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第三話
しおりを挟むあれから一年か。
まさかこんな結末になるなんて思わなかった。
私が悪かったのだろうか。
私がルークを変えてしまったのだろうか。
いつからルークが変わってしまったのか、今となってはもう覚えてもいない。
「もうルークは勇者候補から除外されたことだし、もういいよね」
私は右足にあるトラバサミを身体強化によって無理やり取外す。
そして聖魔法で自身の身体を回復させた。
目の前に迫ってきている岩石竜なんて大したことない。
私の魔法一撃で跡形もなく消し飛ばせるだろう。
でも、それだと面白くない。
今まで私に不当な扱いをしてきたあいつらに復讐をしないと。
ルークが勇者候補から除外されたことで、父からもその許可が正式に降りたのだ。
この許可が降りるまで時間が掛かった。
何度も父に勇者候補から除外するよう嘆願書を送っていたが「可能性がゼロになるまでは諦めるでない」という返答が来るだけだった。
確かに、私の力不足によるものかもしれないけどルークは明らかにおかしくなってしまった。
何度も勇者覚醒に至るために、高難易度の依頼を受けるように言っていたが、ルークはベッドでエレナ達と情事を致すことしか頭になかった。
エレナ達をパーティーから除外するように頼みもしたかったが、そうすれば私を先に除外するだろう。
そうなれば父からの頼みを反故にするだけでなく、未来の勇者になるべき男を私の手によって奪ってしまうことにも繋がる。
他にも私がエレナ達を陰で始末するという考えもあったが、勇者の条件として民を守る正義感というのも含まれている。
そのため、好いている女性を守ることで勇者としての素質を高めることができるという理由から父にはこの案を却下された。
そんな理由から板挟みになってしまい、いつもと変わらない耐えられないほどの苦痛な日々を過ごしていた。
しかしルークの近況を報告しているうちに、覚醒の見込みなしと判断され漸く勇者候補から除外がされたというわけだ。
この日まで短いようで長かった。
私がこれまでパーティーメンバーにされていたことは父も知っているため、復讐の機会も頂けた。
やっとあいつらに今までの鬱憤を晴らすことができる。
私はすぐさま岩石竜に向けて重力魔法を行使する。
岩石竜は上からのしかかる重圧に抑え込まれ、身動きができなくなる。
そして私は別の魔法を行使する。
「原点回帰」
空間魔法と魔力感知を併用して行使する原点回帰。
対象の人物の魔力を探知して、遠く離れていても自分の場所に転移させることができる。
そして目の前に現れたのは、何が起きたか分かっていない4人の呆けた姿。
「な、何が起こった!?」
「なんでここに戻っているの~」
「どうして目の前にカグラがいるのよ!」
「なんでなんで! なんでここに戻ってるの!」
状況を理解できていない4人を私は見下ろす。
このまま逃げられても困るから、岩石竜と同様に重力魔法で動きを封じる。
「うっ……」
「え、なにこれ~」
「身体が……動かない」
「なんなのこれ! 怖いよ~」
重力魔法によって4人は私に向かって頭を垂れている。
いい気味である。
私は優越感すら感じていた。
「私もここまでのことをするつもりなんてなかったけど、あなた達が私を殺そうとするからよ。人にやったことなんだから、自分達が同じことをされても文句は言えないよね?」
「何を言ってやがるカグラ!」
「何でこんな魔法をカグラなんかが使えるのよ~」
「わたくし達をどうするつもりなの……?」
「ねえ! 気持ち悪いから早くこの魔法解いてよ!」
未だに状況を理解していないようだ。
それにこの場で私の手によって殺されることなんて微塵も思っていないようにも感じる。
「実は……あなた達に言っていないことがあるの」
「な、なんだ?」
そう言って私は自分に掛けていた魔法を解いた。
黄金色だった髪は青色に変色し、瞳の色も元に戻す。
いくら平民でも王族のみが有する青色の髪はわかるだろう。
「……そ、その髪色は」
「カグラ……その髪って」
「王族の象徴である青色の髪……」
「え、3人ともどうしたの? カグラの髪が何だっていうの!?」
どうやらフィオナだけが王族の髪色について知らないようだ。
まあ確かにまだ年齢も一番若く明らかに勉強をしてきたような子ではないから仕方ないか。
「そうよ。私の本当の名前はセシリア・ナイジェル。この国の第一王女よ」
「王……族……?」
「カグラ、嘘だよね~?」
「でもこの髪は……まさか本当に?」
「どういうこと!? カグラが王族!? そんなわけないじゃん!」
どうやら全員半信半疑のようだ。
でもそんなのは関係ない。
私の身分を知って平伏したとしても、今まで私にやってきたことがなかったことになるわけではないから。
「私はとある目的を達成するためにこのパーティーに仕方なく入っていたけど、まさかあのような杜撰な計画で始末しようとするとは本当に浅慮でしたね」
「目的……だと?」
ルークが絶望したかのような悲壮した表情をしている。
明らかに目の前で起きていることに疑念を感じているのが手に取るように分かる。
「目的について教えるつもりはないわ。そんなことより国王陛下からあなた達の処分が正式に許可されたわ」
「処分……?」
「え、どういうこと~……」
勇者覚醒についての任務をこいつらに教えてあげる義理などない。
どうせ二度と会うこともないし、この低脳どもが信じるわけもない。
「そのままの意味よ。あなた達は不要になったってこと。まあ、本来は処分する必要はなかったんだけど、この私に対しての悪逆非道な行いを考えれば当然の結果よね?」
全員が未だに状況を理解していないのか、私を見上げながら黙っている。
それとも今までの私に対しての行いをなんとも思っていないのか。
こいつらの考えなど理解はできない。
いや、そもそも理解しようとも思わない。
数秒、静寂の時間が過ぎた後、フィオナがその沈黙を破る。
「ちょっと待ってよ! 私はカグラに何もしてないじゃん! 私は関係ないよ!」
フィオナの表情からこれは本気で言っている。
本当に自分は関係ないとでも?
