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魔力
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予想より深刻な状況に、思わずボーちゃんが乗っている手を顔の前まで動かして詰め寄る。
勢いよく引いた手から落ちそうになったボーちゃんは、わたしの小指にしがみつきながら、状況を説明し始めた。
「君の魔力で発動した強力な魔法に、その子が耐えられなかったんだ。魔力の貯蔵庫になっている器官が破裂して、その機能が失われてしまった」
「そんな……じゃあテテスちゃんは……!」
「体ごと破裂しなかったのは不幸中の幸いだったよ。元々かなりの魔法の才能をもっていたんだろうね。でも魔力が一切ためられなくなってしまった。魔法の発動もできない……いや、魔力そのものが使用できない。おそらく自然に修復することはないだろう。君たち人間の言い方をすると"無能力"という言葉が当てはまる」
なんてことだ……。
魔力が使えないってことは魔法だけじゃなく、魔石なんかもだめってことだ。
生活に密接にかかわる魔石が使えないと、まともに生活もできない。
部屋の明かりをつけることすらできない……。
わたしが不用意に校庭に突っ込んだことで、わたし自身が死にかけただけじゃなく、テテスちゃんの人生をも台無しにしてしまった……。
ボーちゃんが手に乗っていることも忘れて地面に両手をつき、わたしの体重でボーちゃんを潰してしまった。赤い煙が風で散るように空気と混ざる。
眩暈でぐるぐると回る視界の中、地面に両手をつきうなだれていると、再び床の上に姿を現したボーちゃんが、話に区切りをつけるように声を張った。
「でだ! 君に一つ提案がある」
「提……案?」
片方の鼻から鼻水が垂れていることに気づいて、ずびびっと鼻をすすると、ボーちゃんが「君は今は女の子なんだから、もう少しおしとやかに」なんて言ってきたけど、うるさいな。
「そんなことどうでもいいから、早く提案ってのを教えてよ!」
「そんなことって、君はもう異世界人の男じゃないんだか——」
「——いいから!」
わざとやってんのはこいつは!
ふぅっと一息つくと、ボーちゃんは指を一本ピンと立てて説明を始めた。
「今回は緊急事態だったからしょうがなくやったことだけど、それを君の許可のもと正式にやればいいんだよ」
「というと?」
もったいぶった説明に少しイラつきながら話の先を促す。
「つまり、君とテテスちゃんが契約を結んで、テテスちゃんが魔法を使う時、君が魔力を支払う形に繋いでしまえばいい」
「できるの!?」
餌に食いつく魚のように、床に立って説明するボーちゃんに顔ごと詰め寄る。
「あ、あぁ……。さっきも言ったけど、今回のことは、テテスちゃんの魔法に君の魔力を使ったことが原因だからね。君が正式に契約してしまえば、何の心配もなく魔力の流れを変えることができるよ。一般人の使う火球やら光球やらの魔法なんて、君からすれば大した魔力の消費量じゃないだろう?」
「うん。たぶん。わたしが使う大きさの火球でも、つかう魔力より回復していく魔力量の方が多いから、問題ないと思う」
ボーちゃんが私を"ごちそうちゃん"と呼ぶのは伊達じゃないのだ。精霊たちは本当にごく少量の魔力で大抵のことをやってくれる。おかげで勇者として戦っていた時を合わせても、魔力が枯渇したことは一度もない。
「なら問題ないね、さっそく契約をしてしまおう」
少しうれしそうに契約を勧めるボーちゃんの様子は、なんとなく家電量販店の店員を思い起こさせる。
「なんか楽しそうだね……」
少しだけジト目になりながら、ボーちゃんをチクリとつつく。
「まぁ……ね、ごめんよ。少し不謹慎だったかもしれない。ごちそうを味わう機会が増えると思うとつい……」
そうか、魔力を肩代わりするんだから、当然精霊たちはテテスちゃんが魔法を使う度に、ごちそうと賞されるわたしの魔力を食べられるんだ。
あれ? てことは?
