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第5章
第29話
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第29話
数個の僅かな光量の光の玉だけで暗闇の中を走っているなか、時折すぐ側で鼻をクンクンとさせて匂いを嗅ぐ音が聴こえては、暗闇の中で骨を砕き肉をむしゃぶるような音が聴こえていた。
下手に話し声をあげようものなら、その瞬間に襲われそうになるほどの緊張感があった。
俺の両脇に挟んで抱いているアマとアミも、口に手を当てて絶対話さないようにしているのが分かる。
姿形が見える魔物や恐竜相手なら、戦って勝つ自信があるものの、こうも暗闇の中で姿が見えない相手と、聴こえてくる不気味な音を放ってくる奴を相手だと恐怖を感じるのは、古来より暗闇を恐れてきた人間の性分なのかも知れない。
だが、こんな状況がいつまでも続くと、頭がおかしくなってしまいそうになるため、シロヤマが出した光の玉以外に俺自身の想像魔法による、もっと明るくて大きな光の玉を想像魔法で出現させたら、そこらじゅうに異形な姿の化け物の姿があった。
四足歩行で頭部以外はカバを思い出すような体型をしているが、頭部はほぼ人間の鼻の形でできており、目は退化しているのか、急に出した光を眩しそうしていなく、耳は小さくてピコピコと可愛らしく動いている。
全体的に鼻が目立つのに口が見当たらなく、何処にあるのだろうかと思っていたら、丁度タイミングよく、近くの小さめの恐竜を襲い掛かっているのを見ることが出来て、化け物を観察していたら、口は胴体の腹の部分にあった。
獲物に襲い掛かるとき動きは素早く動き、勢いよくジャンプして獲物を覆い被さって喰っているようだ。
化け物をさらに観察してると、一度必ず走っている俺たちの元に来て、匂いを嗅いだあと離れて行っている。走る前にシロヤマが、皆んなに渡した木の実を身体に付着したからなのかもしれない。 先頭を走るシロヤマや他のメンバーたちは、俺が出した光の玉が眩し過ぎて目を細めて走る速度が落ちた。 だが、段々と目が慣れてきたのだろう、走る速度が元に戻ってきて、士郎とアマとアミが、あの異形な姿の化け物を見て驚き叫んでしまった。
また魔蟲のときみたいに戦わなければいけないかと思ったが、化け物は耳を小刻みに動かすだけで、こちらに見向きもせずに小恐竜を襲って喰っている。
「ミーツさん、あれは一体なんなんだろうか」
俺の前を走るシーバスが化け物を見て、俺に問いかけてきたが、俺も初めて見る生き物なため、答えられずにいたら、先頭を走るシロヤマが、あれの耳は飾りみたいなものだから、音くらいでは襲われることはないと答えてくれた。
その代わり、見た目通り匂いには凄く敏感で、木の実の香りの効果が切れたらすぐさま襲い掛かってくると、追加で教えてくれた。
明るくなったことで、他の夜行性の魔物や恐竜に襲われる危険性が増えたものの、あのまま辺りがあまり見えない状況で進むよりはマシになったと思い、あの化け物以外の恐竜を躱したり、両腕が塞がっている俺の代わりに、シーバスやヤスドルが倒してくれたりして、なんとか鼻の化け物に襲われることなく、無事にシロヤマが安全だという場所に辿り着くことができたものの、その場所は中央に巨木が一本あるだけの広場で、十センチほどの小さな柵が並んでいるだけの場所だった。
「はあ~、ミーツくんが急にあんな明かるい魔法を使うから、ビックリしちゃったよ」
「でも、あの鼻の魔物には驚きましたけど、そのお陰で他の恐竜たちの対処ができて良かったと僕は思いますよ」
「そうだな。士郎の言う通りだ。ミーツさんはいつも厄介なことをやるが、今回は助かったぜ。
