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本編
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成瀬君は なんで私と毎週 呑んでるの?
体調はホントに大丈夫なの?
何度か喉をついて出そうになる問いを彼に ぶつけることが できずに再会から半年が経とうとしていた。
そんな矢先、私の疑問を一気に解決する情報が飛び込んでくる。
「瞳ちゃん、瞳ちゃん」
出先から帰ってきた社長の奥さんが私の側に駆け寄ってきた。
「だいぶ前の お見合い覚えてるかな?ほら4つ前の人。珍しく年が近かった……」
「あ、えっと。駅前のホテルで待ち合わせた、人です、か?」
しどろもどろに なりながら問いかける。
やばいなぁ。
密会してたのがバレたかな……。
ここ最近の お見合いで年上じゃなかったのは成瀬君だけ。
ダメだったと言いながら陰で会ってたって知ったら気分は良くないだろう。
今さらだろうけど、謝った方がいいよね。
椅子から立ち上がろうとする私の耳に奥さんが顔を寄せてきた。
「あの人、かなりヤバイ病気みたいなの。ごめんなさいね、そんな人を紹介しちゃって」
え?
申し訳なさそうに謝る奥さんの声が遠くに聞こえる。
「ほら、時々テレビでやってる骨が できちゃう難病!!あれみたいなのよ」
え?
「それが原因で本社から左遷されてきたみたいでね~。でもこっちの会社も休みがちみたいだし、ホントごめんなさいね~」
「あ、い、いえ。大丈夫です」
なんとか それだけを言うと、奥さんが可愛いラッピングの小さなお菓子を置いていった。
難病?
骨ができちゃう?
え?え?
成瀬君が?
もう仕事どころではない脳内で必死に やるべきことを やって、なんとか終業時間になった。
それと同時に携帯が鳴る。
毎週木曜日の定例ライン。
『今週 呑まないか?』
成瀬君からの……。
進行性骨化性線維異形成症。
骨系統疾患と呼ばれる全身の骨や軟骨の病気の1つ。
全身の筋肉やその周囲の膜、腱、靭帯などが徐々に硬くなって骨に変わり、このため手足の関節の動く範囲が狭くなったり、背中が変形したりする病気。
『骨ができる難病』と打ち込めば情報が出てくる時代。
でも、情報は情報として認識できても、それが成瀬君と どうしても繋がらない。
手が震えるとか冷たいとか書いてないわよね?
奥さんの勘違いなんじゃないかしら?
成瀬君のことを思いだしながら、症状を打ち込んでは『違う』理由を探していた。
「お待たせ」
いつもと違う、ちょっと和モダンな居酒屋で待ち合わせ。
成瀬君は、いつものように少し遅れてやってきた。
「お仕事お疲れ様……」
「斎藤もな」
ピシッと隙のないスーツ姿。
整えられた髪、背筋の伸びた自信に溢れた雰囲気。
これで仕事してないって?
ありえないと首をふる。
「ん?どうした?」
「あ、ううん。とりあえず生でいい?」
「ああ」
「すいませ~」
「こらこら。どうした?また前みたいに なってるぞ」
「あ、そか」
「オーダーは俺の仕事ね」
茶化すように笑う成瀬君に曖昧に笑って返す。
聞かずに ぐちゃぐちゃ悩むくらいならハッキリ聞きたいタイプの私でも さすがに これは聞きにくいな。
そんな風に思いながら、あつものように雑談と肴をつまみに呑みはじめた。
「きゃ。中も素敵ですね~」
いい感じに酔いが回ってきた頃、場違いに甘ったるい声が響いた。
何気なく入り口を見ると、以前 会った成瀬君の取引先の肉食女子がいた。
私の不躾な視線に気づいたのか肉食女子と目が合う。
必然的に隣にいる成瀬君も視界に入った。
またあの空間に巻き込まれるのか……。
少し身構えたが、肉食女子は何事もなかったかのように私たちの後ろを通っていった。
んん?
クエスチョンマークが頭に並ぶが、肉食女子の隣にイケメンがいたので何も言ってこなかったのかと落ち着く。
「次なに食べる?」
肉食女子に気づかなかったのか成瀬君が普通にオーダーを聞いてきた。
「あ、うん。じゃあ……」
お手洗いに立つと、そこに肉食女子がいた。
とりあえず軽く会釈をして通り抜ける。
「遺産とか狙ってるんですか?」
ぼそっと肉食女子が呟く。
「は?」
「成瀬さん、先月付けで退職してますよ?」
「え?」
「病気も病気ですし、難病指定といえど治療費は かさみますし、あなたが思ってるような生活は できませんよ?」
口紅を塗りながら視線を向けずに話す。
「ちょ、ちょっと何 言ってるか分からないんですけど?」
「だ~か~ら~!!優良物件 捕まえたと思って有頂天になってるかも知れませんけど欠陥品だって教えてあげてるんですよ!!」
イライラしたようにキッと こちらを睨む。
「本社から来たって言うから期待してたのに あんな不良債権。ありえないっつうの!!」
「ちょっと!!彼が好きで病気になった訳じゃないのに酷い言い方ね!!」
「はぁ?」
「優良物件とか不良債権とか、人のこと言えるほど あなたは凄い人なの!?」
「……あなたよりはね」
ふん!!と鼻で笑い、トイレのドアを開ける。
と、
「!!!!!」
ビックリして固まる私たち。
「名誉のために言っておくが盗み聞きするために いる訳じゃないからな」
成瀬君は、今まで見たこともないほど冷たい顔をして微笑んだ。
体調はホントに大丈夫なの?
