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第6章 終末を告げる音と最後のピース
286 〈灰燼新生・輪転〉
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ファイーリア城を中心に大きく翼を広げた鳥を形作るように、炎が闇夜を照らしている。遠目には幻想的ながら、目を凝らすとこの世の地獄のようだ。
「特異思念集積体、フェニックス……」
その光景を視界に捉えながら、俺は思わずレンリの結論を繰り返した。
元の世界においても広く知られた伝説上の生物。
その鳥は寿命を迎えると自ら炎に飛び込み、灰の中から甦るとも言われている。
確かに、これまでに直面した状況を並べていけば符合する部分が多い。
レンリの言葉は恐らく正しいのだろう。
「けど、フェニックスの少女化魔物って確か――」
「はい。五百年前の黎明期に一体確認されたのみで、その実態も一般には知られていません。死からの再生という埒外の能力もあって実在を怪しむ人もいました」
「……まあ、その気持ちは分からなくもないけど、あれだけ有名な存在が魔物としても少女化魔物としても存在しないなんてことはあり得ない話だよな」
たとえ能力の再現性が不十分であっても。
たとえ少女化魔物にまでは至らなくても。
魔物としてぐらいは出現していないとおかしい。
そんな俺の意見に、レンリは同意するように頷いてから再び口を開いた。
「ですので『フェニックスは、世界のどこかで決して誰にも見つかることなく数百年の時を生き続けている』という説が主流となっていました」
だからこそ五百年前に確認された一体以来、表舞台に出てこなかった、と。
特異思念集積体というものは、同じ時代に一体しか存在しない。
つまり、その一体が生きてさえいれば新たな個体が生まれることはない。
秘境に隠れ潜んで誰からも認識されなければ、まるでこの世に実在していないかのような状態の出来上がりだ。
しかし――。
「そんな存在が、今正に俺達の目の前にいる訳だ」
「加えて、何代にもわたって甦りの力を持つ国王。真性少女契約を切り替えることのできるクピドの金の矢。それらの事実から導き出される答えは……」
「この数百年。ファイーリア城の地下に繋ぎ止められて、その複合発露を幾度となく利用され続けていたってことか」
勿論、現状では推測の域を出ない話だ。
だが、俺には蓋然性が高いように感じられた。
それだけに、彼女のこれまでを想像して胸が締めつけられてしまう。
数百年もの間、人外ロリを自分達の都合のいい道具として扱ってきたであろうフレギウス王国の王族達に、改めて強烈な怒りが沸々と湧いてくる。
少女祭祀国家と称されしホウゲツとは全くの正反対。水と油のような国だ。
そのような国を今の今まで野放しにしてきたこと、そうせざるを得なかったことが今更ながらに口惜しい。
たとえ、半ば少女化魔物達を人質に取られているような状態だったとしても。
「…………いずれにしても、今は目の前の状況への対処が先決だな」
乱れた感情を落ち着かせようと、そう自分に言い聞かせてから深く息を吐く。
フレギウス王国の人間達についてはある意味自業自得と言えなくもないが、人外ロリコンとして可能ならば眼前の少女化魔物ぐらいはとめてやりたい。
「そのためには、まず彼女の複合発露について明らかにする必要がある」
だから俺はそう言いながら、これまでの口振りから今この場において最も情報を有しているだろうレンリへと問いの視線を向けた。
「私の知識も、五百年前の唯一の事例に基づくものでしかありませんが――」
対してレンリはそう前置いてから、自ら再確認するように一から説明を始める。
特異思念集積体フェニックスの少女化魔物。その複合発露〈灰燼新生〉は、己が死に瀕した際に自ら灰となり、その中から甦るというもの。
特異思念集積体ながらも複数の効果は持たず、その効果のみらしい。
甦りというものは、それだけ特別な能力ということなのだろう。
死をトリガーに自動的に発動する特殊な複合発露でもあるようだし、尚更だ。
