上 下
204 / 247
第5章

第21話

しおりを挟む
第21話

「か、勝った。ミーツさんが勝ったぞー!」

 爆発による水蒸気が段々晴れてきたところで、俺が族長に勝ったのを発見したシーバスがそう声を張り上げた。それにより、シーバス兄妹が俺の元に駆け寄って抱きついて来て、シロヤマは後方からゆっくり歩いてきており、士郎は馬車の御者席で待機しているみたいだ。

「おじさん凄い凄~い!族長のあんな魔法に打ち勝つなんて」
「ホントです!ミーツさんがお強いのは知ってましたけど、こんなに強いなんて、ますますミーツさんのことが…」
「ちょっと~、アミ~、おじさんのことが…ってなんて~?最後のが聴.こ.え.な.い!」

 アミが最後に何かを呟いたことをアマが茶化すように言うと、アミは恥ずかしそうに手で顔を覆って馬車の方に走り去ってしまった。
 そんなアマをシーバスが拳骨して、アミに謝ってこいと言ってアマも退かせた。


「ミーツくん、お疲れ様。そしてありがとね。
族長のあの魔法を対処できるなんて、流石ボクが見込んだだけあるよ。 これから鬼人族のことはボクに任せていいから、ミーツくんは休んでなよ。休められるところは、そこで呆けてるヤスドルに案内してもらうといいよ」


 シロヤマは感謝の言葉を言ったあと、ヤスドルに頼んだよと言って、族長が飛んで行った方向に向かって行き、俺はヤスドルの案内で休憩する場所に連れてもらうと、硬い土の上にゴザが引いてある所に案内されてしまったものの、贅沢は言ってられない立場な上、昨夜は寝てなかったこともあってか、ゴザの上に寝そべると瞼が重くなって眠ってしまった。
 眠っているときでも耳だけはなんとなく機能しているみたいで、眠っている間にシロヤマが族長と俺の元に来て今後の相談をしているようだ。


「族長、外部の者でしかも人族に負けたんだから、ボクの提案する規則に変えてもらうよ」
「うむ。伝統だがそれについては仕方ない。そして族長も引退するつもりだ」
「なんでさ!族長は別に引退しなくてもいいんだよ」
「それは皆に示しがつかない。侮っていた相手、しかも人間に負けたとなれば族長は続けられんよ。次の族長はそこで寝ておる人間にやってもらうとしよう」
「それはダメだよ。ミーツくんは別に族長になりたくて戦った訳じゃないんだからさ。ミーツくんには目的地があって、そこに向かうのに偶々ここに立ち寄った程度なんだよ。だから、族長は今まで通り、族長が続ける方針で行きなよ」

 彼女がそう言うと、族長はしばらく沈黙した。

「分かった。だが、この話はこの者が起きたときに改めて話し合うとしよう。敗者は勝者の言うことは聞くものだからな。この人げ…ミーツもお前と同じ考えだとしたら、そのとき改めて言うことを聞こう」

 族長は勝った俺のことの言うことは聞くが、戦ってもいない彼女の言うことは聞かないと言うと、立ち上がってこの場を後にした。
 族長の後を追うように彼女は「同じ仲間のボクが言うんだからボクの言葉はミーツくんの言葉だよ」と言いながら遠ざかって行った。

 それからは遠くの方で騒ぐ声が聴こえるだけで、そのまま眠り続けていたら耳元で起きろー!っと大声を出されて飛び起きると、目の前に笑顔のシロヤマが立っていた。


「もう、ミーツくんはいつまで寝る気?
もう夕方だよ?あとちょっとしたらすぐ夜になっちゃうんだよ。子供たちが大人になった祝いと、族長が外部の者に負けた記念の宴が始まるのに寝てたら勿体ないよ。あと、鬼人の皆んなが怖がるといけないから、これ貸してあげるから被ってなよ」
「ですです。まだ身体が辛いなら私たちで支えますから、行きましょう」
「ちょっと!アミ~、いくらおじさんが好きだからって、あたし達だけでおじさんを支えるの無理じゃないの?」
「もう!なんでアマがそれを言うの!あ、あのミーツさん、アマが言ったのは、えと」

 満面の笑顔のシロヤマは猫耳のカチューシャを俺の頭に被せて、彼女のすぐ背後にはアマとアミがいるが、アミが俺のことを好きだとアマが言ったことでアミが怒り、アマを睨んだあと、俺に向かってなにやら弁明しようとしているようだが、なにを今更好きだということを隠そうとしているんだと思って、しどろもどろなアミの頭に手を置いて、俺もアミが好きだよと言うと、アマとシロヤマは何故か、口に手を当てて目を見開いている。

「何を驚いているんだ。仲間なんだから好きなのは当然じゃないか。もちろん、アミだけじゃなく、アマにシーバス、シロヤマに士郎も好きだよ」
「な~んだ。ミーツくんの好きはそういう意味だったんだね。でも、あんまりアンポンタンなことを言っていると愛想つかれちゃうよ」

 彼女は意味の分からないことを言って、何故かホッとしている二人を連れて出て行った。
 今度は出て行った彼女らと入れ替わりで族長が入ってきた。彼からは酒臭い匂いしかしないものの、無言で地面に胡座をかいて座り、底の浅い大きな器に幾つか腰に付けた瓢箪(ひょうたん)の中身をドボドボと注いで手渡してきた。

「え、これを飲めと?」

 意味が分からず、そう彼に尋ねたら無言で頷いた。仕方なく器を受け取って全部は無理だろうが、飲めるだけ飲もうと思って、飲んでいくと器に入っていたのは酒ではないようで、水のようだがほんのり甘い味が付いてて、飲みやすくて全部は無理だと思った並々と注がれた器全てを飲み干していた。飲み干した器を彼に返すと、今度は別の瓢箪を開けて器に注いで自身で飲み干した。


