53 / 115
Jardin secret ~秘密の花園~
第20話
しおりを挟む
ポツリポツリと降り出した雨は次第に雨脚が強くなっていき、厚い雲が空を覆い何だか重苦しい空気を纏い地面に降り注ぎはじめました。そんな最中、ナルキッスの要人たちとの会談を終えて一息つこうとウィリアム様とヴィンセントは少し湿って重苦しい空気の中を宿泊している別館へと戻って来られました。
「…実《み》のあるようでほとんどない会談でしたね」
「議題に則って話していたのは最初の10分だけだったからな」
「後の30分はほぼどうでも良いしょうもない話でしたね…。基本的にくだらない無駄な話ばかり聞かされて頭が拒絶反応示しておりましたよ」
「私も途中から話を聞くことを止めて適当に流していたよ」
「意外と陛下そう言うの上手ですもんね」
「まぁこれも一つの社交術だな」
部屋の中央に鎮座している硬めのソファーにドカッとウィリアム様は座り込み、少し襟元を緩め悪戯っ子のようにヴィンセントに笑いかけます。同じように制服の襟元のボタンを一つ外してヴィンセントもため息交じりにソファーに座りフッとウィリアム様に笑い返しました。
「そうですね。さて…次は経済担当大臣とのランチ会談ですね。30分後に応接間にてだそうです」
「30分後…微妙な時間だな」
「そうですね。どうせなら詰めて一気に終わらせてしまいたかったですね」
「まぁ先方の都合もあるだろうから仕方ないな。」
「それが終われば最後にジョージ陛下とお茶して終わりです。これでやっと帰れますね」
「3日程度の滞在なのにとても長く感じるなぁ」
「そうですね」
「シャルロットももうすぐマリー皇后との孤児院の慰問が終わって帰ってくるころか?」
「えぇ、ランチ会談で合流になります」
「そうか。上手くやっているといいが…」
「姫様はコミュ力はあるから大丈夫でしょう」
「そう言えばお前たち仲直りはしたのか?」
「…元から別に喧嘩なんてしてませんよ。姫様が勝手に拗ねているだけですから」
「そうか?お前の方が拗ねているように見えるが?」
「は?」
いきなりのウィリアム様からの質問にヴィンセントは思いがけず一瞬間が開いてしましたが、すぐに冷静さを取戻しいつも通りの冷たいトーンで何事もないかのように切り返しました。そんな様子のヴィンセントをおや?と言った表情でウィリアム様は見つめて顔を覗き込むと、当のヴィンセントは眉間に皺を思いっきり寄せ、明らかに嫌そうな態度を全開しております。
「お前の方が意固地になってるんじゃないのか?まぁ何が原因か分からないが、お前の方が大人なんだから拗らせる前に話し合ってお前が譲歩して仲直りしておけよ?」
「や、だから別に喧嘩なんて…」
「意外とお前も頑固だからな。全く…似たもの同志だよお前たち」
「だから陛下…」
「表面上は上手く取り繕って公務をこなしているが、なんやかんや言ってシャルもお前と喧嘩して全然会話してないからか少し寂しそうだしなぁ」
「…は?」
「シャルも頑固で意地っ張りだからなぁ」
「…そうやって甘やかす」
「仕方ないだろう。たった一人のめちゃくちゃ可愛い可愛い妹なんだから」
「可愛いって二回言いましたね…。ホント、シスコンですよね」
「実際めちゃめちゃ可愛いんだから仕方ないだろう」
大真面目な顔で語尾強く力説されるウィリアム様に思いきり呆れた顔で見つめますが、当のご本人には全く伝わっておらずにむしろよりキラキラと輝いた真っ直ぐな瞳でこちらを見返してきました。
もうダメだと悟ったヴィンセントははぁ…と聞こえるように大きな溜息をついて腕を組みソファーにのけ反ります。
「…まぁ後で姫様と少し話しますよ」
「あぁ。お前たちのくだらない小競り合いがないとつまらないよ」
「…ったく。何度も申しあげておりますが私は姫様の世話係ではないんですよ。ローザタニアの国王補佐長官兼執務官長なんですけど」
「まぁ同じ様なもんだろう」
