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第2章

第32話

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 とうとう、本格的に旅立つ日が来たが、どんよりした雰囲気でワクワク感がなく、やる気が起きないでいた。
 昨日のウチに俺は村人達に旅立つ事を伝えたのち『何もやりたくない病』が発病してしまったからだ。
 その事を朝起きた時からシオンと姐さんに伝えると、とりあえず演技でもいいから笑顔で村を出ろとシオンに言われ、無理矢理作り笑いをしていると子供達に見破られた。


「ししょ~、どうしたの~?
いたい、いたいした?」

 どこか痛いと思われたようだ。
 他の人にはバレてないが、アビーにもバレてしまった。

「ミーツさん、どこか具合が悪いのでしょうか?こんな立派な所をお作りになられた事で、どうかされたのでしょうか?
しばらく休養されてはどうです?」

 そう言われたが俺は苦笑いしか出来ないでいた。そこに姐さんがやってきて、俺の病名は言わなかったが、心の病って事でこの場を収めてくれて、村人全員に見送られる形で出発する事になった。 しばらく馬車に揺られて乗っていたが突然、姐さんが馬車に乗ってた俺を引き摺り下ろした。

「な、何するんだ!俺は何もしたくないんだ!
もう、どうでもいいんだ!頼むから、ソッとして置いてくれないか!」
「ミーツちゃん?甘えちゃだめよ?
ミーツちゃんのその病気は甘えから来てる病気よ?だから、あたしがそれを治してあげるわ!シオンちゃん、ここでミーツちゃんに荒療治するから先に行ってて頂戴!」
「ああ、ほどほどにな。じゃあ、ゆっくりと行って置くぜ」

 甘え?何言ってるんだ姐さんは!病気だって言っているのに!姐さんがシオンに先に行ってろ何て言うものだから、シオンは馬車ごと先に行ってしまった。

「姐さん、何考えてるんだ!
シオン本当に行ってしまったじゃないか!
どうやって追いつくんだよ!」
「そんなの走ってに決まってるじゃ無い!
さっきよりは元気になったみたいね?
じゃあ、ちょっと組み手をするわよ!」

 姐さんがそう言うと、前にギルドの訓練場で訓練した時よりも、凄い速度で迫ってきた。
 気が付けば目の前に姐さんの拳があって、頭が無くなったと錯覚するくらいの衝撃が頭に響く。

 俺は何されたか分からないままに、飛ばされてしまって態勢を整える間も無く、顔を上げると目の前に姐さんの蹴りが見えたものの、拳同様に反応する間も無く顔面に蹴りが炸裂した。
 俺もタダではやられては堪らないと思ったが、今の蹴りで鼻が潰れ、顔面が歪んでいるように感じる。

 しかし、俺はステータスがかなり減ったといっても、MPや魔力は充分に有り余っているから急速に回復する想像魔法を使い、治して行くが、姐さんにはそんな事お見通しだったようで俺の意識が飛ぶくらいボコボコに殴って行った。

 しばらくして起きると、顔を中心とした身体中に痛みを感じて、今度こそ急速に癒しの魔法を使って傷を癒す。折れているであろう腕も元通りになった。
 俺の近くに姐さんは見当たらなく、立ち上がって辺りを見回すと、いつから居たのか俺の背後に姐さんだろうけど、人がいる気配がする。

 俺は振り向きざまに裏拳をするが、誰も居なかった。そう思っていると、俺の頭に思いっきりまたも凄い衝撃が響いた。
 何だったのか意識が薄れる中、見ると姐さんが俺の頭にカカト落としをしていたようだ。

 また意識が無くなって倒れた。
 どのくらい経ったか分からないが、目を覚まして直ぐに立ち上がり、辺りを警戒して身構えた。
 すると、今度は背後だけじゃなく全方向から殺気の様なモノを感じた。
 俺は冷や汗を全身に感じて、身動きが出来ないでいたが、構えだけは解かないでいた。
 未だに全方向から殺気を感じるが、姐さんは俺の前方十メートル程をゆっくりと歩いている。

 俺はガタガタ震えながらも、笑顔で近づいてくる姐さんに何の動作も出来ないままに、急速な回復が間に合わないくらいに殴られ蹴られた。
 そんな事が日が暮れるまで何度も起き、俺が大声で「降参だ!」と叫んでも、何も変わらずに気を取り戻しては殴られるといった事をされ続けた。
 そんな永遠とも思える事が続いて、夜が明けた頃、ようやく終わりを迎えた。

「どう?ミーツちゃん治ったかしら?
あたしも心を鬼神にして荒療治したのだけど」

 ようやく、何時もの姐さんになってくれて俺はホッとして姐さんの言葉に頷き、この場で気を失った。
 多分、そんなに気を失ってはないと思うが、起きたとき、姐さんの腕枕で目を覚ました。

「は?何で姐さんが俺に腕枕してんの?」
「だってあたしの地面での膝枕じゃ、高すぎるでしょ?だからよ?いつかあたしも、シオンちゃんにやってもらいたいわ」

 俺は跳び起きて、身構えてしまったが姐さんはキョトンとしていた。
 姐さんは俺の『何もやりたくない病』を荒療治とはいえ治して、介抱までしてくれたのに、かなり失礼な態度をとってしまった。
 今のは失礼だと思い、素直に謝る。
 
「姐さん済まない、姐さんのお陰で『何もやりたくない病』がこんな短時間で治ったのに失礼な態度を取ってしまった」
「あらあら、いいのよん。良かったわね?ミーツちゃん。じゃあ、丸一日経っちゃったけどシオンちゃんに追いつきましょうか。
ミーツちゃんも何故か、凄く動き悪くなっちゃってるけど、あたしにちゃんと着いてきなさいよ?」

 そう姐さんが言うと、もの凄い勢いで走りだした。俺も追いかけるように走り出すが、実力に差があり過ぎて、どんどん距離の差が開いて行き次第に見えなくなった。

 俺も全力疾走したが追いつけないって現実が辛い。姐さんが走っていった方向にしばらく走る事になってしまったが、本当に良かった。
『何もやりたくない病』の荒療治は滅茶苦茶に辛く、心が折れるほどキツかったが、姐さんさえ居ればいつでも治る事が分かっただけでも、今回はひたすらただの暴力を受けただけだが、収穫はあったと言えるだろう。
 見えなくなっても、走り続けこれからもまた一から強くなって最強を目指そうと心に強く誓って走り続けた。



第2章、完
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