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星空の誓い 編

第77話 目覚め

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ドガァァァァァアン!!!

その時だ。城の方から何かが爆発するような音がした。先ほどまですやすやと気持ち良さそうに眠っていたソードオブベルサイユの冒険者達が勢いよく飛び起きる。

「なっなんだ!今の音は!」

咄嗟に冒険者達は自分の武器を取り出し戦闘態勢に入る。さすがヴァルキルが率いるソードオブベルサイユだとイバラとサファイアは感心した。ふと周りを見渡すと1人だけ呑気にいびきをかきながら眠る者が1人。

「リーシャ....起きてください」

彼女の身体をサファイアが揺すると少し目を開けてこう言った。

「ふにゃ?もう朝ぁ?朝食はベイルド産の卵を使ったフレンチトーストがいいな~.......って朝じゃないじゃん!」

寝起きで不機嫌な彼女が眼鏡をかけて辺りを見渡す。

「何事?」

「私達にも.......」

「大変な事になったわね。予想より目覚めが早い.....計算ミスってやつね」

「目覚めたって?」

「キシャァァアァァァアァァァァァォォォォォオゥゥウン!!!!」

すると奥から何かの叫び声がする。まだ少し寝ぼけているリーシャにとっては完全に目覚めるのにいい目覚まし時計だ。その声の大きさに全員が耳を塞ぐ。

「魔王竜ハディエス.......皆戦闘態勢を取れ!ヒーラーは奥へ!タンクは前方へ!壁で待機する大砲に火薬を........!チェンジ!」

ヴァルキルがそう言うと上から緑色の魔法陣が現れそれを潜るとヴァルキルの姿は機械の鎧に変化した。そこにヴァルキルの部下が走ってやってくる。

「大変です!外壁にて大砲を準備している紅桜から!森から大量のモンスター達がこちらに接近中との事です!」

「どういうことだ.....なぜだ!この辺りのモンスターのほとんどは夜行性ではないはずだぞ!」

「分かりませ.......」

「分かりませんじゃないわ、簡単な話よ。」

会話を邪魔するようにイバラが腕を組んで皆の前に立つ。彼女は城の方にいるハディエスの大きな影を見つめていた。

「800年前にハディエス1匹だけでこのルーラを滅ぼしたわけじゃない。これがハディエスの能力よ」

「ハディエスの能力?」

「「目覚めの号令」ってとこね。アイツの叫びを聞いた辺りのモンスターは凶暴化してアイツの命令に従うようになる。全くあいかわらず面倒臭い能力よ。800年前はここにもモンスターの侵略を防ぐバリアがあったけどハディエスが内側からそのバリアを張っている機械を破壊したから.......これは控えめに言って大ピンチね♪」

「それは本当かい?」

振り返るとそこに紅桜のギルドマスターであるマサムネが息を切らしながら彼女達の元へと駆けつけた。奥から同じように何人かの冒険者がやってくる。

「僕の仲間が紅桜が外の凶暴化したモンスター達の侵攻を防ぐ......ソードオブベルサイユは....」

「そろそろ来るわよ。」

次の瞬間彼らの元に一体の竜が広場へと風を巻き起こしながら降り立った。その大きさは学校の校舎ほどの大きさで翼は何メートルあるか分からないほど巨大なものだ。紫の鱗で覆われ黒い大きな3本の角が生えた竜。翠色のエメラルドのような瞳がこちらを見つめる。

「ついに現れたか......ハディエス」

ハディエスの身体は傷だらけで右前足と身体の至る所が皮膚がなく骨が剥き出しになっている。

「どうやら完全復活というわけじゃないみたい......」

「ならば今が好機というわけか!いくぞ!」

「「「「オオォォォォオオ!!!!!」」」」

ヴァルキルの号令と共に冒険者達が一斉にハディエスに襲い掛かる。各々が武器を構え斬撃や射撃などをするがハディエスは無反応で辺りを見渡していた。その様子を見たリーシャはサファイアに声をかける。

「なぁ、サファイア.....あのドラゴンは何を探しているんだ?辺りを見渡して近くで攻撃をしている冒険者には目も暮れない。」

ハディエスが一方を見つめ少しではあるがニヤッと口角が上がる。サファイアはリーシャと同じようにハディエスを見つめていた。

(アイツ笑った.......あの方向は確か.....)

