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青天・霹靂編
第28話「共走!私はあなたのライバルだから」
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「私、消防署って初めて来たかも......」
「そう?私は小学生の時に社会見学で行ったことあるよ?」
アサヒとヒビキは2人で話しながらレーテの隊員として消防署の中に入ったユイアを待っていた。一階には数台の消防車と救急車が並んでいたが消防隊員の姿はどこにもない。どうやら昼休憩の時間らしい。
「ここにカケルくんが......」
ヒカルは2人が話しているのも気にせずただじっと消防署を見上げていた。
【消防署内】
「国寺さんはこちらに?」
「えぇそうです。アイツは休憩時間は決まってここにいるんですよ。」
消防署の中に入ったユイアは消防隊員に案内されて廊下を歩いていた。消防隊員の前で冷静に落ち着いた口調で対応し、心の中で「消防署の中ってこうなってるんだ!!!」と消防署の中に入れてテンションが上がっているのを隠している。廊下を歩いていると、消防隊員は一つの部屋の前で止まり「国寺入るぞ」と言って部屋のドアを開けた。ドアを開けると1人の隊員が大きなおにぎりを食べていた。
「彼が国寺です。」
「レーテの隊員の日代です。メモリカセットの回収に来ました。国寺翔(クニデラ カケル)さんですね。」
カケルはおにぎりを食べ終わると立ち上がり頭に被っていた帽子を取りユイアにお辞儀した。
「わざわざ来てくださってありがとうございます。本当は俺がそちらに行けば良かったのですが仕事が重なってしまい申し訳ありません。」
そう言って再び消防隊員の帽子を被り直す。礼儀正しい人というのが最初の印象だ。黒い髪に褐色な肌、ヒカルが言っていた特色と一致している。比較的、身長が高い方であるユキタカよりも身長が高い。世の中の女子を虜にしてしまいそうな理想の消防隊員っていう感じだ。カケルはポケットから赤いメモリカセットを取り出しユイアに渡す。「消防車」のメモリカセットだ。メモリカセットには炎の中に突っ込んでいく消防車が描かれている。
「わー!消防車のメモリカセットだー!!」
ユイアはコレを使って新しいフォームを作ってもらったらかっこいいんじゃないのかと瞳を輝かせながらメモリカセットを見つめた。その様子を不思議そうな顔でカケルは眺めている。」
「若いですね。」
「え!」
「いっいえ、こう見えて20代ですよ。」
咄嗟にユイアはそう言ったがめちゃくちゃ嘘である。
「そうですか、では俺はこれで......」
「あ!待ってください!」
部屋から立ち去ろうとしたカケルをユイアは引き止めてしまった。せっかくカケルと話す機会が出来たのだ。逃すわけにはいかない。しかし何と言ったらいい。「死んだ幼馴染が貴方に会いたいと言っている」だなんて言えるわけがない。ユイアは止めた後の数秒で話題を探した。そして手に持っている赤いメモリカセットに目がいった。
「なんで消防士になったんですか?」
「きゅっ......急にどうしたんですか?」
「さっきの隊員さんが貴方は実家がお寺だって言っていたので少し気になりまして......」
「......実家は兄が継ぐの決まっていたからです。」
カケルはそう言ってユイアから目を逸らす。他に何か言いたそうな顔、言おうとしたが言うのをやめた顔、ユイアはそれに気づき再び引き止める。
「じゃあなんで消防士を選んだんですか?」
「......幼馴染が火事で亡くなったからです。」
「......」
「アイツが引っ越して1年後ぐらいだったかな。引っ越し先が火事になって亡くなったそうです。ずっとアイツの事を引きずってるんですよ。引っ越す前に言わなきゃいけないことたくさんあったのに......高校を卒業して家を出ればいつでもアイツに会いに行ける。そう思って生きていたらアイツは突然帰ってこれない人間になっていた。」
「......」
「後悔しても仕方ないですよね。過去は変えられない、だから俺は消防士になったんです。俺みたいに大切な人の命を突然奪われて後悔する人を減らすために、その為だったら自分の命を削って燃やす覚悟だってある。」
「命を......燃やす......」
「あんたも話したい人がいるなら直接話しに行けよ、後悔しないうちにな。そろそろ休憩も終わりだ。話し聞いてくれてありがとうな。少しスッキリした。」
