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第2章
第52話 プリムラ
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「ただいまぁー。」
誰にも聞こえないと分かっていても、つい口に出してしまう。
自分が15年間を過ごした家。
玄関を上がり、廊下をまっすぐ進む。
手前にある和室のドア、トイレのドア、浴室のドアの前を通り過ぎ、突き当りのドアを開・・・けずに透き通ってリビングへと入った。
(いい匂い・・・。)
キッチンの方から物音がする。
トントントン・・・とリズムよく包丁で野菜を切っている音だ。
(お母さんがお昼ご飯を作ってる。)
久しぶりに見る母の姿に、再び涙が溢れだし、止めたくても止まらなかった。
「ふえっ・・・お、お母さん・・・。」
勿論、母は全く気付く事はない。
もう自分の声は届かない、分かっていても辛かった。
見る事しか何もできない美癒は、しばらく母の姿見ていた。
ひと段落した母は、ふぅっと息を吐いて椅子に腰かけた。
「お母さん、また会えて嬉しかったよ。ふふっ私だけが喜んでごめんね。今までありがとう。大好き。」
美癒は母の元を去る。
玄関まで戻り、階段を上がっていく。
2階に着くと一番手前の部屋に入った。
父の書斎だ。
父はパソコンで仕事をしていた。
美癒の涙は止まる事を知らない。
「お父さんったら・・・休みの日なのに今日も仕事?全く・・・たまには好きなギターやドラムをしてゆっくりしてよね・・・。」
美癒はお父さんっ子だった。
多少短期で怒りっぽいが、幼少期は「お父さんと結婚するー。」と言っていた。
営業職の父は、好成績で沢山表彰されており顔も広く、自慢の父。
よく怪我をする美癒を迎えに来てくれるのも、いつも父。
悪さして学校に謝りに来てくれたのも父。
習い事したくて遠くまで送迎してくれていたのも父。
年1回は家族でカラオケに行っていて、とても歌が上手な父。
美癒は母と同じように父にお礼を言った。
泣きながら、途中自分が何を言っているのか分からなくなったけど心からのお礼。
(当たり前の日常だと思ってた。けど、本当に幸せな15年間だったなぁ。次に生まれてくる時も私はお母さんとお父さんを選ぶからね。)
ジンの言う通り、父と母のそばにいただけで時間はあっという間に過ぎていた。
父の部屋を出て、隣の部屋を開く。
兄と弟の部屋だ。
兄は寝ていて、大翔は美癒に背を向けた状態でテレビゲームをしていた。
(お兄ちゃん・・・怖くて仲良くなかったけど、寝顔は小さい子供みたい。大翔・・・生まれる前から感謝でいっぱい。2人とも幸せに暮らしてね・・・。)
大翔は鋭いところがあるため、美癒は早めに部屋を後にした。
あっという間にお昼になっていて、母・父・大翔はリビングへ行きご飯を食べ始めた。
美癒は菜都の部屋に行ったが、菜都はいなかった。
(私が菜都だった時も、毎日早い時間から遊びに行ってたもんなぁ・・・。)
なんとなく行先も分かるため、美癒は家の外に出た。
再び家を見上げて、家に向かって一礼して学校に向かって歩き出す。
学校までは歩いて30分、時間が勿体ないから途中から走り、学校の駐輪場に到着した。
久しぶりにみる友の姿が沢山あった。
(相変わらず、みんなここにたむろってる。そういえば、ここに溜まり始めたのは私と香織からだったなぁー。)
奥の方まで歩き進めると、菜都と香織、琉偉と陽太の姿があった。
(私・・・いや、菜都だ・・・。よかった、元気そう。)
菜都が菜都として生きている。
自分の人生を歩いている。
笑顔の菜都をみて、安心すると同時に寂しさが・・・きっと同じくらい込み上げてきた。
(少し前までは私がここにいて、ここで皆と話して・・・声も届いてたんだ。今は私の声は届かない・・・。でも本来は私の居場所じゃない、私の声じゃない・・・。)
菜都の人生を奪った申し訳なさ・・・頭ではわかっている。
自分が悪いのだと。
それなのに黒い気持ちも湧き上がって来て、そんな自分が怖くなった。