「兄妹揃って同じような答えを仰いますね」
「まぁ兄妹だから仕方ないだろう」
「ったく…昔から貴方方兄妹は本当に仕方ないですね」
「お前はそんな私たちが好きなんだろ?」
「…国王陛下じゃなければぶっ飛ばしてますよ」
眉間に思いっきり皺を寄せてジロっとウィリアム様を見つめ、またしても聞こえるように溜息をつきながらヴィンセントはソファーのクッションを手に取りウィリアム様に投げつけます。あははと笑いながらウィリアム様はクッションを受け取りフッと微笑みながら穏やかな微笑みを返しました。
「お前とは幼馴染でもあり大切な親友でもあり、そして一番信頼している相棒だ。私もお前が大好きだよ」
「え…」
「お前以外そんな存在はいないよ」
クッションに肘をつき、まるで辺りにキラキラした粉が降っているかのようにヴィンセントに向けてウィリアム様はニッコリと微笑まれます。そんなウィリアム様のキラキラビームを受けてヴィンセントは一瞬フリーズしてしまいましたが、すぐに我に返り自分の頬を叩きます。
「出た、天然人たらし。キラキラビーム無駄に放たないでください。ってかいきなり愛の告白されても困ります。お気持ちは嬉しいですが、残念ながら私はマシュマロ巨乳のグラマラス美女じゃないと無理なんで」
「私だって知的でスレンダーな女性が好きだから安心しろ」
「女性の好みは一致しませんね」
「そうだな。でもまぁ競合しなくて良いじゃないか」
「…確かに遊ぶ時に被らなくていいのはラッキーですね」
年相応の若者の話題が可笑しかったのか、プッと吹きだして二人して屈託のない笑顔でひとしきり笑い合いました。
一国の国王とその側近とは言え、まだ10代の青年である若い二人はこのような少し砕けた話が好きなようで時おりシャルロット様のいらっしゃらないところではこのような話に花を咲かせたりしております。
しかしすぐに脱線から帰ろうと、ウィリアム様は襟元の乱れを正してんんっと喉を正します。
「そう言えばマリアは?」
「マリアでしたら今日はフランツ皇太子殿下の傍にぴったりとくっついております」
「そうか。…こういう時に三人でゆっくりとしたいものだがな」
「まぁ昔みたいに何も考えずにダラダラと酒でも飲みたいものですね」
「あぁ。もう少し自由な時間が欲しいものだ」
「…感傷に浸られているところ大変申し訳ありませんが会談までにあと15分しかございませんので、こちらの資料に目を通してもらえますか?」
「いきなり仕事モードになるな」
「休憩時間と言えど次の仕事のことを考えないと後々無駄が増えますので」
「…執務秘書官たちに同情するよ」
「アイツらはすぐサボろうとするので締め詰めないと仕事しないんです」
「…お前が女王様と呼ばれるところはそこだよ…」
「私の性別男なんですけど」
「うん…そうだな」
ヴィンセントの言っても効かない、頑なな氷のような態度に観念されたのかウィリアム様は目の前に積まれた書類の束をパラパラと捲って資料に目を通し始めました。
腕を組みながらヴィンセントはツンッとした態度のまま横から同じく資料を一緒に見ております。お二人が真剣に資料を読んで少しお互いの意見等言い合っているその時、部屋のドアを素早くノックする音が響き渡りました。
「陛下、ヴィンセント様…休憩中に申し訳ございません、セシルです。ジョージ国王陛下が今すぐ会談室の方へ来てほしいとのご伝言です」
「あと10分ほどでランチ会談だというのに?…分かった、すぐ行こう」
いささか疑問に思われている様子のウィリアム様はヴィンセントと顔を見合わせると、すぐに立ち上がり部屋のドアを開けました。走り回っていたのか汗だくのセシルが静かにお二人を見送ろうとスッとすぐ横に控えます。
ご苦労、と小さく声を掛けてウィリアム様はヴィンセントを伴って少し早足で会談室へと向かって行かれたのでした。
・・・・・・・・
「再びすまんのぉウィリアム…。まぁ掛けなさい」
