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第2章 雄飛の青少年期編
122 残念な当代日本一
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時は流れて秋。
日本プロ野球のペナントレースも終盤戦となり、順位もほぼ定まりつつあった。
1位と2位は確定的、3位はまだ分からない。
3位のチームまではプレーオフに進出できるので、そこに注目が集まっている。
「今年の宮城オーラムアステリオスはいつもと雰囲気が違うな」
「逆に後半戦に勢いがありますからね」
テレビを見ながら父さんと母さんが楽しげにそんなことを話している。
いつも夏場で息切れしている印象が強い宮城オーラムアステリオス。
今年は春先に調子が悪く、そのまま最下位に沈むかと思われた。
しかし、今年は梅雨明け頃から調子を上げていき、今は3位争いをしていた。
ファンの間では珍事とされているらしい。
まあ、まだ20試合程度残っているので、これからどうなるかは分からないが。
「久し振りにプレーオフに出場して欲しいな」
「そうですね。勢いを保ってプレーオフに突入できれば、もしかしたら……」
3位からの勝ち抜きで優勝、日本シリーズ制覇。
そんな大逆転もワンチャンあるかもしれない。
勿論、1位や2位には本拠地開催や1勝のアドバンテージがある。
下剋上は困難だ。
可能性は限りなくゼロに近い。
それでも期待してしまうのがファン心理というものだろう。
一種の業とも言える。
とは言え、ファンにとっては可能性があるだけマシだ。
チームに希望が持てなければ、後は選手個人のタイトルに目を向けるしかない。
それすらなければ、もう終戦だ。
後の楽しみと言えば、若手の成長ぐらいのもの。
来年に備えて淡々と試合を消化していくのみだ。
それを考えると、国営1部パーマネントリーグで現状最下位となっている埼玉セルヴァグレーツのファンは比較的マシな方かもしれない。
いいところなしな歴代の最下位チームファンの中では。
『昨年2年連続の打率、本塁打二冠王に輝きました海峰永徳。前半戦はどうにもピリッとしませんでしたが、オールスター以降好調をキープしています』
テレビの中でアナウンサーが言う。
埼玉セルヴァグレーツ4番バッターの海峰永徳外野手。
彼の活躍は埼玉セルヴァグレーツファンにとっては、せめてもの救いだろう。
『先日の試合で遂にホームランランキングトップに躍り出て更に量産中。3年連続40本塁打達成まで秒読み段階です』
「……日本一のバッターがいても最下位か」
「野球は団体競技ですからね。現に打点はタイトルに程遠い状態ですし」
「ホームランの3倍は打点が欲しいところだよな」
父さんの発言はあくまでもネタだろうが、打点が少ないのは事実だ。
前の打者が塁に出てくれないから、ホームランもソロばかり。
打点ランキングでは箸にも棒にもかからないのが彼の現状だった。
個人の指標として打点は欠陥があるとも言われる所以だな。
それはともかくとして。
「まあ、でも今年は勝ちに繋がらないホームランが多いのがな」
海峰永徳選手の成績を詳しく分析すれば、父さんの言う通り。
前半戦では大差をつけられた負け試合で申し訳程度の反撃の一発を打ったり。
チームが早々に最下位確定してから急に打ち出したり。
成績の帳尻合わせをしているような状態になってしまっている。
「当代日本一のバッターなのは間違いないのですけどね」
高卒1年目。開幕2ヶ月で1軍スタメン。
新人ながら3割20本塁打を記録し、新人王獲得。
翌年は1年を通して活躍して40本塁打でホームラン王。
打率でもトップに立って2年目にして二冠王となった。
3年目は研究されたのか今年と同じく前半戦は今一だった。
しかし、オールスター前の7月辺りから一気に調子を上げて2年連続二冠王。
しかも50本塁打を達成したことで、誰もが認める日本一のバッターとなった。
後半戦だけなら年間60本塁打以上のペースだった。
前半戦がよければ日本記録を樹立していたかもしれない。
……ただなあ。
「正直、これが日本一じゃ困るんだよな……」
テレビを見る父さんと母さんという日常風景をぼんやりと眺めながら、2人に聞こえないようにポツリと口の中で呟く。
海峰永徳選手のステータスは確かに高い。
世間から日本一と評価されるだけのことはあるレベルだ。
しかし、スキルが問題だ。
・海峰永徳
〇能力詳細
