た美形が一人。本日の主役の第一王太子でありマルクス様の異母兄であるハロルド様だ。実は彼もまた、『戦華』においては攻略対象だったりする。彼の√に入ると隣国で暗躍する一派との激しい交戦や拐かされるアシュリーヌちゃん、それを華麗に救出するハロルド王子など波乱万丈な活劇が待っているのだが、実は私は彼の√を一度しか攻略していない。マルクス様に負けず劣らずの甘いマスクの王子フェイスなのだが、竜騎士団部隊長を務めるマルクス様と異なり、ハロルド王子は完全にデスクワーク型。線が細く、儚美しい印象が強い。そして何よりロン毛なのだ。ブロンドに輝く長髪をサイドに垂らし、ゆるく結んだ髪型は彼の穏やかで聡明な人柄を表しているようで。前世からロン毛に村を焼かれた人間としてあの髪型は頂けない。詰まる所、タイプじゃないのだ。
√によっては彼とマルクス様がアシュリーヌちゃんを巡って対立してしまう展開もあった筈なのだが、今の所その兆候は見られない。まあ側から見てもアシュリーヌちゃんはマルクス様にぞっこんのようだし、私としてもそうでないとこれまでの努力が水の泡になる訳で。どうかこのまま私というファンのためにも、マルクス様と上手いこと添い遂げてほしいものだ。
結婚かぁ……
また新しく皿に料理人の趣向が凝らされた料理を盛り付けた後、ぼんやりと人で溢れるホールを眺める。
こんな色気の無いモブ顔田舎っぺでも、腐ってもそこそこの爵位持ちだ。式典が終わり、パーティーが始まると数人の男性がちらほら声を掛けてきた。やれ父上は息災かだの、やれ女性ながらも騎士を務めるとは立派だがそろそろ家庭に入り身を固めては如何かだの、流れ出る言葉は照らし合わせたかのようにそんなものばかりで。それにあたり我が領地との取引はどうか、近々二人で食事でもどうかなどと無駄に広大な我が領地と辺境ながらも酪農業に富んだ環境が目的なのが見え見えで、いっそ清々しいほどだった。
私とていい大人だ。自分の身の振り方がどうあるべきか、重々承知している。運良く騎士の中でも王宮竜騎士団員というエリート街道に乗れたものの、付け焼き刃の知識とノアの助力でギリギリ滑り込んだクチだ。今の落ちこぼれっぷりからしても今後このまま騎士として働き続けられるか分からないし、世間としてもそのような生き方をしている女性騎士は未だ少ない。両親だってそれを許してくれるかも怪しいし。
とは言え恋愛結婚が主だった前世の記憶持ちの上に重度の乙女思考の絶賛処女歴更新中問題物件は、それでもやはり生涯を添い遂げるのは好きな相手がいいなぁなどと、いけしゃあしゃあと夢見てしまう。ビジュアルはマルクス様とアシュリーヌちゃんみたいに、とはいかないけれど、彼らを長年かけて追い続けてきた身としては、自身もどうせするなら運命的で甘い恋愛をしてみたいと自然と憧れを抱いてしまうというものだ。
まあ、そんな無駄に高い理想を抱き続けた結果前世は死ぬまで処女、今世においてもこの20年と少し、恋愛という恋愛をしないまま健やかに育ってしまったんですけどね! 思わず乾いた笑いも漏れるってもんよ。
肉厚ローストビーフを口に放り込むと、ちらりと視界の端に見慣れた黒髪が見えた。あちらも私を見ていたようで、鳶色の瞳と視線が交わる。
ノアだ。
そこそこの距離があろうと人壁が遮ろうとすぐに分かった。ホール内を担当しているのか、たまたま諸連絡などでこの付近を通り掛かったのか。屋内に配属されているのは間違い無いようで、装備は普段の遠征任務時の鎧姿よりも幾分か軽装だった。対して自分はシンプルながらもそこそこ気合の入ったドレス姿。普段は適当に一つに結わいている髪も侍女達によって綺麗にセットされ、化粧もきちんと施されている。完全に社交会モードの時にこうして仕事中のノアと対峙するのは、なんだか変な気分だ。というかよく私だと分かったな。
一瞬逡巡したもののここで挨拶をしないのも逆に気まずい。へらりと笑いながら手を振ろうとしたが、突然目の前に現れた体に視界が遮られてしまった。
「やあ、フェリシア」
「ユーグリッド」
同じ王宮竜騎士団第8部隊所属の同僚、ユーグリッドだ。アシュリーヌちゃん曰く、私とノアが別れたなどと吹聴した傍迷惑な男だ。普段の隊服姿や鎧姿と違い、がっつりフォーマルな正装に身を包んでいる。そう言えばこの男も貴族の出だったな。
「ユーグリッドも参加してたんだ」
「うん。こう見えて嫡男だからね。横との繋がりもきちんと築いておかないと。ぶっちゃけ警備の通常勤務の方が変な気を遣わなくて良くて楽だし、今すぐにでも抜け出したい気持ちでいっぱいだけどね」