あの変な魔物は無視して良かったからな。
まあ、あの魔物を無視できたのは、俺の彼女のお陰ってのもあるんだけどな」
「もう、シーバスったら、もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
「はいはいはい、ご馳走様。シーバスの言う通りだけど、シロヤマが渡してくれた木の実が無かったと思ったら、この中の誰かは今頃いないだろうね」
シロヤマはその柵の中に入ったのと同時に巨木の根元に座り込んで、走っているときに俺が出した明かりについて驚いたと話し出したことで、次々と彼女と同じように座り込んだ。士郎にシーバスが、あの化け物についてと、結果的に俺が出した明かりは良かったと言いつつ、シーバスとシロヤマはイチャイチャしだしたところで、二人の間に入ってイチャつくのを中断させて、皆んなでお礼を言ってから、この安全な場所について聞いた。
「ん、ここの小さな柵はね。こんなだけど結界が張ってあるんだよ。悪意のある人や、魔物関係は入れない仕組みになってんだ。だから、ここではゆっくり休めるんだよ。で、先に教えておくけど、ここから先は此処みたいな、ゆっくり休むことができる場所はないから、此処でやれることをやって進むよ。
それでミーツくん、今日はどんな食事を出してくれるのかな?かな?」
彼女はあっけらかんと、此処だけではなく、この先のことも教えてくれたものの、俺はまだ大丈夫だが、士郎やアマとアミは体力面にも精神面にも大丈夫だろうかと心配になる。
それよりも、彼女にとってダンジョンや仲間のことより、今夜のご飯といっても空が明るくなりかけているから朝ご飯だろうかが、気になるようだ。目をキラキラとさせて、今日は何食べさせてくれるの?といった視線を送ってくる。
「そうだねぇ。じゃあ寝る前だし軽めに干し肉にしよっかね」
彼女に干し肉にしようかと言うと、俺の両脇にいるアマとアミも、シロヤマと一緒に悲しそうな顔をして俺の顔を見つめた。
「ねえミーツくん、ボク頑張って案内したし、襲われないようにしたのにこの仕打ちはなんなの?
そんなにボクに美味しいものを食べさせたくないのかな」
「シロヤマ姉ちゃん、違うよ。きっとおじさんは、あたしが吐いちゃったから意地悪してるんだよ」
「アマにシロヤマ姉様、ミーツさんはそんな人じゃないです!ミーツさんは寝る前って言っています。だから起きたらきっと美味しい物を食べさせてくれますよ。ね?ミーツさん」
アミは俺のことを庇ってくれているものの、彼女の微笑みから威圧めいたものを感じた。
「ほらね。おじさんもアミが怖いって分かったでしょ?」
「私怖くないもん!ミーツさん私、怖いですか?」
「ちょっと驚いただけだよ。アミが怖いなら途中まで一緒だった仲間は、恐ろしい化け物ってことになっちゃうからね」
「ミーツくんと一緒に旅してた仲間ってどんな人だったの?」
「二人いてね。そのうち一人は、とある国の元騎士団長で、もう一人はサブギルドマスターしてた人だったんだけど、そのサブやってる人が、とんでもない強さの人なんだよ。今の俺でも勝てるかどうか分からないくらい強いんだ。
正直、あの人にはどれだけ強くなろうとも勝てる自信がないよ。
それに、あの二人が居なかったら、今頃俺は餓死していたか、今でも残飯を漁っていたと思う。
だから二人にはとても世話になったんだ」
世話になったシオンとダンク姐さんのことを思い出しながら話したら、急にダンク姐さんに一方的にやられたことを思い出して身震いがした。
「ミーツくんでも勝てない人ってホントに人なの?」
「おじさん、本当に仲間だったの?それにおじさんが死んでたら、あたしたちも死んでたよね」
「ミーツさん、その人って女性ですか?」
「ちょっとアミ、今聞くのそれぇ?
