上 下
2 / 57
1章

1話 これってもしかして、異世界転移?

しおりを挟む


「..........えっ..........?」

 俺はポツリと一言そう言って呆けていた。
 2年ぶりに外に出て、2年ぶりに学校の校門を潜った瞬間、ひかりに包まれて気がつけば森の中。


 これは一体どういうことですか?
 誰か至急説明求む。


 うん。


 そんなこと言っても誰も説明してくれないよね。わかってる。


 だって、周りを見れば森しかないんだもん。


 だーれもいないんだもんな。俺が何を言おうと誰もいないんだから返事が返ってくるわけないさ。


 よし、落ち着け俺。状況を整理して現状を理解しないと何も始まらない。



 

 それから数分間その場で長時間思考を巡らせて現状を理解した。


 これは、もしかして、異世界転移というやつなのでは?


 ていうか、これ異世界転移だわ。


 冷静に考えれば簡単じゃないか。


 久々に外に出た引きこもりの元いじめられっ子が突如謎の光に包まれて、気づけば別の場所に移動していた。


 紛うことなき異世界転移だ。

 テンプレだ。テンプレートだ!

 
 よし、とりあえず現状は理解出来た。


 さて、次はなぜ俺がいきなり転移したかという原因を探ろう。


 異世界転移のテンプレといえば大きくわけて二つだ。

 一つは何者かによる召喚。

 もう一つは理由は不明だ。


 前者の場合は召喚主が近くにいて俺に話しかけてくる可能性が高いのだが、既にここに転移させられてから十分近く経っている。それでも今だに俺に接触してきていないということは、こちらの線は薄そうだ。

 てことは、後者か?後者であれば原作者としてはかなり楽だ。



 .................はっ!!!


 今なにかに取り憑かれた気がする.....気のせい?


 えっと、どこまで考えたんだっけか....そうだ、前者の場合の線はかなり薄いからこの転移は謎転移という線が現段階では一番高いということだ。


 そもそもここが異世界でない可能性もあるわけだが、今は異世界ということにしておこう。


 別に異世界系のネット小説にハマって自分も異世界に行ってみたかったとか思っていない。


 俺もしかして異世界転移物の主人公的なやつになれるんじゃねとか思っていない。




 とりあえずこれで原因も断定出来た。



 さて、次は待ちに待った俺のチートスキルとは一体どんな性能なのか確認する作業に入ろう。


 そりゃいきなり異世界転移したわけだし、もちろん俺にはチートスキルがあるはずだ。ていうかわなかったら生きていけないだろ。


 まずは、スキルの確認だ。


 とりあえず俺は「スキルオープン!」「ステータスオープン!」とかそれっぽいスキルが確認できそうな謎の呪文を唱えて見たり頭の中でイメージしてみたりしたのだが、全くもって意味はなく、なにも分からなかった。



 くそ!!!!!これじゃあチートスキルがあっても意味ねえよ!!!使い方も性能もわかんないチートスキルとかただのゴミスキルだよ!!


 ていうか、そもそもスキル自体ない可能性もあるのか.........。


 いけないよ。それはいけないことだ。チートスキルがないなんてありえない......。とりあえず今はスキルについては考えないことにしよう。



 
 とりあえず大体の現状は整理できただろう。
 と、そこでお腹がグゥーとなってしまった。

 そう言えば家を出る前に昼飯を食べてこなかったんだった。

 どうしようか......。


 周りに食べられそうな物は.......ないな......。



 まあ、せっかく異世界転移したんだし、探検ついでに食料探しでもするか。

 俺はそう考えつくとすぐにその場で両手で頬を2回ほど叩き気合をいれて、その場から動き始めた。



 そして、暫くしてから俺はこの場所にきてから初めて自分以外の生き物を発見した。

 その生き物と俺との距離は数十メートルは離れているだろう。その生き物は俺の存在にはまだ気がついていない様子だ。

 俺はその生き物に気づかれないように素早く近くの木陰に入って身を隠す。


 なぜ身を隠すのかって?


 それは仕方ないだろう。


 なんせ、俺が初めて出会った生物は、俺の知識にはない、文字通り異世界の生物だったからだ。


 体長は大体130cm程だろう。肌の色は全身緑。顔は人とは比べ物にならない程に醜い顔だ。耳なんかは長く尖っている。あれは紛うことなきゴブリンだ。


 異世界の亜人種の魔物、ゴブリンがそこにいた。


 俺は思わず声を上げそうになったが、慌てて両手で口を覆って息を殺した。現状俺にもしもチートスキルがなかった場合、たとえゴブリンであっても俺に勝つ術はないからだ。

 現実的なネット小説の中では、ファンタジー最弱種のゴブリンですら、普通の一般人では成す術なく殺されてしまうのだ。


 それは俺も例外ではない。これは夢の中の出来事じゃないんだ。これは現実に起こっていることなんだ。俺はまだ死ぬわけにはいかない。死にたくないんだ。


 だから、ここで無駄に命をかけるような真似はしない。

 
 と、考えていたのだが、不意に木の枝から毛虫が目の前に落ちてきたことで俺は悲鳴を上げてしまった。


「うぉおおっ!!!」


 不意の出来事だったのでかなりの大声を上げてしまった。そして、慌てて先程見つけたゴブリンの方を見てみると、ゴブリンの方もこちらを見ていて、瞬間ゴブリンと目が合った。