入口付近を警備する他の隊の同僚達を眺めながら、ユーグリッドは肩を竦ませる。
軽薄でいい加減な男だけど、こう見えて私なんかよりずっと腕が立つし要領も良い。良い意味でも悪い意味でもすぐに顔に出てしまうらしい私やノアよりもよっぽど処世術にも長けている。つまり、曲者なのだ。
馬鹿正直の代名詞のような私はこの男が少し苦手だったりする。ノアとは割と、仲が良いみたいだけど。
「それはそうと、ユーグリッドさんよ。私に何か言うことはないかしら??」
「言うこと? ああ、今日はまた一段と可愛いね。普段の隊服姿も好きだけどそのドレス、よく似合ってるよ」
「へっ?! あ、ありがとう。……って、いや違う違う! ノアと私についてだよ!」
「ああ」
そのことかとわざとらしく掌の上に拳を乗せる姿がなんとも腹立たしい。絶対に分かって言っただろ。
「俺だけじゃなくてみんな言ってるよ。あれだけ四六時中一緒にいたのが急にパッタリだもの。嫌でも目に付くって」
「そ、そうなの」
「うん。何かあったの? ノアに聞いても何でもないの一点張りだし。何でもない訳無いよね? 明らかにフェリシアのこと避けてるし」
ずずいと詰め寄られ、思わず視線を逸らす。
いや本当の事なんて言えるわけがなかろう。ド変態の名を穿たれて明日から仕事に行けなくなってしまうわ。
「別れたんじゃないなら何? 浮気でもされた?」
「はっ?! なんで! いやそもそも付き合ってないし」
「あれ、そうなの。入団した時から二人べったりだったからてっきり。……ふーん」
なんだその目は。
「じゃあ告白でもされた?」
「んぶっ?! なんでそうなるの!!」
「あれ、これも違うのか。なにやってんだよあいつ……」
居た堪れなくて口に含んだ果実酒が変なとこに入って咽せ込む。
「……ノアと私はそういうのじゃないし、大体、ノアだって私のこと手の掛かる妹くらいにしか思ってないよ」
実際、私を見てると弟を思い出すって言われたし。口から垂れた果実酒をハンカチで拭って、先程ノアがいた場所へ視線を向ける。既にその姿は消えていたけれど。
「そうかなぁ……まあいいか。こっちとしてはフェリシアに声掛け易くなったし」
「え?」
「知ってる? フェリシアのこと狙ってる奴、結構いるんだよ」
「それは私を媒介にしてアシュリーヌちゃんと仲良くなりたいか、家柄目当てでしょ。うちはともかく、アシュリーヌちゃんはもう心に決めた相手がいるんだから、近付いても無駄だからね」
推しカプの恋路の邪魔はさせるものか。ジト目で目の前の優男を睨み付けると、困ったように笑われた。
「いやそれも勿論あったかもしれないけど。純粋に、フェリシアと仲良くなりたい奴もいるって。お前面白いし、変に身分をひけらかさないし、愛嬌もあって可愛いし」
「へっ」
ま、まじでか。いや騙されるな相手はユーグリッド。適当な事ほざいてるか、何らかの魂胆があるに違いない。しかし非モテ歴前世+20年とちょっとの問題物件にその言葉は素直に嬉しくて、頰が勝手に赤らんでしまうのも許してほしい。ノアにすら可愛いなんて、言われた事ないし。
「ははっ、そういうとこそういうとこ。ノアとコンビ解散したなら俺新たなフェリシアお世話係に立候補しようかなー」
「えっ、やだよ。ノアじゃなきゃやだ」
「瞬殺かよひどい。……それ本人に言ってやってほしいなぁ」
生温かい目で見られてなんだかむず痒い気持ちになる。本人にって言われても、避けられておりますし。きっともう私の世話を焼くの嫌がられておりますし。元のとは言わないけど、せめて軽口を叩ける友人同士に戻るので精一杯な気がする。私はノアを手放したくはないけど、ノアに自由に生きてほしい気持ちだってあるのだ。
お皿に乗った既に冷めてしまった料理を見つめ、俯いていると、ぽふと頭に重量感を覚える。ユーグリッドに頭を撫でられていた。仮にもドレスアップしたレディになんたる扱い。けど慰めようとしてくれているのだろう。ノアにも最近されていないし、頭撫でられるの久しぶりだな。ノアの手が恋しい。(当分、は未来に対して使う言葉)
「ま、早く仲直りするなり完全に関係を断つなり、きちんと決着つけなよ。中途半端な状態続けられても、地味に視線が痛いからさ」
一体どういう意味だろう。
ユーグリッドを見上げようとしたその時、彼の肩越しにマルクス様が通用口から抜け出すのが見えた。
し、しまった!! もうそんな時間か……!