男とか女とかどっちでもよくない?」
アミにとってはあの二人の性別が気になるようで、真剣な眼差しで質問してきた。
「どちらも男だよ。ただし、一人は女性の心を持った男性だけどね。それでその男性が元騎士団長のことを好きで、猛烈にアタックしていたよ」
「それって士郎さんと同じですか?」
「うん、そうだよ。士郎も俺の仲間の元騎士団長が好きだったんだ」
「「「えーー!それ詳しく聞きたい(です)!」」」
「ま、詳しい話は士郎にでも聞きなよ。
俺は一休みさせてもらうよ」
「ちょっ、ミーツさん、僕もシオンさんやダンクさんのことは、あまり知らないですよ」
後の話は士郎に丸投げして俺は彼女らから離れると、安全地帯の広さを確認したのち、キャンピングカーを出しても問題ないくらいの広さがあるため、士郎が彼女らに詰め寄られている間、仲間たちから離れた隅っこの方でキャンピングカーを出したら、いつの間にか上半身裸になって、組み手をやりだしているヤスドルとシーバスが俺の方を凝視している。
「ミーツさん、それはいったい…」
「これは……車輪が付いているってことは馬車なのか。いや、でもこんな物見たことがない」
彼らは興味津々にキャンピングカーに近付いて、これはどういった物だろうかといった感じでキャンピングカーの周りをグルグルと回って見つめだした。
そんな彼らがキャンピングカーについて、あーだこーだと話しているのを、士郎に詰め寄っていた女の子たちもキャンピングカーの存在に気付いて近寄ってきた。
「ミーツくん、これって車だよね?
ヤマトで見たことある。こんなの持ってたんなら、早く出してくれれば良かったのに」
「お、流石シロヤマは何度もヤマトに行っているだけあって、これのこと知っているんだね。
そう、これはキャンピングカーというんだけど、エンジンもガソリンもないから、これだけだと走れないんだよ」
「ガソリン?ボクも車は見たことあるだけで、乗ったことないから詳しくは知らないけど、動かすのにガソリンってのがいるの?」
「そうだよ。それに、シロヤマが仲間になったとき既に馬車があったし、これを仮に動かせたとしても、これが通ることができる道があまりなかったよ」
ヤマトでは転移者や転生者が多いというだけあって、車が当たり前に走っているのだろうが、彼女は乗ったことがないらしく、車の動力などは無知のようだ。
ヤマトで車が当たり前に走っていたとしても、もしかしたら一部の上級貴族や、金持ちだけが乗れる代物なのかもしれない。
「おじさんおじさん、車ってなに?馬車みたいなもの?これもダンジョンから出たら馬に引かせるの?」
「ミーツさん、これってどこから入れるんですか?」
「ミーツさんキャンピングカーなんて、何処で手に入れたんですか?まさか自作とかじゃないですよね?」
ヤスドルとシーバスを除くメンバーたちに質問攻めされるも、一人づつ答えていく。
アマの車の説明はいずれなと誤魔化し、アミの何処から入れるかは、ドアを開けて入らせ、士郎の何処で手に入れたかは秘密だと答えた。
ドアを開けた途端に中が気になって仕方がなかっただろう、シーバスとヤスドルが真っ先に中に入り、そんなシーバスたちをシロヤマが叱りながら、彼女らも興味津々といった感じで中に入って行き、士郎はそんな彼らを中に入らずに見ているだけだ。
「士郎は入らないのか?」
「僕も気にはなりますけど、この世界では珍しい乗り物だから興味があって当たり前ですよね。
でもミーツさん、何で今更こんなところで出したんですか?」
「ここが最後の休憩所っていうなら、いつも寝ている硬い地面じゃなく、ベッドやソファみたいな柔らかい所で寝て、なるべく皆んなの身体を万全の状態にしたいと思ったんだよ」
「へえ、ミーツさんでもちゃんと考えてんですね」
「ミーツさんでもって余計だよ。
気になるなら士郎も入って見てきな」
余計な一言を言う士郎の背中を叩いて、中に行きなと車の方に向かわせた。
「おじさんおじさん、これ宿のベッドより柔らかいよ。こんなのいつから持ってたの!
