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標的の花
憎しみの矛先
しおりを挟む痛ましい事件が、この平和な村で起きてしまった。
梅乃は言葉を失っていた。
「まだ息がある…!
銀壱、救急隊を呼べ。早く!」
男性の血はまだ乾いておらず、傷も新しいものだった。
急いで手当すれば助かるかもしれない。
銀壱は前田の無線機を使って救急隊を呼び、前田は必死に男性に呼びかける。
すると梅乃が、男性の血痕が部屋の外に続いているのを見つけた。
「もしかしたら、犯人がまだ近くに…!
私、行ってきます!」
「おいっ!早河!」
前田の制止を振り切って、梅乃は走り出した。
血痕を辿ると、庭の方向へ続いていることが分かった。
縁側を抜け、そのまま外へ出るようにして血痕が残る。
凶器を持ったまま逃走したのだろうか。
梅乃が視線をその先にやると、人影が見えた。
逃がす訳にはいかない、と梅乃は全速力で追いかけていく。
「やっと二人になれたわね」
「あ、あなたは…!」
そこに立っていたのは、怪しく微笑む京だった。
着物には所々血がついている。
凶器を持っている気配はないが、危険な人物だ。
梅乃は咄嗟に竹刀を構えた。
その姿を見た京が今度は高らかに笑う。
「ふふふ…誤解されるのは困ったものね。
私、あなたと闘う気は無いの」
「あの男性を殺そうとしたのは、
あなたではないのですか!」
「想像だけで物を言うのはよろしくないわね。
私があの男を殺す理由なんて無いじゃない」
梅乃を嘲笑うように話す京 美藤。
確実に悪だと分かっていながら、証拠もないまま逮捕へは踏み切れない。
着物についている血が誰のものかも特定はできない。
梅乃は憎しみの感情を抑えながら、策を考えていた。
「では…あなたの指示で、
組織の誰かがやったということですか」
「それはあなたたちの捜査で分かることよ。
ただ私はあなたに会いたかったの」
京が会いたかったと話すのは梅乃のことで、他の捜査官はどうでもいいといった口ぶりだ。
わざと三人を呼び出し、梅乃だけを誘き寄せたということになる。
間髪入れずに京が話し続ける。
「お兄様の憎む人の子はどんなものか…
この目で見てみたかったのよ」
「紫が憎む…」
「呼び捨てだなんて。失礼なのも、親譲りね」
梅乃はハッとした。
京が言っていることは、両親失踪事件に関係しているのだと。
しかし、紫が自分の両親を憎む理由は全く思い当たらない。
梅乃の頭の中は混乱の渦。
そして目の前に居る京に今、何を言うべきなのか、梅乃は悶々としていた。
「何故…私の両親のことを…!」
「ごめんなさいね。答えるつもりは無いわ」
京はそう言い残して向きを変え、去っていってしまう。
梅乃は京に何か伝えようとしたが、言葉に出来ず呆然と立っていることしかできなかった。
訊きたいことや伝えたいことが次々頭に浮かんで、上手く纏まらずにいたのだ。
男性を傷つけた犯人を見つけ出さなければいけないのに、梅乃は足を動かす余裕も無かった。
次の標的の花を、この事件が物語っているようだった。
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