▽取得スキル一覧
名称 分類
・
・
・
・熱い死体蹴り 特殊スキル
・焼け石に水 特殊スキル
・帳尻合わせ 特殊スキル
・一緒や!打っても! マイナススキル
・
・
・
それぞれのスキルの詳細な説明は以下の通り。
【熱い死体蹴り】
『大量リード時に能力が上がる。僅差の時は能力が下がる』
【焼け石に水】
『大差で負けている時に能力が上がる。僅差の時は能力が下がる』
【帳尻合わせ】
『既に順位が決まった試合で能力が大幅に上がる。それ以外では能力が下がる』
【一緒や!打っても!】
『活躍の度合いに応じて投手の能力が下がる』
……酷い効果だ。
多分、この辺は去年前半戦で調子が悪かった時に取得してしまったものだろう。
チームが3年連続最下位だったのもタイミングが悪かった。
結果としてデメリットの大きいスキルが増えてしまった。
【成長タイプ:マニュアル】以外はこれがあるのが厄介なんだよな。
これを消し去るには試合で逆の結果を出し続けなければならないからな。
大概はそれができず、逆にその傾向を強めてしまう。
実際、海峰永徳選手にはこれらの効果が全て出てしまっている。
それが成績にも諸に反映されている。
恐らく、来年以降も似たようなことになるだろう。
国際試合でも、だ。
「これも、巡り合わせか……」
【生得スキル】もない【成長タイプ:バランス】で、日本一のバッターと言える数字を残せるだけのステータスを得たことは素直に称賛できる。
それこそ怪我スレスレの厳しいトレーニングを己に課してきたはずだ。
しかし、将来WBWでアメリカ代表に挑むことを考えると……。
申し訳ないが、このスキル構成ではお荷物にしかならない。
現にWBWのアジア予選ラウンドでは足を引っ張っていた。
他の選手達の活躍で予選は突破できたが、本戦では間違いなくネックになる。
対アメリカ代表となれば、尚のことだ。
「ホント……こういうのが一番困るんだよな」
さすがに無能な味方、とまでは言わないけれども……。
ここ4年で培われてしまったネームバリューは厄介極まりない。
名前で優先的に代表に選ばれてしまいかねない。
後々の足枷になるかもしれない上に、すぐ対処できない問題だ。
それに気づいてしまって、今から頭が痛くなる。
憂鬱な気持ちになって小さく嘆息する。
そんな、とある秋の日の出来事だった。
日本プロ野球のペナントレースも終盤戦となり、順位もほぼ定まりつつあった。
1位と2位は確定的、3位はまだ分からない。
3位のチームまではプレーオフに進出できるので、そこに注目が集まっている。
「今年の宮城オーラムアステリオスはいつもと雰囲気が違うな」
「逆に後半戦に勢いがありますからね」
テレビを見ながら父さんと母さんが楽しげにそんなことを話している。
いつも夏場で息切れしている印象が強い宮城オーラムアステリオス。
今年は春先に調子が悪く、そのまま最下位に沈むかと思われた。
しかし、今年は梅雨明け頃から調子を上げていき、今は3位争いをしていた。
ファンの間では珍事とされているらしい。
まあ、まだ20試合程度残っているので、これからどうなるかは分からないが。
「久し振りにプレーオフに出場して欲しいな」
「そうですね。勢いを保ってプレーオフに突入できれば、もしかしたら……」
3位からの勝ち抜きで優勝、日本シリーズ制覇。
そんな大逆転もワンチャンあるかもしれない。
勿論、1位や2位には本拠地開催や1勝のアドバンテージがある。
下剋上は困難だ。
可能性は限りなくゼロに近い。
それでも期待してしまうのがファン心理というものだろう。
一種の業とも言える。
とは言え、ファンにとっては可能性があるだけマシだ。
チームに希望が持てなければ、後は選手個人のタイトルに目を向けるしかない。
それすらなければ、もう終戦だ。
後の楽しみと言えば、若手の成長ぐらいのもの。
来年に備えて淡々と試合を消化していくのみだ。
それを考えると、国営1部パーマネントリーグで現状最下位となっている埼玉セルヴァグレーツのファンは比較的マシな方かもしれない。
いいところなしな歴代の最下位チームファンの中では。
『昨年2年連続の打率、本塁打二冠王に輝きました海峰永徳。前半戦はどうにもピリッとしませんでしたが、オールスター以降好調をキープしています』
テレビの中でアナウンサーが言う。
埼玉セルヴァグレーツ4番バッターの海峰永徳外野手。
彼の活躍は埼玉セルヴァグレーツファンにとっては、せめてもの救いだろう。
