上 下
3 / 11

1-3

しおりを挟む
やっと、カーブの緩い道になった。正面の窓を見ると道路の左右から生えたアーチ状の木々がトンネルのように続いていた。急なのぼり斜面のカーブをいくつも回ったから、頭がふらふらする。車酔いを飲んでくればよかった。途中、集落の中を通ったから到着かと期待したが、何も無く通り過ぎ施設はまだ先なのかと俺はため息をついた。

「澄田さん、酔ったりしていませんか?」

先生の声を久々に聴いた。山のあまりたな急なカーブを必死に耐えていたせいで、すっかり会話が途絶えてしまっていたようだ。歯を食いしばっていたのか、口が開きにくい。

「はい。大丈夫です、」

乗せてもらって悪いから自分が少し酔い気味なのは伏せた。

「もうすぐで着きますので、辛抱してください。どうしても体調がすぐれないときは言ってくださいね」

そう先生が言ってすぐに、車はゆっくりとスピードを落とし、木々に埋もれていた道路の横道に入って行った。
その時は身の危険を感じ、緊張が走ったが、すぐにその心配はなくなった。
道の陰から、徐々に建物が見えてきた。車が一台もない駐車場の奥に汚れた壁の目立つ病院があった。そのまま駐車場に入り、病院の出入口前で車は止まった。

「お疲れさまでした。到着です」

先生が自分のシートベルトを外す。

「はい、ありがとうございます」

続いて自分もシートベルトを外す。運転席から降りた先生が先に後ろのドアを開いてくれたから荷物を持って車から降り、固まった体を伸ばす。
建物の壁にはさくら第一個生院の文字。そこから見上げると建物は正方形に近い形で、街の中にある新しくできた総合病院よりかは、昔からあってお年寄り達が利用するようなこじんまりとした病院のように感じた。
建物の窓が開いてたり、閉じていたり、カーテンが閉じていたり、開いていたり…。そこから人の話し声が聞こえてきて、俺は嬉しかった。
人がいる安心感。先生が車の中で話していることは嘘じゃなかった。自分のほかにも誰かがいる。同じ病気の人かもしれない。
やっと、治るんだ。そう思った。

「忘れ物は無さそうですね」

代わりに確認してくれたのか、先生が後ろのドアを閉じながら言った。自分が不思議そうに建物を見ていると思ったのか、先生は「古臭いですよね」と話始めた。

「昔は病院だったみたいです。途中、集落があったでしょう?あそこに住んでいる方々が利用していたのですが、経営困難で勤めていた方々はここを離れてしまったんです。勤めていた方々は今、麓で診療所を開いて時々あの集落の様子も見に来ているそうです」

「再利用って、やつ…?」

「はい。もともと合ったものを利用したほうが安く済むかと思いまして。しかし、建て替えなどで結局お金はかかってしまいましたけどね。今も借金の返済中です、」

先生は頭を掻いて困ったように笑った。よくみると先生の頭は白髪がちらほら見えた。苦労してるんだなと俺は心の中で労った。
「澄田さん、こっちです」すでに建物の入り口の扉を開いて待ってくれていた先生。扉は手動の引き戸だった。入るとまず目の前に受付と待合用の長椅子が壁沿いに2つ置かれていたが、人のいる気配はしない。

「澄田さん、少し休憩されますか?」

「いや、大丈夫です、」

「わかりました」

先生は受付の横のドアを開けて中に入り、鉛筆と紙を取り出し受付のテーブルの上に置く。

「では、着いて早々申し訳ございませんが、問診票のご記入をお願いします。ここにお名前、ご住所、症状を。···あ、こちら、ボードをお使い下さい」

「あ、はい、」

先生から鉛筆と問診票、ボードを受け取って、待合用の長椅子に座ると、どっと疲れが出て壁に背中を預けた。スマホを取り出して時間を確認すると駅を出てから2時間経過していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。 そこに迷い猫のように住み着いた女の子。 名前はミネ。 どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい ゆるりと始まった二人暮らし。 クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。 そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。 ***** ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※他サイト掲載

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

ようこそ!アニマル商店街へ~愛犬べぇの今日思ったこと~

歩く、歩く。
キャラ文芸
 皆さん初めまして、私はゴールデンレトリバーのべぇと申します。今年で五歳を迎えました。  本日はようこそ、当商店街へとお越しいただきました。主人ともども心から歓迎いたします。  私の住まいは、東京都某市に造られた大型商業地区、「アニマル商店街」。  ここには私を始め、多くの動物達が放し飼いにされていて、各々が自由にのびのびと過ごしています。なんでも、「人と動物が共生できる環境」を目指して造られた都市計画だそうですね。私は犬なのでよくわからないのですが。  私の趣味は、お散歩です。いつもアメリカンショートヘアーのちゃこさんさんと一緒に、商店街を回っては、沢山の動物さん達とお話するのが私の日常です。色んな動物さん達と過ごす日々は、私にとって大事な大事な時間なのです。  さて、今日はどんな動物さんと出会えるのでしょうか。

『元』魔法少女デガラシ

SoftCareer
キャラ文芸
 ごく普通のサラリーマン、田中良男の元にある日、昔魔法少女だったと言うかえでが転がり込んで来た。彼女は自分が魔法少女チームのマジノ・リベルテを卒業したマジノ・ダンケルクだと主張し、自分が失ってしまった大切な何かを探すのを手伝ってほしいと田中に頼んだ。最初は彼女を疑っていた田中であったが、子供の時からリベルテの信者だった事もあって、かえでと意気投合し、彼女を魔法少女のデガラシと呼び、その大切なもの探しを手伝う事となった。 そして、まずはリベルテの昔の仲間に会おうとするのですが・・・・・・はたして探し物は見つかるのか? 卒業した魔法少女達のアフターストーリーです。  

今日から、契約家族はじめます

浅名ゆうな
キャラ文芸
旧題:あの、連れ子4人って聞いてませんでしたけど。 大好きだった母が死に、天涯孤独になった有賀ひなこ。 悲しみに暮れていた時出会ったイケメン社長に口説かれ、なぜか契約結婚することに! しかも男には子供が四人いた。 長男はひなこと同じ学校に通い、学校一のイケメンと騒がれる楓。長女は宝塚ばりに正統派王子様な譲葉など、ひとくせある者ばかり。 ひなこの新婚(?)生活は一体どうなる!?

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

処理中です...