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第4章

第32話

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第32話

シオンが御者する馬車はあっという間に王都に辿り着いた。

休憩所のドームから出てしばらくすると、弱い魔物であるオークやゴブリンが出没したが、いつもの事で御者しているシオンが片手で魔法をぶっ放して蹴散らして進んだ。

そして、王都に辿り着いたのは良いが、門が完全に閉まっていて門番なんて何処にも見当たらなかった為、どうするものかとシオンは顎を触りながら呟いていると。


「おい!そこの馬車!
お前達は何処から来た!」


声が聞こえるが何処から聞こえてくるのだろうかと思っていると、シオンが御者席から身を乗り出して上を見上げた。


「はい、申し訳ございません。
私達は旅の者ですが、此処にくる途中に腐人の大群と魔物の大発生により、町の壊滅を目撃しましたので王都に報告をと寄らせていただいた所存でございます」


俺の代わりにシオンが此処に来るまでの出来事を上に向かって大声で話した。


「なに?腐人だと?巨大なスライムは見てないか?」

「はい、スライムなんて見てません」

シオンは俺をチラッと見た後再度、上向いてスライムなんて見てないと話した。

「分かった。ならば門を開けよう。
少し離れてそこで待て」

「おい、ミーツ。
お前は頭のスライムが見つかると厄介だから何処かに移動させるか、布でも被っとけ」


シオンは馬車を数メートル後退させて、しばらくすると門が重い音を出してギーっと外側に開いて、中から剣や槍を持った兵士が十人程出て来た。

まだ寝ていたアッシュを起こして、身体の胸の辺りに薄く伸ばして移動させ、ロップを姐さんに念の為預けようと試みたが離れず断念した。

それもロップを頭から離す時、頭皮が剥がれるんじゃないかと思うくらい爪を頭に食い込ませてしまったからだ。


「おい、念の為、馬車内を調べさせて貰うぞ」

「良いですが、中にはここに来る途中に壊滅した町の生き残りである子供が数人と仲間の二人と前の国で買った処刑予定だった犯罪者だけですよ」

「なに?処刑予定の犯罪者を買ったのか?
何でそんな者を買ったのだ?危険だろうが」

「いやね。その者は特殊なスキルを持っていましてね。その特殊なスキルを持っているのに処刑されるのは勿体ないと思いまして、僅かな金で買った所存であります」

「そうか、どちらにしても馬車内は調べさせて貰うぞ」


俺は処刑予定の犯罪者で、それを買ったという感じでシオンは通して馬車内を調べても怪しまれないようにした。

そうして一人の兵士が前に出て馬車に近付くと、今迄寝そべって気絶していた少女が急に起き上がり、馬車に近付いた兵士に助けを求めた。


「兵士様!助けて下さい!
この犯罪者は逃亡犯罪者です。
この人達は私の弟を人質にして仲間内で嘘を付いています!私は壊滅した町の町娘でモゴモゴ」

「なに?逃亡犯罪者だと?
最初から怪しいと思っていたが、矢張り怪しい者だったか、お前達全員馬車から降りよ!
そして、その少女とその弟を解放するのだ」


少女は早口で捲し立て、俺が口を塞いだが既に遅く、近寄った兵士が槍を前に突き出して馬車に乗っている者全員降りるよう命令した。

シオンは姐さんに目配りして頷き合うと、姐さんは少女の服を掴んで、兵士に放り投げると同時にシオンは馬車を反転させて急発進させた。

俺はそれだけでは直ぐに捕まると考え、兵士達が集まっている場所に打ち上げ花火のように眩しい光をシュポンと想像魔法で想像したものを出し、馬車に近寄っていた兵士には手を翳して光を浴びせた。

眩しい光りによって光を浴びた兵士達は、目が見えてないのか目を開けたまま手を前に出してフラフラとしだしたり、槍や剣をあちこちに突き刺し斬ったりして仲間同志で傷つけ合い同士討ちしている。


「おのれ!我らにこんな事してタダで済むと思うなよ!」


俺達が兵士に攻撃したかのようになってしまった。でも光を浴びせたから、あながち間違ってはいない。

そんな混乱の中、外に投げ出された少女は開いたままの門に走って中に助けを求めながら入って行ってしまった。

そんな状況を見ていると、急発進したはずの馬車が停止している事に気が付いて、御者席のシオンと姐さんを見ると外の有様をポカーンと見ていた。


「シオン?何で止まっているんだ?
新しい兵士が来ないうちに行こう」

「あ、ああ、でもお前何したんだ?」

「え?何って普通に目眩しのつもりで光を浴びせたんだけど、ここまでなるとは思わなかったな」

「シオンちゃん、ミーツちゃんの言う通り、とりあえず先に進みましょう。
いつものやり過ぎのミーツちゃんを叱るのはその後でも良いじゃない」

「え?俺、叱られるの決定なの?
確かに目眩しのつもりで光を浴びせただけだったけど、こんな惨状になるとは思わなかったな」


シオンと姐さんは溜め息をした後、ゆっくりと馬車を発進させた。その直後、城門から最初に出てきた兵士の倍以上の人数が出てきて、シオンは手綱を握り締めて馬車を走らせた。