「通常の複合発露はそれ以上でも以下でもありません。が、問題は暴走・複合発露の方です。眼下の状況を見れば分かるように、著しく性質が変化しています」
淡々と告げたレンリに促されるように、地上へと視線を向ける。
膨張の速度は若干緩やかになってはいるものの、暴走状態にある彼女の肉体は未だに肥大化を続けており、王都バーンデイトは大部分が飲み込まれつつあった。
それに先行して地上を走り抜けていく炎はその倍以上。
既に辺り一帯は全滅の様相だ。
深夜の突発的な出来事だけに、住民達もほとんどが眠ったまま炎の波に丸呑みにされてしまったと見て間違いない。
一部運よく(運悪く)異変に気づいて避難しようと外に出てきた者の姿も僅かに見られたが、助ける間もなく燃え広がる炎に巻かれて自らもグロテスクな肉塊となり、遅れてやってくる肉の津波に取り込まれてしまった。
「……これは、さすがに惨い」
そうした現状に思わずつぶやく。
如何に少女化魔物を蔑ろにする国の民とは言え、王太子オルギスの暴走に巻き込まれた結果と考えると、少し憐れに思ってしまうぐらい見るに堪えない光景だ。
しかし、ここからどのような行動を選択するにしても、フェニックスの少女化魔物の現在の状態、そして取り込まれた者達の状況を把握してからだ。
考えなしに迂闊な真似はできない。
下手に手を出して、救える可能性を潰しては目も当てられない。
まずは暴走・複合発露の詳細を知り、対処法に目途をつけなければ。
そういった比較的論理的な思考とは裏腹に。
「……けど、フェニックスの少女化魔物は真・複合発露も暴走・複合発露も大きく変化しないタイプだったんじゃないのか? 図書館の本にはそう載ってたぞ」
続けて俺の口から無意識に出てきたのは、少しずれた問いかけだった。
状況が逼迫している以上、レンリとの会話の流れはさて置いて、肝となる部分を尋ねなければならないと頭では分かっていたつもりだが……。
思った以上に余裕をなくしていたのかもしれない。
急転した事態と、余りに凄惨な光景を前にして。
加えて、直接関与する気はないとは言え、戦争の一場面でもある。
冷静であろうと努めていたが、冷静ではなかったようだ。
ともあれ、それらを改めて自覚することで心の乱れを抑え込み、余計な情報は後回しに暴走・複合発露の中身を直接問うために言い直そうと口を開きかける。
しかし――。
「恐らく、情報を制限して暴走・複合発露の弱体化を狙ったのでしょう。実態を多くの観測者が知ると、思念の蓄積で能力が一層強化される危険性もありますし」
対照的に不自然なぐらいに落ち着いた様子でいるレンリは、俺の言葉を遮るように本筋から外れた問いに答えを返してきた。
「極めて特殊な複合発露を持つ少女化魔物の中には、国の上層部しか存在を知らないということも多々ありますね」
更にレンリは続け様に補足的に告げる。
……何となく、相手がフェニックスの少女化魔物だと感づいてから、レンリは話を引き延ばそうとするかのように核心部分に触れないようにしている気がする。
そうした彼女の意図に誘導されてしまった部分もあったかもしれない。
「と、ともかく、レンリは実態を知ってるんだな?」
「はい。これでも皇族ですので。以前、御祖母様に――」
「いや、それよりも、今は彼女の暴走・複合発露の詳細について教えてくれ」
少し強引に本筋に戻し、レンリの目を真っ直ぐに見据えながら乞う。
すると、彼女は観念したように口を開いた。
「……フェニックスの少女化魔物の暴走・複合発露〈灰燼新生・輪転〉は再生力を過剰強化するものです。新生の炎によって己を含む周囲の存在を如何なる攻撃からも再生する命へと作り変えながら肥大化を繰り返し、その果てに自壊します」
「自壊?」
「はい。死から甦るという特性上、フェニックスの少女化魔物は基本的に不老不死です。……まあ、死をトリガーに甦るので厳密には別ものかもしれませんが――」
続けて彼女が言うには、五百年前の当時のこと。
フェニックスの少女化魔物と真性少女契約を結んだ契約者は、当然ながら不老である少女化魔物ではないが故に老い、しかし、死をトリガーとした甦りという効果は適用されて老衰による死と甦りを絶え間なく繰り返す状態に陥ったそうだ。
