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「それでわざわざ私を訪ねて来たという訳ですか」
「うぅ……こんなことエリザベスさんにしか相談できないわ」

決意を固めた私はエマーソン家の屋敷にやって来た。

(とりあえず何とかしようと思ってみたものの、どうアシュレイ様をその気にさせたらわからないんだもの)

今まで私はずっとアシュレイ様にリードされてきた。ここに来て自分からアプローチをかけるなんて少し……いやかなり難易度が高い。
そんな時ふと親友の顔を思い出したのだ。

「お願い、何か方法があるなら教えて!」
「もぉ……」

そう言ってエリザベスさんは困りながらも微笑む。

「まず、グラシャさんたちはお会いする時はいつもどのような感じなのですか?毎日お屋敷には出向いているのでしょう?」
「え?えっーと……アシュレイ様が学校を終えるまでお屋敷で待って、戻られたら一緒にお茶をしたり街へ散策に行ったり、あっ!たまにお義母様たちと一緒に夕食をご馳走になったり」
「なるほどなるほど」
「それから少しお話して、でも遅くならないうちに馬車で送り届けて下さって」

思い出すだけで頬が緩んでしまう。
アシュレイ様は紳士だ、遅くなれば私の両親が心配するからと門限までには必ず送り届けてくれる。そういう気遣いの一つ一つが大事にされている証拠みたいで気恥ずかしい。でも、そんな私とは対照的にエリザベスさんの表情は固く曇っていた。

「?何か変かしら」
「ちなみに二人きりになる時って?」
「二人きりって…………あ、あれ?」

最近二人きりになったのはいつだ?
屋敷には常に世話役の侍女が付いてくるし、デートで訪れる場所はどこも人がいるカフェや美術館、ショッピング、食事も必ず義両親が同席しているから……。

「……パーティー以来、二人きりになってないわ」
「ハァ、間違いなく原因はそれですわね」

大きなため息をつかれ私はサァっと血の気が引いていく。そうよ、そもそも他の誰かが側にいれば私やアシュレイ様のことだから絶対に適切な距離を保つはず。かと言って、わざわざ人払いをしてまでいちゃいちゃしたい訳でもないし。

(お互いの気遣いが仇となったんだわ)

「まぁご卒業までわずかですし、正式に夫婦となればそんなの大きな問題ではありませんが」
「そ、そうかしら」
「……スプラウト様の性格上、結婚してもすぐには手を出しそうにないですけどね」

エリザベスさんの言葉が確信すぎて辛い。

「アシュレイ様はいつも私を気遣って下さるから……そ、その、」
「初夜もお預けなさるかもですね」
「っ!そ、そんなはっきり言わなくても!」

恥ずかしさのあまり両手で顔を押さえた。

「でも可能性はゼロじゃありませんわ。そんなことがあれば大切にされているどころか、逆に妻として、女としてのプライドがズタズタです!」
「……おっしゃる通りですわ」
「幸せな新婚生活に向けて、まずはお互いの距離感をグッと縮めておきましょう!」

立ち上がりそう宣言するエリザベスさんが頼もしすぎるわ。

「私はどうしたら良いのかしら。アシュレイ様が少しでも触れたいと思える女性になれれば良いのだけど……」
「無理に性格や容姿をいじる必要はありません。まずはそのお気持ちをしっかりお伝えすることが大事なのです」
「気持ちを、伝える?」
「ええ。例えば」

そう言ってエリザベスさんは立ち上がり、私の首に腕を回してギュッと抱きついてきた。

「え、え、エリザベスさんっ?!」
「好きです」
「へっ?!」
「私はもっとグラシャさんのことが知りたいのです……どうかあなたも、私に触れて?」
「なっ!」

至近距離で見つめられ、甘い言葉を囁くエリザベスさんに同性だけどドキドキしてしまう。密着しているからか、私の鼓動もエリザベスさんの鼓動もうるさいくらいに聞こえた。

「ね?伝わったでしょう?」
「す、すごく」
「好きな女に言い寄られて嫌な男はおりません。大胆に、そして照れを捨てて挑みましょう!」

にこっと微笑むエリザベスさん。それを聞いて自分の中のモヤモヤがちょっとだけ晴れた気がする。

「エリザベスさん、本当にありがとう。私頑張ってみるわ!」
「その意気ですわ!」


「ところで君たちは一体何してるんだい?」


バッと振り返れば怪訝そうな顔で私たちを見つめるミハエル様。そして今、私たちは熱い抱擁をしている真っ最中で……。

「「お、おかえりなさいませ」」
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