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※流血シーンがあります。苦手な方はお控え下さい。
「ふざけるなっ!アリスを離せぇっ!」
「ハハッいいぞ、そうでなくてはこちらもやり甲斐がないからなァ」
俺は腰に携えた聖なる大剣を引き抜く。
……ん?なんだ?前よりも重く感じるぞ。それに何だか鈍っているようにも見える。
やはり前線からしばらく離れていたから体が鈍っているのかも知れない。
改めて剣を握り直す。
魔王は俺が刺した心臓部分を指でトントンと叩いてみせた。
「よく狙え?ここだぞ?」
「っ!馬鹿にしやがってぇ……っ!」
力いっぱい地面を踏み込み、しっかりと支えた剣は真っ直ぐその心臓を射抜く。
魔王は一切抵抗せずに攻撃を受けた。だが戦場ではその余裕が命取りなんだ!
「はぁ、はぁ、」
「……もう終わりか?」
「!!!」
剣を突き立てたままの俺に、魔王のため息混じりの声が聞こえた。
「なっ……う、嘘だ…、」
顔を上げればニヤリと笑った魔王と目が合う。
奴の体は……砕けていない。
一度目のときは確かに攻撃は効いていた、だが今は……何でこんなにも余裕なんだよっ!
「ハァ……がっかりだな」
「っ?!」
「迷わず心臓を狙う心意気は悪くない。だが圧倒的に力が弱すぎる。魔力が乗っていないお前の攻撃なんて赤子に殴られた程度だ」
そう言って魔王は淡々と語る。
「そもそもお前はお嬢さんに生かされていたんだ。彼女の魔力を受け入れるだけの器のくせに調子に乗って、自分が優れていると錯覚した。周りのせい?違う、お前のような人間はいつまで経っても自分の無能さには気付けないものだ」
「さ、さっきから何を……」
「不愉快だ、お前のような底辺がお嬢さんを一度でもモノにするなんて。息をしていることすら許せない」
「あがぁっ!!」
魔王は剣が刺さったまま俺の顔を鷲掴みにしそのまま持ち上げる。
顔がミシミシと軋む。頬骨にビビが入るほど力強く、息をすることも難しい。
「はぐっ…っぁ、ぅっ……っ!」
「ではこの剣はお返ししよう」
そう言ってもう片方の手で自分に刺さった大剣を抜く。ズリュッと生々しい音が聞こえる。
「な、にを………ぁぁがぁあっ!」
魔王はその大剣をゆっくりと俺の横っ腹へと突き刺した。
「ぁぁあぁああぁっっ!!!」
痛い痛いいたい痛いいたい痛いいたいいたいっ!
まるで体が焼かれているみたいだ。腹だけじゃない……全身の神経がしびれて悲鳴しか出てこない!
ドサッと床に落とされれば、自分の体を真っ赤な血が染み渡って広がる。
虚ろな顔をゆっくり上げれば、視線の先にはガタガタと怯えるアリスがいた。
「ぁ……ほ、りっく…」
「ぅぁ、はぁ……」
逃げろ。
そう言いたいのに声が出ない。刺された箇所を手で押さえ訴えるが血が止まらない。くそっ!くそっ!何とかしてアリスだけでも……!
「おい、聖女」
「ぁっ」
「アイツを治せ」
魔王は興味がなさそうに言い捨てる。
治す?それはアリスの回復魔法のことなのか?いや、そもそも俺を殺したくて刺したんだろ?何でそんなことをさせるんだ?!
案の定、アリスも訳が分からず目に涙を溜めながら魔王と俺を交互に見つめていた。
「早くしろ、じゃないと死ぬぞ」
「ぁっ……っ!」
アリスはハッとしたように俺に駆け寄る。
刺された箇所に両手を当てると、彼女の手に白い光が集まっていった。
回復魔法を施すアリスは、辛そうにハァハァと呼吸を繰り返し泣きながら俺を見下ろす。
「ごめっ、ごめんなさいホリック……待ってて、すぐに治すからねっ?!」
「ぁ………」
患部がじんわり温かくなる。
必死に俺を治そうとする彼女にまた愛おしさが強まる。今度こそ、今度こそあいつを……魔王を、俺は………
「素晴らしい、お前たちの愛に感動したぞ」
「っ……!」
「安心しろ。お前が回復するまで何度だって待ってやるよォ」
「な、何度でも……?」
アリスが恐る恐る聞けば、魔王は大きな欠伸を見せつけるようにする。
「ああ。それまで魔物どもは城壁付近で遊ばせといてやる。他の人間が入ってこれないように結界も張ってやる。ここでは俺とお前たち、決着が着くまで遊び続けよう」
決着が着くまで。
つまりは俺が魔王を倒すまで。
それまで続くのか……?
この痛みも、惨めな思いも、アリスの回復魔法もずっと?
そしてようやく理解した。
魔王は俺たちを簡単には楽にさせないんだ。あいつの気が済むまでずっと遊ばれ続ける……それを受け入れるしかないのか?
