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第二章

14 40Sハンマークラブ

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 洞窟の中を進んでいくと、すぐに向こうから魔物の気配が感じ取れるようになる。

「かなりの数がいるようだな」
「情報は正しかったらしいですな」

 ゴルディはそんなことを口にしつつも、

「戦いは数では決まりませんよ」

 と、リベルに視線を向けてくる。

「同感だ」

 彼は腰の剣に手をかけた。
 こちらで調達した22Sランクの鉄剣だ。

 なんの変哲もない品だが、長く同ランクに滞在しているわけでもないため、金銭を溜める余裕もない。

 そしていつまでも、このランクでくすぶっているつもりもなかった。

「さあ、来るぞ」

 リベルが剣を抜いた瞬間、洞窟の奥で魔力が高まった。

 直後、すさまじい勢いで飛んでくるものがある。

「躱せ!」

 四人が咄嗟に移動するなり、背後で破壊音が響く。

 放たれたのは水の塊。だが、当たれば骨をも砕く威力がある。

 それだけじゃない。
 四人の前には、飛び込んでくる魔物が何十とある。

 オレンジの殻を持ち、右のハサミは巨大で人の胴体ほどもある。巨大な蟹の魔物、ハンマークラブだ。

「当たらないでくださいね!」

 ゴルディがさっと回避すると、巨大なハサミが地面を打つ。
 衝撃で洞窟が砕け、破片を辺りに撒き散らした。

「少し耐えていてくださいね!」

 イーレンが後方で杖を敵に向け、魔力を練っていく。
 大規模な魔法を使おうとの準備だ。

「了解! 任せてね!」

 アマネは二振りの剣に炎を纏わせると、勢いよく敵との距離を詰めていく。
 剣が翻れば敵が焼けて逃げていき、彼女に近づこうとするものはなくなる。

 赤々とした彼女の姿は、くらい洞窟内でやけに鮮やかだ。

 その分、リベルへと近づいてくる個体が増えてくる。
 彼は迫るハンマークラブを見ながら、一呼吸。敵がハサミを打ち下ろしてきた。

「遅い」

 剣に魔力が流れ込み、迸る光が弧を描く。
 魔物のハサミは付け根で断ち切られていた。

 さらに彼はもう一度剣を振ると、真っ向から敵の胴体を叩き割る。強固な殻も、密なる魔力の影響を受けては、あっさりと真っ二つになるしかなかった。

「いきます!」

 イーレンが声をかけると、三人が左右に割れる。そしてハンマークラブの集団へと続く道ができあがった。

 杖の周囲で高まった魔力は風の刃となると、勢いよく放たれる。
 それは何十という魔物を貫いてなお威力は衰えず、洞窟の壁に深い傷跡を作り上げた。

「すごい威力だ」

 リベルが褒め、イーレンが笑みを浮かべる。

「得意技ですからね。それより……リベルくん」
「うん?」
「さっきの魔力……すでに、60Sくらいの力がありますよね? なんで23Sランク都市に?」
「こっちに来たばかりだから、ランクのことはよくわからない」
「来たばかりって……私たち、ここで何年もランクが上がってないんですけれど」

 イーレンはゴルディと顔を見合わせると、困惑を浮かべるのだった。

「これも、若さでしょうか」
「こんな新人、見たことないですよ」

 それから四人は危なげなく敵を倒していき、やがては洞窟の奥に到達する。

 鎮座するのは巨大な蟹。ハンマークラブの親玉だ。

「こいつが生みの親ってことか」
「どうしますか?」
「やるしかないさ」
「ですよね……!」

 ゴルディは剣を構え、敵を睨みつける。

「……40Sランクくらいありそうですね」

 格上の相手を見ながら、彼は意識を集中させていく。
 ランクが上とはいえ、桁が同じなら、まだ戦いようもある。

 巨大な蟹が動き出すなり、イーレンは杖を掲げた。

「いきなさい!」

 魔力が高まり、風の小鳥が生じると、敵目がけて滑空していく。

 そして衝突。

 甲高い音を立てながら、敵の殻を切り裂き――

「ほとんど効いてない!?」

 ハンマークラブの親玉は、意に介した様子もなく、じりじりと距離を詰めてくる。
 射程内に彼らを捉えると、巨大なハサミを振り上げた。

「離れろ!」

 四人が一斉に距離を取るなり、ハサミが振り下ろされる。

 ズゴォオオオオン!

 すさまじい衝撃に洞窟全体が揺れ、天上からは欠片がとめどなく落ちてくる。

 吹き飛ばされながらも、リベルは立ち上がり、メンバーの姿を探す。
 ゴルディとイーレンは洞窟の壁まで飛ばされていた。すぐには反撃に移れない。

 一方、アマネはすでに動き出している。非常に素早く、すでに相手の背後へ。

「やるな」

 彼女の姿を見ながら、リベルは敵に真正面から挑んでいく。
 ハサミを振り下ろしたばかりの敵は、次の攻撃には移れない。

「やあ!」

 アマネが剣を振るうと、蟹の足が飛び、体勢が崩れる。
 そしてリベルは剣に集中。全身の魔力が流れ込んでいく。

 それはあまりに眩しく、あまりに猛々しい。

 敵を切り裂くそのときを、今か今かと待ち望んでいるようにも思われた。

「さあ、いくぞ」

 リベルは敵のハサミを足場に跳躍。
 一気に敵の頭上に躍り出る。

「食らえ!」

 剣を一振り。
 まばゆい軌跡が洞窟内に走った。

 キィン!

 激しい音が響き渡り、次の瞬間、蟹が真っ二つに割れた。
 洞窟内には、一文字の深い深い傷跡が残っている。しばらくして、ズシンと音が響いた。

「……たった一撃だとは」

 ようやく起き上がったゴルディが、間の抜けた声を漏らした。

「ゴルディさん、これで依頼は達成、ということでいいんだよな? それとも、一匹残らず駆除する必要があるのか?」
「いや、お終いです。……魔物の素材を持って、帰りましょう」

 ゴルディとイーレンは、魔物の素材が残るのを待っている。
 リベルはティールのことを思い返していた。

 魔力を操るのに長けた者は、魔物が消える前に素材化することができる。しかし、そういった適性が高い者は多くもないようだ。

 結局、巨大な蟹を切ったというのに、残ったのはわずかな殻の部分。
 おまけとしては悪くないが、儲けたという印象はない。依頼としての報酬に色がついたくらいだ。

「それでは、行きましょう」

 四人は洞窟を戻り、魔導車に乗って23Sランク都市フィーリーに戻っていく。
 さほど疲れた素振りも見せず、たいした時間もたっていないため、ただ行って帰ってきたように見えなくもない。

 だが、確かに魔物は打ち倒した。

(……100Sランク階層に上がるのは、あとどれくらいかかるか)

 魔物が強くなってくると、二人だけでやっていくのも大変だ。

 メンバーを増やしたいところではあるが、リベルとアマネ、二人のランク上昇についてこられる人物はそうそういないし、上がるたびにその都度メンバーを組んでいては、連携がうまく取れない可能性が高い。

 どうしたものか。
 そんなことを考えていたリベルであるが、都市の門に辿り着くと、その前で仁王立ちしている少女の鋭い視線に射貫かれた。

「なんで、ここに……」
「リベル! ようやく会えたわね!」

 二人の間に緊張が走る中、

「昔の女?」

 アマネのとぼけた声が広がった。
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