わたしが眉を上げてボーちゃんの方に顔を向けると、
「気付いたかい?」
と、ニヤリとした笑みを浮かべ、言葉を重ねた。
「そう……君は"勇者"を増やせる」
勢いよく引いた手から落ちそうになったボーちゃんは、わたしの小指にしがみつきながら、状況を説明し始めた。
「君の魔力で発動した強力な魔法に、その子が耐えられなかったんだ。魔力の貯蔵庫になっている器官が破裂して、その機能が失われてしまった」
「そんな……じゃあテテスちゃんは……!」
「体ごと破裂しなかったのは不幸中の幸いだったよ。元々かなりの魔法の才能をもっていたんだろうね。でも魔力が一切ためられなくなってしまった。魔法の発動もできない……いや、魔力そのものが使用できない。おそらく自然に修復することはないだろう。君たち人間の言い方をすると"無能力"という言葉が当てはまる」
なんてことだ……。
魔力が使えないってことは魔法だけじゃなく、魔石なんかもだめってことだ。
生活に密接にかかわる魔石が使えないと、まともに生活もできない。
部屋の明かりをつけることすらできない……。
わたしが不用意に校庭に突っ込んだことで、わたし自身が死にかけただけじゃなく、テテスちゃんの人生をも台無しにしてしまった……。
ボーちゃんが手に乗っていることも忘れて地面に両手をつき、わたしの体重でボーちゃんを潰してしまった。赤い煙が風で散るように空気と混ざる。
眩暈でぐるぐると回る視界の中、地面に両手をつきうなだれていると、再び床の上に姿を現したボーちゃんが、話に区切りをつけるように声を張った。
「でだ! 君に一つ提案がある」
「提……案?」
片方の鼻から鼻水が垂れていることに気づいて、ずびびっと鼻をすすると、ボーちゃんが「君は今は女の子なんだから、もう少しおしとやかに」なんて言ってきたけど、うるさいな。
「そんなことどうでもいいから、早く提案ってのを教えてよ!」
「そんなことって、君はもう異世界人の男じゃないんだか——」
「——いいから!」
わざとやってんのはこいつは!
ふぅっと一息つくと、ボーちゃんは指を一本ピンと立てて説明を始めた。
「今回は緊急事態だったからしょうがなくやったことだけど、それを君の許可のもと正式にやればいいんだよ」
「というと?」
もったいぶった説明に少しイラつきながら話の先を促す。
「つまり、君とテテスちゃんが契約を結んで、テテスちゃんが魔法を使う時、君が魔力を支払う形に繋いでしまえばいい」
「できるの!?」
餌に食いつく魚のように、床に立って説明するボーちゃんに顔ごと詰め寄る。
「あ、あぁ……。さっきも言ったけど、今回のことは、テテスちゃんの魔法に君の魔力を使ったことが原因だからね。君が正式に契約してしまえば、何の心配もなく魔力の流れを変えることができるよ。一般人の使う火球やら光球やらの魔法なんて、君からすれば大した魔力の消費量じゃないだろう?」
「うん。たぶん。わたしが使う大きさの火球でも、つかう魔力より回復していく魔力量の方が多いから、問題ないと思う」
ボーちゃんが私を"ごちそうちゃん"と呼ぶのは伊達じゃないのだ。精霊たちは本当にごく少量の魔力で大抵のことをやってくれる。おかげで勇者として戦っていた時を合わせても、魔力が枯渇したことは一度もない。
「なら問題ないね、さっそく契約をしてしまおう」
少しうれしそうに契約を勧めるボーちゃんの様子は、なんとなく家電量販店の店員を思い起こさせる。
「なんか楽しそうだね……」
少しだけジト目になりながら、ボーちゃんをチクリとつつく。
「まぁ……ね、ごめんよ。少し不謹慎だったかもしれない。ごちそうを味わう機会が増えると思うとつい……」
そうか、魔力を肩代わりするんだから、当然精霊たちはテテスちゃんが魔法を使う度に、ごちそうと賞されるわたしの魔力を食べられるんだ。
あれ? てことは?
わたしが眉を上げてボーちゃんの方に顔を向けると、
「気付いたかい?」
と、ニヤリとした笑みを浮かべ、言葉を重ねた。
「そう……君は"勇者"を増やせる」
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