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1章

35話 お礼にどうぞ!

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 ヘパさんについて歩くこと数十秒、俺は昨日この屋敷に来て、客間まで案内されたルートと同じルートを辿って屋敷の玄関前に到着した。

 玄関前には、既にべルート公爵家族と、何人かの使用人たちが待機していた。

「レイ、きたか。」

「は、はい。お待たせしていたみたいですいませんでした。」

「ははっ。レイは客人で恩人なのだから気にするか。それに待ったというほどの時間でもないさ。」

 べルート公爵の言葉に俺は思ってしまう。

 それ、デートの常套句みたいでなんか嫌です!! と。

 そんなあほみたいなことを考えている俺のことなど気にせず、べルート公爵は話を続ける。

「それじゃあ、レイ。商業ギルドまでは、私と他に護衛の騎士五人に、執事のペパも同行する。とは言っても、詳しい話をする場では他のみんなには外で控えてもらうから安心してくれ。」

「は、はあー? わかりました?」

 護衛騎士という言葉に気を取られて気のない返事をしてしまう。やっぱり護衛騎士っているんだなー。ってよくよく考えたら昨日の馬車を護衛してた人達がそれか! と気づくと途端になんだか恥ずかしくなってくる。なんで気づかなかったんだよ俺!! って今はそれはいい。キャルアさんも揃っていることだしさっき造った指輪を渡しておこう。

「あっと、忘れないうちに.......公爵様と奥様にこちらの指輪をお造りしましたので、どうかお納め下さい。」

 べルート公爵のこととキャルアさんのことをなんて呼べばいいかなんて俺には分からないから、とりあえず失礼のないような呼び方を選び、べルート公爵に二つの指輪を手渡す。

「公爵様なんて呼ばずにべルートと呼んでくれて構わないのだがな......って、ん? 今なんて言ったんだ?」

 いや、流石に公爵様を呼び捨てにするのは色々とまずいと思うから絶対呼び捨てには出来ないよ? ってなんでそんなどうでもいいところは聞いていたのに肝心の部分聞いてないんだよ!

「え、えっと、ですからこの指輪を御二人のためにお造りしましので、献上?致します。」

「..........この指輪を無料で私と妻にくれるというのか?」

「えっ? えーと、はい。エリシャ様に昨日お渡ししましたので、お二人も欲しそうにしていましたし、ペアリングをと思ってお造りしたんですが、いらなかったですか?」

 ま、まさか。出処のわからん平民風情の俺から物品を渡すのは不敬とかだったりしないよな?

「レイ君? 指輪はとても嬉しいし、ありがたく受け取ります。けど、代金はきちんと払わせて貰いますからね? こんな見たことないくらい綺麗な宝石が装飾されているリングですもの、かなり高いと思いますし、それにあなたはこれから商人になるんですよ? 働きに対する対価はきちんと受け取らないと駄目ですよ?」

 キャルアさんは、優しい口調で俺にそう提言してくれた。ああ、そういうことだったのか。確かにこれから商人になるやつが、無料で高い指輪を譲るのは良くなかったな。しかも形だけではあるが、昨日俺はこの人達の命を救ってる。それだけでもかなりの借りを作っていることになるのに、指輪まで無料で貰うのは更に俺に頭が上がらなくなってしまう。それは公爵家としてはあまり良くないことだろうな。

「えっと、そのすいませんでした。色々と気を利かせられなくて........その、次から気をつけます!」

「ふふっ、分かってくれればいいのよ?」

「.........と、ところで、レイ、一つだけいいだろうか?」

「えっ? はい。なんでしょうか?」

 話が纏まったと思った矢先にべルート公爵から何やら神妙な面持ちで何かを聞かれることになり、一気に緊張度が増す。なんだ? もしかして、旦那さんであるべルート公爵の目の前でキャルアさんと話過ぎたから怒っているのか? やばいやばいどうしよう!?

「その、なんだ。お金を払うことはもちろんなのだが、そのだな、エリシャに上げたのには、銘を打っていたのに、私たちに造ってくれたのには銘を打ってくれないのか?」

 なんだから拗ねたような口調でそんなことを言ってくるべルート公爵。なんだこの人? 乙女なのか?

 ってんなことはどうでもいい。銘を打ってくれないのかって言われたけど、たしか俺打ったはずだよな.......って待てよ? もしかして俺、最初に造った指輪にしか銘を打ってなかった!! ま、まずいぞ。どう言い訳したらいいんだよ!! どうする......どうする......。
 いや、ここは言い訳せずにありのままを打ち明けた方がいいか。

「あっ、えっと、その、御二人に差し上げるものを造ろうと思っていたことに囚われすぎて、その、わ、忘れてました.......。」

「っ!!! そ、そうか。それは、なんだ、その.......うん、これからは忘れないように気をつけるんだぞ。」

 べルート公爵はその余りにも残念な理由に最初は驚いていたものの、最終的には、優しく気をつけるように注意してくれた。

「は、はい!これからは気をつけます!」

「では、その、うん。私と妻の分にも後で打っておいてくれるか?」

「っ!!! は、はい!! わかりました!!!」


 その後に俺の銘を打っておいてくれと言われた俺は、何とも言えない.....いや、とても嬉しい気持ちで心を満たされ、満面の笑みでそう返した。






「はぅっ!!!! レ、レイ様の笑顔........か......カワカッコイイですっ..........。」

 キャルアさんの横でエリシャさんが顔を紅潮させてブツブツと何かを呟いていたけど、俺には何も聞こえてはこなかった。

 



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