「「まさか!!」」

「おいどうしたサファイア!ってイバラも!」

サファイアとイバラはハディエスの意図を理解したかのように一心に走り出した。ハディエスは次の瞬間に冒険者達の元から一瞬で姿を消し次の瞬間には彼らの奥で待機をしていたヒーラー達の上空へと姿を現した。口を大きく開くとそこに魔力が集中に紫に光る黒色のエネルギーの集合体を作り出す。そしてそれを勢いよくヒーラー達へと勢いよく吐き出した。

「「クリスタルウォール!!」」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォオ!!

吐き出した黒のエネルギーの集合体がヒーラー達に当たる寸前に彼女達の上空に水色と桃色の大きな魔法陣が出現しそこから巨大な2つの色のクリスタルが次々と壁を形成するようにそびえ立った。

「たっ助かった.......。」

「わっ私達生きてるの?」

ヒーラー達が困惑している。ヴァルキル達も彼女達の元へと駆けつけた。

「なるほどね....先にヒーラーを全員殺して回復できなくする......なかなか考えるじゃない!モンスターの癖に!意外と知能が高かったのね!」

ハディエスを煽るようにイバラが言うと上空から冒険者達を見下ろすハディエスが口を開く。

「800年前トハ違ウノダヨ......800年封印サレタ我ノ怒リヲ味ワウガイイ!!」

「あら、いつのまに喋れるようになったの?」

ハディエスの身体は闇のように黒いオーラで包まれ漆黒の炎の集合体となり上空から勢いよく目標へ向かって落下する。

「え?」

漆黒の炎の集合体となったハディエスはヴァルキルの身体へと吸い込まれていった。次の瞬間ヴァルキルの姿は元の人間の姿に戻り叫び苦しみ始める。

「ウァァアアァァァアァァアァァアァァァア!!!!」

「「「団長!」」」

「ヴァルキルくん!」

「ヴァルキル!」










身体が熱い
まるで地獄の炎で焼かれているようだ
心臓の高鳴りが止まらない、時間が進むにつれどんどん速くなり続ける
目眩がし視界もまともに映らない
仲間達の声も心臓の音で次第に聞こえなくなっていった
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

この鎧を脱げば少しは楽になるのだろうか?この痛みもこの熱さも.......
いや、それだけはできない。それだけはできない........
この鎧は自分への枷だ
解いてしまえば仲間は.....マサムネは.....誰も今までの私を見てくれなくなってしまう
今まで築き上げてきた全てが無くなってしまう
それを恐れ.....私は....私は.....







「ヴァルキルくん!ヴァルキルくん!」

「.............ふふっ......ははは.....アッハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!やはりコイツは我と適合したようだ!」

先ほどまで苦しんでいたヴァルキルが突如叫ぶように笑いヴァルキルの表情は狂ったように仲間達を見つめた。ヴァルキルの美かった緑色の瞳にはもう誰の姿も写ってはいない。

「身体を乗っ取られてるみたいね.......」

バキバキバリッ!

ヴァルキルの鎧が割れ始め背中にヒビが入りそこから大きな黒い竜の羽が生え始め髪の色は金髪から銀色へと毛根から先端へ変色していく。頭部から黒い角が3本その姿は先程までいたハディエスのようだった。ヴァルキルの身体を覆っていた鎧は全て砕かれ辺りに破片として散らばっていく。

「あら......」

その場にいた誰もが驚き声も出ずただハディエスに乗っ取られたヴァルキルの身体を見つめていた。










「ほう........やはりこの身体は「女」の身体だったか.......」




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