夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

文字の大きさ
上 下
91 / 121
第4章

第91話 アイリス

しおりを挟む

(でも今の菜都が誰なのかを聞いただけなのに、何でここで美癒の名前が出てくるんだ?)

ひとまず夢のことについては弟に伏せることにした。

「あの晩のことは何も思い出せてない・・・俺と一緒にいた?まさか、ここの公会堂にいたことと美癒が何か関係してるのか!?」

美癒のことは夢で見ただけで何も知らない。

美癒という人物が実在する、それを知っただけでも大収穫だった。

だが琉緒は”美癒のことを知らない”とは言わなかった。

”言わなかった”だけなので嘘をついたわけではない。

そうとも知らず琉偉は、兄が美癒のことについては知っているのだと信じて疑わなかった。


「あの晩のことと関係は・・・してる。兄貴と美癒はなんで知り合いなんだ?」

「そ・・・それは・・・俺が美癒を好きで・・・。」

返事に困った琉緒は咄嗟に口にしてしまった。

なぜ”好き”だなんて言ったのか自分でも分からなかったが、夢の中の自分はきっとそうだったのだろうとも思えた。

弟が信じてくれたのか不安に思いながら様子を伺うと、琉偉はとても穏やかな表情で笑った。

「やっぱりそうなのか、それなら・・・やっと話せる。」

「なにを?」

「美癒と菜都が、水上バイクの事故で入れ替わったことは知ってるよな。」

(は?何を言ってるんだ?)

美癒を知っているのなら当然入れ替わりについても知っているのだろうと思い、琉偉は話を進める。

「美癒に”琉緒をお願い”って言われたんだ。その一言がずっと引っかかってた・・・。」

琉偉は美癒の顔を思い出す。

美癒が言い残した一番最後の一言・・・今までに見たことないくらい、とても辛そうな顔をしていた。

そんな表情すら愛おしかったのだが、美癒の瞳は琉偉を通じて違うものを見ているように感じた。


「兄貴と美癒は一体どういう関係なんだ?」

(どういう関係かなんて俺が知りたい。その前に入れ替わりって・・・ありえねぇだろ・・・。)

琉緒は黙り込んでしまった。

「美癒が好きって言ったくせに、いまさら俺に気を遣ってるのか?」

「あ、いや・・・そうじゃなくて・・・。」

(そうか!入れ替わってるってことは琉緒の好きな人も美癒ってことになるのか!?)

歯切れの悪い返事を聞いて琉偉はため息をつく。

(入れ替わりだなんて信じられないが琉偉のやつ、本気で言ってるようだ。・・・まてよ?それが有り得るのなら、もしかしてーーー。)

入れ替わりという現象が実在するのなら、と琉緒の中である仮説が生まれた。


「その前に、俺と琉偉も入れ替わってねぇか?」

予想外の質問に、琉偉の目が点になった。

「・・・は?」

「いやー、なんか俺 琉偉が中学生の頃の記憶があるんだよな。菜都と付き合ってる時のこととか。」

やっとすっきりした。

これで辻褄が合うんだ、と
一人で納得したかのように自信満々に言った。

”きっとそうだ!だから弟の記憶があるんだ!”と思いながら・・・。


「俺の記憶って?」

「んー、今思いつくのは菜都が中学校の花壇に水やりしてて・・・その・・・イチャイチャと・・・。」

それを聞いた琉偉は、白けた表情で兄を見ていた。

その弟の視線に気づいた琉緒は
ここで初めて、”俺の考えは違ったのかーー”と気付き、堂々と発言したことを後悔した。

「兄貴は覗きの趣味なんてあったのかよ。はぁ・・・そんな馬鹿なこと言ってないで・・・俺はただ【あの世】の手前・・・死後の世界にいる美癒をどうして知ってるのか・・・なんで好きになったのかが気になっただけだよ。」

死後の世界ーーーー?

何かに反応したかのように、琉緒の肩がピクッと揺れた。

「それって・・・【水の世界】のことか?」

頭で考えるよりも先に、口が勝手に動いていた。

「さあ?それは知らない。」

琉偉だけでなく、当の本人も分からずに口走っている。

(なんで俺は意味分からないことを・・・?【水の世界】って一体なんなんだ?俺が忘れているのはあの晩のことだけじゃないのかーーー?)

「俺は美癒から”菜都をお願い”とも言われている。美癒に託されたんだからもちろん菜都を大事にする。」

「彼女なんだから当然だろ。」

「・・・大事にする形は変わるけどな。」

寂しそうに微笑みながら琉偉が呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

処理中です...