一刻も早く追わねばと慌てて足を踏み出すものの、それにはユーグリッドを撒かねばならない。昨日の昼時と言い、またしても私の邪魔をする気か……!
顔色を変えた私に気付いたのか、訝しげな視線を向けてくるユーグリッドに向き直る。
「ごめんっ、私ちょっと気分が……休めるとこ探してくる」
「えっ! あ、ちょっ……」
何か言いたげなユーグリッドの制止を無視して、私は足早にマルクス様の後を追った。
私は距離こそ遠けれど営業スマイルを振り撒くマルクス様をオカズに、立食仕様の豪勢なディナーをひたすら皿に取っては食い取っては食いしていた。本当に発光しているのではと思うほどに煌びやかなオーラを放つマルクス様が、一般庶民の美女に入れ込んだ挙句放尿プレイやら言葉責めおせっせやら強要しているんだもんなぁ。人は見かけによらないありがとうございます。
その隣で同じように挨拶を交わす、彼によく似た美形が一人。本日の主役の第一王太子でありマルクス様の異母兄であるハロルド様だ。実は彼もまた、『戦華』においては攻略対象だったりする。彼の√に入ると隣国で暗躍する一派との激しい交戦や拐かされるアシュリーヌちゃん、それを華麗に救出するハロルド王子など波乱万丈な活劇が待っているのだが、実は私は彼の√を一度しか攻略していない。マルクス様に負けず劣らずの甘いマスクの王子フェイスなのだが、竜騎士団部隊長を務めるマルクス様と異なり、ハロルド王子は完全にデスクワーク型。線が細く、儚美しい印象が強い。そして何よりロン毛なのだ。ブロンドに輝く長髪をサイドに垂らし、ゆるく結んだ髪型は彼の穏やかで聡明な人柄を表しているようで。前世からロン毛に村を焼かれた人間としてあの髪型は頂けない。詰まる所、タイプじゃないのだ。
√によっては彼とマルクス様がアシュリーヌちゃんを巡って対立してしまう展開もあった筈なのだが、今の所その兆候は見られない。まあ側から見てもアシュリーヌちゃんはマルクス様にぞっこんのようだし、私としてもそうでないとこれまでの努力が水の泡になる訳で。どうかこのまま私というファンのためにも、マルクス様と上手いこと添い遂げてほしいものだ。
結婚かぁ……
また新しく皿に料理人の趣向が凝らされた料理を盛り付けた後、ぼんやりと人で溢れるホールを眺める。
こんな色気の無いモブ顔田舎っぺでも、腐ってもそこそこの爵位持ちだ。式典が終わり、パーティーが始まると数人の男性がちらほら声を掛けてきた。やれ父上は息災かだの、やれ女性ながらも騎士を務めるとは立派だがそろそろ家庭に入り身を固めては如何かだの、流れ出る言葉は照らし合わせたかのようにそんなものばかりで。それにあたり我が領地との取引はどうか、近々二人で食事でもどうかなどと無駄に広大な我が領地と辺境ながらも酪農業に富んだ環境が目的なのが見え見えで、いっそ清々しいほどだった。
私とていい大人だ。自分の身の振り方がどうあるべきか、重々承知している。運良く騎士の中でも王宮竜騎士団員というエリート街道に乗れたものの、付け焼き刃の知識とノアの助力でギリギリ滑り込んだクチだ。今の落ちこぼれっぷりからしても今後このまま騎士として働き続けられるか分からないし、世間としてもそのような生き方をしている女性騎士は未だ少ない。両親だってそれを許してくれるかも怪しいし。
とは言え恋愛結婚が主だった前世の記憶持ちの上に重度の乙女思考の絶賛処女歴更新中問題物件は、それでもやはり生涯を添い遂げるのは好きな相手がいいなぁなどと、いけしゃあしゃあと夢見てしまう。ビジュアルはマルクス様とアシュリーヌちゃんみたいに、とはいかないけれど、彼らを長年かけて追い続けてきた身としては、自身もどうせするなら運命的で甘い恋愛をしてみたいと自然と憧れを抱いてしまうというものだ。
