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1章
17話 神獣
しおりを挟む鑑定結果が鑑定不能と出た瞬間、それは動いた。
その動きは一瞬だった。
いつ動いたとか、どうやって動いたとかそんな些細な問題ではなかった。
気がついたら、目の前にいた。
瞬きをする間もなく数十メートルの距離を一瞬にして移動してきていた。
その生物は、馬のような見た目だった。が、絶対に馬なんかではない。
体長は、3メートル程。黒い体毛に、額には一メートルを越えるであろう太く鋭い角が生えている。背中には漆黒の翼が備えられている。一瞬ペガサスか?とも思ったが、ペガサスはこんな邪悪な見た目ではない。
悪魔の使い...............。そんな見た目だ。間違っても神聖な生物ではない。
俺の目の前に一瞬で近づいてきた悪魔の使いのような馬は、その場で大地を震撼させる程の迫力で嘶いた。
俺はその嘶きを受けて、その場から一歩も動くことが出来なくなる。状態異常というやつか? 隣にいるフェルとラーナも動けなくなっているのを見るに、こいつのスキルか何かだと推測する。
やばい。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!!!
このままじゃあ死ぬ。
確実に死んじまう。
逃げなきゃ............逃げなきゃ死ぬ。
こいつは戦っても勝てる相手じゃない。
いや、ダメだ。どうやったってもうこいつから逃げるなんて無理だ。
だったら.............。
『悪い、フェル、ラーナ。多分ここでお別れだ。でも、お前達には苦しみも痛みも感じさせないから安心してくれ、じゃあな。二人とも、俺なんかといてくれてありがとう。』
『あ、ある...............』
『ますたあー!まっ..................』
二人が念話を飛ばしてきている最中だと分かっていながら、俺は二人の念話を最後まで聞くことなく、二人の召喚を解除した。
ははっ。俺が死んだら、フェルもラーナも死ぬことには代わりないのに、何やってんだろうな..............。
でも、二人が他のやつに殺されるくらいなら、これでいい。
俺の隣にいたフェルとラーナが突然消えたのを見ても、目の前の生物は、なんの反応もしなかった。
ああ、そうか。俺達になんて興味が無いんだ。
人が小さい虫を煩いと一言いって叩き殺すのと変わらない。
俺はこいつにとってはそれくらいの存在なんだ。
目の前に、自分にとって邪魔な存在がいるから殺す。ただ、それだけなんだ。俺たちを殺すことに意味なんてないんだ。
くそ、身体は動かないのに、思考だけはいつもの数倍の感覚で物事を冷静に考えている。これがもしかして、走馬灯ってやつか?
ああ、きっとそうなんだろう。
はあー。俺、死んじゃうんだな。
あーくそ。ここにいきなりきて、段々強くなってきていたのに、まだここにきてから一日も経ってないのに、俺は死ぬのか。
もっと生きていたい。今までの人生は良いことなんてなかったけど、これからいっぱい良いことあるはずだと思って今まで生きてきたのに、終わり方も最悪とか..........ついてねえな。
ほんと、俺は運がない。
そんなことをどれくらいの時間の間で考えていたんだろうか。
多分、一秒も経ってない。コンマ数秒とか、それくらいしか時間は経っていないだろう。でも、そのコンマ数秒の間で俺は目の前の悪魔に腹を角で貫かれた。
痛みを感じないのは、時間が全くといっていいほど経っていないからだろう。
でも、だんだんと腹のあたりが熱くなってくる感覚が湧き出てくる。そして、それに呼応するように激痛がゆっくりと身体を蝕んでくる。
「ぐおあああぁああああぁあああぁあぁああああぁあぁあぁああああぁあぁ!!!!!!」
激しい痛みが全身にゆっくりと回ってくる間、俺はずっと苦痛で顔を歪めながら激しい悲鳴を上げていた。
その様子を見て、今度は右手を、次は左手を、その次は左足、右足、胸と楽しむように、目の前の悪魔は俺のことを角で突き刺してくる。
「がぁああああぁあっ!!!!!!」
「いっだあいっいっいっがぁああああああ!!!!」
俺は突かれる度に悲鳴を上げる。
この地獄はいつ終わるんだ。
はやく............もう、はやく...............。
「もうやめて.........はやく.........はやくころして..........」
俺はいつの間にか、目の前の悪魔に懇願していた。
ただ、もう苦しかった。この地獄のような苦痛から早く解放されたかった。
自分で死のうと思ってももうできない。両腕両足はもう感覚なんてない。舌を噛み切ろうにも、どこにも力は入らない。
ああ、もう手遅れだ。
このまま、飽きられて殺されるのを待つしかない。
だんだんと、苦痛が和らいできた。
いや、もうなんの感覚もないから痛みが分からないのだろう。
視界が滲む。
どんどん全身が凍えていく。
寒い。
寒さすら感じなくなってきた。
どれくらい経ったのだろうか。
やっと悪魔の使いが俺を痛ぶるのに飽きたのか、角で俺のことを刺すことをやめた。
そして、悪魔の使いが、俺の顔の真上で前足を高く上げた。
ああ、きっとこの前足で踏まれて俺は本当に殺されるんだ。死ぬんだ。
やっと死ねるのか..............。
なさけない.......................。
結局、一矢も報いることもなく俺はされるがままに殺される。
情けない。
なにが、強くなっただよ。
なにが、二人を守るだよ。
なにも強くない。なにも守れてないじゃないか。
結局弱いままだった。
もしも、次があるなら。
次があるのならば.................。
もっと、もっと。
もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと。
強くなりたい。
誰にも負けないくらい強く。
こんな黒いだけの馬みたいな化物でも殺せるくらい強く。
神様.........もしも............もしも神様が俺をこの世界に転移させたのだとしたら............おねがいだから.............つぎは...........このつぎはもっと強くなれるような.........じんせいを...........おねがい..............しま.............。
そこで俺は、悪魔の使いに顔を踏みつけられ、意識を消失して絶命した。
最後に見えたのは、悪魔の使いの真上に、真っ白な神々しい何かが悪魔の使いに向かって何かをしようとしている光景だった。
ああ、きっとあれは悪魔の使いを殺そうとする神様の幻影だったのだろう。俺が悪魔の使いを殺せる存在を願って、願って顕著させたまぼろしの光景なのだろう。
最後に地獄の中で希望が見れて良かった。
これで、なにも後悔なく死ねる。
......................。
【如月零の死亡が確認されました。ソウルポイントが1残っています。蘇生救済を実行しますか?】
【如月零の死亡が確認されました。ソウルポイントが1残っています。蘇生救済を実行しますか?】
【如月零の死亡が確認されました。ソウルポイントが1残っています。蘇生救済を実行しますか?】
「ん?ああ、死んでしまったらもう意識がないから実行できないのか。んー、これはミスだな。変更しないと無駄なシステムになってしまう。」
【Iシステムへの干渉を確認。プログラムが再構築されます。再構築が終わりました。】
【Iシステムの変更が確認されました。新システムの実装により、蘇生救済の自動化が確認されました。】
【如月零の死亡が確認ソウルポイントが1残っています。ソウルポイント1を消費して自動で蘇生救済を実行します。】
【如月零の蘇生救済が完了しました。空間Xに魂を移送します。】
「うんうん、これで問題ないね。彼は今後もなにかしてくれそうだし、まだまだ手放すには惜しい。ふふふっ、これからも楽しませてもらうよ、レイくん..................。」
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