74 / 396
第1章 少女が統べる国と嘱託補導員
068 初補導完了
しおりを挟む
補導した水精の少女化魔物を待機していた職員に託し、どこか心細げに振り返りながら連れていかれる彼女を安心させようと姿が見えなくなるまで微笑みと共に見送る。
これで一先ず補導員としての俺の役目は終わり。
彼女は俺の手を離れ、少女祭祀国家ホウゲツの国民として教育を受けることになる。
これから始まる新たな生活の中で、彼女らしい生き方と幸せを得られるように祈ろう。
「はい。これで手続き完了です。お疲れ様でした」
それからルトアさんに指示されるがまま記入した書類を提出し、それを以って俺にとって初めての補導は終わりを告げた。
とりあえず滞りなく仕事を終えられたことに一安心し、ホッと一息つく。
「それにしても凄いですね!! 初日からちゃんと補導に成功するなんて!!」
事務処理も区切りがついたのか、俺を褒め称えながら受付から出てくるルトアさん。
何だか、いきなりアクセル全開で興奮気味だ。
手続中は落ち着いていたはずだが、我慢でもしていたのか。
「しかも相手は脅威度Aの暴走した少女化魔物ですよ!! なのに、彼女には怪我を負ってるような様子も、怯えた様子も全くなかったですし!!」
「いや、あのルトアさん」
「あそこまで少女化魔物への思いやりのある補導をその歳でできるなんて、イサク様は補導員になるために生まれてきたような方です!!」
「落ち着いて下さい。後、近いです」
俺の言葉も耳に届いていないかのように捲くし立てるルトアさんは、顔を突き合わせるようにしながらキラキラとした橙色の瞳を向けてくる。
全身で表すような曇りのない称賛は、むず痒くなるばかりだ。
「ルトア。少し離れなさい」
「ひゃわ!?」
と、影の中から出てきたイリュファが、背後から彼女の肩を掴んでグイッと引き離す。
完全な不意打ちだったからか、ルトアさんはビクッと身を縮こまらせた。
絵に描いたような驚き方だ。
「え、ええと、確かイリュファさん。ごめんなさい、興奮しちゃいました」
と、ルトアさんはえへへと誤魔化すように笑いながら謝る。
朝の印象通り、何とも文句を言う気をなくさせる笑顔だ。正直ずるい。
「でも、本当に凄いですよ! イサク様は!」
「当然です。イサク様ですから」
尚も褒め続けるルトアさんに、我がことのように胸を張るイリュファ。
とりあえず、必要以上に迫ってきさえしなければ過剰な称賛は構わないらしい。
いや、過剰などとはこれっぽっちも思っていない風だ。
俺的には無駄に持ち上げられるこの空気を何とかして欲しかったのだが……。
望むべくもなく、イリュファはそうとだけ言うと影の中に戻っていってしまった。
「シニッド様もそう思いますよね!?」
更に、彼にまで同意を求め始めるルトアさん。
「ああ……まあな」
対して、シニッドさんは少し歯切れの悪い同意を口にする。
ちょっと違う態度に、思わず少しホッとしてしまう。
だが、そんな彼の反応にルトアさんは不満げに唇を尖らせた。
「何か問題でもあるんですか?」
「いや、ねえよ。ねえから困ってんだよ」
「どういうことですか?」
「アロンの奴でも一週間はかかった。だから今回もそのつもりで考えてたんだが……」
シニッドさんは、自身の禿頭を磨くように手で擦りながら一度言葉を切った。
本来は、実践の中で悪い部分を徐々に修正していく予定だったのだろう。
「実際、補導の手順は完璧だった。初日にして大概の補導員より余程優秀と言っていい」
「じゃあ、もう合格ですか!? 一日目にしてA級補導員誕生ですか!?」
「その判断がな……。何分、俺も初めてのことだからよ」
ルトアさんの問いに、シニッドさんは心底困ったように渋い顔をしながら続ける。
「実力も既に一級品。ルトアが言った通り、少女化魔物への思いやりもあるからホウゲツ学園の嘱託補導員としての心構えも十分だ。……配慮し過ぎな嫌いもあるが」
「なら、やっぱり合格でいいじゃないですか。正式な嘱託補導員が増えるのは、学園的には大助かりでしょうし。……あ! もしかしてライバルが増えるのは困るとか?」