「いえ、陛下からお声が掛かればすぐにでも馳せ参じます」
頭を抱えながらふぅ…と大きな溜息をついているジョージ陛下は、丸々としたお腹の横についているこれまたむちっとした丸い手でウィリアム様に着席を促しました。ジョージ陛下の後ろに控えていたマリアは、ウィリアム様が着席されヴィンセントもすぐ後ろで待機されたのを確認すると、ドアをもう一度開けて廊下に誰も居ないことを確認すると素早くドアを閉めてその場に待機しておりました。
「病院から連絡があって、エマ嬢は一命を取り留めた様じゃ。父親のハミルトン子爵も安堵しとったわい」
「そうですか…!それは何よりです」
「うむ、じゃがまだ喋られるような状態ではないようでのぉ。一命を取り留めたからと言ってヴィンセントやマリアは一応まだ重要参考人扱いのままなのは変わらん」
「はぁ…」
「こんな話はランチ会談の前にサラッと話せばよいだけじゃが。お主らを呼んだのはほかでもない…例のあの男、カルロ伯爵の件じゃ」
「その後何か進展があったのですか?」
ウィリアム様は少し身を前に乗り出すかのようなしぐさをされると、ジョージ陛下は待て待て…と言わんばかりに手でストップのジェスチャーをされてウィリアム様を落ち着かせようとされます。
「まぁ落ち着くのじゃ。まず…ビストリツァ周辺のホテルの宿泊名簿を洗いざらい調べたのじゃがそのカルロ伯爵の名前は見当たらんっかった。まぁ偽名を使って止まっているかも知れんし、似顔絵を描かせて聞き込みを当たっているそうじゃ。それでじゃな、街外れの古い屋敷にそのカルロ伯爵に似た男性が滞在しているという目撃情報があったのじゃ」
「…なんと」
「しかし先程警察がその屋敷を訪ねるともうそこはもぬけの殻だったんじゃ」
「…事前に察知して逃げられた…と言うことでしょうか」
「そうかも知れんのぉ。誰かがこの伯爵と繋がっていて情報を流したとかも考えられる。ヴィンセントよ、昨晩、お主とそのカルロ伯爵が一緒にいて何やら言い争っているのを見たという者がおってのぉ…」
「えっ!」
「…まさか陛下はヴィンセントを疑っておりますか!?」
ウィリアム様、マリアは同時にユニゾンするように驚きの声をあげました。そしてチラッとヴィンセントの方を見ると、顔色一つ変えずにジッと前を見据えたままの表情で立っておりました。
「まさか。たいして親しくもない人間と仲間になど…冗談にもほどがあります、ジョージ陛下」
「ふむ、ワシかてお主がそんなことするなどもちろん思ってもおらぬ!お主がつるむのは基本的にここに居るウィリアムとマリアくらいじゃろう」
フンッと溜息のように大きく息を吐き、ジョージ陛下はソファーに座り直してついでにむちっとした腕を組み直します。そして目を瞑り、片目でじろっとヴィンセントを見るとニヤッと笑い出しました。
「まぁヴィンセントとそのカルロ伯爵がつるんでいるのではないかという話には無理があるじゃろうてのぉ。おおかたヴィンセントに恨みを抱いているやつとかが適当に言ったんじゃろう」
「まぁそう言うの慣れておりますので大丈夫です」
「19で慣れるようなもんではなかろうて…」
それが何かと言わんばかりにヴィンセントは顔色一つ変えずに淡々とジョージ陛下相手に答え続けました。ウィリアム様とマリアはそんな二人のやり取りに多少冷や冷やしながらも見守っております。
「話が脱線したわい…。そのカルロ伯爵の件なんじゃがな…実は更なる疑惑が降って来たんじゃ」
「…え?」
「ウィリアムよ、お主イリス・ブーリンと言う女性を覚えておるか?」
「イリス…?確か先日のグララスで開催されたパーティーで少し一緒に踊ったのを覚えております。そのイリスですか?」
「うむ…。実はな、そのイリス嬢なんじゃが…一昨日街外れの森の中で見つかったんじゃよ」
「え?どういうことですか…?」
「詳しい話は…彼に説明してもらおう。入って来てくれ!」