予想外の言葉に私は嘲笑してしまう。
「ふっ。確かにフィオナは何もしてないわね」
「そうでしょ! なら早くこの魔法を解いてよ!」
「それは出来ないわ」
「どうしてよ!」
「フィオナ、教えてあげる。あなたの罪は、何もしなかったことよ」
「何もしなかったこと……?」
「そうよ。私がエレナから服を剥ぎ取られて炎で炙られていた時にあなたは何をしていた? マリアが私を廃墟に連れて行って暴漢に襲わせようとしていることを知っていながらあなたは何をしていた?」
「そ、それは……」
「あなたがエレナやマリアの行いを止めるように忠告していたなら分かる。でもあなたがやっていたことは、私が被害を受けることを面白がってただ遠くから見ていただけなの」
「でもそれはエレナとかマリアが勝手にやったことで私は関係ない!」
「だから言ったでしょう。あなたの罪は何もしなかったことだって。誰かが貶められているのをただ見ているだけでも十分罪なのよ」
「そ、そんなことって……」
フィオナは多分理解できないのだろう。
自分は悪くない。カグラを害していたのはエレナとマリアだ。自分は何もしていない。
そんな考えだけが思考を巡っているのだろう。
自分が犯した罪も理解できず、ここで死ぬなんて最期まで残念な子だったわね。
「さて、そろそろあなた達の処分を順番に行います」
「ま、待ってくれ! いや……待ってくださいセシリア様」
ルークが口を開く。
自分たちの置かれた状況をようやく理解したのか、私をカグラではなくセシリアと呼ぶ。
しかし、今更許しを乞おうとしても無駄。
「待ちません。あなた達とはこれ以上、話すことはないのですから」
「待って……」
「では、手始めにエレナから始めましょう」
「えっ……私?」
ルークの言葉を遮るようにエレナに向かって言い放つ。
私は既にこいつらにする復讐方法は決めている。
やられた事をやり返すだけだ。
エレナに向かって風魔法の風刃を行使する。
慎重に操作してエレナの服だけを切り裂いていく。
「きゃー!」
服を切り裂き、裸にしたエレナに更に重力魔法を追加行使する。
「ぐっ……」
そして間髪入れずに火魔法の炎槍を両脚の太腿に突き刺す。
「いだああああああい!!! あづぅぅぅぅぅい!!!」
痛み。そして熱によりエレナが奇声をあげる。
感じたことのない苦痛に悶えたいが、重力魔法により指一本動けず大声を上げるしかないようだ。
「や、やめてください……セシリア様」
「そ、そうよ。あまりにもやり過ぎじゃない……?」
「やめてよカグラ! エレナが苦しんでるよ!」
エレナへの復讐がやり過ぎだと判断したのか、他の奴らが私を悪者かのように軽蔑の目を向けていた。
なぜこのような目で見られなければいけないのか。
お前達が今まで散々私にやってきたことは忘れたのか。
「たったこれだけで何を言っているの? これからあなた達は全員死ぬのよ?」
「死……ぬ……?」
「嘘……でしょ?」
「何を驚いているの? 当然の結果でしょう。今まで反撃ができない私に対して行ってきた蛮行。立場が逆転したからと言って謝れば許されるとでも思っているの?」
3人が私を見上げながら恐れ慄いている。
少しでも自分達の行いを恥じ、後悔し懺悔しながら死んでいってくれれば来世はもう少しまともな人間に生まれ変われるだろう。
私は追加でエレナに向かって炎槍を両腕に突き刺す。
「ぎゃあああああ!!! もうやめてええええ!!!」
「ひっ……」
「エレナぁ……」
なんの感情もない。
目の前で1人の女性に4本の炎槍が突き刺さり、血がドクドクと出ていても、傷口から炎の熱によって徐々に溶け始めていても。
ただ、目の前の人の皮を被っただけの物としか思えない。
いつから私の心はここまで変わってしまったのだろう。
たった一年で今まで味わったことのない屈辱、恥辱、怨恨によって感情すらもおかしくなってしまった。
こんな恐ろしいことを無感情で行っている自分に恐怖すら感じる。
しかし、この行為が止まることはない。
「次はマリアね」
「や、やめて! お願い! 謝るから……もう二度とあなたの前に現れないから……」
「無理よ。そんなことしたって無駄。もう遅いのよ」
そう言って、私はマリアに触れる。
そして瞬間移動を行使した。
「え……? ここは、どこ?」
私がマリアと転移してきた場所はオークの巣窟の上空。