こんなの一人のときに使ってたの?ズルイ!
今日はあたし達が使うからね!」
中を見たアマがドアから顔を出してそう言ってきて、士郎を除く男たちは締め出された。
「俺たちも初めて見るんだぞ!ここは公平に勝負で決めようぜ。それに、お前たちは途中からずっとミーツさんに抱きかかえられて楽してるだろうが!」
一台のキャンピングカーを全員が使うのは手狭なため、アマがシーバスとヤスドルを追い出したことでシーバスが怒って、キャンピングカーを誰が使うかの勝負を行うことになりそうだったため、もう一台少し離して出したら皆んな、鳩が豆鉄砲食らったかのように目を見開いて驚いた。
「おじさんってどれだけの物を持ってるの?」
「流石ミーツさんです!皆んなが喧嘩しないようにするなんて」
「ミーツくん凄いね。これだけ大きな物が入るマジックバックを持ってるなら、ミーツくんは冒険者より商人になるべきだったね」
「ミーツさん、元の世界の料理の数々でもそうでしたけど一体、ミーツさんの見えないマジックバックはどうなってるんですか?」
「流石ミーツさんだ。俺たち兄妹が喧嘩しないようにしてくれるなんてな」
「凄い」
皆んな驚きながら、それぞれ驚きの言葉を口にした。ヤスドルはシンプルに一言だけだが、彼らしい一言だ。
「これで問題ないはずだよ。男性と女性で分かれて休んだらいい」
俺の言葉に皆頷いて、締め出されたシーバスヤスドルと俺と新しく出したキャンピングカーに乗り込むと、僕もそっちがいいです!と言いながら士郎がキャンピングカーから顔を出すも、彼女たちに引っ張られて引っ込んだ。
俺が今回出したキャンピングカーは、完全に休むための内装の想像をした。内装としてはキッチンなどは無くて、大きなベッド一つと、大人が横になってもはみ出さないくらい大きなソファを一つあるだけだが、これで一休みができると思い、ベッドはヤスドルとシーバスで使いなと言ってソファに寝転がると丸二日寝てなかったこともあって、ふと意識が遠のいたものの、チラリと視界に気になる物が映り、窓の外を覗いたら、夜明けとともにカバに似た鼻の化け物たちが岩に変わっていくのが見えた。
あの化け物たちは夜間性のようで、日が昇れば岩に変わるのかと思いつつ眠気に勝てずにそのまま意識が遠のいていく…。
数個の僅かな光量の光の玉だけで暗闇の中を走っているなか、時折すぐ側で鼻をクンクンとさせて匂いを嗅ぐ音が聴こえては、暗闇の中で骨を砕き肉をむしゃぶるような音が聴こえていた。
下手に話し声をあげようものなら、その瞬間に襲われそうになるほどの緊張感があった。
俺の両脇に挟んで抱いているアマとアミも、口に手を当てて絶対話さないようにしているのが分かる。
姿形が見える魔物や恐竜相手なら、戦って勝つ自信があるものの、こうも暗闇の中で姿が見えない相手と、聴こえてくる不気味な音を放ってくる奴を相手だと恐怖を感じるのは、古来より暗闇を恐れてきた人間の性分なのかも知れない。
だが、こんな状況がいつまでも続くと、頭がおかしくなってしまいそうになるため、シロヤマが出した光の玉以外に俺自身の想像魔法による、もっと明るくて大きな光の玉を想像魔法で出現させたら、そこらじゅうに異形な姿の化け物の姿があった。
四足歩行で頭部以外はカバを思い出すような体型をしているが、頭部はほぼ人間の鼻の形でできており、目は退化しているのか、急に出した光を眩しそうしていなく、耳は小さくてピコピコと可愛らしく動いている。
全体的に鼻が目立つのに口が見当たらなく、何処にあるのだろうかと思っていたら、丁度タイミングよく、近くの小さめの恐竜を襲い掛かっているのを見ることが出来て、化け物を観察していたら、口は胴体の腹の部分にあった。
獲物に襲い掛かるとき動きは素早く動き、勢いよくジャンプして獲物を覆い被さって喰っているようだ。