『先日の試合で遂にホームランランキングトップに躍り出て更に量産中。3年連続40本塁打達成まで秒読み段階です』
「……日本一のバッターがいても最下位か」
「野球は団体競技ですからね。現に打点はタイトルに程遠い状態ですし」
「ホームランの3倍は打点が欲しいところだよな」
父さんの発言はあくまでもネタだろうが、打点が少ないのは事実だ。
前の打者が塁に出てくれないから、ホームランもソロばかり。
打点ランキングでは箸にも棒にもかからないのが彼の現状だった。
個人の指標として打点は欠陥があるとも言われる所以だな。
それはともかくとして。
「まあ、でも今年は勝ちに繋がらないホームランが多いのがな」
海峰永徳選手の成績を詳しく分析すれば、父さんの言う通り。
前半戦では大差をつけられた負け試合で申し訳程度の反撃の一発を打ったり。
チームが早々に最下位確定してから急に打ち出したり。
成績の帳尻合わせをしているような状態になってしまっている。
「当代日本一のバッターなのは間違いないのですけどね」
高卒1年目。開幕2ヶ月で1軍スタメン。
新人ながら3割20本塁打を記録し、新人王獲得。
翌年は1年を通して活躍して40本塁打でホームラン王。
打率でもトップに立って2年目にして二冠王となった。
3年目は研究されたのか今年と同じく前半戦は今一だった。
しかし、オールスター前の7月辺りから一気に調子を上げて2年連続二冠王。
しかも50本塁打を達成したことで、誰もが認める日本一のバッターとなった。
後半戦だけなら年間60本塁打以上のペースだった。
前半戦がよければ日本記録を樹立していたかもしれない。
……ただなあ。
「正直、これが日本一じゃ困るんだよな……」
テレビを見る父さんと母さんという日常風景をぼんやりと眺めながら、2人に聞こえないようにポツリと口の中で呟く。
海峰永徳選手のステータスは確かに高い。
世間から日本一と評価されるだけのことはあるレベルだ。
しかし、スキルが問題だ。
・海峰永徳
〇能力詳細
▽取得スキル一覧
名称 分類
・
・
・
・熱い死体蹴り 特殊スキル
・焼け石に水 特殊スキル
・帳尻合わせ 特殊スキル
・一緒や!打っても! マイナススキル
・
・
・
それぞれのスキルの詳細な説明は以下の通り。
【熱い死体蹴り】
『大量リード時に能力が上がる。僅差の時は能力が下がる』
【焼け石に水】
『大差で負けている時に能力が上がる。僅差の時は能力が下がる』
【帳尻合わせ】
『既に順位が決まった試合で能力が大幅に上がる。それ以外では能力が下がる』
【一緒や!打っても!】
『活躍の度合いに応じて投手の能力が下がる』
……酷い効果だ。
多分、この辺は去年前半戦で調子が悪かった時に取得してしまったものだろう。
チームが3年連続最下位だったのもタイミングが悪かった。
結果としてデメリットの大きいスキルが増えてしまった。
【成長タイプ:マニュアル】以外はこれがあるのが厄介なんだよな。
これを消し去るには試合で逆の結果を出し続けなければならないからな。
大概はそれができず、逆にその傾向を強めてしまう。
実際、海峰永徳選手にはこれらの効果が全て出てしまっている。
それが成績にも諸に反映されている。
恐らく、来年以降も似たようなことになるだろう。
国際試合でも、だ。
「これも、巡り合わせか……」
【生得スキル】もない【成長タイプ:バランス】で、日本一のバッターと言える数字を残せるだけのステータスを得たことは素直に称賛できる。
それこそ怪我スレスレの厳しいトレーニングを己に課してきたはずだ。
しかし、将来WBWでアメリカ代表に挑むことを考えると……。
申し訳ないが、このスキル構成ではお荷物にしかならない。
現にWBWのアジア予選ラウンドでは足を引っ張っていた。
他の選手達の活躍で予選は突破できたが、本戦では間違いなくネックになる。
対アメリカ代表となれば、尚のことだ。
「ホント……こういうのが一番困るんだよな」
さすがに無能な味方、とまでは言わないけれども……。
ここ4年で培われてしまったネームバリューは厄介極まりない。
名前で優先的に代表に選ばれてしまいかねない。
後々の足枷になるかもしれない上に、すぐ対処できない問題だ。
それに気づいてしまって、今から頭が痛くなる。
憂鬱な気持ちになって小さく嘆息する。
そんな、とある秋の日の出来事だった。
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