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第4章

第18話

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第18話

「ブッハァ、ゲホゲホッ、な、何事?な、なんなんですか!」


商人の身体と変わらないサイズの水の塊を作って、寝そべっている商人に落とした瞬間、商人は飛び起きて咳をしながらキョロキョロと見渡しながら自分の状況を掴もうと必死になっている様子だ。

そんな商人に俺は近づいて質問をする事にした。


「教えて欲しい事がありますけど、教えてくれますか?」

「ど、どんな事ですか?
私を殺したって何もないですよ」


この商人はどんな風に俺達を見ているんだ?
商人はオドオドとしている。


「違いますよ。ここから近い村や町を教えて欲しいんですよ。教えてくれたらクリスタル国でもゴールドマネー国でも好きな方に連れて行ってやりますよ」

「いや!私は騙されない!
きっと、私が教えたら殺すのでしょう?」

「そんな事はしませんよ。
なんなら、誓約書にサインしてもいいですよ」

「そんな物こんな所にないでしょう?
お願いします。殺さないで帰らせて下さい」


と、商人としばらく近くの村の場所を教えて下さい、殺さないで!といった会話が繰り返されたところで痺れを切らしたシオンが俺の耳元で商人に聞こえないように囁いて

「クリスタル国に直接送ってやってすぐに戻って来い」

シオンは、そう言うと俺から離れて腕を組んで睨みだした。
仕方なく俺は商人の腰辺りの服を掴んで馬車の御者席に転移した直後、クリスタル国の王都の門が見える森の近くに転移した。


「え?は?え、えと、私は幻覚を見ているのでしょうかね?」


商人は目を手で擦りながら、辺りを見回しては目を擦りを繰り返した。

「さて、これで分かりましたよね」


俺はそれだけを言うと、再度シオン達がいる場所に転移して戻ってみると商人は目をパチクリとさせて辺りをキョロキョロと見渡している様子だ。

「え、え?えと、私はいつの間にか寝ていて夢でも見ていたのでしょうか?」

「いいえ、間違いなくクリスタル国にいましたよ。ここから先の村や町の案内、又はどの方向にあるかを教えてくれたら先程の場所に帰してあげますよ。
もし、嘘を教えたら商人の貴方を探し出して、腐人が沢山いる壁の中に落とします」

「それは脅しですか?
私が虚言を吐けば殺すと言うのですよね?」

「それはそうですよ。町にいた魔物があれだけとは考えてないですし、腐人も別の町や村に行ったと考えていますので、まだ見知らぬ人の命の事を考えると当然ですね」

「分かりました。鼻っから嘘を言うつもりはありませんから、お教えします。
ですから終わり次第、私は自由で安全を約束してくれるなら話します」

「分かりました。話してくれ次第、先程の場所に連れて行きますから教えて下さい」


商人は自由と安全確保を条件に、この場所から近い村や町に王都の場所を話し出して、この国の大まかな自作の手書きの地図を取り出して説明してくれた。

地図は見たままの物を想像魔法でコピーしたかの様に何もない空間から出すと、商人は驚いた顔を一瞬したが、見る見るうちに怒りの形相をしだして俺から地図を奪おうとしだしたが、俺は素早く地図をI.Bに仕舞い込んで商人を商人の馬車諸共、先程のクリスタル国の王都近くの森に転移して送り、元の場所に戻った。


「ミーツちゃん、ミーツちゃんの行動を見てたけど、あの行動は無いわ。
あの商人が自分の努力と経験で手書きした地図を目の前でタダで写して出したんだもの怒って当然よ」


成る程、商人の怒りの形相になったのも納得できた。姐さんの言う通り、確かに金も払わずに地図を出して襲われそうになったからって、転移して置き去りにしたのは悪い事をしたな。


「じゃあ、次は商人に雇われた君達をあの商人の元に連れて行くよ」

俺が冒険者達に声をかけると、冒険者達はヒソヒソと俺が一瞬にして消えたり現れたりしていたのを相談している様子だが、シオンか姐さん説明してなかったのか。

もう面倒になった俺は、冒険者達をロープで3周ほど纏めて回り縛って、先程の商人の元に転移すると、同じ場所で商人の馬車がオークに襲われかけていた。

面倒ついでにオークをデコピンで弾いて冒険者達のロープを外したところで、商人に先程の地図の件を謝って地図の代金を適当に金貨10枚程手渡しをして、再度シオンの元に戻ると今度は少女の幼馴染とかいう、見た目少女と変わらない年頃の少年が起きて立っていた。


「あ、貴方が僕達を助けてくれたのか」

少年は俺に頭を下げてお礼を言った後、フラついて倒れそうになった所を姐さんが少年の背後から抱きつく形で支えた。


「ほら、まだ自由に動けるだけ体力が回復してないのだから無理しないの」

「あ、ご、ごめんなさい」


姐さんは少年に抱きつきながら優しく叱ったが、冷静な目で見るとガチムキ(骨太で肉付きのいい体格の男性の事)な姐さんが少年を襲っているようにしか見えないと不謹慎ながらに思ってしまう。

だが、そんな風に見えるとでも言えば俺が姐さんに半殺しにされるのは間違いない。
勝手に色々想像していると、少年はグッタリと貧血みたいな症状で意識を失った。


「あらあら、やっぱり気を失っちゃったわね。自分達を助けた人は誰ですかと、しつこく聞いてくるから丁度帰って来たミーツちゃんを指差したら、まだ走れる体調じゃないのに走っちゃうんだもの」


姐さんはそれだけを言うと、少年を抱っこして俺達の馬車に連れて行った。
残った俺はシオンと共に他に外で介抱していた子供達を姐さんと同じ様に馬車に乗せて、外で地図を広げてシオンと相談する事にした。

シオンに地図を見せてみると現在いる場所は、この国の端っこの方みたいで、今いる場所から王都はまでは普通に歩いても最低でも4、50日はかかるそうだが、途中途中にある村や町までは5日程の距離な為、馬車ごと俺の転移を繰り返して移動するしかないだろう。

俺が全力で走っても王都までは数日はかかりそうだし、一人で先に転移場所まで移動する事をシオンに提案すると、即座に却下された。
シオン曰く


「お前を見知らぬ土地で一人にさせて行動させると余計な問題が出そうだからダメだ。いい大人の年のお前に言う事じゃないが、お前の事だ問題を抱えて帰ってくる事は間違いないと思う」


そう言われて渋々諦めて馬車内にいる姐さんにシオンとの話とこれからの行動を伝えると、姐さんもシオンと同様に、俺が一人で行動する事を却下した。

そして、子供達全員を馬車内に乗せ、シオンと姐さんを御者席の端に立たせて、御者席に座っているソルトと交代して、上半身の準備運動をした後、馬車馬の手綱を握って転移を開始した。



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