化け物をさらに観察してると、一度必ず走っている俺たちの元に来て、匂いを嗅いだあと離れて行っている。走る前にシロヤマが、皆んなに渡した木の実を身体に付着したからなのかもしれない。 先頭を走るシロヤマや他のメンバーたちは、俺が出した光の玉が眩し過ぎて目を細めて走る速度が落ちた。 だが、段々と目が慣れてきたのだろう、走る速度が元に戻ってきて、士郎とアマとアミが、あの異形な姿の化け物を見て驚き叫んでしまった。
また魔蟲のときみたいに戦わなければいけないかと思ったが、化け物は耳を小刻みに動かすだけで、こちらに見向きもせずに小恐竜を襲って喰っている。
「ミーツさん、あれは一体なんなんだろうか」
俺の前を走るシーバスが化け物を見て、俺に問いかけてきたが、俺も初めて見る生き物なため、答えられずにいたら、先頭を走るシロヤマが、あれの耳は飾りみたいなものだから、音くらいでは襲われることはないと答えてくれた。
その代わり、見た目通り匂いには凄く敏感で、木の実の香りの効果が切れたらすぐさま襲い掛かってくると、追加で教えてくれた。
明るくなったことで、他の夜行性の魔物や恐竜に襲われる危険性が増えたものの、あのまま辺りがあまり見えない状況で進むよりはマシになったと思い、あの化け物以外の恐竜を躱したり、両腕が塞がっている俺の代わりに、シーバスやヤスドルが倒してくれたりして、なんとか鼻の化け物に襲われることなく、無事にシロヤマが安全だという場所に辿り着くことができたものの、その場所は中央に巨木が一本あるだけの広場で、十センチほどの小さな柵が並んでいるだけの場所だった。
「はあ~、ミーツくんが急にあんな明かるい魔法を使うから、ビックリしちゃったよ」
「でも、あの鼻の魔物には驚きましたけど、そのお陰で他の恐竜たちの対処ができて良かったと僕は思いますよ」
「そうだな。士郎の言う通りだ。ミーツさんはいつも厄介なことをやるが、今回は助かったぜ。
あの変な魔物は無視して良かったからな。
まあ、あの魔物を無視できたのは、俺の彼女のお陰ってのもあるんだけどな」
「もう、シーバスったら、もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
「はいはいはい、ご馳走様。シーバスの言う通りだけど、シロヤマが渡してくれた木の実が無かったと思ったら、この中の誰かは今頃いないだろうね」
シロヤマはその柵の中に入ったのと同時に巨木の根元に座り込んで、走っているときに俺が出した明かりについて驚いたと話し出したことで、次々と彼女と同じように座り込んだ。士郎にシーバスが、あの化け物についてと、結果的に俺が出した明かりは良かったと言いつつ、シーバスとシロヤマはイチャイチャしだしたところで、二人の間に入ってイチャつくのを中断させて、皆んなでお礼を言ってから、この安全な場所について聞いた。
「ん、ここの小さな柵はね。こんなだけど結界が張ってあるんだよ。悪意のある人や、魔物関係は入れない仕組みになってんだ。だから、ここではゆっくり休めるんだよ。で、先に教えておくけど、ここから先は此処みたいな、ゆっくり休むことができる場所はないから、此処でやれることをやって進むよ。
それでミーツくん、今日はどんな食事を出してくれるのかな?かな?」
彼女はあっけらかんと、此処だけではなく、この先のことも教えてくれたものの、俺はまだ大丈夫だが、士郎やアマとアミは体力面にも精神面にも大丈夫だろうかと心配になる。
それよりも、彼女にとってダンジョンや仲間のことより、今夜のご飯といっても空が明るくなりかけているから朝ご飯だろうかが、気になるようだ。目をキラキラとさせて、今日は何食べさせてくれるの?といった視線を送ってくる。
「そうだねぇ。じゃあ寝る前だし軽めに干し肉にしよっかね」
彼女に干し肉にしようかと言うと、俺の両脇にいるアマとアミも、シロヤマと一緒に悲しそうな顔をして俺の顔を見つめた。
「ねえミーツくん、ボク頑張って案内したし、襲われないようにしたのにこの仕打ちはなんなの?