これが、魔王ロキの本当の恐ろしさなのか。
「ふざけるなっ!アリスを離せぇっ!」
「ハハッいいぞ、そうでなくてはこちらもやり甲斐がないからなァ」
俺は腰に携えた聖なる大剣を引き抜く。
……ん?なんだ?前よりも重く感じるぞ。それに何だか鈍っているようにも見える。
やはり前線からしばらく離れていたから体が鈍っているのかも知れない。
改めて剣を握り直す。
魔王は俺が刺した心臓部分を指でトントンと叩いてみせた。
「よく狙え?ここだぞ?」
「っ!馬鹿にしやがってぇ……っ!」
力いっぱい地面を踏み込み、しっかりと支えた剣は真っ直ぐその心臓を射抜く。
魔王は一切抵抗せずに攻撃を受けた。だが戦場ではその余裕が命取りなんだ!
「はぁ、はぁ、」
「……もう終わりか?」
「!!!」
剣を突き立てたままの俺に、魔王のため息混じりの声が聞こえた。
「なっ……う、嘘だ…、」
顔を上げればニヤリと笑った魔王と目が合う。
奴の体は……砕けていない。
一度目のときは確かに攻撃は効いていた、だが今は……何でこんなにも余裕なんだよっ!
「ハァ……がっかりだな」
「っ?!」
「迷わず心臓を狙う心意気は悪くない。だが圧倒的に力が弱すぎる。魔力が乗っていないお前の攻撃なんて赤子に殴られた程度だ」
そう言って魔王は淡々と語る。
「そもそもお前はお嬢さんに生かされていたんだ。彼女の魔力を受け入れるだけの器のくせに調子に乗って、自分が優れていると錯覚した。周りのせい?違う、お前のような人間はいつまで経っても自分の無能さには気付けないものだ」
「さ、さっきから何を……」
「不愉快だ、お前のような底辺がお嬢さんを一度でもモノにするなんて。息をしていることすら許せない」
「あがぁっ!!」
魔王は剣が刺さったまま俺の顔を鷲掴みにしそのまま持ち上げる。
顔がミシミシと軋む。頬骨にビビが入るほど力強く、息をすることも難しい。
「はぐっ…っぁ、ぅっ……っ!」
「ではこの剣はお返ししよう」
そう言ってもう片方の手で自分に刺さった大剣を抜く。ズリュッと生々しい音が聞こえる。
「な、にを………ぁぁがぁあっ!」
魔王はその大剣をゆっくりと俺の横っ腹へと突き刺した。
「ぁぁあぁああぁっっ!!!」
痛い痛いいたい痛いいたい痛いいたいいたいっ!
まるで体が焼かれているみたいだ。腹だけじゃない……全身の神経がしびれて悲鳴しか出てこない!
ドサッと床に落とされれば、自分の体を真っ赤な血が染み渡って広がる。
虚ろな顔をゆっくり上げれば、視線の先にはガタガタと怯えるアリスがいた。
「ぁ……ほ、りっく…」
「ぅぁ、はぁ……」
逃げろ。
そう言いたいのに声が出ない。刺された箇所を手で押さえ訴えるが血が止まらない。くそっ!くそっ!何とかしてアリスだけでも……!
「おい、聖女」
「ぁっ」
「アイツを治せ」
魔王は興味がなさそうに言い捨てる。
治す?それはアリスの回復魔法のことなのか?いや、そもそも俺を殺したくて刺したんだろ?何でそんなことをさせるんだ?!
案の定、アリスも訳が分からず目に涙を溜めながら魔王と俺を交互に見つめていた。
「早くしろ、じゃないと死ぬぞ」
「ぁっ……っ!」
アリスはハッとしたように俺に駆け寄る。
刺された箇所に両手を当てると、彼女の手に白い光が集まっていった。
回復魔法を施すアリスは、辛そうにハァハァと呼吸を繰り返し泣きながら俺を見下ろす。
「ごめっ、ごめんなさいホリック……待ってて、すぐに治すからねっ?!」
「ぁ………」
患部がじんわり温かくなる。
必死に俺を治そうとする彼女にまた愛おしさが強まる。今度こそ、今度こそあいつを……魔王を、俺は………
「素晴らしい、お前たちの愛に感動したぞ」
「っ……!」
「安心しろ。お前が回復するまで何度だって待ってやるよォ」
「な、何度でも……?」
アリスが恐る恐る聞けば、魔王は大きな欠伸を見せつけるようにする。
「ああ。それまで魔物どもは城壁付近で遊ばせといてやる。他の人間が入ってこれないように結界も張ってやる。ここでは俺とお前たち、決着が着くまで遊び続けよう」
決着が着くまで。
つまりは俺が魔王を倒すまで。
それまで続くのか……?
この痛みも、惨めな思いも、アリスの回復魔法もずっと?
そしてようやく理解した。
魔王は俺たちを簡単には楽にさせないんだ。あいつの気が済むまでずっと遊ばれ続ける……それを受け入れるしかないのか?
これが、魔王ロキの本当の恐ろしさなのか。
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