カケルはニッと少し笑うと休憩室から立ち去ってしまった。ヒカルについて何も話すことは結局出来なかったがカケルという人間がどんな人なのか少し分かった気がした。ユイアは消防署を立ち去り3人と合流する。
「どっどうでしたか?」
「うん!会えたよ!」
「そっそれで彼は何か言ってましたか?」
「ヒカルさんの事、大切な人だって!」
それを聞いてヒカルは顔を真っ赤にして顔を隠す。それを見てユイアとアサヒはニコニコするがヒビキは見えないので2人がなんでニコニコしているのか分からなかった。
「でも、ごめんなさい。カケルさんにヒカルさんの話出来なかった......」
「いえ、いいんです。満足しました。みなさんのおかげです。私1人だったら彼を見つけることはできませんでした。本当にありがとうございます。」
そう言ってヒカルは深くお辞儀をする。
「まっまだ私達ができることがあるかもだよ!」
「そうです!ちゃんとカケルさんに気持ち伝えましょう!」
「ユイアちゃん......アサヒちゃん......」
「だからまた明日ここで会いましょう!」
ユイアはヒカルに小指を出した。ヒカルは最初不思議そうな顔をしたがすぐにユイアの考えを理解した。
「ふふっ......懐かしい。指切りですね。」
「はい!約束しましょう。また明日、ここで会おうって!」
「......うん。」
ヒカルもユイアと同じように小指を出して指同士を絡ませようとするが、指同士が触れ合うことは決してなかった。目の前にいるはずなのに触れることはできない。自身が亡くなっていることを実感させられたヒカルは少し寂しそうな表情を浮かべた。
「大丈夫ですよ。ヒカルさんは今、ここにいます。」
「ユイアちゃん......」
「約束、私達はこの約束を絶対守ります。」
「うん。」
ヒカルはうなづき2人でまたこの場所で会うことを約束した。3人と別れた後、行く場所がないヒカルは1人消防署を見上げていた。彼がいる消防署に入る勇気が今のヒカルにはなかった。ただ眺めているだけで満足だ。
「カケルくん......ぐっ!あぁあ......!!」
突然、ヒカルはその場でうずくまり悲鳴あげた。しかし、彼女の声は誰にも届かない。大勢の人間が帰路に着くなかヒカルは痛みで涙を流す。彼女から黒い煙があがり手が少しずつ消え始めていた。
「はぁ......はぁ......私にまだ...時間残ってる......かな?」
【レーテ・地下施設】
「......何しに来た?」
「貴方と話に来たんだ。」
ユイアは部屋の前で三角座りをして座ってた。今までルナを通じて会話をしていた少女と話すために。
「話がしたいならルナでいいだろう。」
ユイアは首を横に振る。
「うんうん、貴方と直接話がしたいの。貴方が部屋からでるの待つから。」
「......勝手にしろ、私はここから出ないからな。」
ユイアはドアに耳をつけて部屋の中の音を聞いた。キーボードをカチャカチャと叩くような音がわずかに聞こえる。仄暗い廊下を見渡していると少し離れたところにゴミ袋があるのを見つけた。中には大量の箸とコンビニ弁当とゼリーとエナジードリンクのゴミが入っている。
「もしかして、コンビニのご飯しか食べていないの?」
「......そうだけど」
「......ちょっと待ってて。」
そう言ってユイアは立ち上がり、廊下を走っていった。少女はやっと立ち去ってくれたかと思い作業を進めた。ユイアは1時間経っても戻ってこない。諦めて帰ったかと安堵して少女は瞳を閉じる。
「はっ!」
少女は突然、目を覚ましデスクトップの時間を確認した。日付が変わり0時になっている。3時間眠っていたらしい。ここのところ疲れが溜まっていて十分に眠っていなかったからだ。少女はオフィスチェアから立ち上がり、首をポキポキと鳴らすと小さな冷蔵庫を開けた。冷蔵庫の中には何もない。
「腹減った......買いに行くか。」
少女はコンビニに出かけるために部屋のドアを開け、廊下に出た。
「え、」
廊下に出るとユイアが壁に寄っかかりながら三角座りをして眠っている。
「お前、ずっと待ってたのかよ......」
自分が眠ってからの3時間の間に戻ってきて自分が起きるのを待っていたらしい。彼女の横にはメモと共にお弁当箱、そして赤いメモリカセットが置かれていた。少女はメモをユイアを起こさないように慎重に拾って開いた。
コンビニだけだと栄養偏っちゃうよ!
