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第4章

第54話

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第54話

ドームを作り、いつものように食事を終わらせた辺りでグレムが俯いて暗い事に気が付いた。
食事が終わったばかりで腹も一杯のはずだが、何かを思い詰めているのか表情が暗い。

「グレムどうした?食い過ぎて腹でも痛いのか?」

「おっさんか、いやなに。そろそろ奥さんにあの事を言わなきゃだなって思ってな。あ、そうだ。おっさんから話してくれよ」

「グレム、なに言ってんだ?俺がグレムの所為で奥さんの家族が死んだ事を伝えても、グレムが責められるのは変わらないんだぞ。俺が伝える事で余計に状況が悪化するかも知れない」

「そ、そうだよな。よし!決めた。ちょっと行ってくる」


グレムは自身の頰を両手でビンタして、食事後の食材の後片付けをしている女性陣の元に向かった。それで一言二言、何かを話したのち一人の女性を連れ出してドーム内の隅の方に向かった。

隅の方に向かったグレムを見てると、グレムは女性に何かを言ったのち頭を下げた。その時、女性はドーム内に響くくらいの大声で泣き叫びグレムを殴りだした所で、何も知らないシーバスとグレムの仲間達が女性を取り押さえた。

女性は地面に押さえて付けられながら、グレムを睨み殺してやると泣き叫ぶと、シーバスは木の枝を女性に噛ませて身動きが出来ないように縛り付けた。

そんな状況でグレムは、この場にいる皆んなに聞こえるように自分の軽率な行動により、女性の旦那と子供を死なせてしまった事を言うと、シーバスは女性の拘束を解いた。

女性の拘束が解かれた瞬間、女性はグレムの首を絞めだした所で俺は動き、女性の手を両手で掴んでグレムから無理矢理引き剥がすと女性は掴んだ俺の手を思いっきり噛み、手の肉が抉れ血がドクドクと流れた。それでも女性の手を掴んだまま少し力を込めると悲痛な声を上げて、その場で崩れ座り込んで再び大泣きしだした。

大泣きしだした事で手を離すと、女性は泣きながらも掴まれていた手をさすっているとシーバスが動いて女性を無言で抱き締めた。

女性は一瞬驚いた表情になるも、そのままシーバスの胸の中で泣き続け、この場はシーバスに任せても大丈夫だと判断したのち、シーバスと女性を除いた全員をこの場から離れさせた。

俺は一応何か問題起きたらいけないと思い、少し離れた所で泣き続ける女性とひたすら黙って抱き締めるシーバスをしばらく見守っていると、突然女性はシーバスの胸から顔を離してシーバスにキスしだした。

シーバスはそれに驚き、女性から身を離すが、女性はシーバスを追いかけて再び唇にキスをするとシーバスは諦めたようにキスを受け入れて、しばらく卑猥な音を立てながら二人のキスをしているのを見守っていると背後からアマに肩を軽く叩かれた。

「おじさん、いつまで見てるの?
うちの兄ちゃんに任せなよ」

確かにアマの言う通りだと思い、アマと一緒に離れると背後から女性の怒鳴り声が聞こえ、先程の所に向かうと女性がシーバスを見下ろして罵倒していた。

「シーバス、何したんだよ」

罵倒されているシーバスに近寄ってシーバスに話しかけた。

「いや、俺は何も…」

「この男、何もしてくれないのよ!
あれだけ口づけしたのに!」

「いや、だってこんな場所でおっ始める訳にはいかないだろうがよ。ミーツさんからも言ってくれよ。この女こんな所で抱けって言ってくるんだ。
頭がイカれてるとしか思えない」

「私は旦那も子供もあの男の所為で失って何も残ってないの!だから滅茶苦茶に抱かれたいの!
抱かれて嫌な事を忘れたいの!」

「だ、ダメだ。この女滅茶苦茶だ。
ミ、ミーツさん、俺には手に負えない」


シーバスは後退りしながら助けを求めるように俺を見つめた。だが、こんな場所で俺がシーバスの代わりに抱く訳にもいかず、どうしたものかとしばし顎を撫でながら考え、この女性を落ち着かせるには物理的に落ち着かせてはダメだなと思い、I.Bに入れていた女性の家族である亡くなった旦那と子供の遺体を目の前に出して横たわらせた。

女性はシーバスを罵倒しながら掴みかかって暴力を振るっていたが、横たわって動かない旦那と子供の遺体を見ると、シーバスへの罵倒と暴力を止め横たわっている遺体にヨロヨロと近寄り子供の遺体に抱き付き、声は出さずに無言でひたすら涙だけを流していた。