まあ、そんな無駄に高い理想を抱き続けた結果前世は死ぬまで処女、今世においてもこの20年と少し、恋愛という恋愛をしないまま健やかに育ってしまったんですけどね! 思わず乾いた笑いも漏れるってもんよ。
肉厚ローストビーフを口に放り込むと、ちらりと視界の端に見慣れた黒髪が見えた。あちらも私を見ていたようで、鳶色の瞳と視線が交わる。
ノアだ。
そこそこの距離があろうと人壁が遮ろうとすぐに分かった。ホール内を担当しているのか、たまたま諸連絡などでこの付近を通り掛かったのか。屋内に配属されているのは間違い無いようで、装備は普段の遠征任務時の鎧姿よりも幾分か軽装だった。対して自分はシンプルながらもそこそこ気合の入ったドレス姿。普段は適当に一つに結わいている髪も侍女達によって綺麗にセットされ、化粧もきちんと施されている。完全に社交会モードの時にこうして仕事中のノアと対峙するのは、なんだか変な気分だ。というかよく私だと分かったな。
一瞬逡巡したもののここで挨拶をしないのも逆に気まずい。へらりと笑いながら手を振ろうとしたが、突然目の前に現れた体に視界が遮られてしまった。
「やあ、フェリシア」
「ユーグリッド」
同じ王宮竜騎士団第8部隊所属の同僚、ユーグリッドだ。アシュリーヌちゃん曰く、私とノアが別れたなどと吹聴した傍迷惑な男だ。普段の隊服姿や鎧姿と違い、がっつりフォーマルな正装に身を包んでいる。そう言えばこの男も貴族の出だったな。
「ユーグリッドも参加してたんだ」
「うん。こう見えて嫡男だからね。横との繋がりもきちんと築いておかないと。ぶっちゃけ警備の通常勤務の方が変な気を遣わなくて良くて楽だし、今すぐにでも抜け出したい気持ちでいっぱいだけどね」
入口付近を警備する他の隊の同僚達を眺めながら、ユーグリッドは肩を竦ませる。
軽薄でいい加減な男だけど、こう見えて私なんかよりずっと腕が立つし要領も良い。良い意味でも悪い意味でもすぐに顔に出てしまうらしい私やノアよりもよっぽど処世術にも長けている。つまり、曲者なのだ。
馬鹿正直の代名詞のような私はこの男が少し苦手だったりする。ノアとは割と、仲が良いみたいだけど。
「それはそうと、ユーグリッドさんよ。私に何か言うことはないかしら??」
「言うこと? ああ、今日はまた一段と可愛いね。普段の隊服姿も好きだけどそのドレス、よく似合ってるよ」
「へっ?! あ、ありがとう。……って、いや違う違う! ノアと私についてだよ!」
「ああ」
そのことかとわざとらしく掌の上に拳を乗せる姿がなんとも腹立たしい。絶対に分かって言っただろ。
「俺だけじゃなくてみんな言ってるよ。あれだけ四六時中一緒にいたのが急にパッタリだもの。嫌でも目に付くって」
「そ、そうなの」
「うん。何かあったの? ノアに聞いても何でもないの一点張りだし。何でもない訳無いよね? 明らかにフェリシアのこと避けてるし」
ずずいと詰め寄られ、思わず視線を逸らす。
いや本当の事なんて言えるわけがなかろう。ド変態の名を穿たれて明日から仕事に行けなくなってしまうわ。
「別れたんじゃないなら何? 浮気でもされた?」
「はっ?! なんで! いやそもそも付き合ってないし」
「あれ、そうなの。入団した時から二人べったりだったからてっきり。……ふーん」
なんだその目は。
「じゃあ告白でもされた?」
「んぶっ?! なんでそうなるの!!」
「あれ、これも違うのか。なにやってんだよあいつ……」
居た堪れなくて口に含んだ果実酒が変なとこに入って咽せ込む。
「……ノアと私はそういうのじゃないし、大体、ノアだって私のこと手の掛かる妹くらいにしか思ってないよ」
実際、私を見てると弟を思い出すって言われたし。口から垂れた果実酒をハンカチで拭って、先程ノアがいた場所へ視線を向ける。既にその姿は消えていたけれど。
