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第2章 雄飛の青少年期編
111 新旧神童対決1回目
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1塁にランナーがいて1アウトというこの状況。
バッテリーにとって最良なのは、勿論ゴロを打たせてのダブルプレーとなる。
次善としては、内野前進守備からのバックホームで3塁ランナーである俺を本塁でタッチアウトにしてしまうことだ。
彼らがどちらを優先しているかは守備位置を見れば大体予想できるが……。
うーむ。
見たところ定位置よりは前に出てきているものの、前進守備って程じゃないな。
1回の表だからか、どちらにも対応できるように中間守備を取っているようだ。
いいとこ取りのような守備隊形だが、どっちつかずで中途半端とも言える。
しかも、その状況判断は選手自身が臨機応変に行わなければならないからな。
それを結構脳筋寄りなこの世界の中学生に求めるのは少し酷な気もする。
まあ、お手並み拝見ってとこだな。
対する左バッターボックスに入った磐城君。
ダブルプレーを避けたいのは当然のことだが、クリーンナップを務める4番打者としては最低でも1点は取っておきたいところだ。
まあ、とりあえず外野に軽くフライを上げてくれれば、俺が3塁ランナーなので犠牲フライになる確率は高い。
もし内野ゴロだったとしても、点が入る可能性は十二分にある。
勿論、ヒットを打つことができるならそれに越したことはないけどな。
いずれにしても攻撃側が大分有利な状況ではある。
それがプレッシャーにもなり得る訳だけど、どこまで平常心を保って普段通りのバッティングができるのか。磐城君のポイントはそこだな。
一応、あーちゃんを走らせる選択肢もあったりもするけども……。
この場は余計な横槍は入れないでおく。
磐城君は勿論、正樹にも一先ず勝負に集中させたい。
まだ1回の表だしな。
そんな風に頭の中で状況を整理したところで2人の勝負が始まる。
さて。俺も傍観者ではなく、プレイヤーで3塁ランナーだ。
集中しなければ。
セットポジションに入った正樹を注視しながら、塁から離れてリードを取る。
正樹が足を上げ、1球目を投じる。
視線を磐城君に向ける。
彼はバットをとめて見逃した。
「ボールッ!」
ツーシームがアウトコース低めに外れた。
俺の時と同じように慎重に入ってきたな。
今回は正樹が首を振った様子はないので、キャッチャーの古谷君もまた我がチームの快進撃の(成績上の)立役者である磐城君を警戒しているようだ。
投手成績のみならず、打撃成績も頭1つ抜けているからな。
当然と言えば当然の判断だ。
「ボールツーッ!」
2球目はインコース低めのボールゾーンへ。
球種はチェンジアップ。
磐城君はスイングしかけたが、しっかりと見極めてバットをとめた。
「ナイセンッ!」
ベンチから磐城君に向けて声援が送られる。
うん。ナイス選球眼だ。
磐城君も落ち着いているな。いい感じだ。
そして2ボールからの3球目。
アウトコース高めギリギリいっぱいの速球。
――カキンッ!!
「おっ?」
甲高い音を鳴らして打球が上がる。
ホームラン性の当たり。いい角度だ。
その行方を視線で追うが……。
チェンジアップからのストレート。その緩急によって、バットの出がほんの少しだけ遅れてしまったようだ。
僅かに差し込まれていたようで打球は3塁線を切れていく。
フェンスは越えたものの、完全にポールの外側だった。
「チェンジアップがなければホームランだったな」
3塁ベースに戻りながら小さく呟く。
勿論、これは磐城君の打力を褒めての言葉ではない。
惜しかったのも事実ではあるが、相手バッテリーにとっては緩急をうまく使った結果の思惑通りのファウルだったはず。
それも全て正樹の直球のスピードとノビが優れているからこその話だ。
一方で。振り遅れたとは言え、しっかりと芯に当てた磐城君も悪くない。
新旧神童対決。中々いい勝負になっているな。
カウントは2ボール1ストライク。
いわゆるバッティングカウント。
ボールが先行しているので、バッテリーはストライクが欲しくなるところ。
バッター側は振りに行き易い状況だ。
とは言え――。
「ボールスリーッ!」
コントロールに絶対の自信があれば、ストライクを取りに行くとは限らない。
投じられたのはインコース高めに外れる直球。
バッターの上体を起こそうという意図がありありと感じられる。
実際、丁度踏み込んだところに内角に来たため、磐城君は完全にインコースを意識してしまっていた。
そこへ4球目がテンポよく投じられる。
コースは外角低め。
3ボールだから少し仕方がない面があるものの、即座に四隅の対角線でストライクを取ろうとするのは素直過ぎるな。
小学校の頃に俺と勝負した時と同じだ。
まあ、あの時は速球で、今回は変化球だけども。
――カンッ!
