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第一章

ノヴァシティ

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ノヴァシティ。そこはかつてエルメリアの都市で物語の主要な舞台となる世界、魔法と神秘的な存在が存在していた。この世界では、人々は魔法の力を持ち、様々な種族が共存している。しかし、魔法の力を巡る争いや闇の勢力の影響により、世界は危機に瀕してた。あの頃の街は今のように活気はなく、空虚感に支配されていたのだ。街の人々は日々の生活に追われるばかりで希望を失っていた。そして闇の存在は人々を絶望へと導いていた。そんな時代に生まれた一人の青年がいた。
 

西暦2020年3月1日(土曜日)午前8時半頃―― ここはとある病院の一室。ベッドの上に、横になっている人物がいる。彼は意識不明の状態が続いていた。顔色が悪く呼吸も荒い状態が続いているようだ。医師たちは懸命の治療を続けていたのだが効果はなかったらしい。どうすればいいのか分からず途方に暮れているようであった。この少年の年齢は10歳ぐらい。身長157cm体重50kgの細身の少年だ。容姿端麗という言葉がよく似合うような美男子である。病室の窓から差し込んでくる光が彼を照らしていた。とても幻想的に見える光景でもあったのだ。しかし現実は非情なものでもある。彼の容態はあまりよくないようである。このままでは助からないだろうと思われ、もうすぐ死ぬだろうと思われた。そんな時に一人の人物が部屋に入って来た。白衣を着た女性だった。彼女は医者ではないようである。看護師でもない感じなのだ。一体何者なのか? そしてなぜここにやって来たのだろうか? 

 
8年後経つと青年は、東郷秀隆が設立した神薙機関の事務所に勤務していた。彼は神薙機関のメンバーで、優秀な人材であり、組織内でも一目置かれるような存在となっていた。彼は自分の能力を生かすため、特殊任務に従事していた。彼はある任務に就いていた。

それは、謎の組織がノヴァシティに出現しており、謎の技術やアイテムをばらまいているという情報が入ったのでそれを調査し、場合によっては破壊するという任務である。
彼らは到着するなり、早速行動を開始し始めた。異常を確認するだけの単純作業で、彼らは手際良く作業をこなしていった。その様子を見てた後輩は安心した。
「神薙隊長。これで任務完了ですね」
「ああ、そうだな。後は帰還報告をして終わりかな?」
神薙と呼ばれた人物はそう答えた。彼は神薙空という人物である。年齢25歳の青年。身長172cm。体重62kg。黒髪で、少し青く照らされている。瞳は青色。整った顔をしていて、一見すると優男風な印象を受けるが、実際はかなり鍛えられた肉体の持ち主。性格はかなり真面目な方。エージェント支給のジャケットを羽織てるが、工場の作業員にも見えなくもない。
彼たちの現場から作業までのあらゆる仕事を完璧にこなして、通常の2時間を経ったの10分で終わらせる。そして、帰還報告をして、書類を提出すれば任務は終了。その時だった。突然、爆発音が聞こえてきた。何事かと思い、空たちは急いで音の鳴った方向に向かった。
 そこの細い道で一般人が倒れていた。どうやら気絶しているようだ。空はすぐに駆け寄って声をかけた。「大丈夫ですか!? しっかりしてください!」返事がない。背中に刃物のような傷跡が数ヶ所発見した。
「ベータ144か!?」
隣りにいる若いエージェントがそう言った。確かに、この攻撃の仕方はベータ44のものだ。だが、なぜここにいるのか分からない。すると、今度は銃の発砲音と悲鳴が響いた。 一体、ここで何が起きてるんだ。
状況が把握せず、空は困惑した。
すると、その目の前に、コツっとハイヒールを2つ鳴らす音と共に、一人の女性が姿を現した。