「これで俺たちは義兄弟だ。俺に勝ったお前、ミーツは義兄で負けた俺は義弟。そこで本題に入るが、兄者は何が望みだ。俺の族長引退か?それとも規則の変更か?兄者が決めてくれ」
「ちょっと待て!俺と族長が義兄弟?今のを飲んだから?何の説明も無しにこんなことしていいのか」
「む、シロヤマから既に説明はしたと聞いたが、聞いてなかったのか?聞いてなかったとしても、もう遅い。俺たちは義兄弟だ」
「そうか。ま、義兄弟になったからといって不利益があるわけじゃないし、ま、いっか。
族長はそのまま族長を続けてもらっていいよ。
規則だけ少し変えて貰えればね。現状のままだと、ヤスドルも可哀想だし、これからも心優しい若者たちが損をすると思う。でも昔からの伝統だから変えたくないって族長の気持ちも分かるけど、そろそろ族長が新しい規則を取り入れて変えても良いんじゃないかなっと俺は思うんだ。多分、この話は散々シロヤマがしたと思うけどね」


 彼は腕を組んで項垂れて、しばらく考えたものの、辺りが暗くなって彼の姿が段々と見えなくなってきた頃、突然立ち上がって自身の頰を両手でバチンと叩いて分かったと一言だけ言った。


「分かったって規則を変えることが、分かったってことで良いのかな?」
「無論だ。兄者よ、どのように変えるといいと思う?俺では何も考えが思い付かないのだ」
「うーん、そのことについてはシロヤマに聞いた方がいいんじゃないかな。俺もどうやればいいか、よく分からないからさ。あとで族長とシロヤマで話合ってよ」
「うむ、ミーツ兄者よ。俺の事は族長ではなく、今後はドズドルと呼ぶがいい」

 彼の顔が完全に見えなくなったことで、明かりを照らすライトを想像魔法で浮かさせて出したら、彼は真っ直ぐ俺を見つめていた。

「ああ、分かったよドズドル。でも、俺のことは兄者と呼ばないでくれよ。恥ずかしいし、普通にミーツでいいからさ」
「それは断る。兄者は兄者だからな。俺の元々いた兄弟の兄たちは、試練のときや、魔物との戦いに、前族長との戦いにて命を落としたのだ。だから俺には兄と呼べる者はいないのだ」
「そんな話を聴いたらダメだよとは言えなくなるじゃないか。あーもー!いいよいいよ。どうせ明日には此処を発つし、好きに呼んだらいいよ」
「うむ。それでは宴と新しい規則と若者たちの試練合格を祝おうぞ」
「じゃあ、息子のヤスドルも許してあげるってことでいいよね」
「愚息については宴の後にでも話そう」


 彼はまだ息子のことは許してないのか、宴に行こうと微笑んでいたのが、息子の話になった途端に不機嫌そうな表情になった。
 彼の地雷を踏んでしまったかと思ったものの、気持ちを切り替えて、族長の特別な席でドズドルにアルコールの度数が高い酒を飲まされながらも宴を楽しんだ。
 流石に宴のときにまで、シロヤマに酒呑むなとは言えず、ほどほどになら呑んでもいいよ。と一言添えて言ったら、鬼人たちが輪になっている所に飛び込んで行った。

 宴は夜遅くまで続き、俺と酒の飲めないアマとアミ以外の全員が酔い潰れるまで宴は続いた。
 宴はドズドルを含めた鬼人たちが酔い潰れないと終わらないことに途中から気付いて、鬼人が用意した酒以上に強い酒を、俺も想像魔法で出して振る舞った。
 俺はというと、途中から想像魔法で酒を口にした途端に、アルコール成分が蒸発するようにして、ほぼ水をひたすら飲んでいたのだ。

 皆んなを酔い潰したあと、疲れと眠気でフラフラと自分の馬車で休もうと荷台に登って横になったら、アマたちが毛皮でも敷いていたのだろうか、ふわふわで柔らかくて何も考えられず、直ぐに意識がなくなった。
 耳には何やらキャーキャー声が聴こえていたものの、考える力がなくて眠気に身を任せた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、突如として東京銀座に「異世界への門」が開かれた。中からあふれ出た鎧や剣で武装した「異世界」の軍勢と怪異達。阿鼻叫喚の地獄絵図。陸上自衛隊はこれを撃退し、門の向こう側『特地』へと足を踏み入れた。およそ自衛官らしくないオタク自衛官、伊丹耀司二等陸尉(33)は部下を率いて『特地』にある村落を巡る…異世界戦争勃発!ネットで人気のファンタジー小説、待望の書籍化!

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました

やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>  フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。  アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。  貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。  そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……  蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。  もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。 「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」 「…………はぁ?」  断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。  義妹はなぜ消えたのか……?  ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?  義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?  そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?  そんなお話となる予定です。  残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……  これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。  逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……  多分、期待に添えれる……かも? ※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!

天田れおぽん
恋愛
タイトルが「イケオジ辺境伯に嫁げた私の素敵な婚約破棄」から「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」に変わって、レジーナブックスさまより発売されました。 よろしくお願いいたします。m(_ _)m  *************************************************  わたくしは公爵令嬢クラウディア・エクスタイン、18歳。  公爵令嬢であるわたくしの婚約者は王太子。  王子さまとの結婚なんて素敵。  あなた、今そうお思いになったのではなくて?  でも実際は、そう甘いモノではありません。    この小説は、わたくしの不運なようでいて幸運な愛の物語。  お愉しみいただけたら幸いですわ♡

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。