「ミーツさん、あの遺体は?」

「兵士の手によって無残に殺されたあの人の家族だよ。後でキチンと埋葬しようと思って持っていたんだよ」


シーバスは女性から解放されて俺の横に立ち子供の遺体を抱き涙を流している女性を見ながら、遺体と女性の関係性を聞いてきた。


「そうか、それならしばらく、ソッとしておいたら良いだろうな」


シーバスはそれだけを言うと女性を気にしながら自分の仲間達の元に戻って行った。
そして俺の隣にはシーバスに代わりグレムが立ち、女性を見つめながら話しかけてきた。


「おっさん、あの死体は旦那さんと子供だよな?」

「そうだよ。あの女性を鎮めるには遺体を見せるしかないと思ったんだよ。
後でシーバスにお礼を言っておきなよ」

「あぁ、分かってるよ。
しかし、おっさんも悪かったな」

「まぁ、仕方ないさ」


グレムは俺にも頭を下げて謝った。
女性はシーバスの言う通り、しばらくソッとしておいた方が良いだろうと判断して、風呂にお湯を張るべく先程穴を開けた場所に向かうとシーバス達が地面に穴が空いただけの所を見ていた。


「なぁ、ミーツさん。コレが風呂だと言うのか?
大きなを穴を開けただけじゃないか」

「兄様、きっとミーツさんには考えがあるんですよ」
「そうかな~、おじさんは池でも作ろうとしてるんじゃない?」

「オークゴッドさんはやっぱり魔物だから風呂というものが分かってないのでしょう。ただの水浴びと勘違いしているのでしょうね」


それぞれが酷い事を言ってきたが、気にせずに穴にツルツルとした綺麗な大理石を想像魔法で敷き詰めて、ぬるめの湯を張って火を湯に落として温度調節をして風呂は完成した。

後は身体の洗い場用の石鹸や洗面器を適当に複数個、出して洗い場も大理石を敷き詰めて完全に外から見えないように四方を壁で囲って男用と女用とで風呂の中央に少し浮かせた仕切りの壁を作り、簡単な脱衣所も作って、あっという間にほぼ完成した。

そこまでやって後ろにいるシーバス達の反応を見るべく振り向くと、全員が目を見開いて口をあんぐりと開けて固まっていた。

「お、お、おじさん。す、凄いすご~い。
何何何?おじさん、どんな魔法使ったの?
アミ、おじさんどんな魔法使ったか分かった?」

「アマ、これって魔法なの?火の魔法と水の魔法と土の魔法までは分かったけど後が分からない。
お湯は多分、火と水の魔法の融合魔法でしょ…」


ようやく口にしたのがアマとアミだが、シーバスとガガモは未だに口を出せないでいた。
アマは興奮していて、アミは俺が使った魔法について考察してブツブツと呟いていた。


「さっ、後は入るだけだから、皆んなで入ろっかね。あ、もしシーバス達が一人で入りたかったら一人用の風呂も作ってやるからね」


俺はそれだけを言うと、グレム達を呼びに行こうと歩きだしたが、シーバスに肩を掴まれてしまった。


「待て待て待て、いや本当に待ってくれ!
ミーツさん、風呂についてどういった。いやどのくらい知ってる?」

「どのくらいっていっても普通だよ。本当はこのくらいの風呂だったら温泉が良いけど、俺はまだ温泉は出せないしね。あ、やっぱり一人用で一人でゆっくりと浸かりたい?
だったら、ここから別に離して作ってやるよ」


シーバスに肩を掴まれているが、構わずに少し歩いた所で先に四方の壁を出して、浴槽として日本でも馴染みのあるバスタブを一つ、ドンと置いて先程と同じ手順で湯を張って、後は同じ石鹸と洗面器に洗う為の風呂椅子を出して簡単な脱衣所と仕切りを作って扉を取り付けて完成した。


「いや、俺が言いたかったのは、こんな事じゃなかったんだけど。でも、折角作ってくれたんだ。有り難く入らせて貰うよ」

「ちょ、シーバス、ズルイです!
私もそっちの一人用に入りたいです!
オークゴッドさん、私も一人用が良いです」


一緒に付いて来ていたガガモがシーバスと俺に同じ一人用が良いと抗議して来た事で面倒だと思いつつ、ガガモ用に先程想像魔法で作った一人用の風呂を少し離れた場所に作ると、ガガモは満面の笑顔で俺に頭を下げて風呂の方に走って行った。

「ミーツさん、どんな魔法を使ったかは詮索しないが、ウチのガガモがわがままを言って申し訳なかった」


シーバスは俺に頭を下げた後、先程作った一人用の風呂にガガモと同様に嬉しそうに向かい入って行った。

俺は風呂の出来上がりをグレム達に伝えようと馬車に向かった。
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