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56 迷子の女の子
しおりを挟むみなさんおはようございます。ヒナタです。
昨日は盛んな男達とビーチバレー勝負をしていました。
今日はせっかくなので、タラサの街の冒険者ギルドに行ってみようと思います。
別に依頼を受けたいからではなく、どんな依頼があるかを確認するためにね。
面白そうな依頼があったら受けようと思うけど。
「朝食食べたら、冒険者ギルドに行こうぜ」
宿で朝食を食べて、部屋で着替えた後は、3人で冒険者ギルドに向かった。
王都に比べたら狭いけど、ウルレインと同じくらいの大きさだ。
でも、人はあまり多くない。
「あんまり人がいないね」
「そうだな……」
5人くらいしか冒険者がいない。
理由は分からなかったけど、依頼ボードを見て理解した。
「依頼がほとんどないじゃん」
そもそも依頼がないのだ。
この街は仕事がないから冒険者がいないのか。
でも確かに、ここに来るまで魔物もいなかったからね。
海にも魔物は出づらいから依頼もないのだろう。
あるのは、護衛依頼とか店の手伝いとかそんなやつばっかりだ。
平和な街なんだと感じてしまった。
冒険者にとってはつまらないけど、住民にとってはいい街だ。
「どうする?」
カレンが私たちを見て聞いてくる。
「帰ろうか……」
「「そうだね」」
私の言葉に2人が頷いて、冒険者ギルドから出た。
さて、何をしよう。
今日の予定が一気に無くなった。
「どうしようか……」
「……」
私の問いかけに2人とも無言だ。
しばらく目的もなく街を歩いていると、シャルが何かに気づいて指を差した。
「あの女の子どうしたんだろう?」
シャルが小さな女の子が泣いているのに気がついて、近づいていった。
私とカレンもシャルに付いていって、女の子に近づいていく。
「どうしたの?」
「うっ……。うぅ……。パパとはぐれちゃったの」
どうやら迷子みたいだ。
この街中ではぐれると見つけるのは難しいな。
前世のように迷子センターもないしね。
それに子供が1人だと危ないかもしれない。
「どうしようか?」
「お父さんを探した方がいいだろ」
私の言葉にカレンが返してくれた。
シャルは女の子と同じ目線になるように、しゃがみ込んで話しかける。
「お名前はなんて言うの?」
「ミル……」
「ミルちゃんか。可愛い名前だね」
いつもは子供の相手は私がしてきたが、今日はシャルが積極的だ。
もしかして、子供が好きなのかな。
いつも私が邪魔していたのかな。
「私は、シャーロット。後ろの赤髪の子がカレン。銀髪の子がヒナタよ。お姉ちゃん達がパパを一緒に探してあげる」
「本当?」
「うん。パパの着ている服とか教えてくれる?」
「緑のシャツに黒いズボンを履いていた気がする」
それくらいしか特徴は聞けないよね。
でも、この人混みで該当する男性を見つけるのは難しい。
なぜなら、私とシャルは背が小さい。
カレンが唯一の高身長だ。
「なら、一緒に探しに行こう」
シャルがミルにそう言うと、手を繋いで歩き出した。
しばらく歩いても見つからないため、カレンがミルを肩車して探し始める。
やっぱり見つからない。
お昼になったので、ご飯を食べようと4人で海鮮料理を食べられるお店に入った。
「ヒナタなら海鮮料理を食べられる店を選ぶと思ったよ」
そりゃそうでしょう。
せっかく新鮮なお魚を食べられる街にいるんだから、毎日海鮮料理ですよ。
「せっかくだからね」
今日はお刺身にした。
単純にお刺身に醤油をつけて食べてもかなり美味しい。
私たちが食べていると、店員のお姉さんが話し始めた。
「海鮮料理を出せるのも今日までだから、味わって食べてね」
なんてこった。
私にとっては、余命宣告みたいなものだ。
「え!? 何でですか!?」
私は座っていた椅子から立ち上がった。
「なんか、漁に出ても魚が全く獲れないんだって。魚を仕入れられないから、明日の営業も難しいかもね」
なんで魚が獲れないんだ。
海は食糧の宝庫だぞ。
まさか、密漁か。
ってそんなわけないか。
「なんで、魚が獲れなくなったんですか?」
「漁師も全く分からないらしいよ。5日前から獲れなくなったらしくてね。今日提供している魚がうちの店では最後だよ」
ということは、もう魚はお店で食べられないということだ。
でも私は無限収納にしまっているが。
そう考えるとよく売ってくれたな。
ほぼ買い占める勢いで買っていたけど。
「どうするヒナタ? 海鮮が食べられないならこの街にいても……」
いる必要もなくなる。ということだ。
もともと、護衛依頼を受けたのもこの街で海鮮料理を食べられると思ったからだ。
明日には王都に帰ろうかな。
「そうだね。近いうちに王都に帰ろうか……」
私が落ち込みながら返答する。
お店での最後のお刺身も食べ終わり、再度ミルのお父さんを探し始めた。
「ミルちゃん、いる?」
「いない……」
ミルがどんどん不安な顔になっていく。
このまま見つからないということはないと思うけど、時間を掛ければミルもお父さんも不安になるだろう。
こうなったら最後の手段だ。
「ミルちゃんの家に行ったらいいんじゃない?」
私の提案に全員がその手があったか、みたいな顔をしている。
普通の提案だよね?
遠方から来ているわけじゃないから、家に直接送るのも手だよね。
「そ、そうだね。ミルちゃんもそれでいい?」
「でも、パパが……」
「パパもママに教えるために家に帰っているかもよ。だからどうかな?」
「わかった」
これで解決するかな。
家に送れば、そのうちお父さんも帰ってくるだろう。
「家はどこかな?」
「えっと、海の里亭だよ」
「「「え?」」」
なんとびっくり。
3人が驚いた顔でミルを見る。……ダジャレになっちゃった。
そんなことはどうでもいい。
「海の里亭ってあたしたちが泊まっている宿じゃん」
そう。私たちがお世話になっている宿だ。
こんな偶然があるのか。
こんなことなら、はじめから家を聞いておくべきだったかもしれない。
私たちは、海の里亭に向かった。
「ママ!」
「ミル!」
母娘の感動の再会。
お父さんの姿はない。
「パパから街でミルとはぐれたって聞いて心配したよ……」
「お姉さん達が一緒にパパを探してくれたの」
ミルが私たちのことを説明する。
「あれ? 泊まっているお客さんですよね?」
「はい……」
シャルが返答した。
なんとも居た堪れない状況だ。
「ありがとうございます。娘に付き合ってくれて」
「いえ、偶然通りかかっただけなので、気にしないでください」
「お礼と言ってはなんですが、今日の宿代は結構ですので……」
なんとも嬉しい誤算だ。
暇だったから、迷子の女の子のパパ探しを手伝っただけなのに。
それにパパは見つけてない。
「あ、ありがとうございます」
いいことをすると、しっかり自分に返ってくると学んだ1日でした。
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