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40 コリン村を救う①

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 みなさんこんにちは。ヒナタです。

 私たち4人はアンナを送り届けるために、コリン村へと向かっています。
 2日の道のりでしたが、まもなく着きそうです。

「アンナちゃん、そろそろ着きそうだよ」
「うん、お姉ちゃん達ありがとう!」

 村に着くと、村の入り口に男性が立っていた。
 その男性を見つけると、アンナが馬車から降りて走り出した。

「パパ!」
「アンナ!」

 どうやら父親だったらしい。2人は泣きながら抱き合っていた。
 実際、アンナがいなくなってから2週間近く経過している。
 親としては諦めたくはないが、9歳の子供がいなくなって帰ってこなかったら、諦めてしまう人も多いだろう。 
 私たちが、あの場所を通らなかったら、私が気配探知のスキルがなかったら、そもそもゴブリン討伐の依頼を受けなかったらアンナを助けることはできなかった。
 色々な偶然が重なってアンナを助けることができた。

「あのお姉ちゃん達がね、ここまで送ってくれたの!」

 馬車に乗っている私達に向けてアンナが説明する。
 私たちも馬車から降りて、アンナのお父さんに挨拶をする。

「初めまして、冒険者のヒナタです。隣にいるのがカレンとシャーロットです」
「アンナを助けていただきありがとうございます」
「いえ、偶然通りかかっただけなので、気にしないでください」

 アンナのお父さんは頭を深く下げていた。

「よかったら、お礼をしたいので、家まで来てください」

 アンナのお母さんの状態も見たいので、快く承諾する。

「なあ、ヒナタ。アンナのお母さんの病気って治るのか? あたしも聞いたことのない症状だったけど」

 カレンが声を小さくして私の耳元で囁いてきた。
 あっ、そんな耳元で囁かれたらくすぐったいよ……。

「絶対治るとは言えないよ。でも私が聞いたことのある症状と似ているから、試してみるだけね。でも、経過観察のために数日はこの村に滞在はしたいんだけど。カレン達は大丈夫?」
「あたしは問題ないぜ」
「わ、私も大丈夫です!」

 3人で声を小さくしながら会話をした。実際治るかはわからない。
 もし治療法が違っていたら難しいかもしれない。
 そうしていると、村の人たちがアンナに集まってきていた。

「アンナ! 無事だったんだな!」
「心配したんだからね!」
「お父さんなんか毎日泣いていたんだから!」

 村の住民達が駆け寄ってきて、アンナに声をかけた。
 笑顔の人、泣いている人、様々だ。
 みんなアンナのことを心配していたんだな。
 助けられて本当によかった。
 

 アンナの家に着き、中へと入る。
 奥の部屋に行くとお母さんがいた。
 お母さんはかなり衰弱しており、手足の筋肉も落ちていてかなり細くなっている。

「ママ! 大丈夫?」
「あ、アンナ……? 帰ってきたのね……。最後にアンナの顔を見られてよかったわ……」
「マ、ママ!?」

 お母さんはまるで、最後にアンナの顔を見たいがために頑張って生きてきような物言いだ。
 このままだと本当に生きる気力を無くしてしまい、力尽きてしまう。

「アンナのお母さん、気をしっかり持ってください。私はあなたの病気を治しにきました」
「え……この病気が治るの……?」
「その病気に心当たりがあったので、それに効く治療をしたいと思います。絶対に治るともいえませんが」

 すると、お母さんの目から涙が流れてきた。

「本当に治るのか!?」

 後ろからはお父さんが私の肩を掴んで聞いてくる。

「絶対ではありません。そのことだけでもご理解ください」
「その言葉だけでも十分だ。可能性があるならそれに賭けたい……」

 私は王都で買ってきた豚肉を取り出した。
 オーク肉でも大丈夫かと思ったけど、必要な栄養素が含まれているか不明のため避ける事にした。
 これを食べ続ければ治るはず。
 この病名は脚気だと思う。脚気はビタミンB1不足が主な原因だ。
 だからこれが豊富な豚肉を食べさせれば大丈夫なはずだ。

「これを食べてください。豚肉です」
「それを食べれば治るのか?」
「はい、これを食べ続けていただければ症状は緩和すると思います」
「そんなもので……」

 全員が困惑している。でもそんなので治るのだ。
 私はお母さんに焼いた豚肉を食べさせてあげる。
 日本みたいにビタミン剤とかあれば楽なんだけど、この世界にあるわけない。
 でも豚肉もビタミンが豊富だから大丈夫なはずだ。

「お父さん、これを毎日数回食べさせてあげてください。私もお母さんの症状の経過観察をしたいので村に残りますが、どこか野営できるところはありますか?」
「そ、そんな!? 私たちの家に泊まっていってください!」
「そ、そうですか。では、お言葉に甘えてお世話になります」

 そう言って、アンナの家で泊まることになり、お母さんの経過を見ながら食事を与えた。
 豚肉を焼くだけだと飽きるので、調味料を変えたりしてなるべく飽きないように工夫をした。

 数日経ったところで、お母さんは少しずつではあるが元気を取り戻していった。
 どうやらお母さんは肉類の食事を摂ることが少なかったみたいで、ビタミン不足になってしまったみたいだ。

「ありがとう。ヒナタさんのおかげで元気な姿でアンナを抱きしめられるわ」
「気にしないでください。たまたま知っていた症状だっただけです。これからはしっかり食事をとって、アンナちゃんを心配させないようにしてあげてください」

 アンナ、お母さん、お父さんも泣いていた。
 この家族がこの先も幸せであればいいな。

「それでは、お母さんも元気になってきたので私たちは明日にでもこの村を立ちたいと思います」
「そんな……。まだお礼もしていないです」
「気にしないでください。でも、どうしてもということでしたら、また私たちがこの村に来たときに泊めていただければ嬉しいです」

 お礼なんかいらない。これは私がやりたくてやっただけだ。
 お母さんの薬を探すために1人で森に入ってしまって、魔物に追われて死にそうになりながらも頑張って生き残ったアンナの笑顔を見たかったんだから。

 私たちはコリン村最後の夜を全員で食事をしながら楽しんだ。
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