しばらく走った所で追って来てないと確認できた所で、近場にあった森に寄って木々で馬車に覆い被せ隠れた。そして、先程の俺の行動について問い詰められシオンと姐さん二人から拳骨一発づつ食らわされる事になってしまった。

これから拳骨食らおうって時、あんなに頭から離れなかったロップが、ソルトの元に飛んで行ったのが少し腹の立つ事だったが、仕方ないと思い直しながら馬車内を見渡すと、少女の弟がぶつぶつと「お姉ちゃんがお姉ちゃんが」と呟いている姿があった。

姉が突然外に投げ出されたのだから無理もない話だ。少女の弟には姉である少女の元に居たいか、それとも俺達と一緒に大和に行くかを選ばせてあげようと思った。ついでに幼馴染の少年と他の子供達にも聞いてみよう。


「んん、あー、えっとだな。キミはお姉ちゃんの元に行きたいか?それとも俺達と一緒に大和までくるか?少女の弟君だけじゃなく、君達全員に聞いている」

「ミーツちゃん突然どうしたの?」

「ダンクが頭を強く殴り過ぎたんだよ。
その点、俺は程よく手加減したからな」

「いや、シオン、お前の拳骨も相当痛かったよ。
突然こんな質問したのは理由があるから黙って聞いていろよ。
それは、少女の弟君が突然、姉である少女が馬車から投げ出された事についてショックを受けている様子だったから、これから俺達について来るか、それともどんな生活が待ち構えているか分からないが、少女と一緒にこの国に残るかを聞いているんだ」


俺の質問後、幼馴染の少年と少女の弟君はこの国に残りあの少女と一緒に居たいと言うと、他の子供達も残ると言い出した。


「この国に残るというのなら止めはしない。そして残るのであれば普通に暮らせるだけの金を渡そうと思うが、親がいなくて頼れる大人がいない環境だと思うが、それでも本当に良いんだね?
俺達に付いてくるというなら、安全な国に連れて行ってもいいが危険な旅になる上、ある程度働いてもらう」


少し意地悪かも知れないけど現実、奴隷とか平気で売買している人達の国だ。
親が居ない子供達を連れて、まともな生活が出来るとは思えなくてこんな言い方をしてしまった。

すると弟君はそれでも残ると言い、幼馴染の少年は「やっぱり僕はあなた達に付いて行きたい」と言うと、それにより弟君以外の子達も少年と同じく、やっぱり止めると言い出した。

弟君だけが意思が固く早く姉の元に行きたそうにしている。


「シオン、そういう事だからチャチャッと送ってくるからシオン達は此処で待機していてくれよ。
それで何か不測な事態で動かなきゃいけなくなったら、待たなくていいからな」

「待たなくていいだと?それだとお前、直ぐ合流できなかったらこの先どうするんだ?」

「その時はその時で
自力でも大和を目指すよ。
その時は大和で合流しよう」

「お前、大和がどれだけ広いか分かってないな?
まぁ、でもお前なら大丈夫か」

「ああ、なるべく早く戻ってくる予定ではあるけど、何もなければ此処に止まっていろよ」

「そりゃあ、待つつもりではあるけどよ。
あの城の兵達が、どのくらい兵隊を出して俺達を探しているかにもよるよな。
兵が近くに来た時には逃げられない状況って事だけは避けたいし、森に人が入ってきた気配があればその時は逃げるぞ」

「ああ、それなら構わない。
あー、ソルト、念の為に金を置いていくよ。
不測な事態が起きた時にゴーレムにでも食わせて暴れさせてやれ。何も起きなければ大和迄の賃金に使えばいいからな。
後、姐さんとソルトにロップ、子供達を頼むよ。それじゃあ行ってくる」

「ミーツ様お気をつけ下さい」
「ミーツちゃんも気をつけてね」
「なるべく早く帰って来いよ」

ソルトには姐さんとシオンに軽く手を上げ、弟君の手を握って先程の城門前に転移をしようとした瞬間、ソルトに抱かれていたロップが飛んで来て俺の頭に乗った。

「あ」と思ったが既に遅く、転移してしまって目の前に城門があった。


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