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死線を乗り越えろ
しおりを挟む鋭く刺すように私の胸に向かって来るデススコーピオンの尖った尻尾。
くっ…速い!かわしきれない。あんなものに刺されたら一撃で死んでしまう。なまじ助かったとしてもおそらくあの尻尾には猛毒が…万事休すか。
かわしきれないなら防ぐまでと思って何とか奴の尻尾の軌道線上にあの男から預かった木の枝のような剣を向け攻撃に備える。いや…剣と言ったがどう見てもこれは木の枝だろう。
こんなものに命を任せるのは心もとないがそれでも先ほどの切れ味はすさまじかった。だがあの切れ味を出すには強度を犠牲にしなければそんな切れ味は出せないはず。やはりこの攻撃を受けるのにこの木の枝では…私の命運もここまでか。
「あきらめるな!その構えのまま死ぬ気で踏ん張れ!まだ耐えられる!」
私の心が折れそうになった瞬間彼の声が響く。その声に我に返りダメでもともとだと必死にその場に踏ん張る。
ガリガリガリガリガリガリッ!!
「うがああああああああああっ!!」
けたたましい音と共にデススコーピオンの尻尾が縦に真っ二つに分かれる。
私の両脇を分かれた尻尾が走り抜けていく。
危なかった。横受けにしていれば別れた尻尾がそのまま私の頭と腹に直撃するところだった。
しかし今のを切ったと表現して良いのか迷う。私はただ軌道に置いただけ。これは切ったと言うよりは割ったと言う表現のが近いのだろう。
彼はこの結果を読めていたのか。彼は一体何者なのだ。剣を生み出したのだから鍛冶師には違いないのだろうが私の知る鍛冶とはまったく違う技術だ。
普通は鉄を溶かして成形して叩いて鍛えてそうやって作るものだと思っていたのに木を鉄の剣より鋭く堅くしたなど意味がわからない。
「クソガァアアアア!人間の分際でぇええ貴様ら人間はワシの食料だろうがぁあああ!」
一瞬の時間にしか過ぎないとは言え今は戦闘中だった。戦闘時における一瞬の思考等平時の長考だ。
こんな調子ではいつ命をとられてもおかしくはない。
非現実的なものを見せられたからとは言え呆然としすぎだ!引き締めなきゃダメだ!
尻尾が真っ二つに分かれたとはいえ千切れた訳ではない。そのまま分かれた尻尾で私を叩きつけようと振り回してくる。
「人間が食料なんてそんなお前の思い通りになんかにさせるかぁあああああ!!」
もう迷わない。原理なんかわからないがこの木の枝は剣だ。私の命を預けるにふさわしい名剣だ。
私の叫びと共に放たれた一閃がデススコーピオンの尻尾を千切り切る。
「うぎ…」
奴が叫び声を上げる間もなくそのまま連続で切り込み…
ザザザザザァァァァン!
頭部を割る。それと同時に…
バキッ
この死線を乗り越えさせてくれた木の枝…いや戦友が砕け散った。
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