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新しい世界
最終話
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ルザーフの手からは、何かが伝わってくる。
私と彼とは、心が繋がっている。
そう感じられた。
彼が何を考えているのか分かるような気がするし、
彼にも私が何を考えているのか分かっているような気がした。
玉座に近づくにつれて、だんだんひとつに混ざり合っていく感じがする。
そうすることで、新しい世界が生まれるのだ。
ルザーフの手からは、感情だけではなく、記憶のようなものも流れ込んでくる。
これまでルザーフがどのような道を歩んできたのか、
どんな苦悩を味わってきたのか・・・。
彼の目線で私の姿が見えたりもした。
懐かしい風景だ。
ゼクートの港であった時の記憶もある。
私に右腕を返しに来た時の記憶も。
ドラジアで、ルースと名前を偽って現れた事もあった。
そこで、私達は初めて会ったのだ。
アリウスが隠れ家を見つけたと言ってルースとベアトリスを紹介してきたのだ。
待て・・本当にそうだろうか?もうちょっと前のような気もする。
ドラジアまで一緒に旅をしたのではなかっただろうか?
・・いや、そんなことはない。彼とは一緒に旅をしていない。
でも、ずっと一緒にいた記憶もある。一緒に旅をした記憶があるのだ。
誰かと間違えている・・・?
自然と、私の足は止まってしまっていた。
ルザーフが私を不思議そうな目で見つめる。
考えるのは止めようと決めたではないか・・・。
今は、彼のことだけ考えていればいいのだ。
私は、玉座に向かって、再び歩き始めた。
彼だけが、私のことを分かってくれる。
愛してくれる。それが幸せと思える。
重ね合わせた手から、二人が溶け合って、ひとつになっていく。
絡んだ指が、契りの指輪のように・・・。
「ガイツ・・・。」
私の目からは、自然と涙が零れていた。
口にしたその言葉が、なんなのか分からないのに・・・。
ルザーフが、私を驚いて睨みつける。
「その名をどうして?」
名前?ガイツとは、何かの名前なのだろうか・・・?
握ったルザーフの手から、男性の記憶が流れ込んでくる。
見たことがある。
この人は・・・ガイツだ。この人がガイツだ。
私と一緒に旅をしていたのは、ルザーフではない。
ガイツだ。
なぜ、絶対に忘れてはいけない彼の名前を忘れてしまっていたのだろう・・・。
彼は、私を希望の灯と呼んだ。
彼に応えなければ・・・。
急に、私の右腕の腕輪が光り出し、
ルザーフが苦しみ出して私から手を離した。
すかさず、ディメイアが駆け付けてきて、私の右手を握る。
「余の魔力、全てを渡す。それでルザーフを消し去れ。」
私が戸惑っていると、ディメイアの体が赤く光り出して、
その光は私の右手に伝わってくる。
「ウェナの力を継ぐ者よ。世界を頼んだ。」
やがて、ディメイアの姿は消えて無くなり、
代わりに私の体から黄色い光が立ち上る。
レイリアが巨大な悪魔を消し去った時と似たような光だ。
「ディメイアめ、余計なことを・・。
こうなれば、この世界も消し飛ばして、全てを無に帰してやる。」
ルザーフは、再び目の前に両手を突き出してボールのようなものを発生させる。
「イヴ、消えるか、消すかだ。
もうやるしかないだろう。」
今度は、アリウスが私の右手をとり、アルテア様の剣と共に彼の左手を重ねる。
黄色い光は、アリウスとアルテア様の剣に伝わり、より強く輝き、まるで黄金のようだ。
ルザーフが手元のボールのようなものを縮小させていくと、
大きな地震が起こり始め、宮殿が崩れ始めた。
私の口からは、自然と叫び声が出ていた。
それにつられるようにアリウスが叫び始め、
自身の声に背中を押されるように、私達は、ルザーフに向けてその剣を突き刺した。
その剣は、地獄が崩壊する直前に、ルザーフを貫き、
ルザーフは叫び声を上げながら消滅した。
しかし、地獄は崩壊を止めず、私は、終末が迫っていることを悟る。
「間に合わなかったみたい・・・。」
「やれるだけのことはやった。もう悔いはないさ。」
崩壊していく世界の中で、取り残された私達は、
自然と最期の時を2人で手を重ねながら迎える。
「そうか・・・私のいない間、そんなことがあったのだな。」
突然、アリウスが言う。
ルザーフの時と一緒で、彼にも私の記憶や感情が流れているのだろう。
目を瞑ると、彼の記憶が流れてくる。
娘を流行り病で亡くしたこと。
ルザーフに娘を蘇らせる約束をして私の右手を奪い取ったこと。
私達と別れて、アルテアの塔に行き、アルテア様の剣を手に入れた事。
そして、地獄へ渡りウルガリウスにとどめを刺したこと。
不思議だ・・手をつなぐといろんなことが分かりあえる・・。
「それは、エルステッドの力です。ルザーフを通じて、
イヴ、あなたにエルステッドの力が流れ込んだのでしょう。」
ウェナ様の声だ。
「その力を使えば、また、新しい世界を創ることが出来るでしょう。」
それ以降、ウェナ様の声は聞こえなくなった。
その声は、アリウスにも聞こえていたらしく、
私達は、崩壊していく世界の中、ゆっくりと手を重ねながら玉座へと歩いていった。
「どうか、新しい世界が平和でありますように。」
私と彼とは、心が繋がっている。
そう感じられた。
彼が何を考えているのか分かるような気がするし、
彼にも私が何を考えているのか分かっているような気がした。
玉座に近づくにつれて、だんだんひとつに混ざり合っていく感じがする。
そうすることで、新しい世界が生まれるのだ。
ルザーフの手からは、感情だけではなく、記憶のようなものも流れ込んでくる。
これまでルザーフがどのような道を歩んできたのか、
どんな苦悩を味わってきたのか・・・。
彼の目線で私の姿が見えたりもした。
懐かしい風景だ。
ゼクートの港であった時の記憶もある。
私に右腕を返しに来た時の記憶も。
ドラジアで、ルースと名前を偽って現れた事もあった。
そこで、私達は初めて会ったのだ。
アリウスが隠れ家を見つけたと言ってルースとベアトリスを紹介してきたのだ。
待て・・本当にそうだろうか?もうちょっと前のような気もする。
ドラジアまで一緒に旅をしたのではなかっただろうか?