そんなにボクに美味しいものを食べさせたくないのかな」
「シロヤマ姉ちゃん、違うよ。きっとおじさんは、あたしが吐いちゃったから意地悪してるんだよ」
「アマにシロヤマ姉様、ミーツさんはそんな人じゃないです!ミーツさんは寝る前って言っています。だから起きたらきっと美味しい物を食べさせてくれますよ。ね?ミーツさん」
アミは俺のことを庇ってくれているものの、彼女の微笑みから威圧めいたものを感じた。
「ほらね。おじさんもアミが怖いって分かったでしょ?」
「私怖くないもん!ミーツさん私、怖いですか?」
「ちょっと驚いただけだよ。アミが怖いなら途中まで一緒だった仲間は、恐ろしい化け物ってことになっちゃうからね」
「ミーツくんと一緒に旅してた仲間ってどんな人だったの?」
「二人いてね。そのうち一人は、とある国の元騎士団長で、もう一人はサブギルドマスターしてた人だったんだけど、そのサブやってる人が、とんでもない強さの人なんだよ。今の俺でも勝てるかどうか分からないくらい強いんだ。
正直、あの人にはどれだけ強くなろうとも勝てる自信がないよ。
それに、あの二人が居なかったら、今頃俺は餓死していたか、今でも残飯を漁っていたと思う。
だから二人にはとても世話になったんだ」
世話になったシオンとダンク姐さんのことを思い出しながら話したら、急にダンク姐さんに一方的にやられたことを思い出して身震いがした。
「ミーツくんでも勝てない人ってホントに人なの?」
「おじさん、本当に仲間だったの?それにおじさんが死んでたら、あたしたちも死んでたよね」
「ミーツさん、その人って女性ですか?」
「ちょっとアミ、今聞くのそれぇ?
男とか女とかどっちでもよくない?」
アミにとってはあの二人の性別が気になるようで、真剣な眼差しで質問してきた。
「どちらも男だよ。ただし、一人は女性の心を持った男性だけどね。それでその男性が元騎士団長のことを好きで、猛烈にアタックしていたよ」
「それって士郎さんと同じですか?」
「うん、そうだよ。士郎も俺の仲間の元騎士団長が好きだったんだ」
「「「えーー!それ詳しく聞きたい(です)!」」」
「ま、詳しい話は士郎にでも聞きなよ。
俺は一休みさせてもらうよ」
「ちょっ、ミーツさん、僕もシオンさんやダンクさんのことは、あまり知らないですよ」
後の話は士郎に丸投げして俺は彼女らから離れると、安全地帯の広さを確認したのち、キャンピングカーを出しても問題ないくらいの広さがあるため、士郎が彼女らに詰め寄られている間、仲間たちから離れた隅っこの方でキャンピングカーを出したら、いつの間にか上半身裸になって、組み手をやりだしているヤスドルとシーバスが俺の方を凝視している。
「ミーツさん、それはいったい…」
「これは……車輪が付いているってことは馬車なのか。いや、でもこんな物見たことがない」
彼らは興味津々にキャンピングカーに近付いて、これはどういった物だろうかといった感じでキャンピングカーの周りをグルグルと回って見つめだした。
そんな彼らがキャンピングカーについて、あーだこーだと話しているのを、士郎に詰め寄っていた女の子たちもキャンピングカーの存在に気付いて近寄ってきた。
「ミーツくん、これって車だよね?