オークは人間との交配によって子を成すことができる。
私がマリアにされたことは暴漢達に乱暴にされそうになったこと。
本当は同じように暴漢達を雇っても良かったけど、それだと面白くない。
だから代替案を考えた。
この世の女性で魔物の子を孕むことは忌避とすらされている。
これを利用し、マリアにはオーク達の孕み袋として暫くの間過ごしてもらうことにした。
とはいっても、これによりオークの子が増えるのも国に悪影響を及ぼすのは間違いないので、ある程度の時期が過ぎたら私が全てのオークを討伐することにする。
そしてマリアがまだ生きていたらそのまま生かすつもりでいる。
殺すよりも生きていた方がよっぽど辛い人生を味わうと思うから。
「オークの巣窟よ。しばらくここでオークの子をたくさん産んでなさい」
「ちょ、ちょっと嘘でしょ! オークの子を孕むなんて嫌よ!」
「そんなの私の知ったことじゃないわ。あ、でもその前にやっておくことがあるわね」
マリアはそれなりに魔法が使える。
もしかしたらマリアの魔法でオークを全滅させる可能性もあるので、私はマリアに魔力封じを施す。
体内にある魔力回路に直接膨大な魔力を流すことで、魔力回路を破壊させる技術だ。
この技術を知っているものは少ない。
魔力回路を破壊されると二度と魔法を行使することができなくなる危険な行為のため、この技術は秘匿もされている。
「さて、これで大丈夫そうね。じゃあ、さよならマリア」
「待って! ごめんなさい! 許してよおおおお!!!」
マリアから手を離し、オークの巣窟へと落下していく。
「いやあああああ! やめてえええええ!」
オーク達は急に落下してきた、人間の女に興味を示し群がり始めた。
そしてマリアの衣服を剥ぎ取った。
それをただただ真上から見下ろす。
何体ものオークが裸のマリアに群がり、ニンマリとした顔で楽しんでいるように見える。
「なんでよ! どうして魔法が使えないのよ!」
どうやら魔法が使えないことを理解したようだ。
オークに成す術もなく蹂躙されていくマリア。
「やめてえええええ!!! 助けてえええええ!!!」
マリアはこの世の終わりのような絶望した顔でただただオークの玩具へと成り変わった。
これでマリアへの復讐は終わり。
……さて、次だ。
マリアへの復讐を終えてからすぐに瞬間移動により、ルーク達の元へと戻ってくる。
未だに重力魔法を発動させていたため、全員大人しくしていたようだ。
しかしエレナだけは少しだけ変化が見られた。
炎槍によって手足の肉が焼け落ち骨が丸見えになっていた。
見るからに惨たらしい姿であった。
意識があるのかすら不明な状態でただ口から泡を吹いて寝そべっている。
「さて次はフィオナね」
「やだやだやだ! もう帰してよ!」
フィオナにはそれほど多くの恨みがあるわけではないため、他の奴らよりも簡単に死ねるようにする。
フィオナのみを重力魔法による拘束を解除して、手を掴み岩石竜の元へと投げ飛ばす。
「きゃああああ!!!」
そして岩石竜に掛けていた重力魔法も解除。
「グオオオオオオオ!!!」
重力魔法によって怒り狂った岩石竜の足元にはフィオナが佇む。
そして岩石竜の怒りの矛先はフィオナへと向くのは当然であった。
「いやああああああ!!!」
すぐにフィオナは岩石竜から逃げようとした。
しかし、怒り狂った岩石竜は逃げようとするフィオナに噛み付いた。
「嫌だああああああ!!! 助けてえええええ!!!」
そして岩石竜はフィオナを咥え、すぐさま胴体を真っ二つに噛み切った。
あっという間の出来事だった。
これでフィオナはそこまで苦しまずに死ぬことが出来たのではないだろうか。
最後の後始末として岩石竜に対して氷魔法の絶対零度を行使する。
一瞬のうちに岩石竜が氷漬けになる。
さて、あとはルークだけだがその前にエレナを楽にしてあげよう。
重力魔法を反転させて、エレナを空へと飛ばす。
そしてすぐさまエレナに向けて発動する灼熱地獄。
何もかもを焼き尽くすほどの灼熱によって骨すら跡形も残らない。
上空に広がる炎がエレナを包み込む。
エレナは最後まで意識を取り戻さないまま、灼熱地獄によって消滅した。
さて、これで最後だ。
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