二人はこの光景に唖然としていた。
「だ、誰だ?」
空は思わず声を上げた。
そこに現れたのは、黒ハットとドレスに身を包み、右左の手には銃剣付きの銃を持った少女だった。
彼女は顔を上げると二人を見て顔を90度に傾け不敵に笑った。
その動きと表情に二人は思わずたじろいだ。
「あら? こんなところに人がいるとは珍しい」
少女はそう言うと、二人の方へ歩み寄ってきた。
そして、右手の拳銃をくるくると回しながら一歩一歩、近づく。
「尖鋭なる一発の銃弾が、その凄哉たる力を以て人々に慰めを与えんとす」
「銃弾一発?そんなもので何ができるっていうんだ?」「それは見てのお楽しみ」
少女は微笑みながら、銃口を二人に向けた。「では、ご覧あれ」少女は引き金を引いた。乾いた音が響き渡ると同時に、一人の男の頭は吹き飛んだ。血飛沫が飛び散り、男は倒れた。「お粗末様」
「発泡許可開始!!」
空は叫んだ。少女の発砲を皮切りに、銃撃戦が始まった。
空は、目の前の少女が放った銃弾を避けた。反撃して発泡すると、柔軟な身体でダンスをするように避けて、少女は笑った。
「あははっ! すごいね!」
少女の裏返った笑い声は人を遊ぶかのように好奇心を擽っていた。空は、彼女の動きに驚いた。
「くっ! 何故当たらない!?」空は、少女の銃撃を避けるのに必死だった。
空は、銃を撃つのを止め、少女に向かって走り出した。
空の接近に気づき、素早く後ろに下がる。
少女に近づこうとしたその時、銃を発泡すると空の左手を負傷してしまった。苦痛ながら右手の拳銃を向けると、彼女は空の拳銃を蹴り飛ばした。
空は、彼女の隙を見て、左手の拳を殴りつけた。だが、彼女は空の拳を受け止めた。腹に膝蹴りをされ、空は痛みに耐えながら、もう一度、少女を殴ろうとした。が、少女は空の顔面に蹴りを入れると、空は、吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
起き上がろうとするが、力が入らない。
すると、少女が空の頭を踏みつけてきた。
「漆黒の幕に身を委ねよ。安寧に憩えり」
そう言うと、後頭部に銃口を向けた。
空は抵抗しようとしたが、体が動かない。死を覚悟した。だがその時、彼女は懐中時計を取り出した。そして時間を確認しすると、あっ!? っと驚き、その場から急いで立ち去った。
背を向く姿にまだこの人の名前を知らない。
「待て!」
そう叫ぶと、彼女は振り向いた。
「何? まだ死にたいの?」
空は、彼女に問いかけた。
「戦う力はある。だが、一つ君名前を教えてくれないか?」
 空は、彼女に質問した。すると彼女は、向きを戻すと、
「エリザベス・シルフィー」
彼女はそう名乗って立ち去った。エリザベス・シルフィーと耳に覚えた時、恐怖が心を覆い尽くした。
震える足で立ち上がるが、すぐに力が抜けて座り込んでしまう。
この少女は危険だと、本能から警告している。
だが、このままではいけない。戦わなければ殺される。歯を食いしばりながら、必死に立ち上がった。
丁度応援に駆けつけた隊員の一人が空に駆け寄った。
 「おい! 大丈夫か!?」
 すると、空は首を横に振って、「平気だ」と答えた。
 だが、空が倒れそうになったところを、駆け付けたもう一人の男が受け止めた。
「一体何がどうなっているんだ?」彼を支える男は言った。空は少し間を開けて口を開く。
「アウレリアの奴がいきなり現れて、俺を殺そうとしてきた」空は答えた。すると、その男は驚いた顔を浮かべた。
空は男にお礼を言ってから、立ち上がって辺りを見渡した。
そこには、血を流して倒れていたはずの隊員たちがいた。だが、彼らは生きている。全員無事だったのだ。空は安堵した。が、安心はできない。まだ敵がいるからだ。
彼は走り出した。すると、先程空を助けた男が叫んだ。「隊長! どこに行くんですか?」