ヤマトで見たことある。こんなの持ってたんなら、早く出してくれれば良かったのに」
「お、流石シロヤマは何度もヤマトに行っているだけあって、これのこと知っているんだね。
そう、これはキャンピングカーというんだけど、エンジンもガソリンもないから、これだけだと走れないんだよ」
「ガソリン?ボクも車は見たことあるだけで、乗ったことないから詳しくは知らないけど、動かすのにガソリンってのがいるの?」
「そうだよ。それに、シロヤマが仲間になったとき既に馬車があったし、これを仮に動かせたとしても、これが通ることができる道があまりなかったよ」
ヤマトでは転移者や転生者が多いというだけあって、車が当たり前に走っているのだろうが、彼女は乗ったことがないらしく、車の動力などは無知のようだ。
ヤマトで車が当たり前に走っていたとしても、もしかしたら一部の上級貴族や、金持ちだけが乗れる代物なのかもしれない。
「おじさんおじさん、車ってなに?馬車みたいなもの?これもダンジョンから出たら馬に引かせるの?」
「ミーツさん、これってどこから入れるんですか?」
「ミーツさんキャンピングカーなんて、何処で手に入れたんですか?まさか自作とかじゃないですよね?」
ヤスドルとシーバスを除くメンバーたちに質問攻めされるも、一人づつ答えていく。
アマの車の説明はいずれなと誤魔化し、アミの何処から入れるかは、ドアを開けて入らせ、士郎の何処で手に入れたかは秘密だと答えた。
ドアを開けた途端に中が気になって仕方がなかっただろう、シーバスとヤスドルが真っ先に中に入り、そんなシーバスたちをシロヤマが叱りながら、彼女らも興味津々といった感じで中に入って行き、士郎はそんな彼らを中に入らずに見ているだけだ。
「士郎は入らないのか?」
「僕も気にはなりますけど、この世界では珍しい乗り物だから興味があって当たり前ですよね。
でもミーツさん、何で今更こんなところで出したんですか?」
「ここが最後の休憩所っていうなら、いつも寝ている硬い地面じゃなく、ベッドやソファみたいな柔らかい所で寝て、なるべく皆んなの身体を万全の状態にしたいと思ったんだよ」
「へえ、ミーツさんでもちゃんと考えてんですね」
「ミーツさんでもって余計だよ。
気になるなら士郎も入って見てきな」
余計な一言を言う士郎の背中を叩いて、中に行きなと車の方に向かわせた。
「おじさんおじさん、これ宿のベッドより柔らかいよ。こんなのいつから持ってたの!
こんなの一人のときに使ってたの?ズルイ!
今日はあたし達が使うからね!」
中を見たアマがドアから顔を出してそう言ってきて、士郎を除く男たちは締め出された。
「俺たちも初めて見るんだぞ!ここは公平に勝負で決めようぜ。それに、お前たちは途中からずっとミーツさんに抱きかかえられて楽してるだろうが!」
一台のキャンピングカーを全員が使うのは手狭なため、アマがシーバスとヤスドルを追い出したことでシーバスが怒って、キャンピングカーを誰が使うかの勝負を行うことになりそうだったため、もう一台少し離して出したら皆んな、鳩が豆鉄砲食らったかのように目を見開いて驚いた。
「おじさんってどれだけの物を持ってるの?」
「流石ミーツさんです!皆んなが喧嘩しないようにするなんて」
「ミーツくん凄いね。これだけ大きな物が入るマジックバックを持ってるなら、ミーツくんは冒険者より商人になるべきだったね」
「ミーツさん、元の世界の料理の数々でもそうでしたけど一体、ミーツさんの見えないマジックバックはどうなってるんですか?」
「流石ミーツさんだ。俺たち兄妹が喧嘩しないようにしてくれるなんてな」
「凄い」
皆んな驚きながら、それぞれ驚きの言葉を口にした。ヤスドルはシンプルに一言だけだが、彼らしい一言だ。
「これで問題ないはずだよ。男性と女性で分かれて休んだらいい」
俺の言葉に皆頷いて、締め出されたシーバスヤスドルと俺と新しく出したキャンピングカーに乗り込むと、僕もそっちがいいです!と言いながら士郎がキャンピングカーから顔を出すも、彼女たちに引っ張られて引っ込んだ。
