隻腕の聖女

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7つの断章編

第7話

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翌日、アインの村を出発する時、
バルゼビアが周囲に聞こえないようにこっそりと、言った。
「一つ言い忘れていたが、
 あたしのことは、これからと呼んでくれ。
 人間達に正体がバレるといろいろ厄介だ。」

私は、周りに悟られぬよう静かに頷いた。

悪魔の名前だとみんなが周知しているので、
という名前の付いている人間はいない。

彼女をバルゼビアと呼べば、それは悪魔バルゼビア以外に他ならず、
偶然同じ名前だ、などという言い訳は通用しない。

確かに、これから行く街などで、
彼女が悪魔だということがバレたら、
面倒なことになるに違いない。
なので、これからは彼女のことを「ベアトリス」と呼ぶことにした。


次の目的地を決めるため、
私たちはコンパスの針に目を落とした。

コンパスは北を指していた。
真北ではなく、少し西に外れてはいたが、
おおまかに言ってしまうなら、
「北」の一言が一番しっくりくる。

ここから北へ向かえば、ツヴァートの街がある。
とりあえず、そこを目指して私達は馬を走らせた。

ツヴァートの街は、以前と変わらず人の往来が激しかった。

シロエルがいた豪邸は、まだ修復されずに残されていた
街の人によると、管理する人もいなくなってしまったため、
取り壊すことになったらしいが、
大きさが大きさであるため手つかずになっているらしい。

私は懐かしみながら街を少し歩いて回ったが、
コンパスを見てみると、用があるのはどうやらこの街ではないようだ
「ここから更に北西に行ったところに断章があるようだな。」
ベアトリスと共にコンパスを覗く。
針の指している方角は、ツヴァートの北に横たわるバーズ山脈の方だ。

私たちは再び馬を北へと走らせた。
今回は、街に駐留している兵を連れていくことはやめにした。
悪魔と遭遇した際に、ベアトリスが力を使う度に説明するのは何かと面倒だ。
それに、そもそも悪魔と戦うのは、普通の人間には危険だということもある。
人間を庇いながら悪魔と戦闘するのは難しく、いつ犠牲が出るともわからない。

私自身、戦闘が得意というわけではないけれど、
右腕の力があるし、それなりに戦いをこなしてきたお陰で、
立ち回り方くらいは心得ているつもりだ。


方角からして、山へと昇らなくてはいけないかもしれないと思っていたが、
どうやら、山の麓にある沼の付近に断章があるようだ。

沼の何処かと言われても、沼の中へと入っていくわけにはいかない。

私とベアトリスが途方に暮れていると、
大きな黒い鳥が私たちの近くに舞い降りた。

「何?この鳥。悪魔?」
私は身構えた。
しかし、ベアトリスは全く動じていなかった。

「もう忘れてしまったのか?
 参ったな。私だ、私。」
大きな黒い鳥は、人の姿へと形を変える。

その見たことのある顔は、リスバートだった。
そういえば、リスバートもまだ生きていたのだった。

「リスバート。
 こいつと共闘することになった。
 あいつを倒すには少しでも戦力が必要なんだ。
 こいつの力は十分に役に立つ。」
ベアトリスが親指で私を指しながら言う。

リスバートは頷く。
「よかった、よかった。
 初めて会った時から、あんたとは仲良くできると思っていたんだ。
 あの時、殺し合いなどしなくてよかったな。」
なぜか、とても嬉しそうな顔で高笑いする。

「本当に調子のいいこと言うのね。
 あの時邪魔してくれたおかげで、
 ガイツは・・・。」
リスバートがガイツの命を奪った直接の原因ではないことくらい、
私は理解していたつもりだった。
しかし、ガイツの名を口にすると、
ガイツの亡くなった時のことを思い出してしまし、
つい言葉に詰まってしまった。

「そうか、そいつはすまないことをしたな。
 私には私の立場もあったのでな。」
リスバートは柄にもなく、暗い雰囲気に包まれた。

「ごめんなさい。
 あなたを責めるつもりはなかったの。
 私とあなたは敵だったわけだし、
 しょうがないよね。」
私がリスバートに笑いかけると、
彼は調子を取り戻した。

「これからは仲間だ。
 一緒に手を取り合って、
 ルザーフの企みを打ち砕こうじゃないか。」
リスバートは手を差し伸べてきたが、
私は、なんとなく握手をする気にはならなかったので、
頷くだけで答えた。

彼が嫌いというわけではない。
リスバートとは波長が合いづらいだけなのだと思う。

多分・・・。
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