ジョージ陛下が短い腕をスッと上げて合図をされると部屋の奥のドアが開き、何やら大きくて黒い影がスッと部屋に入り、皆の前に姿を現したのでした。
「…実《み》のあるようでほとんどない会談でしたね」
「議題に則って話していたのは最初の10分だけだったからな」
「後の30分はほぼどうでも良いしょうもない話でしたね…。基本的にくだらない無駄な話ばかり聞かされて頭が拒絶反応示しておりましたよ」
「私も途中から話を聞くことを止めて適当に流していたよ」
「意外と陛下そう言うの上手ですもんね」
「まぁこれも一つの社交術だな」
部屋の中央に鎮座している硬めのソファーにドカッとウィリアム様は座り込み、少し襟元を緩め悪戯っ子のようにヴィンセントに笑いかけます。同じように制服の襟元のボタンを一つ外してヴィンセントもため息交じりにソファーに座りフッとウィリアム様に笑い返しました。
「そうですね。さて…次は経済担当大臣とのランチ会談ですね。30分後に応接間にてだそうです」
「30分後…微妙な時間だな」
「そうですね。どうせなら詰めて一気に終わらせてしまいたかったですね」
「まぁ先方の都合もあるだろうから仕方ないな。」
「それが終われば最後にジョージ陛下とお茶して終わりです。これでやっと帰れますね」
「3日程度の滞在なのにとても長く感じるなぁ」
「そうですね」
「シャルロットももうすぐマリー皇后との孤児院の慰問が終わって帰ってくるころか?」
「えぇ、ランチ会談で合流になります」
「そうか。上手くやっているといいが…」
「姫様はコミュ力はあるから大丈夫でしょう」
「そう言えばお前たち仲直りはしたのか?」
「…元から別に喧嘩なんてしてませんよ。姫様が勝手に拗ねているだけですから」
「そうか?お前の方が拗ねているように見えるが?」
「は?」
いきなりのウィリアム様からの質問にヴィンセントは思いがけず一瞬間が開いてしましたが、すぐに冷静さを取戻しいつも通りの冷たいトーンで何事もないかのように切り返しました。そんな様子のヴィンセントをおや?と言った表情でウィリアム様は見つめて顔を覗き込むと、当のヴィンセントは眉間に皺を思いっきり寄せ、明らかに嫌そうな態度を全開しております。
「お前の方が意固地になってるんじゃないのか?まぁ何が原因か分からないが、お前の方が大人なんだから拗らせる前に話し合ってお前が譲歩して仲直りしておけよ?」
「や、だから別に喧嘩なんて…」
「意外とお前も頑固だからな。全く…似たもの同志だよお前たち」
「だから陛下…」
「表面上は上手く取り繕って公務をこなしているが、なんやかんや言ってシャルもお前と喧嘩して全然会話してないからか少し寂しそうだしなぁ」
「…は?」
「シャルも頑固で意地っ張りだからなぁ」
「…そうやって甘やかす」
「仕方ないだろう。たった一人のめちゃくちゃ可愛い可愛い妹なんだから」
「可愛いって二回言いましたね…。ホント、シスコンですよね」
「実際めちゃめちゃ可愛いんだから仕方ないだろう」
大真面目な顔で語尾強く力説されるウィリアム様に思いきり呆れた顔で見つめますが、当のご本人には全く伝わっておらずにむしろよりキラキラと輝いた真っ直ぐな瞳でこちらを見返してきました。
もうダメだと悟ったヴィンセントははぁ…と聞こえるように大きな溜息をついて腕を組みソファーにのけ反ります。
「…まぁ後で姫様と少し話しますよ」
「あぁ。お前たちのくだらない小競り合いがないとつまらないよ」
「…ったく。何度も申しあげておりますが私は姫様の世話係ではないんですよ。ローザタニアの国王補佐長官兼執務官長なんですけど」
「まぁ同じ様なもんだろう」
「兄妹揃って同じような答えを仰いますね」
「まぁ兄妹だから仕方ないだろう」
「ったく…昔から貴方方兄妹は本当に仕方ないですね」
「お前はそんな私たちが好きなんだろ?」
「…国王陛下じゃなければぶっ飛ばしてますよ」