お弁当作ってきたから起きたら食べてね!
女の子らしい可愛い字でそう書かれ、フォークとスプーンを持った白猫の可愛いイラストが添えられていた。
「わざわざ弁当作りに家に帰って戻ってきたのかよ......ほんとに変なやつだな。」
少女はため息をついた後、少し口角を上げるとユイアが作ったお弁当を持ち上げた。コンビニに行くのをやめたのか部屋に戻っていった。
【約6時間後】
ユイアは自身のスマホの目覚まし時計で目を覚ます。朝の6時だ。目を覚ましたユイアはあくびをしながら辺りを見渡した。
「あれ......寝ちゃってた?」
少し時間が経ち、自分に毛布がかけられていることに気づいた。毛布を持ってきた覚えはない。最初は不思議に思ったが横に置いていたお弁当箱を見てすぐに分かった。弁当箱が空になっており既に洗われている。その上にメモ書きが置かれていることに気づくとユイアはすぐにそれを拾って広げた。
そんなところで寝てたら風邪引くからもう待たなくていいぞ。
メモリカセットも変身で使えるようにしてやる。毛布はドアの前に置いておいてくれ。
追記
弁当美味しかった。
でも野菜多すぎるから肉を増やしてくれ。
それを読んだユイアはくすくすと笑う。そして心の中で、また作って持って来ようと思った。ユイアは毛布を畳むと部屋の前に置く。その時にドアの向こう側からキーボードを叩く音が聞こえてきた。ユイアは静かにその場からお弁当箱を持って立ち去った。
家に戻ろうとレーテの地下施設から出るとトレーニングルームの電気がついているのに気づいた。この時間にトレーニングルームを使う人間はほとんどいない。知っている誰かがいるのかと覗いて見てみた。
「アカネ......」
そこにはサンドバッグを叩くアカネの姿があった。新宿のあの事件をきっかけにアカネはユイアに話しかけてくれない。ユイアから話しかけてもすぐに立ち去ろうとしてしまう。ユイアはカケルの言葉を思い出し、トレーニングルームに入った。
「アカネ!」
「ハァ......ハァ......」
アカネはユイアに気づきサンドバッグを殴るのやめ、タオルで髪を拭きながらいつもように立ち去ろうとする。その間、一度もアカネはユイアと目を合わせようとしない。立ち去ろうとするアカネの腕をユイアは少し強く掴む。
「離せ。」
「なんで目を合わせてくれないの?」
「......」
「なんで泣いてるの?」
アカネは目元を隠すが目元から頬をつたり汗と共に涙が落ちていく。
「もうダメなんだ......何度立ち直ろうとしても立ち直れねぇ......」
ユイアはベンチに置かれた赤いドライバーに目線を向けた。
「変身......しないの?」
「今のアタシにそんな資格ない......」
「誰が決めたの?」
「......」
「誰かが決めたの?違う、アカネが自分で決めてるだけ。」
「......」
「私はアカネの気持ちになれない。きっと私が感じている悲しさの何倍も...何十倍も悲しいって気持ちなのはわかる。泣いてもいい......悲しい時は泣こう。でも、立ち止まってちゃダメ......泣きながらでも進まなきゃ。」
「.........」
「私はアカネに寄り添いたい。もし、アカネが少しでも進みたいって思ってくれているなら私は肩を貸すよ。一緒に進もう、だって私は......」
「......なんでお前も泣いてるんだよ。」
「え?」
続けて何かを言おうとしたユイアはアカネに指摘されて顔に触れた。濡れている。気付けば自分も泣いていた。
「あれ...本当だ......気づかなかった。」
その様子を見てアカネはタオルで自身の涙を拭き取った。そしてユイアと目を合わせて少し笑う。
「そうだな、ありがとう。おかげでちょっとスッキリした。......なぁ......少しでいいんだ。散歩に付き合ってくれないか?もう少し話したい。」
「うん、いいよ。」
いつものアカネに少し戻った気がした。ユイアは自身の涙を拭き取ってアカネと一緒に廊下を歩き始めた。窓ガラスから暖かい朝日が差し込む。優しい光、今の2人にはそれが心地よかった。
「そう?私は小学生の時に社会見学で行ったことあるよ?」
アサヒとヒビキは2人で話しながらレーテの隊員として消防署の中に入ったユイアを待っていた。一階には数台の消防車と救急車が並んでいたが消防隊員の姿はどこにもない。どうやら昼休憩の時間らしい。
「ここにカケルくんが......」
ヒカルは2人が話しているのも気にせずただじっと消防署を見上げていた。
【消防署内】
「国寺さんはこちらに?」
「えぇそうです。アイツは休憩時間は決まってここにいるんですよ。」
消防署の中に入ったユイアは消防隊員に案内されて廊下を歩いていた。消防隊員の前で冷静に落ち着いた口調で対応し、心の中で「消防署の中ってこうなってるんだ!!!」と消防署の中に入れてテンションが上がっているのを隠している。廊下を歩いていると、消防隊員は一つの部屋の前で止まり「国寺入るぞ」と言って部屋のドアを開けた。ドアを開けると1人の隊員が大きなおにぎりを食べていた。
「彼が国寺です。」
「レーテの隊員の日代です。メモリカセットの回収に来ました。国寺翔(クニデラ カケル)さんですね。」
カケルはおにぎりを食べ終わると立ち上がり頭に被っていた帽子を取りユイアにお辞儀した。
「わざわざ来てくださってありがとうございます。本当は俺がそちらに行けば良かったのですが仕事が重なってしまい申し訳ありません。」
そう言って再び消防隊員の帽子を被り直す。礼儀正しい人というのが最初の印象だ。黒い髪に褐色な肌、ヒカルが言っていた特色と一致している。比較的、身長が高い方であるユキタカよりも身長が高い。世の中の女子を虜にしてしまいそうな理想の消防隊員っていう感じだ。カケルはポケットから赤いメモリカセットを取り出しユイアに渡す。「消防車」のメモリカセットだ。メモリカセットには炎の中に突っ込んでいく消防車が描かれている。
「わー!消防車のメモリカセットだー!!」
ユイアはコレを使って新しいフォームを作ってもらったらかっこいいんじゃないのかと瞳を輝かせながらメモリカセットを見つめた。その様子を不思議そうな顔でカケルは眺めている。」
「若いですね。」
「え!」
「いっいえ、こう見えて20代ですよ。」
咄嗟にユイアはそう言ったがめちゃくちゃ嘘である。
「そうですか、では俺はこれで......」
「あ!待ってください!」
部屋から立ち去ろうとしたカケルをユイアは引き止めてしまった。せっかくカケルと話す機会が出来たのだ。逃すわけにはいかない。しかし何と言ったらいい。「死んだ幼馴染が貴方に会いたいと言っている」だなんて言えるわけがない。ユイアは止めた後の数秒で話題を探した。そして手に持っている赤いメモリカセットに目がいった。
「なんで消防士になったんですか?」
「きゅっ......急にどうしたんですか?」
「さっきの隊員さんが貴方は実家がお寺だって言っていたので少し気になりまして......」
「......実家は兄が継ぐの決まっていたからです。」
カケルはそう言ってユイアから目を逸らす。他に何か言いたそうな顔、言おうとしたが言うのをやめた顔、ユイアはそれに気づき再び引き止める。
「じゃあなんで消防士を選んだんですか?」
「......幼馴染が火事で亡くなったからです。」
「......」
「アイツが引っ越して1年後ぐらいだったかな。引っ越し先が火事になって亡くなったそうです。ずっとアイツの事を引きずってるんですよ。引っ越す前に言わなきゃいけないことたくさんあったのに......高校を卒業して家を出ればいつでもアイツに会いに行ける。そう思って生きていたらアイツは突然帰ってこれない人間になっていた。」
「......」
「後悔しても仕方ないですよね。過去は変えられない、だから俺は消防士になったんです。俺みたいに大切な人の命を突然奪われて後悔する人を減らすために、その為だったら自分の命を削って燃やす覚悟だってある。」
「命を......燃やす......」
「あんたも話したい人がいるなら直接話しに行けよ、後悔しないうちにな。そろそろ休憩も終わりだ。話し聞いてくれてありがとうな。少しスッキリした。」
カケルはニッと少し笑うと休憩室から立ち去ってしまった。ヒカルについて何も話すことは結局出来なかったがカケルという人間がどんな人なのか少し分かった気がした。ユイアは消防署を立ち去り3人と合流する。
「どっどうでしたか?」
「うん!会えたよ!」
「そっそれで彼は何か言ってましたか?」
「ヒカルさんの事、大切な人だって!」
それを聞いてヒカルは顔を真っ赤にして顔を隠す。それを見てユイアとアサヒはニコニコするがヒビキは見えないので2人がなんでニコニコしているのか分からなかった。
「でも、ごめんなさい。カケルさんにヒカルさんの話出来なかった......」
「いえ、いいんです。満足しました。みなさんのおかげです。私1人だったら彼を見つけることはできませんでした。本当にありがとうございます。」
そう言ってヒカルは深くお辞儀をする。
「まっまだ私達ができることがあるかもだよ!」
「そうです!ちゃんとカケルさんに気持ち伝えましょう!」
「ユイアちゃん......アサヒちゃん......」
「だからまた明日ここで会いましょう!」
ユイアはヒカルに小指を出した。ヒカルは最初不思議そうな顔をしたがすぐにユイアの考えを理解した。
「ふふっ......懐かしい。指切りですね。」
「はい!約束しましょう。また明日、ここで会おうって!」
「......うん。」
ヒカルもユイアと同じように小指を出して指同士を絡ませようとするが、指同士が触れ合うことは決してなかった。目の前にいるはずなのに触れることはできない。自身が亡くなっていることを実感させられたヒカルは少し寂しそうな表情を浮かべた。
「大丈夫ですよ。ヒカルさんは今、ここにいます。」
「ユイアちゃん......」
「約束、私達はこの約束を絶対守ります。」
「うん。」
ヒカルはうなづき2人でまたこの場所で会うことを約束した。3人と別れた後、行く場所がないヒカルは1人消防署を見上げていた。彼がいる消防署に入る勇気が今のヒカルにはなかった。ただ眺めているだけで満足だ。
「カケルくん......ぐっ!あぁあ......!!」
突然、ヒカルはその場でうずくまり悲鳴あげた。しかし、彼女の声は誰にも届かない。大勢の人間が帰路に着くなかヒカルは痛みで涙を流す。彼女から黒い煙があがり手が少しずつ消え始めていた。
「はぁ......はぁ......私にまだ...時間残ってる......かな?」
【レーテ・地下施設】
「......何しに来た?」
「貴方と話に来たんだ。」
ユイアは部屋の前で三角座りをして座ってた。今までルナを通じて会話をしていた少女と話すために。
「話がしたいならルナでいいだろう。」
ユイアは首を横に振る。
「うんうん、貴方と直接話がしたいの。貴方が部屋からでるの待つから。」
「......勝手にしろ、私はここから出ないからな。」
ユイアはドアに耳をつけて部屋の中の音を聞いた。キーボードをカチャカチャと叩くような音がわずかに聞こえる。仄暗い廊下を見渡していると少し離れたところにゴミ袋があるのを見つけた。中には大量の箸とコンビニ弁当とゼリーとエナジードリンクのゴミが入っている。
「もしかして、コンビニのご飯しか食べていないの?」
「......そうだけど」
「......ちょっと待ってて。」
そう言ってユイアは立ち上がり、廊下を走っていった。少女はやっと立ち去ってくれたかと思い作業を進めた。ユイアは1時間経っても戻ってこない。諦めて帰ったかと安堵して少女は瞳を閉じる。
「はっ!」
少女は突然、目を覚ましデスクトップの時間を確認した。日付が変わり0時になっている。3時間眠っていたらしい。ここのところ疲れが溜まっていて十分に眠っていなかったからだ。少女はオフィスチェアから立ち上がり、首をポキポキと鳴らすと小さな冷蔵庫を開けた。冷蔵庫の中には何もない。
「腹減った......買いに行くか。」
少女はコンビニに出かけるために部屋のドアを開け、廊下に出た。
「え、」
廊下に出るとユイアが壁に寄っかかりながら三角座りをして眠っている。
「お前、ずっと待ってたのかよ......」
自分が眠ってからの3時間の間に戻ってきて自分が起きるのを待っていたらしい。彼女の横にはメモと共にお弁当箱、そして赤いメモリカセットが置かれていた。少女はメモをユイアを起こさないように慎重に拾って開いた。
コンビニだけだと栄養偏っちゃうよ!
お弁当作ってきたから起きたら食べてね!
女の子らしい可愛い字でそう書かれ、フォークとスプーンを持った白猫の可愛いイラストが添えられていた。
「わざわざ弁当作りに家に帰って戻ってきたのかよ......ほんとに変なやつだな。」
少女はため息をついた後、少し口角を上げるとユイアが作ったお弁当を持ち上げた。コンビニに行くのをやめたのか部屋に戻っていった。
【約6時間後】
ユイアは自身のスマホの目覚まし時計で目を覚ます。朝の6時だ。目を覚ましたユイアはあくびをしながら辺りを見渡した。
「あれ......寝ちゃってた?」
少し時間が経ち、自分に毛布がかけられていることに気づいた。毛布を持ってきた覚えはない。最初は不思議に思ったが横に置いていたお弁当箱を見てすぐに分かった。弁当箱が空になっており既に洗われている。その上にメモ書きが置かれていることに気づくとユイアはすぐにそれを拾って広げた。
そんなところで寝てたら風邪引くからもう待たなくていいぞ。
メモリカセットも変身で使えるようにしてやる。毛布はドアの前に置いておいてくれ。
追記
弁当美味しかった。
でも野菜多すぎるから肉を増やしてくれ。
それを読んだユイアはくすくすと笑う。そして心の中で、また作って持って来ようと思った。ユイアは毛布を畳むと部屋の前に置く。その時にドアの向こう側からキーボードを叩く音が聞こえてきた。ユイアは静かにその場からお弁当箱を持って立ち去った。
家に戻ろうとレーテの地下施設から出るとトレーニングルームの電気がついているのに気づいた。この時間にトレーニングルームを使う人間はほとんどいない。知っている誰かがいるのかと覗いて見てみた。
「アカネ......」
そこにはサンドバッグを叩くアカネの姿があった。新宿のあの事件をきっかけにアカネはユイアに話しかけてくれない。ユイアから話しかけてもすぐに立ち去ろうとしてしまう。ユイアはカケルの言葉を思い出し、トレーニングルームに入った。
「アカネ!」
「ハァ......ハァ......」
アカネはユイアに気づきサンドバッグを殴るのやめ、タオルで髪を拭きながらいつもように立ち去ろうとする。その間、一度もアカネはユイアと目を合わせようとしない。立ち去ろうとするアカネの腕をユイアは少し強く掴む。
「離せ。」
「なんで目を合わせてくれないの?」
「......」
「なんで泣いてるの?」
アカネは目元を隠すが目元から頬をつたり汗と共に涙が落ちていく。
「もうダメなんだ......何度立ち直ろうとしても立ち直れねぇ......」
ユイアはベンチに置かれた赤いドライバーに目線を向けた。
「変身......しないの?」
「今のアタシにそんな資格ない......」
「誰が決めたの?」
「......」
「誰かが決めたの?違う、アカネが自分で決めてるだけ。」
「......」
「私はアカネの気持ちになれない。きっと私が感じている悲しさの何倍も...何十倍も悲しいって気持ちなのはわかる。泣いてもいい......悲しい時は泣こう。でも、立ち止まってちゃダメ......泣きながらでも進まなきゃ。」
「.........」
「私はアカネに寄り添いたい。もし、アカネが少しでも進みたいって思ってくれているなら私は肩を貸すよ。一緒に進もう、だって私は......」
「......なんでお前も泣いてるんだよ。」
「え?」
続けて何かを言おうとしたユイアはアカネに指摘されて顔に触れた。濡れている。気付けば自分も泣いていた。
「あれ...本当だ......気づかなかった。」
その様子を見てアカネはタオルで自身の涙を拭き取った。そしてユイアと目を合わせて少し笑う。
「そうだな、ありがとう。おかげでちょっとスッキリした。......なぁ......少しでいいんだ。散歩に付き合ってくれないか?もう少し話したい。」
「うん、いいよ。」
いつものアカネに少し戻った気がした。ユイアは自身の涙を拭き取ってアカネと一緒に廊下を歩き始めた。窓ガラスから暖かい朝日が差し込む。優しい光、今の2人にはそれが心地よかった。
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