上 下
49 / 396
幕間 0→1

044 好きな人を好きな人

しおりを挟む
 村に戻ってすぐ、父さんは事後処理のために再び村を離れた。
 そのため、サユキと真性少女契約ロリータコントラクトを結んで村の掟を達成した俺の今後については、諸々落ち着いてからということになっている。
 まあ、後二ヶ月あるし、それまでにじっくり考えて決めればいいだろう。

 事態が収束したその日、そんなような話を母さんやイリュファと軽くした後、俺は酷い眠気に襲われて夕食も取らずに布団に直行した。
 サユキが自分を取り戻した段階で凍結した左手も元に戻り、最終的な被害はないと言っていいはずだが、やはり消耗は激しかったらしい。
 既に帰路で寝入ってそのままなサユキを、目を覚ました時に不安を抱かないように隣に寝かせてから目を閉じるとすぐに眠りに落ちてしまった。

 それが昨日。
 そして今は翌日の午前中。

「イサク、イサク」

 俺は、先に起きていたらしいサユキに揺すられて目を覚ました。

「ん。サユキか……おはよう」
「おはよ、イサク」

 嬉しそうに言って抱き着いてくるサユキ。
 頬と頬が触れ合い、更に彼女は擦り擦りしてくる。
 ちょっとひんやりしていて眠気が飛ぶ。
 ちょっと恥ずかしい状況の相乗効果で、覚醒作用は更に倍という感じだ。

「あ、貴方ね。もう少し慎みを持ちなさいよ」

 と、フェリトが影の中から出てきながら、ほんのり頬を紅潮させて言う。
 実のところ彼女の寝床は俺の影の中だ。
 元はと言えば、人間不信が災いして俺の両親と顔を合わせることすらできなかった頃。
 一度はイリュファやリクルのように個室を用意しようとしたが、影から出てこなかったため、そのまま彼女の寝床になってしまっている。

「イサクが寝てる時も頬っぺた突いたり、抱き着いたりして」

 サユキ、そんなことしてたのか。よく起きなかったな、俺。
 昨日の戦いでよっぽど疲れてたみたいだ。

「サユキはイサクのことが好きだし、イサクもサユキのことが好きだからいいの!」

 そんなフェリトの指摘に、サユキは小さな胸を張って言う。
 微妙にずれた返答のような気もするが、絶対の自信と共に恥ずかしげもなく断言されると、フェリトも二の句が継げないようだ。

「…………イサク、こんなこと言ってるけどいいの?」

 少しして絞り出すように問いかけてくるフェリト。
 暗に俺に助力を求めているのがありありと分かる。
 だが……正直な話、そもそも俺はそこまでサユキの行動を問題視していない。
 理由はサユキが語った通りだ。

「まあ、別にそれぐらいならいいんじゃないか。痛かったりするのは勘弁だけど。何ならフェリトもやっていいぞ」
「へ!? な、何言ってるのよ。わ、私はそんな……」

 少しからかうように俺が言うと、フェリトは顔を真っ赤にして顔を背けてしまった。
 そんな彼女をサユキが興味深げに見つめる。

「……あなた、名前は?」

 それから何だか楽しそうにそう尋ね始めた。

「フェリトよ。貴方は確か、サユキ、だったわね」
「うん。イサクがつけてくれた名前だよ」

 サユキはそう自慢げに言いながら、フェリトに近づくと彼女の手を取った。

「な、何?」

 人間不信の影響で人見知り気味の彼女は突然のことに驚きつつ、しかし、生来の人のよさのために振り払うこともできずに困ったようにサユキに問いかける。

「イサクのことが好きな人は、お友達だから」
「ちょっ、好きって――」
「違うの?」

 フェリトが慌てて否定しようとした気配を感じ取ってか、微妙に首を傾げるサユキ。

「違……わないけど。その、命の恩人だし。でも、好きの意味が、まだそんな……」

 対して、ごにょごにょと言い訳染みたことをフェリトは口にし始める。

「イサク。フェリトちゃんって素直になれない人?」
「サユキ。本当のことでも相手のために触れない方がいいこともあるんだぞ」
「そっか。分かった!」
「あ、貴方達ねえ」