「そうかなぁ……まあいいか。こっちとしてはフェリシアに声掛け易くなったし」
「え?」
「知ってる? フェリシアのこと狙ってる奴、結構いるんだよ」
「それは私を媒介にしてアシュリーヌちゃんと仲良くなりたいか、家柄目当てでしょ。うちはともかく、アシュリーヌちゃんはもう心に決めた相手がいるんだから、近付いても無駄だからね」
推しカプの恋路の邪魔はさせるものか。ジト目で目の前の優男を睨み付けると、困ったように笑われた。
「いやそれも勿論あったかもしれないけど。純粋に、フェリシアと仲良くなりたい奴もいるって。お前面白いし、変に身分をひけらかさないし、愛嬌もあって可愛いし」
「へっ」
ま、まじでか。いや騙されるな相手はユーグリッド。適当な事ほざいてるか、何らかの魂胆があるに違いない。しかし非モテ歴前世+20年とちょっとの問題物件にその言葉は素直に嬉しくて、頰が勝手に赤らんでしまうのも許してほしい。ノアにすら可愛いなんて、言われた事ないし。
「ははっ、そういうとこそういうとこ。ノアとコンビ解散したなら俺新たなフェリシアお世話係に立候補しようかなー」
「えっ、やだよ。ノアじゃなきゃやだ」
「瞬殺かよひどい。……それ本人に言ってやってほしいなぁ」
生温かい目で見られてなんだかむず痒い気持ちになる。本人にって言われても、避けられておりますし。きっともう私の世話を焼くの嫌がられておりますし。元のとは言わないけど、せめて軽口を叩ける友人同士に戻るので精一杯な気がする。私はノアを手放したくはないけど、ノアに自由に生きてほしい気持ちだってあるのだ。
お皿に乗った既に冷めてしまった料理を見つめ、俯いていると、ぽふと頭に重量感を覚える。ユーグリッドに頭を撫でられていた。仮にもドレスアップしたレディになんたる扱い。けど慰めようとしてくれているのだろう。ノアにも最近されていないし、頭撫でられるの久しぶりだな。ノアの手が恋しい。(当分、は未来に対して使う言葉)
「ま、早く仲直りするなり完全に関係を断つなり、きちんと決着つけなよ。中途半端な状態続けられても、地味に視線が痛いからさ」
一体どういう意味だろう。
ユーグリッドを見上げようとしたその時、彼の肩越しにマルクス様が通用口から抜け出すのが見えた。
し、しまった!! もうそんな時間か……!
一刻も早く追わねばと慌てて足を踏み出すものの、それにはユーグリッドを撒かねばならない。昨日の昼時と言い、またしても私の邪魔をする気か……!
顔色を変えた私に気付いたのか、訝しげな視線を向けてくるユーグリッドに向き直る。
「ごめんっ、私ちょっと気分が……休めるとこ探してくる」
「えっ! あ、ちょっ……」
何か言いたげなユーグリッドの制止を無視して、私は足早にマルクス様の後を追った。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
私たちは幼馴染ではないと思う
名木雪乃
恋愛
中学時代の男女の部活仲間は幼馴染にカテゴライズされるのか、それとも?
棚橋利衣子と加宮真孝は、同じ中学の卓球部で知り合い、高校、大学は別々でも週末は地元の市民体育館で卓球をする間柄。知り合ってから十年が過ぎたが、ふたりの間には何もなく卓球仲間として付かず離れず過ごしていた。
利衣子は真孝のことを幼馴染ではないと思っているのだが、真孝は利衣子の幼馴染と称してそのポジションをキープし続けているが、その心は?
無自覚な利衣子に真孝は我慢の限界、色気のない朝チュン、実は彼女が寝てる間にこっそりアレコレ。
ソフトなラブコメです。
この作品は、【小説家になろう】さんにも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる