隻腕の聖女

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王の野望編

第47話

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光がぶつかり合うと、左手に大きな衝撃が走った。

まるでダナゴンと直接取っ組み合いでもしているようだ。
私たちの力は拮抗し、にらみ合いが続いた。

しかし、やがて私は魔力の衰えを感じ始め、
徐々に押され気味になった。
私は魔力勝負をあきらめ、今度は右手を前に突き出して、防御壁を張った。

ダナゴンの魔力が至る所に反射して飛び散る。

そのうち、防御壁を支える右腕や足にも限界がきて、
私は後方へと吹き飛ばされた。

その直後、ダナゴンの魔力も尽きたのか、光は収まった。

「はぁはぁ、魔力がいくらあったとしても、
 これでは私の体がもたぬわ。」
ダナゴンは体全体で大きく息をしながら、その場に片膝を着いた。

見ると、ダナゴンの腕は黒く焼け焦げたようになっていた。
おまけに力がうまく入らないのか、手は小刻みに震えていた。

今なら勝てるかも。

私は上体を起こして再度左手に魔力を込め始めた。
残った力では、もうそれほど強力な力は放てない。

狙うのは、ダナゴンの心臓だ。

しかし、狙いは外れ、
なんとも頼り無げな一条の光は、ダナゴンの左肩を貫いた。

そんな光でも、人間相手には威力十分で、
ダナゴンはうめき声をあげて吹き飛ぶ。

そして、左腕だけがダナゴンの体から離れたところへと、
ドサッという音を伴って落ちた。

とどめを刺さなくては。

私は剣がある場所まで這いつくばりながら向かった。
左手に剣をとると、それを支えにして立ち上がる。

ダナゴンも荒い息をしながらゆっくりと立ち上がる。

ダナゴンは右腕を私に向けて突き出し、
これまた か細い光を放ってきた。

私は右手の力で、それをはじきながら近づいていく。

ほぼ一定の間隔で放たれていた か細い光も、やがて間隔が長くなったり、
不発になったりしていった。

「こんなところで負けるわけにはいかんのだ。」
ダナゴンは自身を奮い立たせるために大きな声を上げるが、
以降、彼の右手に光が宿ることはなくなり、
やがて力尽きて、ぶら下がるだけになった。

もうすぐダナゴンに剣が届く距離へと入る。

そんな中、立っていることもできなくなったのか、
ダナゴンは再び片膝を着いた。

私はダナゴンの心臓に剣の切っ先を合わせ、倒れこむように
両手で握った剣を突き刺した。


その刹那、どこにそんな力が残っていたのか、
ダナゴンから突風が巻き起こる。

私は風に押されてしりもちをついた。

「アルケスとやらよ。今一度この体貸してやる。」
ダナゴンはそう言いながら、悪魔の姿へと変貌する。

「危ないところだったわ。
 人間なんかが出しゃばるから、
 こんなことになるのよ。」
現れた悪魔は恐らくアルケスだろう。
木の皮のような模様の鎧を身にまとい、
月桂冠をかぶっている。
人間で言うと、女性のような輪郭だった。

ダナゴンの体を使用したせいだろうか、彼女にも左腕は無いようだ。

「無駄に魔力も体力も使ってくれて。
 こんな人間ごとき、
 ウルガリウス様に分けてもらった力を使えば一捻りだったのに。」
アルケスがふらつきながら私に歩み寄ってくる。
私は這いつくばりながら逃げようとするも追いつかれ、
うつぶせになった背中を踏みつけられた。

「死に損ないが。
 まずは、私と同じように、
 お前の左腕を引き裂いてやろうか。」
私の背中からアルケスが言葉を吐きかける。

私を踏みつけた足に徐々に力が入ってくる。
痛みに耐えきれず、私は叫び声をあげた。

アルケスのせせら笑いが聞こえる。
しかし、その直後、笑い声が悲鳴に変わった。

アルケスの足が緩み、
私は数度横転してアルケスから距離をとると、
上体だけを起こして相手に向き直した。

ヨハンの持った剣が、アルケスの背後から、
心臓のあたりを貫いているのが目に入った。

「死に損ないがもう一人いたか。」
アルケスが再度衝撃破を周囲に発生させる。

ヨハンは剣を握ったまま吹き飛び、背中から着地した。

ピンチかと思いきや、アルケスも胸を押さえたまま苦しそうな素振りを見せた。
どうやら魔力も体力も削られているせいで、
体が脆いうえ、自己修復もままならないようだ。

相手が悪魔の姿とはいえ、この状況ならば魔力が使えなくても十分勝機はありそうだ。
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