死から甦るが故に逃れることのできない永遠の苦痛。
それからどうにかして解放されようと彼は足掻き、その過程でフェニックスの少女化魔物を狂化の矢で暴走させたのだと言う。
結果、現状と近い状況となった挙句、最後には彼自身も肥大化した己の肉体を保てなくなって諸共に消滅してしまったとのことだ。
これがフェニックスの少女化魔物において観測された唯一の死であるらしい。
「……けど、それはつまり過剰な再生に耐えられずに自壊するまでは、飲み込まれてしまった人間も少女化魔物達も含めて、まだ生きているってことだよな?」
「そう、なります。が、彼女の暴走をとめることは不可能でしょう。この場では自壊を待つのが最も合理的な行動です。よしんば暴走を鎮めることができたところで彼女の精神は既に……」
どうやらレンリが話を逸らしていたのは、フェニックスの少女化魔物を自壊させてしまおうと考えていたためだったようだ。
確かに眼下の状況は、言ってしまえば他国の自滅。
それが最も安全で効率的なのは間違いない。
救世の転生者関連以外については、冷徹な面もある彼女らしいと言えばらしい。
が、俺はそう簡単に割り切ることができない。
「それでも。彼女自身や巻き込まれた少女化魔物達、その内の一人でも助けることのできる可能性が僅かでも残っているのなら、それに賭けたい」
「……旦那様はそうおっしゃると思ってました。ですが、既に刻限は迫りつつあります。何か方法は思いついているのですか?」
無駄に足掻いて無用の苦しみを背負う必要はない。
そう言いたげに、レンリは痛ましそうな視線と共に問うてくる。
フェニックスの少女化魔物に手を出さず自壊に持っていこうとしていたのは、俺を気遣ってのことでもあったらしい。
実際、彼女達を本当の意味で救う方法は思いつかない。
何もできず悔やむことになるかもしれない。
それでも、道具としていいように使われてきた少女化魔物達が、このような場所で無残に散っていいはずがない。だから――。
「今は、彼女達の自壊をとめて望みを繋ぐ。そこから先は明日の俺が考える。とにかく、レンリは巻き込まれないように待機していてくれ」
俺はそう告げると彼女を空に残し、少しずつ肥大化が鈍って自壊の気配が近づきつつあるフェニックスの少女化魔物へと降下したのだった。
「特異思念集積体、フェニックス……」
その光景を視界に捉えながら、俺は思わずレンリの結論を繰り返した。
元の世界においても広く知られた伝説上の生物。
その鳥は寿命を迎えると自ら炎に飛び込み、灰の中から甦るとも言われている。
確かに、これまでに直面した状況を並べていけば符合する部分が多い。
レンリの言葉は恐らく正しいのだろう。
「けど、フェニックスの少女化魔物って確か――」
「はい。五百年前の黎明期に一体確認されたのみで、その実態も一般には知られていません。死からの再生という埒外の能力もあって実在を怪しむ人もいました」
「……まあ、その気持ちは分からなくもないけど、あれだけ有名な存在が魔物としても少女化魔物としても存在しないなんてことはあり得ない話だよな」
たとえ能力の再現性が不十分であっても。
たとえ少女化魔物にまでは至らなくても。
魔物としてぐらいは出現していないとおかしい。
そんな俺の意見に、レンリは同意するように頷いてから再び口を開いた。
「ですので『フェニックスは、世界のどこかで決して誰にも見つかることなく数百年の時を生き続けている』という説が主流となっていました」
だからこそ五百年前に確認された一体以来、表舞台に出てこなかった、と。
特異思念集積体というものは、同じ時代に一体しか存在しない。
つまり、その一体が生きてさえいれば新たな個体が生まれることはない。
秘境に隠れ潜んで誰からも認識されなければ、まるでこの世に実在していないかのような状態の出来上がりだ。
しかし――。
「そんな存在が、今正に俺達の目の前にいる訳だ」
「加えて、何代にもわたって甦りの力を持つ国王。真性少女契約を切り替えることのできるクピドの金の矢。それらの事実から導き出される答えは……」
「この数百年。ファイーリア城の地下に繋ぎ止められて、その複合発露を幾度となく利用され続けていたってことか」