空は振り返らず、そのまま走って行った。

その頃、金髪少女は空を探して、ノヴァシティの中を歩いていた。すると、誰かに危ないよっと声が聞こえたので振り向くと、そこに50代の男性を見かけたので、彼女に話しかけた。
「お嬢ちゃんそこは危険だよ。 お家に帰りなさい」男性はそう言って、両手をバツ印にして首を横に振りながら危険だと合図をした。彼女は笑顔を浮かべだけど、恐怖の表情を浮かべた。なぜなら、男性の後ろには、ペットサイズのベータ144の化け物がいたからだ。だが、男性の方は、ベータに気付かなかった。
彼女は恐ろしくなって、その場から離れようとした。だが、男性が追いかけて彼女の腕を掴んで逃げられないようにしたのだ。
すると、ベータが男性に飛びかかってきた。彼女は思わず悲鳴を上げた。男性の頭にかぶりついて、肉を喰らおうとしている。男性は叫ぼうとしたが、声が出せなかった。彼女は必死に抵抗したが、何もできなかった。やがて、男性は動かなくなり彼女の目の前には、血まみれになった男性の頭があった。彼女はすぐ、インナーパワーを解放し、手をかざして男性ごと圧力で押し潰そうとしたが、ベータはそれを察知するとすぐに逃げ出した。彼女は悔しそうな顔をしていた。
この世界では、人々はインナーパワーと呼ばれる力を持っている。いわゆる覚醒能力というものだ。彼女の能力なら、小さいベータでも跡形もなく消し去ることができただろう。だが、今回ばかりはそうはいかなかった。
ベータは察知して逃げて、男性を破壊してしまったが、アルファは彼女を襲わなかった。彼女は安堵したが、目の前にベータの親分がいることに気付いた。それは、巨大な蛇のような怪物で全長は10メートル近くあり、体表は黒に近い紫色をしている。
そして、頭部からは2本の角が生えていた。おそらく、これがベータの本当の姿なのだろうと、彼女は思った。ベータの親分の目が赤く光った次の瞬間、彼女に向かって突進してきた。彼女は慌てて驚くが、なんとか避けることができた。だが、ベータの親分に攻撃された建物は崩れ落ち、瓦礫が地面に散らばっていた。
彼女はベータの親分に飛び上がり、拳を振り下ろしたが、ベータの親分からすれば、ハエのようなものだった。ベータの親分は尻尾を使って、彼女を弾き飛ばした。彼女の体は宙に浮き、地面へと叩きつけられた。
それでもなお、彼女は立ち上がったが、全身に痛みを感じて動けなかった。そんな彼女に、ベータの親分は再び襲いかかってきた。その時だった。
足音と共に、誰かの声が聞こえてきた。
「居たぞ! 武装解除を許可する、攻撃しろ!!」
武装した男たちが銃を構えて巨大な蛇に向かって発砲する。銃弾を受けた大蛇は悲痛な叫びを上げ、暴れまわってるが、倒れる様子はない。それどころかますます怒り狂っているように見える。
空は辿り着くと発泡許可を止めるように言った。
「武装止め!! 全員、銃を降ろせ!!」
すると、発砲していた者たちは一斉に動きを止めて空の方を見た。そして、40代らしき男が話しかけた。
「何故武装停止した?お前は一体何を考えている?」男はそう言いながら、空に問いかけると答え始めた。
「9mmNATO弾じゃあ、この装甲を貫くことはできない。この怪物を倒すにはこの弾丸を使うんだ」
説明し終わると拳銃のマガジンを取り出し、弾丸だけ抜くと手のひらを見せた。先端は赤、緑、青の三色に光っており、まるで宝石のようである。それを見ていた男達はざわめきだした。
空はマガジンを装填して、チャンバー内の薬室に特殊な弾丸を送り込んだ。そして、銃を構えて化け物に目掛けて引き金を引いた。すると、銃弾は発射され、化け物の腹を命中すると大穴を空けた。甲高い声でもがくと血を流しながら倒れた。
空の撃った弾は対物ライフル並の特殊弾頭であり、威力はアルミニウム3枚貫通するよりも遥かに高いものであった。この特殊な弾薬を使用する理由は敵の装甲を貫くためである。
通常であれば、このような大型の銃器を使用すれば反動により、使用者の身体に大きな負担がかかる。そのため、使用するには専用の訓練が必要となり、素人の人間では扱うことができない。
だが、この特殊な弾丸は使用時に発生する衝撃を吸収できる素材で作られており、反動試験ではクリアしている。
ただし、この弾丸は特殊な加工が施されており、一度使うと数十万の金額になる。つまり、一発限りの切り札であり、この特別な弾丸を使用して敵を倒せるのは一回だけだ。さらに、特殊な技術を使用しているため、量産化が難しいのだ。
「手応えはあった。だが、まだ生きているかもしれない」空はそう言うと、すぐに次の行動に移った。彼は腰につけていたポーチから手榴弾を取り出すとピンを抜いて、化け物に投げ込んだ。手榴弾は空中で爆発すると、大量の煙を発生させた。空は煙の中に入ると、敵の位置を確認しようとした。しかし、煙のせいで視界が悪く、どこにいるのか分からなかった。だが、怪物は生きていて、こちらに向かってきていることだけは分かった。空は拳銃を構えて、引き金を引いた。銃声が鳴り響き、銃弾が発射された。しかし、銃弾は敵に当たらなかった。空は舌打ちをした。そして、再び引き金を引こうとしたが、その前に敵が攻撃してきた。その瞬間、横からアリスが出てきて、蹴り飛ばすと大蛇は吹っ飛んだ。
アリスは空の方を見ると、「大丈夫!?」と心配そうな顔で言った。空はアリスに礼を言うと、彼は立ち上がる。スーツに付いた砂を払うと、急に彼女は手の平を出した。ご褒美にパンを持ってこいって意味だ。空は呆れて、財布を確認。すると、財布にはもうお金がなかった。空はアリスに謝ると、アリスは首を横に振った。
「いいよ。それより、早く逃げよう。ここは危ないわ」
空は頷くと、アリスと一緒にその場から離れた。
アリス・ローナー。名前に反して性格は元気で明るい自由奔放な少女だ。サラサラの金髪に青い瞳、そして整った顔立ちをしている。年齢は14歳であり、身長は150cmほどしかない。彼女はノヴァシティの片隅にある小さな家で暮らしている。
家はノヴァシティの中でも治安の悪い地域にあり、危険な場所だ。そのため、彼女のような幼い子供が一人で暮らすには危険すぎる環境である。しかし、アリスは組織に狙われているため、誰かに守ってもらわなければ生きていけない。そこで自らアリスの護衛を引き受けることになった。
アリスの保護者として、彼女を組織の手から守ることを決意する。アリスにノヴァシティのことや自分のことを色々と教えた。アリスは空のことを信頼しており、よく懐いていた。アリスに優しく接し、彼女を守り続ける。


東郷機関事務所の4階。そこはオフィスのような部屋であり、そこには神薙空とアリスがいた。彼らは仕事の打ち合わせをしていた。
様々な諜報機関がここで重大か仕事を請け負っている。空はエージェントとして、この事務所で働いていた。
上司に呼ばれて、空は社長室に向かっていた。
ノックして社長室に入ると、そこにはスーツを着た女性が立っていた。ワッペンに書かれてる名前はレナ・メレル。眼鏡茶髪ショートヘアで元警察組織の中で最も偉い人だった。彼女はこちらに気づくと、笑顔で手を振りながら挨拶をした。
「あ、神薙空くんじゃん。お久しぶりー」
空は彼女に挨拶を返した。彼女は東郷機関の社長であり、空とは顔見知りだった。彼女は空に話しかけた。
「神薙くん。最近ベータ144が活発になってきたね。あなたはどう思う?」
ベータ144というのは、遺伝子組み換え技術の産物だ。
この技術は、人間のDNAに特定の塩基配列を組み込むことにより、任意の生物の遺伝情報を再現できるというものだ。例えば、犬の遺伝子を組み込んだ人間を作ることができる。
だが、これは倫理的に問題があるとして、現在は禁止されている。
しかし、裏では密かに研究が続けられ、完成品が秘密裏に取引されていたのだ。
そして今、ベータとも人々は呼ばれていた。
「そうだな。確かにここ最近は、やたらとベータが暴れてるよな」
空はそう答えて、コーヒーを一口飲んだ。
「そう。このベータ144は、人間の脳に干渉する能力を持っているの」
レナは淡々と語り始める。ベータ144という生物は、人類の敵である存在。彼らは人類を滅亡させるためだけに、存在する。彼らは、人の心に寄生する生物だと言われている。彼らが宿主の脳内に侵入している間は、人間は夢遊病のような状態になり、意識を失う。その間に、彼らの肉体は変異して増殖を続けていく。
やがて、彼らは人を完全に支配してしまう。彼らの目的はただ一つだけ――地球を乗っ取ることだ。
「それで? 俺たちに何をしろって言うんだよ?」
 空は尋ねる。すると「あなたたちには、ベータの駆除をしてもらいたいの」
「はぁ!? 何でだよ! そんなの自衛隊の役目だろうが!」空は思わず声を荒げた。だが、レナは全く動じずに答える。「えぇ。もちろん、自衛隊も動いてはいるわ。でも、彼らの手には負えない。だから、私たちが動くしかないの。それに、私たちは自衛隊よりも強い力を持ってる。だからこそ、こうしてお願いしているのよ。どうかしら?」
空は少し考えた後、「わかった。引き受けよう。ただし、条件がある」と返事をした。
「何かしら?」とレナが首を傾げると、空は言った。
「俺は、あんたが嫌いじゃない。むしろ、好きだと言ってもいい。だけど、まだ信用できない。そこで、交換条件として、アビリティーインデックス2位のアウレリア能力者を連れてきてくれ。
そいつがいれば、安心できるし、信頼もできる。どうだ?」と空が提案する。
すると、レナは微笑を浮かべた。
「いいでしょう。連れてくるわ。その代わり、今は海外派遣中なので、しばらく待っていてね。それと、報酬は前払いで払うけど、構わないかしら?」
彼女は訊くと空は前払いの理由に疑った。
「前払い? 珍しいな。普通なら、成功してから報酬をもらうのに、今回は違うのか?」
空がその質問した。
「えぇ。これは、あなたの命に関わる仕事なの。失敗すれば、死ぬかもしれない。だから、お金は惜しまないつもり。もし、成功した時は、通常の倍の金額を支払うと約束するわ。期間は3ヶ月、それでも、不満かしら?」
レナが真剣に答えたので、空は納得することにした。だが、空は不安だった。この女が、本当に信頼できるかどうか。
だが、今は信じるしかなかった。レナと話をした後、空たちはオフィスを出た。
外に出ると、すでに日が暮れていた。空たちが乗る車は、レナが用意してくれた黒いタクシーで、運転手が運転すると空は車内で、後部座席に座っていた。窓の外を見ると、山から街のネオンが輝いている。だが、それはどこか寂しげな光を放っており、街は静まり返っていた。


到着するとこの近くの人気がない路地裏の場所に、生物学者の地下部屋があった。地下の中に入ると、そこには様々な本や資料が散らばっている。どうやら、ここで研究をしているらしい。
蝋燭が照らす部屋の中、奥の扉をノックした。
「失礼します」
扉が開くと、中には一人の魔導師の服を着た女性が立っていた。髪は長く、眼鏡をかけた知的そうな女性だ。年齢は10代後半くらいだろうか? 女性はこちらを見て微笑む。
彼女は、「あ、ようこそ! お待ちしておりました!」と歓迎してくれた。
女性の名は、天咲ソラ。
この屋敷の主である。「あの、初めまして。私は天咲ソラと申します」
そう言って、頭を下げる彼女。礼儀正しい人で良かった。彼女の手には、一冊の本を大切に持っていた。
この本に書いてあった内容が気になり、どうしても知りたいのだという。
空は、それを聞くと、
「えっと、本の内容ですか?」
彼女は答えた。
「はい。この本は、私が書き記した日記なのですが、ある日を境に急に内容が変わったのです。今までは普通の日常を書いていましたが、ある日を境に、突然、血生臭いものに変わったんです。そして、最後には、こんなことが書かれていました。『私は、もうすぐ殺される』と。それで、怖くなって、誰かに相談しようと思いました。でも、相談できる相手がいなかった。そこで、この図書館に来たら、貴方がいました」
「な、なるほどね。つまり、俺に助けて欲しいってことだな。その前に、一つ聞いていいか?  ベータ144の経緯を詳しく教えてくれないか?」
空は彼女に願うと、静かに語り始めた。
「はい。わかりました。あれは、3年前のことです。私の家に、ある人が訪ねてきました。その人は、とても綺麗で、まるで天使のような人でした。何も名前を教えてくれなかったけど、彼女は私のことをよく知っているようでした。ある日、私はいつものように、読書をして過ごしていると、ある異変に気がつきました。それは、本の一部のページが勝手に破られてるのに気づいたことでした。最初は、なんだろうと思いましたが、すぐに理解しました。生物学の細胞に関する本を破いたのは、きっと彼女のしわざだと」
そは、その時のことを思い出しているのか、悲しげな表情を浮かべていた。空は、そんな彼女をじっと見つめながら話を聞いていた。
空は、続けて質問する。
「どうして、君は、その人だとわかったんだ?」と聞くと、彼女は答えた。
「実はですね、その人は、ずっと生物の死骸を運んでました。それも、たくさんの。おそらく、何かの実験に使うのだと思いました。それに、あの時の彼女の目は、どこかおかしかった。まるで、操られているような感じでした。だから、もしかしたら、彼女は、人間じゃないんじゃないかと思ったんです。それから、しばらくして、今度は、大量の血痕を見つけたんです」「なるほどね。それで? どう思ったのかな?」
すると、少女は、少しだけ顔を曇らせた。そして、「正直に言うと、怖かったです。でも、それ以上に興味もありました。だって、こんなにたくさん死体があるんですよ! 一体、どんなことをしているのか知りたかったのです!」
とんでもない言葉を放ったのだ。
空は呆れたように溜息をつくと真剣な眼差しで彼女を見据えて報告する。
「君は好奇心旺盛だね。だけど、それは危険なことだ」
「危険? どうしてですか?」
彼女は首を傾げる。空は、彼女の質問に答えた。
「この世界には、様々な種類の人間がいるということを説明する。例えば、殺人鬼のような犯罪者もいるし、君のように無邪気に残酷なことを楽しむ人もいる。そういう人間は、いつどこで何が起こるか分からないんだ。だから、あまり一人で出歩かない方がいいよ」
そう言って、空は彼女に忠告した。すると、少女は少し不満そうな顔をしていた。
どうやら、納得していないようだ。空は、そんな彼女を諭すように説得すために、再び口を開く。
「いいかい。世の中は、善人だけじゃなくて、悪人も大勢いる。もし、君の身に何かあった時に、誰も助けてくれる人がいなかったとしたら、その時は、もう手遅れなんだ。だから、気をつけるんだよ。分かった?」と、空は優しく語りかけた。
だが、それでも、まだ、不安な様子だった。そこで、空は、さらに言葉を紡ぐ。
空は、優しい口調で言う。
「大丈夫だ。僕が、いつでも、そばにいる。僕は、絶対に、君を守る。約束する。それに、もしも、悪い奴が襲ってきたとしても、返り討ちにする。だから心配しないでくれ」
空は力強く宣言する。だが、それを聞いた途端、何故か彼女が不機嫌になった。空は不思議に思って、理由を聞く。
「あのー、どうかしたか? 俺の顔に、なにかついてる?」と、空は慌てて尋ねる。彼女は、しばらく黙っていたが、やがて、ゆっくりと話し出した。
「別に、なんでもないです。ただ、あなたって、本当に鈍感な人なのですね。私は、あなたのことを信頼しているのに、なぜ、私が怒っているのか、その理由が、まったく分かっていないようですし。まあ、仕方ありませんよね。だって、私の気持ちなんて、全然、分かってくれないのですもの。でも、いつか、きっと、分かる日が来ると思います。それまで、待っていてあげます。ふぅ、やれやれです」
急なネガティブ発言に戸惑う空だったが、彼女の言っている意味が分からず、「えっ、どういう意味です?」と、聞き返す。
今度は、彼女は、少し怒ったような顔になって、こう言い返してきた。
「もういいですよ。どうせ、分からないんでしょ。知りません」と、言って、そのまま、どこかへ行ってしまうので呼び止めた。
「お、おい! 待ってください! 悪かったですよ!」
「本当ですか? 本当に大丈夫なんですね?」
「本当だ。だから許してくれ」
「分かったよ」
「ありがとう」
空はそう言ってお礼をした。暫く気分が落ち着いたユキは、どうしてこんなところにいるのかという事について聞いてきたので、空は事情を説明した。
「あぁ、最近ベータ144の活動が活発になって来ていてね。それで君には何かベータ144の特性とか弱点はないかなと思って聞きに来たんだ」
空は言うと、彼女は少し考えてこう返答した。
「ベータ144の特性と言っても生物学のページ破られてしまって、分からないです。でも、もし、私が知っているとしたらそれは、人間を喰らうという特性があるということだけです。確か人間と謎の薬品を融合すると誕生します。だから、薬を飲んでいる人は、襲われやすいかもしれません」彼女は真剣な眼差で空を見つめながら語った。
その話を聞いていたが、正直あまり理解できなかった。
だから知ってる話しを聞いてみた。
「それは、ベータ144の遺伝子が組み込まれてある薬のせいか?」
そう聞くと、少女は顔を傾けて理解できていなかった。
「え? そうなのですか? 確かにそれなら納得できるかもです。はい」と答えたので空は安心した。そして本題のベータ144の倒し方を聞いてみた。
「ベータ144の弱点は?」と聞いてみると、「えーっとね。確か、頭かな。あそこは脆くて攻撃されやすいのよ。だから、あいつは頭が弱点だってみんな知ってるよ」
「なるほど……」
頭って皆信じてるけど実戦では頭は弱点じゃないんだ。
だから頭を狙うのは間違い。実際の戦闘は脳を3つ潰せば死ぬ。警察機関ではそのことを警告するポスターが貼られるほどである。だが、そんなことを知らない市民は頭を狙えば良いと思っている。もちろんそれを知らない人は多くいるが、統計では大多数が警察機関の説得力がないと言う。確かにそうかもしれない。あの警察機関の連中はノルマを達成するために必死で嘘をつく。理不尽に逮捕したり女を強姦したりすると聞いた。
そのせいで市民は反抗心が芽生え、警察に信用されないのだと。本当にこの国は終わっている。
だが今はそんなことはどうでもいい。とにかく、今は倒すよりも市民を救うことが先だ。
この子もいつか怪物になるのかと思うと、胸が苦しくなった。
この子の両親は、こんな化け物を生み出すために、今まで努力してきたというのだろうか。
僕は、この子が怪物にならないことを願わずにはいられなかった。
「ユキ、そういえばお友達できた?」
空に聞かれて少し戸惑っていた。
「う、うん! 一応いるよ」
「そうか、じゃあ仲良くなったらその子を紹介してくれないか?」空は嬉しそうな顔をしていた。
「は、はい! 仲良くなったら友達を紹介します」
すると、少女は目を輝かせて嬉しそうに笑っていた。
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KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

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