・・いや、そんなことはない。彼とは一緒に旅をしていない。
でも、ずっと一緒にいた記憶もある。一緒に旅をした記憶があるのだ。
誰かと間違えている・・・?
自然と、私の足は止まってしまっていた。
ルザーフが私を不思議そうな目で見つめる。
考えるのは止めようと決めたではないか・・・。
今は、彼のことだけ考えていればいいのだ。
私は、玉座に向かって、再び歩き始めた。
彼だけが、私のことを分かってくれる。
愛してくれる。それが幸せと思える。
重ね合わせた手から、二人が溶け合って、ひとつになっていく。
絡んだ指が、契りの指輪のように・・・。
「ガイツ・・・。」
私の目からは、自然と涙が零れていた。
口にしたその言葉が、なんなのか分からないのに・・・。
ルザーフが、私を驚いて睨みつける。
「その名をどうして?」
名前?ガイツとは、何かの名前なのだろうか・・・?
握ったルザーフの手から、男性の記憶が流れ込んでくる。
見たことがある。
この人は・・・ガイツだ。この人がガイツだ。
私と一緒に旅をしていたのは、ルザーフではない。
ガイツだ。
なぜ、絶対に忘れてはいけない彼の名前を忘れてしまっていたのだろう・・・。
彼は、私を希望の灯と呼んだ。
彼に応えなければ・・・。
急に、私の右腕の腕輪が光り出し、
ルザーフが苦しみ出して私から手を離した。
すかさず、ディメイアが駆け付けてきて、私の右手を握る。
「余の魔力、全てを渡す。それでルザーフを消し去れ。」
私が戸惑っていると、ディメイアの体が赤く光り出して、
その光は私の右手に伝わってくる。
「ウェナの力を継ぐ者よ。世界を頼んだ。」
やがて、ディメイアの姿は消えて無くなり、
代わりに私の体から黄色い光が立ち上る。
レイリアが巨大な悪魔を消し去った時と似たような光だ。
「ディメイアめ、余計なことを・・。
こうなれば、この世界も消し飛ばして、全てを無に帰してやる。」
ルザーフは、再び目の前に両手を突き出してボールのようなものを発生させる。
「イヴ、消えるか、消すかだ。
もうやるしかないだろう。」
今度は、アリウスが私の右手をとり、アルテア様の剣と共に彼の左手を重ねる。
黄色い光は、アリウスとアルテア様の剣に伝わり、より強く輝き、まるで黄金のようだ。
ルザーフが手元のボールのようなものを縮小させていくと、
大きな地震が起こり始め、宮殿が崩れ始めた。
私の口からは、自然と叫び声が出ていた。
それにつられるようにアリウスが叫び始め、
自身の声に背中を押されるように、私達は、ルザーフに向けてその剣を突き刺した。
その剣は、地獄が崩壊する直前に、ルザーフを貫き、
ルザーフは叫び声を上げながら消滅した。
しかし、地獄は崩壊を止めず、私は、終末が迫っていることを悟る。
「間に合わなかったみたい・・・。」
「やれるだけのことはやった。もう悔いはないさ。」
崩壊していく世界の中で、取り残された私達は、
自然と最期の時を2人で手を重ねながら迎える。
「そうか・・・私のいない間、そんなことがあったのだな。」
突然、アリウスが言う。
ルザーフの時と一緒で、彼にも私の記憶や感情が流れているのだろう。
目を瞑ると、彼の記憶が流れてくる。
娘を流行り病で亡くしたこと。
ルザーフに娘を蘇らせる約束をして私の右手を奪い取ったこと。
私達と別れて、アルテアの塔に行き、アルテア様の剣を手に入れた事。
そして、地獄へ渡りウルガリウスにとどめを刺したこと。
不思議だ・・手をつなぐといろんなことが分かりあえる・・。
「それは、エルステッドの力です。ルザーフを通じて、
イヴ、あなたにエルステッドの力が流れ込んだのでしょう。」
ウェナ様の声だ。
「その力を使えば、また、新しい世界を創ることが出来るでしょう。」
それ以降、ウェナ様の声は聞こえなくなった。
その声は、アリウスにも聞こえていたらしく、
私達は、崩壊していく世界の中、ゆっくりと手を重ねながら玉座へと歩いていった。
「どうか、新しい世界が平和でありますように。」
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