ギリギリいっぱいに決まるかというバックドアのカットボール。
それを磐城君は体を少し泳がせながらカットする。
よく当てたとも、ちゃんとフェアグラウンドに飛ばさないとダメだとも言える。
1ストライクだし、打者としてはヤマを張って狙っていってもよかった。
まあ、磐城君はまだ中学生だからな。
その辺の判断力不足は仕方がない。
俺のように常に【戦績】を参照して傾向を見ることができる訳でもないしな。
だから、この状況で次の球を見逃してしまったとしても責めることはできない。
「ストライクスリーッ!」
内角低めに更に内から入ってくるツーシームに少し仰け反ってしまった磐城君。
結果、見逃し三振。2アウト。
新旧神童対決最初の勝負は正樹の勝ちだな。
それは間違いない。
しかし……。
――カキンッ!!
磐城君をアウトにしたことで、僅かな弛緩があったのだろう。
正樹が余り間を置かずに不用意に投じた初球は外角低めながら僅かに甘い直球。
続く左打者。5番バッターの大松君が、それを綺麗に流し打ちした。
打球はレフト前に落ちる。
ボールが内野に返球される間に3塁ランナーの俺は余裕でホームイン。
先制点の奪取に成功する。
その後の昇二はセンターフライに終わって1点に留まったが……。
本命を全力で抑えて後続に呆気なく打たれるというのは、あるあるだ。
一先ず1回表はこれで終了。
磐城君と正樹にフォーカスを当てると、総合的に見て痛み分けってところだな。
バッテリーにとって最良なのは、勿論ゴロを打たせてのダブルプレーとなる。
次善としては、内野前進守備からのバックホームで3塁ランナーである俺を本塁でタッチアウトにしてしまうことだ。
彼らがどちらを優先しているかは守備位置を見れば大体予想できるが……。
うーむ。
見たところ定位置よりは前に出てきているものの、前進守備って程じゃないな。
1回の表だからか、どちらにも対応できるように中間守備を取っているようだ。
いいとこ取りのような守備隊形だが、どっちつかずで中途半端とも言える。
しかも、その状況判断は選手自身が臨機応変に行わなければならないからな。
それを結構脳筋寄りなこの世界の中学生に求めるのは少し酷な気もする。
まあ、お手並み拝見ってとこだな。
対する左バッターボックスに入った磐城君。
ダブルプレーを避けたいのは当然のことだが、クリーンナップを務める4番打者としては最低でも1点は取っておきたいところだ。
まあ、とりあえず外野に軽くフライを上げてくれれば、俺が3塁ランナーなので犠牲フライになる確率は高い。
もし内野ゴロだったとしても、点が入る可能性は十二分にある。
勿論、ヒットを打つことができるならそれに越したことはないけどな。
いずれにしても攻撃側が大分有利な状況ではある。
それがプレッシャーにもなり得る訳だけど、どこまで平常心を保って普段通りのバッティングができるのか。磐城君のポイントはそこだな。
一応、あーちゃんを走らせる選択肢もあったりもするけども……。
この場は余計な横槍は入れないでおく。
磐城君は勿論、正樹にも一先ず勝負に集中させたい。
まだ1回の表だしな。
そんな風に頭の中で状況を整理したところで2人の勝負が始まる。
さて。俺も傍観者ではなく、プレイヤーで3塁ランナーだ。
集中しなければ。
セットポジションに入った正樹を注視しながら、塁から離れてリードを取る。
正樹が足を上げ、1球目を投じる。
視線を磐城君に向ける。
彼はバットをとめて見逃した。
「ボールッ!」
ツーシームがアウトコース低めに外れた。
俺の時と同じように慎重に入ってきたな。
今回は正樹が首を振った様子はないので、キャッチャーの古谷君もまた我がチームの快進撃の(成績上の)立役者である磐城君を警戒しているようだ。
投手成績のみならず、打撃成績も頭1つ抜けているからな。
当然と言えば当然の判断だ。
「ボールツーッ!」
2球目はインコース低めのボールゾーンへ。
球種はチェンジアップ。
磐城君はスイングしかけたが、しっかりと見極めてバットをとめた。
「ナイセンッ!」
ベンチから磐城君に向けて声援が送られる。
うん。ナイス選球眼だ。
磐城君も落ち着いているな。いい感じだ。
そして2ボールからの3球目。
アウトコース高めギリギリいっぱいの速球。
――カキンッ!!