 まずい.......。これはヤバい......。


 早く逃げなければ.........。


 そうは、思っていても全く足が動かない。初めて経験する本物の死の恐怖に足がすくんでしまったのだ。

 俺が動かないのを見ると、ゴブリンは奇妙な笑い声を上げて!気味の悪い笑顔で俺に向かって駆けて来た。


 やばい!これじゃ本当に殺される。俺は竦んでいる両足を両手で何度も殴り、何とか足を動かそうと試みる。そして、ようやく足が動いてくれたところで俺はゴブリンの体当たりをまともにくらう。


「ぐぉっっっ!!」

 俺は言葉にならない悲鳴を上げてゴブリンに押し倒された。ゴブリンはそのまま俺の上に跨り、俺の顔目掛けて何度も拳を振り上げては振るってきた。

 俺は必死に両腕で顔面をガードしようとしたが、ゴブリンはガードの上からお構い無しに拳を振るってくる。

「ぐっっ!!がっ!!いっ!!!」

 俺は経験したこともないあまりの痛みに悲鳴を上げる。奴らにいじめられていた時の暴力など生ぬるいと感じるほどの圧倒的暴力に俺は心が折れかけていた。


 だんだんと意識が遠のいて行くのが感じられる。

 

 あー。俺ここで死ぬのか.......。


 まだまだ、やりたいことあったのにな.......。



 死にたくないな.......少なくとも奴らに復讐して親に今までのことを謝るまでは死にたくない.....いや、死ねないんだ!!!!!


 俺はそう決意した時、ガードに使っていた右腕で、地面を探り、近くに何か武器になりそうなものがないか探す。

 その間も何度も何度もゴブリンの拳が襲ってくるが、既に痛覚は麻痺していて痛みは感じなくなっていた。不幸中の幸いというやつか。


 そして、俺は右腕の近くに片手でギリギリ持つことが出来そうな中くらいサイズの石を見つけた。

 俺はその石を見つけるのと同時に、右手でしっかりと石を掴み思いっきり横からゴブリンの頭を石で殴りつけた。


「ゲギァッ!!」

 ゴブリンは、その衝撃で気味の悪い悲鳴を上げるのと同時に頭を両手で抑え出した。俺はその隙を逃すことなく、直ぐにもう一度ゴブリンの頭を石で殴る。

 二度目の攻撃もまともにくらったゴブリンは、思わず足の力を抜き、俺の拘束を緩めた。

 俺はそれを逃すことなく、今度は逆にゴブリンを押し倒してマウントポジションをとる。

 今も尚、頭を抑えているゴブリン。頭からは青い血がドクドクと流れていた。

 俺はそれを気にすることなく、ゴブリンの喉笛目掛けて両手に持ち替えた石を思いっきり叩きつけた。

「ゲァッッ!!」

 ゴブリンは、声に鳴らない悲鳴を上げて思わず両手を頭から離してしまう。俺はすかさず再度両手で持った石を振り上げて今度は、ゴブリンの顔面目掛けて思いっきり振り下ろす。何度も何度も振り上げては振り下ろす。


 どれくらい殴っていたのか分からない。

 少なくとも二桁は軽く超えて殴っていただろう。


 気づけば、ゴブリンは既にぐったりとして、絶命していた.........。


 ああ、俺もすぐにこうなるのかな.........。


 相打ちってやつか.............。

 もう、先程感じていた痛みも全く感じない...........。



 だんだん寒くなってきた..........。



 だんだん近づいてくる死を感じ、身体が震え出す。と同時に頭の中に声が響いた。






『八の経験値を取得しました。レベルアップしますか?』






 あ?ああ..........。





 その声が聞こえてきた瞬間、俺は無意識のうちに了承した。





 そして俺は再度光に包まれて、気がつけば俺の一番馴染み深い場所に転移していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。 突然足元に魔法陣が現れる。 そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――― ※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

月風レイ
ファンタジー
 あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。  周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。  そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。  それは突如現れた一枚の手紙だった。  その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。  どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。  突如、異世界の大草原に召喚される。  元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

処理中です...