何度か喉をついて出そうになる問いを彼に ぶつけることが できずに再会から半年が経とうとしていた。
そんな矢先、私の疑問を一気に解決する情報が飛び込んでくる。
「瞳ちゃん、瞳ちゃん」
出先から帰ってきた社長の奥さんが私の側に駆け寄ってきた。
「だいぶ前の お見合い覚えてるかな?ほら4つ前の人。珍しく年が近かった……」
「あ、えっと。駅前のホテルで待ち合わせた、人です、か?」
しどろもどろに なりながら問いかける。
やばいなぁ。
密会してたのがバレたかな……。
ここ最近の お見合いで年上じゃなかったのは成瀬君だけ。
ダメだったと言いながら陰で会ってたって知ったら気分は良くないだろう。
今さらだろうけど、謝った方がいいよね。
椅子から立ち上がろうとする私の耳に奥さんが顔を寄せてきた。
「あの人、かなりヤバイ病気みたいなの。ごめんなさいね、そんな人を紹介しちゃって」
え?
申し訳なさそうに謝る奥さんの声が遠くに聞こえる。
「ほら、時々テレビでやってる骨が できちゃう難病!!あれみたいなのよ」
え?
「それが原因で本社から左遷されてきたみたいでね~。でもこっちの会社も休みがちみたいだし、ホントごめんなさいね~」
「あ、い、いえ。大丈夫です」
なんとか それだけを言うと、奥さんが可愛いラッピングの小さなお菓子を置いていった。
難病?
骨ができちゃう?
え?え?
成瀬君が?
もう仕事どころではない脳内で必死に やるべきことを やって、なんとか終業時間になった。
それと同時に携帯が鳴る。
毎週木曜日の定例ライン。
『今週 呑まないか?』
成瀬君からの……。
進行性骨化性線維異形成症。
骨系統疾患と呼ばれる全身の骨や軟骨の病気の1つ。
全身の筋肉やその周囲の膜、腱、靭帯などが徐々に硬くなって骨に変わり、このため手足の関節の動く範囲が狭くなったり、背中が変形したりする病気。
『骨ができる難病』と打ち込めば情報が出てくる時代。
でも、情報は情報として認識できても、それが成瀬君と どうしても繋がらない。
手が震えるとか冷たいとか書いてないわよね?
奥さんの勘違いなんじゃないかしら?
成瀬君のことを思いだしながら、症状を打ち込んでは『違う』理由を探していた。
「お待たせ」
いつもと違う、ちょっと和モダンな居酒屋で待ち合わせ。
成瀬君は、いつものように少し遅れてやってきた。
「お仕事お疲れ様……」
「斎藤もな」
ピシッと隙のないスーツ姿。
整えられた髪、背筋の伸びた自信に溢れた雰囲気。
これで仕事してないって?
ありえないと首をふる。
「ん?どうした?」
「あ、ううん。とりあえず生でいい?」
「ああ」
「すいませ~」
「こらこら。どうした?また前みたいに なってるぞ」
「あ、そか」
「オーダーは俺の仕事ね」
茶化すように笑う成瀬君に曖昧に笑って返す。
聞かずに ぐちゃぐちゃ悩むくらいならハッキリ聞きたいタイプの私でも さすがに これは聞きにくいな。
そんな風に思いながら、あつものように雑談と肴をつまみに呑みはじめた。
「きゃ。中も素敵ですね~」
いい感じに酔いが回ってきた頃、場違いに甘ったるい声が響いた。
何気なく入り口を見ると、以前 会った成瀬君の取引先の肉食女子がいた。
私の不躾な視線に気づいたのか肉食女子と目が合う。
必然的に隣にいる成瀬君も視界に入った。
またあの空間に巻き込まれるのか……。
少し身構えたが、肉食女子は何事もなかったかのように私たちの後ろを通っていった。
んん?
クエスチョンマークが頭に並ぶが、肉食女子の隣にイケメンがいたので何も言ってこなかったのかと落ち着く。
「次なに食べる?」
肉食女子に気づかなかったのか成瀬君が普通にオーダーを聞いてきた。
「あ、うん。じゃあ……」
お手洗いに立つと、そこに肉食女子がいた。
とりあえず軽く会釈をして通り抜ける。
「遺産とか狙ってるんですか?」
ぼそっと肉食女子が呟く。
「は?」
「成瀬さん、先月付けで退職してますよ?」
「え?」
「病気も病気ですし、難病指定といえど治療費は かさみますし、あなたが思ってるような生活は できませんよ?」
口紅を塗りながら視線を向けずに話す。
「ちょ、ちょっと何 言ってるか分からないんですけど?」
「だ~か~ら~!!優良物件 捕まえたと思って有頂天になってるかも知れませんけど欠陥品だって教えてあげてるんですよ!!」
イライラしたようにキッと こちらを睨む。
「本社から来たって言うから期待してたのに あんな不良債権。ありえないっつうの!!」
「ちょっと!!彼が好きで病気になった訳じゃないのに酷い言い方ね!!」
「はぁ?」
「優良物件とか不良債権とか、人のこと言えるほど あなたは凄い人なの!?」
「……あなたよりはね」
ふん!!と鼻で笑い、トイレのドアを開ける。
と、
「!!!!!」
ビックリして固まる私たち。
「名誉のために言っておくが盗み聞きするために いる訳じゃないからな」
成瀬君は、今まで見たこともないほど冷たい顔をして微笑んだ。
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