その場を後にしようと背を向けた途端、香織の大きい声が聞こえた。
誰にも聞こえないと分かっていても、つい口に出してしまう。
自分が15年間を過ごした家。
玄関を上がり、廊下をまっすぐ進む。
手前にある和室のドア、トイレのドア、浴室のドアの前を通り過ぎ、突き当りのドアを開・・・けずに透き通ってリビングへと入った。
(いい匂い・・・。)
キッチンの方から物音がする。
トントントン・・・とリズムよく包丁で野菜を切っている音だ。
(お母さんがお昼ご飯を作ってる。)
久しぶりに見る母の姿に、再び涙が溢れだし、止めたくても止まらなかった。
「ふえっ・・・お、お母さん・・・。」
勿論、母は全く気付く事はない。
もう自分の声は届かない、分かっていても辛かった。
見る事しか何もできない美癒は、しばらく母の姿見ていた。
ひと段落した母は、ふぅっと息を吐いて椅子に腰かけた。
「お母さん、また会えて嬉しかったよ。ふふっ私だけが喜んでごめんね。今までありがとう。大好き。」
美癒は母の元を去る。
玄関まで戻り、階段を上がっていく。
2階に着くと一番手前の部屋に入った。
父の書斎だ。
父はパソコンで仕事をしていた。
美癒の涙は止まる事を知らない。
「お父さんったら・・・休みの日なのに今日も仕事?全く・・・たまには好きなギターやドラムをしてゆっくりしてよね・・・。」
美癒はお父さんっ子だった。
多少短期で怒りっぽいが、幼少期は「お父さんと結婚するー。」と言っていた。
営業職の父は、好成績で沢山表彰されており顔も広く、自慢の父。
よく怪我をする美癒を迎えに来てくれるのも、いつも父。
悪さして学校に謝りに来てくれたのも父。
習い事したくて遠くまで送迎してくれていたのも父。
年1回は家族でカラオケに行っていて、とても歌が上手な父。
美癒は母と同じように父にお礼を言った。
泣きながら、途中自分が何を言っているのか分からなくなったけど心からのお礼。
(当たり前の日常だと思ってた。けど、本当に幸せな15年間だったなぁ。次に生まれてくる時も私はお母さんとお父さんを選ぶからね。)
ジンの言う通り、父と母のそばにいただけで時間はあっという間に過ぎていた。
父の部屋を出て、隣の部屋を開く。
兄と弟の部屋だ。
兄は寝ていて、大翔は美癒に背を向けた状態でテレビゲームをしていた。
(お兄ちゃん・・・怖くて仲良くなかったけど、寝顔は小さい子供みたい。大翔・・・生まれる前から感謝でいっぱい。2人とも幸せに暮らしてね・・・。)
大翔は鋭いところがあるため、美癒は早めに部屋を後にした。
あっという間にお昼になっていて、母・父・大翔はリビングへ行きご飯を食べ始めた。
美癒は菜都の部屋に行ったが、菜都はいなかった。
(私が菜都だった時も、毎日早い時間から遊びに行ってたもんなぁ・・・。)
なんとなく行先も分かるため、美癒は家の外に出た。
再び家を見上げて、家に向かって一礼して学校に向かって歩き出す。
学校までは歩いて30分、時間が勿体ないから途中から走り、学校の駐輪場に到着した。
久しぶりにみる友の姿が沢山あった。
(相変わらず、みんなここにたむろってる。そういえば、ここに溜まり始めたのは私と香織からだったなぁー。)
奥の方まで歩き進めると、菜都と香織、琉偉と陽太の姿があった。
(私・・・いや、菜都だ・・・。よかった、元気そう。)
菜都が菜都として生きている。
自分の人生を歩いている。
笑顔の菜都をみて、安心すると同時に寂しさが・・・きっと同じくらい込み上げてきた。
(少し前までは私がここにいて、ここで皆と話して・・・声も届いてたんだ。今は私の声は届かない・・・。でも本来は私の居場所じゃない、私の声じゃない・・・。)
菜都の人生を奪った申し訳なさ・・・頭ではわかっている。
自分が悪いのだと。
それなのに黒い気持ちも湧き上がって来て、そんな自分が怖くなった。
その場を後にしようと背を向けた途端、香織の大きい声が聞こえた。
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