俺が今回出したキャンピングカーは、完全に休むための内装の想像をした。内装としてはキッチンなどは無くて、大きなベッド一つと、大人が横になってもはみ出さないくらい大きなソファを一つあるだけだが、これで一休みができると思い、ベッドはヤスドルとシーバスで使いなと言ってソファに寝転がると丸二日寝てなかったこともあって、ふと意識が遠のいたものの、チラリと視界に気になる物が映り、窓の外を覗いたら、夜明けとともにカバに似た鼻の化け物たちが岩に変わっていくのが見えた。
あの化け物たちは夜間性のようで、日が昇れば岩に変わるのかと思いつつ眠気に勝てずにそのまま意識が遠のいていく…。
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上述の通り、主人公は恋愛しません。途中、婚約されるシーンがありますが婚約破棄に持ち込みます。主人公のルチルは生涯にわたって独身を貫くストーリーです。
広大な異世界ワールドを旅する物語です。冒険にも出ますし、海を渡ったりもします。
工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する
鈴木竜一
ファンタジー
旧題:工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する~ブラック商会をクビになったので独立したら、なぜか超一流の常連さんたちが集まってきました~
【お知らせ】
このたび、本作の書籍化が正式に決定いたしました。
発売は今月(6月)下旬!
詳細は近況ボードにて!
超絶ブラックな労働環境のバーネット商会に所属する工芸職人《クラフトマン》のウィルムは、過労死寸前のところで日本の社畜リーマンだった前世の記憶がよみがえる。その直後、ウィルムは商会の代表からクビを宣告され、石や木片という簡単な素材から付与効果付きの武器やアイテムを生みだせる彼のクラフトスキルを頼りにしてくれる常連の顧客(各分野における超一流たち)のすべてをバカ息子であるラストンに引き継がせると言いだした。どうせ逆らったところで無駄だと悟ったウィルムは、退職金代わりに隠し持っていた激レアアイテムを持ちだし、常連客たちへ退職報告と引き継ぎの挨拶を済ませてから、自由気ままに生きようと隣国であるメルキス王国へと旅立つ。
ウィルムはこれまでのコネクションを駆使し、田舎にある森の中で工房を開くと、そこで畑を耕したり、家畜を飼育したり、川で釣りをしたり、時には町へ行ってクラフトスキルを使って作ったアイテムを売ったりして静かに暮らそうと計画していたのだ。
一方、ウィルムの常連客たちは突然の退職が代表の私情で行われたことと、その後の不誠実な対応、さらには後任であるラストンの無能さに激怒。大貴族、Sランク冒険者パーティーのリーダー、秘境に暮らす希少獣人族集落の長、世界的に有名な鍛冶職人――などなど、有力な顧客はすべて商会との契約を打ち切り、ウィルムをサポートするため次々と森にある彼の工房へと集結する。やがて、そこには多くの人々が移住し、最強クラスの有名人たちが集う村が完成していったのだった。
転生王子 だらだら過ごすが偶にやる気を出す
佐原
ファンタジー
面倒臭がり屋な主人公のアルフレッドは、転生しても変わらず引きこもった生活を続けていた。
巷ではダラけ王子と呼ばれるが、王宮では違いかなりのキレ者と思われている。それでも性格は治るはずもなくダラけ続ける王子として王宮に居座る。
歳を重ねるにつれて面倒事がやってきて、どんどん優秀さをみんなに示して行くのであった。
『ダラけるためなら、帝国を潰すよ!だってこの王国は僕を養ってくれる国だからね!!』
投稿時間は17時です。ストックが有るまでは毎日投稿します!!
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