「んな訳ねえだろ」
「ひいっ!」
ドスの利いた声と共に強面の彼に凄まれ、今にも失禁してしまいそうなぐらいに体を震わせて顔を青ざめさせるルトアさん。
「すみませんすみません! 調子に乗りましたすみません!」
彼女は涙目になりながら何度も頭を下げた。
自業自得な感もあるが、妙に同情心を抱かせる。ある意味、困った子だ。
「「シニッド」」
と、先に土精の少女化魔物と共に戻ってきていて処理を済ませて事務局で待機していたウルさんとルーさんが、窘めるように彼の名を呼ぶ。
「ああ……悪かった。睨んじまって」
そんな伴侶二人の言葉に、シニッドさんはばつが悪そうな顔をして頭を下げた。
「けどな。優秀な補導員が増えて悪い事なんざねえ。むしろ足りねえぐらいだ。前回の救世の転生者が去ってから百年。キナ臭い噂も色々と耳に届いてきてるからな」
「で、ですよね。……あれ? でも、それなら尚更、合格で問題ないんじゃないですか?」
「お前が思う以上に、この仕事は経験って奴が大事なんだよ。普通はな」
彼はそう言いながら、俺に尚のこと困ったような目線を向けた。
実際、一日で研修終了とか普通の仕事でも正直どうかとは思う。
どれだけ優秀な新人であれ。
不安になる。
頭の固い、極めて凡人的な考えかもしれないが。
「ただ……コイツの場合、何か妙に悟ってるっつうか、熟してるっつうか。とっとと合格をくれてやった方がいい気もすんだよ。既成概念に囚われた指導は、逆効果っつうかな」
理屈や感情と直感の差が大きいのか、躊躇うような素振りを見せるシニッドさん。
迷いの理由と言えば、一つはそれこそ固定観念。
何よりも大きいのは、アロン兄さんが行方不明になった事件だろう。
慎重になるのも理解できなくはない。
加えて、兄さんへの罪悪感もあって俺をしっかり指導してやろうと決心したにもかかわらず、こんなにも早く一人前と認めるのは不誠実だとも感じているのかもしれない。
実態はともかく、放り出すようで。
とは言え、所詮合格不合格など名目上の話でしかない。
重要なのは、今後実際にどのように行動するかだろう。
「今日かいずれの日にか合格を頂いたとしても、可能であればシニッドさんにはアドバイスを、時によっては手助けを頂きたいのですが」
救世という使命を果たす上でも、彼のような実力者との繋がりは大事にすべきだ。
「…………まあ、たとえ新人研修を終わらせても、別にサポートしてやることはできるか」
そんな俺の言葉に、シニッドさんは自分を納得させるように呟く。
感情の落としどころとしては、妥当なところだったようだ。
「イサク。自分の弱点は把握してるな」
「はい」
「冷静に相手の特性を見極め、無茶はするな。ヤバそうなら必ず俺や誰かを頼れ。安全無事に補導することは、自分のためだけじゃなく少女化魔物のためにもなるんだからな」
「はい。肝に銘じます」
「なら……たった一日だけの仮身分証だったが、卒業だ。今後は俺も正式な補導員として扱わせて貰う。だが、先輩として口出しはするからな。鬱陶しいと思われようとな」
「いえ。是非、お願いします」
「……やっぱり調子が狂うな。アロンの時より妙に気疲れするぜ」
シニッドさんは本当に疲れたように嘆息しながら、そわそわしているルトアさんを見た。
「ともかく、そう言う訳だ」
「はい! イサク様、少々お待ち下さい! 正式な身分証を作りますので!」
と、彼女は待ってましたと言うように、意気揚々と受付の内側に駆け込んでいった。
しばらく慌ただしく作業をし、新しい名刺ぐらいのプレートを手に戻ってくる。
「これがA級補導員の身分証です!!」
俺はルトアさんが差し出してきたそれを受け取り、両面を確認した。
仮の身分証よりもしっかりと作られているようで、A級補導員という文字や俺の名前と共にホウゲツ学園の学園章も彫り込まれている。
それらを囲むように凝った意匠も施されており、正式版であることを強く感じさせる。
この世界において一つの社会的地位を確立できた実感が湧き、少し気分が高揚する。
「イサク様! これからのご活躍、心からお祈り致します!!」
ルトアさんはそう続けながら眩しい笑顔を向けてくれる。
営業スマイル感のない彼女自身も嬉しそうな表情。
他意のない純粋な期待が感じられ、やる気が出てくる。
嘱託補導員事務局の受付嬢は彼女の天職かもしれない。
「あ、そうだ。トリリス様からご伝言があったんでした」
ちょっと間を置き、それから忘れてたとばかりにポンと手を叩くルトアさん。
これに関してはちょっとばかし演技っぽいが、そこはご愛嬌ということにしておこう。
それより、あの自発的トラブルメーカーとでも言うべき学園長様の話だ。
心して聞かなければ、どんな災難が舞い込んでくるか分からない。
「ええと……伝言、ですか?」
「はい。五日後に学園長室に来て欲しいとのことでした」
警戒しながら問うと、伝えられたのは普通の内容。
その普通さがむしろ不審な気持ちを余計に強くさせるが……。
「恐らく面会の用意ができたのでしょう」
イリュファに影の中から言われ、納得する。
早くて一週間と言っていたが、丁度一週間。
スケジュールの都合がついたようだ。
面会の相手は、少女祭祀国家のトップと言って過言ではない奉献の巫女ヒメ様。
お忍びと言っていたが、そんな立場の人間ならば時間を作るのも一苦労だろう。
各所との調整は必要不可欠だ。
恐らく一週間というのは異例中の異例の早さに違いない。
「何のことだか知らねえが、あの学園長の用事だ。碌なことじゃねえだろう」
一連の話を聞いて、事情を知らないシニッドさんは同情気味に言う。
まあ、緊張はするが、さすがに国のトップ。
トリリス様のような変な性格ではないはずだ。きっと。
「ま、今日のところは飯でも食いに行こうぜ。正式にホウゲツ学園の嘱託補導員になった祝いだ。俺が奢ってやる」
「本当ですか? ありがとうございます」
いずれにしても五日後のこと。
今から変に気を揉んでいても仕方がない。
今日はシニッドさんの厚意に甘えて、遠慮せずに御馳走になるとしよう。
これで一先ず補導員としての俺の役目は終わり。
彼女は俺の手を離れ、少女祭祀国家ホウゲツの国民として教育を受けることになる。
これから始まる新たな生活の中で、彼女らしい生き方と幸せを得られるように祈ろう。
「はい。これで手続き完了です。お疲れ様でした」
それからルトアさんに指示されるがまま記入した書類を提出し、それを以って俺にとって初めての補導は終わりを告げた。
とりあえず滞りなく仕事を終えられたことに一安心し、ホッと一息つく。
「それにしても凄いですね!! 初日からちゃんと補導に成功するなんて!!」
事務処理も区切りがついたのか、俺を褒め称えながら受付から出てくるルトアさん。
何だか、いきなりアクセル全開で興奮気味だ。
手続中は落ち着いていたはずだが、我慢でもしていたのか。
「しかも相手は脅威度Aの暴走した少女化魔物ですよ!! なのに、彼女には怪我を負ってるような様子も、怯えた様子も全くなかったですし!!」
「いや、あのルトアさん」
「あそこまで少女化魔物への思いやりのある補導をその歳でできるなんて、イサク様は補導員になるために生まれてきたような方です!!」
「落ち着いて下さい。後、近いです」
俺の言葉も耳に届いていないかのように捲くし立てるルトアさんは、顔を突き合わせるようにしながらキラキラとした橙色の瞳を向けてくる。
全身で表すような曇りのない称賛は、むず痒くなるばかりだ。
「ルトア。少し離れなさい」
「ひゃわ!?」
と、影の中から出てきたイリュファが、背後から彼女の肩を掴んでグイッと引き離す。
完全な不意打ちだったからか、ルトアさんはビクッと身を縮こまらせた。
絵に描いたような驚き方だ。
「え、ええと、確かイリュファさん。ごめんなさい、興奮しちゃいました」
と、ルトアさんはえへへと誤魔化すように笑いながら謝る。
朝の印象通り、何とも文句を言う気をなくさせる笑顔だ。正直ずるい。
「でも、本当に凄いですよ! イサク様は!」
「当然です。イサク様ですから」
尚も褒め続けるルトアさんに、我がことのように胸を張るイリュファ。
とりあえず、必要以上に迫ってきさえしなければ過剰な称賛は構わないらしい。
いや、過剰などとはこれっぽっちも思っていない風だ。
俺的には無駄に持ち上げられるこの空気を何とかして欲しかったのだが……。
望むべくもなく、イリュファはそうとだけ言うと影の中に戻っていってしまった。
「シニッド様もそう思いますよね!?」
更に、彼にまで同意を求め始めるルトアさん。
「ああ……まあな」
対して、シニッドさんは少し歯切れの悪い同意を口にする。
ちょっと違う態度に、思わず少しホッとしてしまう。
だが、そんな彼の反応にルトアさんは不満げに唇を尖らせた。
「何か問題でもあるんですか?」
「いや、ねえよ。ねえから困ってんだよ」
「どういうことですか?」
「アロンの奴でも一週間はかかった。だから今回もそのつもりで考えてたんだが……」
シニッドさんは、自身の禿頭を磨くように手で擦りながら一度言葉を切った。
本来は、実践の中で悪い部分を徐々に修正していく予定だったのだろう。
「実際、補導の手順は完璧だった。初日にして大概の補導員より余程優秀と言っていい」
「じゃあ、もう合格ですか!? 一日目にしてA級補導員誕生ですか!?」
「その判断がな……。何分、俺も初めてのことだからよ」
ルトアさんの問いに、シニッドさんは心底困ったように渋い顔をしながら続ける。
「実力も既に一級品。ルトアが言った通り、少女化魔物への思いやりもあるからホウゲツ学園の嘱託補導員としての心構えも十分だ。……配慮し過ぎな嫌いもあるが」
「なら、やっぱり合格でいいじゃないですか。正式な嘱託補導員が増えるのは、学園的には大助かりでしょうし。……あ! もしかしてライバルが増えるのは困るとか?」
「んな訳ねえだろ」
「ひいっ!」
ドスの利いた声と共に強面の彼に凄まれ、今にも失禁してしまいそうなぐらいに体を震わせて顔を青ざめさせるルトアさん。
「すみませんすみません! 調子に乗りましたすみません!」
彼女は涙目になりながら何度も頭を下げた。
自業自得な感もあるが、妙に同情心を抱かせる。ある意味、困った子だ。
「「シニッド」」
と、先に土精の少女化魔物と共に戻ってきていて処理を済ませて事務局で待機していたウルさんとルーさんが、窘めるように彼の名を呼ぶ。
「ああ……悪かった。睨んじまって」
そんな伴侶二人の言葉に、シニッドさんはばつが悪そうな顔をして頭を下げた。
「けどな。優秀な補導員が増えて悪い事なんざねえ。むしろ足りねえぐらいだ。前回の救世の転生者が去ってから百年。キナ臭い噂も色々と耳に届いてきてるからな」
「で、ですよね。……あれ? でも、それなら尚更、合格で問題ないんじゃないですか?」
「お前が思う以上に、この仕事は経験って奴が大事なんだよ。普通はな」
彼はそう言いながら、俺に尚のこと困ったような目線を向けた。
実際、一日で研修終了とか普通の仕事でも正直どうかとは思う。
どれだけ優秀な新人であれ。
不安になる。
頭の固い、極めて凡人的な考えかもしれないが。
「ただ……コイツの場合、何か妙に悟ってるっつうか、熟してるっつうか。とっとと合格をくれてやった方がいい気もすんだよ。既成概念に囚われた指導は、逆効果っつうかな」
理屈や感情と直感の差が大きいのか、躊躇うような素振りを見せるシニッドさん。
迷いの理由と言えば、一つはそれこそ固定観念。
何よりも大きいのは、アロン兄さんが行方不明になった事件だろう。
慎重になるのも理解できなくはない。
加えて、兄さんへの罪悪感もあって俺をしっかり指導してやろうと決心したにもかかわらず、こんなにも早く一人前と認めるのは不誠実だとも感じているのかもしれない。
実態はともかく、放り出すようで。
とは言え、所詮合格不合格など名目上の話でしかない。
重要なのは、今後実際にどのように行動するかだろう。
「今日かいずれの日にか合格を頂いたとしても、可能であればシニッドさんにはアドバイスを、時によっては手助けを頂きたいのですが」
救世という使命を果たす上でも、彼のような実力者との繋がりは大事にすべきだ。
「…………まあ、たとえ新人研修を終わらせても、別にサポートしてやることはできるか」
そんな俺の言葉に、シニッドさんは自分を納得させるように呟く。
感情の落としどころとしては、妥当なところだったようだ。
「イサク。自分の弱点は把握してるな」
「はい」
「冷静に相手の特性を見極め、無茶はするな。ヤバそうなら必ず俺や誰かを頼れ。安全無事に補導することは、自分のためだけじゃなく少女化魔物のためにもなるんだからな」
「はい。肝に銘じます」
「なら……たった一日だけの仮身分証だったが、卒業だ。今後は俺も正式な補導員として扱わせて貰う。だが、先輩として口出しはするからな。鬱陶しいと思われようとな」
「いえ。是非、お願いします」
「……やっぱり調子が狂うな。アロンの時より妙に気疲れするぜ」
シニッドさんは本当に疲れたように嘆息しながら、そわそわしているルトアさんを見た。
「ともかく、そう言う訳だ」
「はい! イサク様、少々お待ち下さい! 正式な身分証を作りますので!」
と、彼女は待ってましたと言うように、意気揚々と受付の内側に駆け込んでいった。
しばらく慌ただしく作業をし、新しい名刺ぐらいのプレートを手に戻ってくる。
「これがA級補導員の身分証です!!」
俺はルトアさんが差し出してきたそれを受け取り、両面を確認した。
仮の身分証よりもしっかりと作られているようで、A級補導員という文字や俺の名前と共にホウゲツ学園の学園章も彫り込まれている。
それらを囲むように凝った意匠も施されており、正式版であることを強く感じさせる。
この世界において一つの社会的地位を確立できた実感が湧き、少し気分が高揚する。
「イサク様! これからのご活躍、心からお祈り致します!!」
ルトアさんはそう続けながら眩しい笑顔を向けてくれる。
営業スマイル感のない彼女自身も嬉しそうな表情。
他意のない純粋な期待が感じられ、やる気が出てくる。
嘱託補導員事務局の受付嬢は彼女の天職かもしれない。
「あ、そうだ。トリリス様からご伝言があったんでした」
ちょっと間を置き、それから忘れてたとばかりにポンと手を叩くルトアさん。
これに関してはちょっとばかし演技っぽいが、そこはご愛嬌ということにしておこう。
それより、あの自発的トラブルメーカーとでも言うべき学園長様の話だ。
心して聞かなければ、どんな災難が舞い込んでくるか分からない。
「ええと……伝言、ですか?」
「はい。五日後に学園長室に来て欲しいとのことでした」
警戒しながら問うと、伝えられたのは普通の内容。
その普通さがむしろ不審な気持ちを余計に強くさせるが……。
「恐らく面会の用意ができたのでしょう」
イリュファに影の中から言われ、納得する。
早くて一週間と言っていたが、丁度一週間。
スケジュールの都合がついたようだ。
面会の相手は、少女祭祀国家のトップと言って過言ではない奉献の巫女ヒメ様。
お忍びと言っていたが、そんな立場の人間ならば時間を作るのも一苦労だろう。
各所との調整は必要不可欠だ。
恐らく一週間というのは異例中の異例の早さに違いない。
「何のことだか知らねえが、あの学園長の用事だ。碌なことじゃねえだろう」
一連の話を聞いて、事情を知らないシニッドさんは同情気味に言う。
まあ、緊張はするが、さすがに国のトップ。
トリリス様のような変な性格ではないはずだ。きっと。
「ま、今日のところは飯でも食いに行こうぜ。正式にホウゲツ学園の嘱託補導員になった祝いだ。俺が奢ってやる」
「本当ですか? ありがとうございます」
いずれにしても五日後のこと。
今から変に気を揉んでいても仕方がない。
今日はシニッドさんの厚意に甘えて、遠慮せずに御馳走になるとしよう。
0
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる