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第二章 ガイノイドが管理する街々

100 新しい体

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「僕にお願い?」
「そうデス。ククラの力で私に見合った最適な体を設計して欲しいのデスよ。そうしてくれたら私が迷宮遺跡を操作して、その体を製作するデス」

 小首を傾げて尋ねたククラに、オネットがその内容を告げる。
 秩序の街・多迷宮都市ラヴィリア襲撃時に体を破壊されて以降、電子頭脳をアテラに吸収されたままでいた彼女。
 こと今回の迷宮遺跡攻略においては、その二心同体とでも言うべき状態が功を奏した形ではあったが、独立して使用できる体があった方がいい場面もあるはずだ。
 新しい体を用意することができるのなら、そうしておくに越したことはない。
 やろうと思えば、体を【コンプレッシブキャリアー】に入れておいて状況によって使い分けるといったことも不可能ではないだろうし。

「パパ?」

 そうこう考えていると、ククラが許可を求めるように視線を向けてくる。
 対してマグが頷いて応えると、彼女はそれを確認してコクッと小さく頷き返してから改めてアテラと向き直った。
 それから彼女の中にいるオネットを見通すようにジッと見詰める。
 そのまま待つこと十数秒。

「……こんな感じ?」

 ククラは問い気味に言いながら右手を差し出し、それをアテラが握った。
 データを受け渡しているのか、彼女達の目とディスプレイが点滅する。

「いいデスね!」
「よかった」
「早速作るデスよ!」

 オネットの弾んだ声に合わせて手を離したアテラは、ククラが眠っていた箱から伸びる導線の先へと向かった。
 そして、それが接続されている壁に手で触れる。
 と同時に、アテラのディスプレイに通信を行っている証の点滅が再び生じた。

「数分程待って下さい」

 随分と早い。
 そう感じられたが、それはあくまでもマグの時代基準での認識だ。
 工場自体が一つの巨大な出土品PTデバイスだと考えれば、あり得ない話ではない。
 実際、人型機獣の襲撃頻度からして生産能力はそれぐらいだろう。
 いや、むしろゆっくり丁寧過ぎるぐらいか。

「あ、できたデスね」

 それからしばらくして。
 オネットがそう告げた直後、マグが纏う【エクソスケルトン】の集音装置が人型機獣を運搬していた大型エレベーターの駆動音を拾った。
 程なく、この最深部の部屋に一人分の足音が近づいてくる。
 入口を振り返ると、以前見たオネットのホログラムそのままの少女がいた。
 これもまた人間と見紛うような外見ではあるが、ぼんやり気味で表情が乏しいククラとも比べものにならないぐらいの無表情だ。
 一目でガイノイドだと分かる。

「アテラさん」

 その人形が触れられる距離まで近づいてきたところで、合図をするようにオネットが彼女に呼びかける。
 対してアテラは「分かりました」と頷くと、右の掌を上に向けた。

「あっ、あっ、あっ」

 すると、いつかのように悩ましげな声が部屋に響き渡った。
 それが静まるとアテラの手にオネットの電子頭脳が現れる。
 どうも吸収された状態から分離されると、得も言われぬ感覚を抱くらしい。
 オネット曰く、生まれるような感じらしいが……。
 今のところ彼女しか体験したことはなく、実態は全くの不明だ。
 それはともかくとして。
 オネットの電子頭脳を手に乗せたアテラは、無表情な人形の背後に回った。

「では、起動します」

 そして、いつの間にか開いていた後頭部から電子頭脳を入れる。
 一瞬遅れて虚ろな瞳に光が宿り、色がついたように表情が豊かになっていく。
 オネット自身の性格によるところも大きいだろうが、変化の度合いが凄い。
 正に命が宿ったかのようだ。

「問題はありませんか?」
「はいデス! アテラ母様」
「……母様?」
「あ! えっと、つい、デス」

 学校の先生をお母さんと呼んでしまった時のように赤面するオネット。
 分離される感覚を生まれると表現していたせいで、引っ張られたのだろう。
 あるいは、咄嗟にそう呼んでしまうぐらいアテラに親愛の情を感じていたのか。
 恐らくは両方なのだろうが、即座に訂正したり誤魔化したりしなかった辺り、後者の割合が中々に多かったりするのかもしれない。

「……そう呼びたければ、そう呼んでも構いません」

 アテラもまたそう判断したのか、少し考えてから受け入れる。
 オネットの電子頭脳を体内に吸収していただけに、彼女自身も何となく娘のような感覚を抱いてしまっているのかもしれない。

「ですが――」

 そのアテラはそこで言葉を切りながらマグへと視線を移した。
 オネットはその意図を理解したらしく、頷いて口を開く。

「分かりましたデス。マグ父様もよろしくお願いしますデス」
「お、おう」

 桜色が印象的な少女の姿で笑顔と共に告げるオネットを前に、マグは少し戸惑いを抱きながらも応じた。
 アテラが拒まないのであれば否やはない。
 何だかんだ、オネットのことはもう大体信用している。
 ならば後は、意識してその呼び方に慣れていけるように努めるだけいいだろう。
 そう頭の中で若干思考停止気味に結論し――。

「……うん、まあ、とにかく。一先ず帰って報告しようか」

 マグはやや強引に話を戻したのだった。
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