隻腕の聖女

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王の野望編

第13話

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私達は、辺りがすっかり明るくなってくると、ツヴァートの街へ向けて出発した。
幸い、あれから悪魔が襲ってくることはなかった。

街に着くと、人々が広場に集まっていた。何事かと思い目を凝らすと、
広場の中心にはエリザと囚われの身になったガイツがいた。
そして、近くにはギロチンだ。
私はこれから行われようとしていることを嫌でも察した。

「早く助けないと。」
私達は人々をかき分けて広場の中心へと向かった。

「私は怖かった。平穏に暮らしているだけなのに、
なぜ命を狙われなければならないのか。
皆さんのお許しがあれば、この者を処刑したいと思うのです。
ですが、一方的に決めつけて処罰することは、
”明日は我が身”と、皆さんに恐怖を与えてしまうかもしれません。
そこで公平性を保つために彼にも発言の場を設けましょう。」

エリザの姿をしたシロエルはもっともらしいことを言った。
街の人達は大きく頷いた、
エリザ様は慈悲深いという声すら聞こえてくるほどだった。

こうして自分の正当性を保ち、自分への求心力を増しているのだ。
魔力だけではなく、人の心を操る術を身に着けた厄介な相手だ。

「彼女は悪魔だ。確かに証拠はない。だが、俺は見た。
胸に大きな風穴が空いたにもかかわらず平気で起き上がってきたのを。
俺と一緒にいたのは聖女様だ。悪魔を祓う旅をしている。」
ガイツは一生懸命弁明しようとするが、誰もその光景を見ていないのだ。
悪魔を実際に見たことがない人達が、”彼女は悪魔だ”という言葉に納得するわけがない。

街の人達はガイツを完全に頭のいかれた殺人者だと思い込み、
罵詈雑言を浴びせ、物を投げつけた。

「皆さんのお怒りは分かります。
このような殺人者が近くにいるかもしれないと考えたら、安心して生活できませんよね?
皆さんが安心して暮らせるよう、皆さんの前でハッキリとこの者の命を奪いましょう。」
今度は自分の安全のためという名目から、
全員の安全のためであるかのようにすり替えが行われた。
これで、シロエルは公然と悪者に仕立て上げたガイツを処刑した上に、
自分の評判を上げることができるのだ。
捕えたガイツをすぐに処分しなかったのは、恐らくそれが目的だ。

シロエルが合図をすると、数人の男たちがガイツをギロチンへと押さえつけた。
その光景を見て興奮した街の人達は、大きな声で処刑を囃し立て始めた。


ようやくの事で中心にたどり着いた私たちは、
監視人を押し退けながら処刑台へ上った。

「おやおや、"聖女様"、処刑台に自ら上がってきてくださるとは・・。」
シロエルは不気味なにやけ顔で私達を迎えた。

アリウスが私に頷いて、合図をした。
私は蜂をたくさん詰めた皮袋の口を解いて、シロエルへ投げつけた。
シロエルは何とも知らず、その革袋を叩き落とした。

「どういうつもりだ?まさか聖水でも持ってきたというのか?」
シロエルは嘲笑うかのように、高笑いした。
シロエルの反応から察するに、聖水といった類のものは意味がないのだろう。
しかし、その高笑いもすぐに消えた。
皮袋を叩き落としたことで、
攻撃されたと思い込んだ蜂たちが、一気に皮袋の開いた口から飛び出してきたからだ。

「蜂?バカな?なぜ皮袋なんかに?」
シロエルは動揺して取り乱した。
手を振り回して蜂を追い払おうとするが、蜂はますますシロエルを攻撃対象と認識した。

たまらずシロエルは逃げようとするも、豪華に着飾ったドレスでは俊敏に動けない。
処刑台の隅まで追い詰められて、いよいよパニックになったシロエルは、悪魔の姿を現した。

体の下半分がクモで、上半分は人間のような形をしていたものの、頭には触覚のようなものが生え、
目は不気味な複眼で、口は鋭い牙が突き出すように生えていた。
シロエルの本当の姿はエリザの美しい姿とは全く違う、グロテスクなものだった。

街の人達はその姿を見て、驚き戸惑いながらシロエルに道を譲った。
シロエルは人々が割れるようにして作ったその道を、
自分の屋敷の方へと脇目も振らず逃げていった。

「悪魔の姿から戻らないうちに、すぐに追うぞ。」
アリウスが、ガイツをギロチンに押さえつけている人々を突き飛ばしながら言った。

私達3人は、放心状態になった人々を後目にシロエルを追った。
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