勿論、現状では推測の域を出ない話だ。
だが、俺には蓋然性が高いように感じられた。
それだけに、彼女のこれまでを想像して胸が締めつけられてしまう。
数百年もの間、人外ロリを自分達の都合のいい道具として扱ってきたであろうフレギウス王国の王族達に、改めて強烈な怒りが沸々と湧いてくる。
少女祭祀国家と称されしホウゲツとは全くの正反対。水と油のような国だ。
そのような国を今の今まで野放しにしてきたこと、そうせざるを得なかったことが今更ながらに口惜しい。
たとえ、半ば少女化魔物達を人質に取られているような状態だったとしても。
「…………いずれにしても、今は目の前の状況への対処が先決だな」
乱れた感情を落ち着かせようと、そう自分に言い聞かせてから深く息を吐く。
フレギウス王国の人間達についてはある意味自業自得と言えなくもないが、人外ロリコンとして可能ならば眼前の少女化魔物ぐらいはとめてやりたい。
「そのためには、まず彼女の複合発露について明らかにする必要がある」
だから俺はそう言いながら、これまでの口振りから今この場において最も情報を有しているだろうレンリへと問いの視線を向けた。
「私の知識も、五百年前の唯一の事例に基づくものでしかありませんが――」
対してレンリはそう前置いてから、自ら再確認するように一から説明を始める。
特異思念集積体フェニックスの少女化魔物。その複合発露〈灰燼新生〉は、己が死に瀕した際に自ら灰となり、その中から甦るというもの。
特異思念集積体ながらも複数の効果は持たず、その効果のみらしい。
甦りというものは、それだけ特別な能力ということなのだろう。
死をトリガーに自動的に発動する特殊な複合発露でもあるようだし、尚更だ。
「通常の複合発露はそれ以上でも以下でもありません。が、問題は暴走・複合発露の方です。眼下の状況を見れば分かるように、著しく性質が変化しています」
淡々と告げたレンリに促されるように、地上へと視線を向ける。
膨張の速度は若干緩やかになってはいるものの、暴走状態にある彼女の肉体は未だに肥大化を続けており、王都バーンデイトは大部分が飲み込まれつつあった。
それに先行して地上を走り抜けていく炎はその倍以上。
既に辺り一帯は全滅の様相だ。
深夜の突発的な出来事だけに、住民達もほとんどが眠ったまま炎の波に丸呑みにされてしまったと見て間違いない。
一部運よく(運悪く)異変に気づいて避難しようと外に出てきた者の姿も僅かに見られたが、助ける間もなく燃え広がる炎に巻かれて自らもグロテスクな肉塊となり、遅れてやってくる肉の津波に取り込まれてしまった。
「……これは、さすがに惨い」
そうした現状に思わずつぶやく。
如何に少女化魔物を蔑ろにする国の民とは言え、王太子オルギスの暴走に巻き込まれた結果と考えると、少し憐れに思ってしまうぐらい見るに堪えない光景だ。
しかし、ここからどのような行動を選択するにしても、フェニックスの少女化魔物の現在の状態、そして取り込まれた者達の状況を把握してからだ。
考えなしに迂闊な真似はできない。
下手に手を出して、救える可能性を潰しては目も当てられない。
まずは暴走・複合発露の詳細を知り、対処法に目途をつけなければ。
そういった比較的論理的な思考とは裏腹に。
「……けど、フェニックスの少女化魔物は真・複合発露も暴走・複合発露も大きく変化しないタイプだったんじゃないのか? 図書館の本にはそう載ってたぞ」
続けて俺の口から無意識に出てきたのは、少しずれた問いかけだった。
状況が逼迫している以上、レンリとの会話の流れはさて置いて、肝となる部分を尋ねなければならないと頭では分かっていたつもりだが……。
思った以上に余裕をなくしていたのかもしれない。
急転した事態と、余りに凄惨な光景を前にして。
加えて、直接関与する気はないとは言え、戦争の一場面でもある。
冷静であろうと努めていたが、冷静ではなかったようだ。
ともあれ、それらを改めて自覚することで心の乱れを抑え込み、余計な情報は後回しに暴走・複合発露の中身を直接問うために言い直そうと口を開きかける。
しかし――。