「おっ?」
甲高い音を鳴らして打球が上がる。
ホームラン性の当たり。いい角度だ。
その行方を視線で追うが……。
チェンジアップからのストレート。その緩急によって、バットの出がほんの少しだけ遅れてしまったようだ。
僅かに差し込まれていたようで打球は3塁線を切れていく。
フェンスは越えたものの、完全にポールの外側だった。
「チェンジアップがなければホームランだったな」
3塁ベースに戻りながら小さく呟く。
勿論、これは磐城君の打力を褒めての言葉ではない。
惜しかったのも事実ではあるが、相手バッテリーにとっては緩急をうまく使った結果の思惑通りのファウルだったはず。
それも全て正樹の直球のスピードとノビが優れているからこその話だ。
一方で。振り遅れたとは言え、しっかりと芯に当てた磐城君も悪くない。
新旧神童対決。中々いい勝負になっているな。
カウントは2ボール1ストライク。
いわゆるバッティングカウント。
ボールが先行しているので、バッテリーはストライクが欲しくなるところ。
バッター側は振りに行き易い状況だ。
とは言え――。
「ボールスリーッ!」
コントロールに絶対の自信があれば、ストライクを取りに行くとは限らない。
投じられたのはインコース高めに外れる直球。
バッターの上体を起こそうという意図がありありと感じられる。
実際、丁度踏み込んだところに内角に来たため、磐城君は完全にインコースを意識してしまっていた。
そこへ4球目がテンポよく投じられる。
コースは外角低め。
3ボールだから少し仕方がない面があるものの、即座に四隅の対角線でストライクを取ろうとするのは素直過ぎるな。
小学校の頃に俺と勝負した時と同じだ。
まあ、あの時は速球で、今回は変化球だけども。
――カンッ!
ギリギリいっぱいに決まるかというバックドアのカットボール。
それを磐城君は体を少し泳がせながらカットする。
よく当てたとも、ちゃんとフェアグラウンドに飛ばさないとダメだとも言える。
1ストライクだし、打者としてはヤマを張って狙っていってもよかった。
まあ、磐城君はまだ中学生だからな。
その辺の判断力不足は仕方がない。
俺のように常に【戦績】を参照して傾向を見ることができる訳でもないしな。
だから、この状況で次の球を見逃してしまったとしても責めることはできない。
「ストライクスリーッ!」
内角低めに更に内から入ってくるツーシームに少し仰け反ってしまった磐城君。
結果、見逃し三振。2アウト。
新旧神童対決最初の勝負は正樹の勝ちだな。
それは間違いない。
しかし……。
――カキンッ!!
磐城君をアウトにしたことで、僅かな弛緩があったのだろう。
正樹が余り間を置かずに不用意に投じた初球は外角低めながら僅かに甘い直球。
続く左打者。5番バッターの大松君が、それを綺麗に流し打ちした。
打球はレフト前に落ちる。
ボールが内野に返球される間に3塁ランナーの俺は余裕でホームイン。
先制点の奪取に成功する。
その後の昇二はセンターフライに終わって1点に留まったが……。
本命を全力で抑えて後続に呆気なく打たれるというのは、あるあるだ。
一先ず1回表はこれで終了。
磐城君と正樹にフォーカスを当てると、総合的に見て痛み分けってところだな。
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