眉間に思いっきり皺を寄せてジロっとウィリアム様を見つめ、またしても聞こえるように溜息をつきながらヴィンセントはソファーのクッションを手に取りウィリアム様に投げつけます。あははと笑いながらウィリアム様はクッションを受け取りフッと微笑みながら穏やかな微笑みを返しました。
「お前とは幼馴染でもあり大切な親友でもあり、そして一番信頼している相棒だ。私もお前が大好きだよ」
「え…」
「お前以外そんな存在はいないよ」
クッションに肘をつき、まるで辺りにキラキラした粉が降っているかのようにヴィンセントに向けてウィリアム様はニッコリと微笑まれます。そんなウィリアム様のキラキラビームを受けてヴィンセントは一瞬フリーズしてしまいましたが、すぐに我に返り自分の頬を叩きます。
「出た、天然人たらし。キラキラビーム無駄に放たないでください。ってかいきなり愛の告白されても困ります。お気持ちは嬉しいですが、残念ながら私はマシュマロ巨乳のグラマラス美女じゃないと無理なんで」
「私だって知的でスレンダーな女性が好きだから安心しろ」
「女性の好みは一致しませんね」
「そうだな。でもまぁ競合しなくて良いじゃないか」
「…確かに遊ぶ時に被らなくていいのはラッキーですね」
年相応の若者の話題が可笑しかったのか、プッと吹きだして二人して屈託のない笑顔でひとしきり笑い合いました。
一国の国王とその側近とは言え、まだ10代の青年である若い二人はこのような少し砕けた話が好きなようで時おりシャルロット様のいらっしゃらないところではこのような話に花を咲かせたりしております。
しかしすぐに脱線から帰ろうと、ウィリアム様は襟元の乱れを正してんんっと喉を正します。
「そう言えばマリアは?」
「マリアでしたら今日はフランツ皇太子殿下の傍にぴったりとくっついております」
「そうか。…こういう時に三人でゆっくりとしたいものだがな」
「まぁ昔みたいに何も考えずにダラダラと酒でも飲みたいものですね」
「あぁ。もう少し自由な時間が欲しいものだ」
「…感傷に浸られているところ大変申し訳ありませんが会談までにあと15分しかございませんので、こちらの資料に目を通してもらえますか?」
「いきなり仕事モードになるな」
「休憩時間と言えど次の仕事のことを考えないと後々無駄が増えますので」
「…執務秘書官たちに同情するよ」
「アイツらはすぐサボろうとするので締め詰めないと仕事しないんです」
「…お前が女王様と呼ばれるところはそこだよ…」
「私の性別男なんですけど」
「うん…そうだな」
ヴィンセントの言っても効かない、頑なな氷のような態度に観念されたのかウィリアム様は目の前に積まれた書類の束をパラパラと捲って資料に目を通し始めました。
腕を組みながらヴィンセントはツンッとした態度のまま横から同じく資料を一緒に見ております。お二人が真剣に資料を読んで少しお互いの意見等言い合っているその時、部屋のドアを素早くノックする音が響き渡りました。
「陛下、ヴィンセント様…休憩中に申し訳ございません、セシルです。ジョージ国王陛下が今すぐ会談室の方へ来てほしいとのご伝言です」
「あと10分ほどでランチ会談だというのに?…分かった、すぐ行こう」
いささか疑問に思われている様子のウィリアム様はヴィンセントと顔を見合わせると、すぐに立ち上がり部屋のドアを開けました。走り回っていたのか汗だくのセシルが静かにお二人を見送ろうとスッとすぐ横に控えます。
ご苦労、と小さく声を掛けてウィリアム様はヴィンセントを伴って少し早足で会談室へと向かって行かれたのでした。
・・・・・・・・
「再びすまんのぉウィリアム…。まぁ掛けなさい」
「いえ、陛下からお声が掛かればすぐにでも馳せ参じます」