「恐らく、情報を制限して暴走・複合発露の弱体化を狙ったのでしょう。実態を多くの観測者が知ると、思念の蓄積で能力が一層強化される危険性もありますし」
対照的に不自然なぐらいに落ち着いた様子でいるレンリは、俺の言葉を遮るように本筋から外れた問いに答えを返してきた。
「極めて特殊な複合発露を持つ少女化魔物の中には、国の上層部しか存在を知らないということも多々ありますね」
更にレンリは続け様に補足的に告げる。
……何となく、相手がフェニックスの少女化魔物だと感づいてから、レンリは話を引き延ばそうとするかのように核心部分に触れないようにしている気がする。
そうした彼女の意図に誘導されてしまった部分もあったかもしれない。
「と、ともかく、レンリは実態を知ってるんだな?」
「はい。これでも皇族ですので。以前、御祖母様に――」
「いや、それよりも、今は彼女の暴走・複合発露の詳細について教えてくれ」
少し強引に本筋に戻し、レンリの目を真っ直ぐに見据えながら乞う。
すると、彼女は観念したように口を開いた。
「……フェニックスの少女化魔物の暴走・複合発露〈灰燼新生・輪転〉は再生力を過剰強化するものです。新生の炎によって己を含む周囲の存在を如何なる攻撃からも再生する命へと作り変えながら肥大化を繰り返し、その果てに自壊します」
「自壊?」
「はい。死から甦るという特性上、フェニックスの少女化魔物は基本的に不老不死です。……まあ、死をトリガーに甦るので厳密には別ものかもしれませんが――」
続けて彼女が言うには、五百年前の当時のこと。
フェニックスの少女化魔物と真性少女契約を結んだ契約者は、当然ながら不老である少女化魔物ではないが故に老い、しかし、死をトリガーとした甦りという効果は適用されて老衰による死と甦りを絶え間なく繰り返す状態に陥ったそうだ。
死から甦るが故に逃れることのできない永遠の苦痛。
それからどうにかして解放されようと彼は足掻き、その過程でフェニックスの少女化魔物を狂化の矢で暴走させたのだと言う。
結果、現状と近い状況となった挙句、最後には彼自身も肥大化した己の肉体を保てなくなって諸共に消滅してしまったとのことだ。
これがフェニックスの少女化魔物において観測された唯一の死であるらしい。
「……けど、それはつまり過剰な再生に耐えられずに自壊するまでは、飲み込まれてしまった人間も少女化魔物達も含めて、まだ生きているってことだよな?」
「そう、なります。が、彼女の暴走をとめることは不可能でしょう。この場では自壊を待つのが最も合理的な行動です。よしんば暴走を鎮めることができたところで彼女の精神は既に……」
どうやらレンリが話を逸らしていたのは、フェニックスの少女化魔物を自壊させてしまおうと考えていたためだったようだ。
確かに眼下の状況は、言ってしまえば他国の自滅。
それが最も安全で効率的なのは間違いない。
救世の転生者関連以外については、冷徹な面もある彼女らしいと言えばらしい。
が、俺はそう簡単に割り切ることができない。
「それでも。彼女自身や巻き込まれた少女化魔物達、その内の一人でも助けることのできる可能性が僅かでも残っているのなら、それに賭けたい」
「……旦那様はそうおっしゃると思ってました。ですが、既に刻限は迫りつつあります。何か方法は思いついているのですか?」
無駄に足掻いて無用の苦しみを背負う必要はない。
そう言いたげに、レンリは痛ましそうな視線と共に問うてくる。
フェニックスの少女化魔物に手を出さず自壊に持っていこうとしていたのは、俺を気遣ってのことでもあったらしい。
実際、彼女達を本当の意味で救う方法は思いつかない。
何もできず悔やむことになるかもしれない。
それでも、道具としていいように使われてきた少女化魔物達が、このような場所で無残に散っていいはずがない。だから――。
「今は、彼女達の自壊をとめて望みを繋ぐ。そこから先は明日の俺が考える。とにかく、レンリは巻き込まれないように待機していてくれ」
俺はそう告げると彼女を空に残し、少しずつ肥大化が鈍って自壊の気配が近づきつつあるフェニックスの少女化魔物へと降下したのだった。
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