 多分サユキは本気っぽいが、俺がからかっていることには気づいたらしく、フェリトが半分怒ったような振りをして唇を尖らせる。
 毒を以て毒を制すではないが、羞恥心の丁度いい誤魔化しにはなっただろう。

「はあ。もう。まあいいわ。それより、友達だってなら率直に聞くけど、真性少女契約なんて結んでよかったの? イサクが死ねば貴方も死ぬのよ?」

 フェリトは一つ嘆息してから問うが、サユキは何故そんなことを聞かれているのか分からないという風に首を傾げた。

「貴方は結ばないの?」

 それからフェリトの質問の意味を理解し、しかし、その答えが纏まる前に先んじて生じてしまったらしい純粋な疑問を口にするサユキ。
 表情である程度心の動きが分からないと、ただ単に問いに問いで返す形だ。

「繰り返すけど、相手が死ねば自分も死ぬのよ? おいそれと結べる訳ないじゃない」
「だって、イサクがいない世界に意味なんてないもん」

 重大な欠点として言うフェリトと、あっけらかんと断言するサユキ。
 対して愕然として口を噤むフェリトと、その反応が理解できず小首を傾げるサユキ。
 まあ、ここは少しフォローすべきだろう。

「……サユキは元々雪妖精スノーフェアリーだったからな。何の手違いか、雪女に変質してから少女化魔物ロリータになったみたいだけど」

 あるいは俺が、幼女の形をした雪妖精が成長することができたら雪女みたいになるのかなあ、とか想像していたのが影響したのかもしれない。

「雪妖精って……ああ」

 するとフェリトは少し納得したように頷いた。
 出会う子供に依存したような関係性と結末。
 そこから更に逸脱して少女化魔物にまでなったことを考慮に入れて。
 俺に依存気味、と言うか完全に依存しているサユキの様子に合点がいったようだ。

「正直健全とは思えないけど……まあ、ある意味真性少女契約を結ぶってことは、多かれ少なかれそういうことなのかもしれないわね」

 それから一定の理解を示すフェリト。
 依存と言うと聞こえが悪いが、収まりがいい形がそれならば別に悪いことでもないだろう。変に形を崩して周りに致命的な被害が出るならば、むしろ矯正しようとする方が悪にもなりかねない。

「でも、そういうことなら、イサクの周りに少女化魔物の女の子がたくさんいるのは嫌なんじゃないの? 私とかイリュファとかリクルとか」

 俺を主な原因として暴走して回っていたところだけを切り取ると、独占欲が強く、そのままヤンデレ化していきそうに見えなくもない。
 だからか、フェリトは恐る恐るという感じで尋ねた。
 すると、サユキはキョトンとした様子で口を開く。

「何で? イサクのことが好きな人なら、サユキは好きになれるよ?」

 そして本心からと分かる無邪気な声色と共に告げられた返答を前に、フェリトは一瞬驚いたように目を見開き、それから呆れたように苦笑した。

「依存もここまで極まると立派なものね」

 少し硬くなっていた彼女の雰囲気が柔らかくなる。

「イサクのことが好きな人はお友達、か。正にその通りなのね。貴方にとっては」

 真っ先にサユキ自身が口にしていたこと。
 それも加えて諸々納得したようにフェリトは笑う。
 あるいは、雪妖精として友達を求める性質も残っているのかもしれない。
 いずれにしても、サユキがどういう性格の女の子か、彼女も十分理解できたようだ。

「まあ、私の好きの意味合いはともかくとして……そういうことなら私は確かに貴方の友達ね。きっと、相当長いつき合いになると思うわ。よろしく、サユキ」
「うん。フェリトちゃん!」

 今度はフェリトの方から差し出した手。
 それをサユキは心底嬉しそうに握り、対してフェリトもまた小さく微笑んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語

京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。 なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。 要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。 <ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

処理中です...