頭を抱えながらふぅ…と大きな溜息をついているジョージ陛下は、丸々としたお腹の横についているこれまたむちっとした丸い手でウィリアム様に着席を促しました。ジョージ陛下の後ろに控えていたマリアは、ウィリアム様が着席されヴィンセントもすぐ後ろで待機されたのを確認すると、ドアをもう一度開けて廊下に誰も居ないことを確認すると素早くドアを閉めてその場に待機しておりました。
「病院から連絡があって、エマ嬢は一命を取り留めた様じゃ。父親のハミルトン子爵も安堵しとったわい」
「そうですか…!それは何よりです」
「うむ、じゃがまだ喋られるような状態ではないようでのぉ。一命を取り留めたからと言ってヴィンセントやマリアは一応まだ重要参考人扱いのままなのは変わらん」
「はぁ…」
「こんな話はランチ会談の前にサラッと話せばよいだけじゃが。お主らを呼んだのはほかでもない…例のあの男、カルロ伯爵の件じゃ」
「その後何か進展があったのですか?」
ウィリアム様は少し身を前に乗り出すかのようなしぐさをされると、ジョージ陛下は待て待て…と言わんばかりに手でストップのジェスチャーをされてウィリアム様を落ち着かせようとされます。
「まぁ落ち着くのじゃ。まず…ビストリツァ周辺のホテルの宿泊名簿を洗いざらい調べたのじゃがそのカルロ伯爵の名前は見当たらんっかった。まぁ偽名を使って止まっているかも知れんし、似顔絵を描かせて聞き込みを当たっているそうじゃ。それでじゃな、街外れの古い屋敷にそのカルロ伯爵に似た男性が滞在しているという目撃情報があったのじゃ」
「…なんと」
「しかし先程警察がその屋敷を訪ねるともうそこはもぬけの殻だったんじゃ」
「…事前に察知して逃げられた…と言うことでしょうか」
「そうかも知れんのぉ。誰かがこの伯爵と繋がっていて情報を流したとかも考えられる。ヴィンセントよ、昨晩、お主とそのカルロ伯爵が一緒にいて何やら言い争っているのを見たという者がおってのぉ…」
「えっ!」
「…まさか陛下はヴィンセントを疑っておりますか!?」
ウィリアム様、マリアは同時にユニゾンするように驚きの声をあげました。そしてチラッとヴィンセントの方を見ると、顔色一つ変えずにジッと前を見据えたままの表情で立っておりました。
「まさか。たいして親しくもない人間と仲間になど…冗談にもほどがあります、ジョージ陛下」
「ふむ、ワシかてお主がそんなことするなどもちろん思ってもおらぬ!お主がつるむのは基本的にここに居るウィリアムとマリアくらいじゃろう」
フンッと溜息のように大きく息を吐き、ジョージ陛下はソファーに座り直してついでにむちっとした腕を組み直します。そして目を瞑り、片目でじろっとヴィンセントを見るとニヤッと笑い出しました。
「まぁヴィンセントとそのカルロ伯爵がつるんでいるのではないかという話には無理があるじゃろうてのぉ。おおかたヴィンセントに恨みを抱いているやつとかが適当に言ったんじゃろう」
「まぁそう言うの慣れておりますので大丈夫です」
「19で慣れるようなもんではなかろうて…」
それが何かと言わんばかりにヴィンセントは顔色一つ変えずに淡々とジョージ陛下相手に答え続けました。ウィリアム様とマリアはそんな二人のやり取りに多少冷や冷やしながらも見守っております。
「話が脱線したわい…。そのカルロ伯爵の件なんじゃがな…実は更なる疑惑が降って来たんじゃ」
「…え?」
「ウィリアムよ、お主イリス・ブーリンと言う女性を覚えておるか?」
「イリス…?確か先日のグララスで開催されたパーティーで少し一緒に踊ったのを覚えております。そのイリスですか?」
「うむ…。実はな、そのイリス嬢なんじゃが…一昨日街外れの森の中で見つかったんじゃよ」
「え?どういうことですか…?」
「詳しい話は…彼に説明してもらおう。入って来てくれ!」
ジョージ陛下が短い腕をスッと上げて合図をされると部屋の奥のドアが開き、何やら大きくて黒い影がスッと部屋に入り、皆の前に姿を現したのでした。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる