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電線のカラス

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「うわ、あぶね!」


その声で振り返る。
誠一は立ち止まり睨むように空を見上げていた。


「どうした?」


こちらの問いかけに誠一は上を向いたまま答える。


「フンだよ。鳥のフン。目の前に落ちてきた」


誠一の目線の先には一羽のカラスが電線に止まっていた。
意思があるかのようにカラスは鳴き声をひとつ上げるとバサバサ!と飛び去っていった。


「くっそ~やられた~」
「かかったの?」
「いや、ギリギリセーフ」
「じゃあいいじゃん」


ボヤいてはいるが誠一も大して気にしている訳では無い。
こちらもそれを理解しているので早く行くぞと声をかける。


少し歩いたところで、誠一がまた足を止める。
数歩離れてからそれに気づき、声をかける。


「またカラス?」
「......」
誠一は答えることなく見上げたままだ。


真横まで近づいても反応がない。


「どうした?」


それでもこちらを気にかけることはなく、誠一は見上げたままでいる。
てっきり怒っているかと思っていたが、表情が違っていた。


怒り、ではなく感動しているようだった。
感動というよりも心酔、誰かに惚れているかのような、そんな顔だった。


肩を揺すり、目の前で大声で声をかける。


「大丈夫か!」


誠一はようやくこっちに目線を落とした。
だがどこか焦点が合っていない。


「先に帰っててくれ」
「いや、お前大丈夫か?」
「大丈夫だから。予定あるんだろ?」


そう言うとまた見上げる。
この後予定があるのは確かで、少し急がないと行けない。
しかし誠一が心配だ。


「何見てるんだよ」
「カラスが居たんだよ。綺麗な声で鳴いていた」


様子がおかしいが、受け答えもハッキリしている。
時間が無いからと、誠一を残しその場を後にした。






その事を今でも後悔している。








その日以降、誠一と連絡が取れなくなっていた。


最後に別れたあの場所へ向かう。
そこにはあの時のまま上を見上げる誠一がいた。


「誠一!何してるんだよ!」


彼の格好は変わっておらず、あれからずっとここに居たのだろう。


「お前、どうしたんだよ。帰ろうぜ」






「カラスが、居たんだ。とっても綺麗な声で鳴いていてさ。俺、もう1回あの声が聞きたいなぁ。ここに居ればまた聞こえるかなぁ」
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