上 下
63 / 119

63,隠密領域。

しおりを挟む
「えーーー。ローズ教の総本山は、アーテル国にはないんですかぁぁ?!」

 ベロニカさんが下着をつけてから、ギルドが用意した衣服を着る。
 ところで、ベロニカさんが私のベッドで裸身だったからといって、間違いが起きたわけではない。私がスキルツリー開拓に勤しんでいる間に、勝手に素っ裸になって、爆睡していただけで。

「そうだけど、アリア。知らなかったの? 国家宗教だよ、いちおうは」

 いまは亡き両親の教えは、『宗教でパンは買えない』だったからなぁ。

「で、どこにあるんです?」

「ラザ帝国の聖都ローズ。いうまでもないけど、ローズ教発祥の地」

 ということは、例の聖ルーン騎士団の方々は、わざわざ帝国から出張してきていたのか。なんというか、ご苦労様です。しかも4人のうち3人は、異国の地で殺されてしまったのかぁ。まぁ、よくあることですね。

「仕方ない。長旅ですけど」

「え? まさか帝国に行くの? まぁ一応は同盟国だから、国境を通過できるとは思うけど──うーん。つまり、聖ルーン騎士団とやらに追われる身でなければ、の話だよアリア」

「なるほど。隠密スキルが必要ですね」

 しばし留守をロクウさんに預け、【覇王魔窟】へ出発。
 久しぶりの【覇王魔窟】。そして久しぶりのソロプレイ。やはり独りは心が落ち着くものだ。こればかりは性分なので、もう致し方ありませんね。

〈鍵〉を使って、地下迷宮〈死の楽園〉に入る。

 強化素材は、そのもとの持ち主だった魔物の特性を受け継ぐようだ。〈倦怠艶女ミスティナ〉さんから受け取った角(つの)によって、怠惰スキル(実際のところ時間操作スキルだけど)を得たように。
 そして〈死の楽園〉には、【覇王魔窟】地上階に出現する魔物のオリジナルがいる。
 ふむ。そこで目当ての魔物が見えてくる。

 しかし、手際よく見つけられるか? 
 しばし〈死の楽園〉を進むと、オリジナル個体の〈蠍群魔(スコーピオン)〉と遭遇。前回はまったく歯が立たず、〈スーパーコンボ〉を破壊されたのだった。
 さて今回はどうか。
 まず(打撃Lv.20)の通常攻撃を叩き込む。〈蠍群魔(スコーピオン)〉の硬殻が砕けるが、まだ死なない。これは手ごわい。【覇王魔窟】地上階ならば、もう400階層レベルなのでは? 
 では400階層の魔物が〈死の楽園〉にいたら、どれほど強敵なのだろう。
 いや、それは単純すぎるかも。つまり地上階で強い魔物が、必ずしもそのオリジナルである〈死の楽園〉内での強敵順位に当てはまるわけではないだろうと。

 そんなことを考えながら、私は〈蠍群魔(スコーピオン)〉からの毒針攻撃を、《鎧装甲:地獄》で弾く。
 一考してから、射程領域より《阿吽竜巻》スキルを発動。
〈スーパーコンボ〉の一振りによって、暴虐なる竜巻が起こる。〈蠍群魔(スコーピオン)〉の

〈蠍群魔(スコーピオン)〉撃破に成功。
 さっそく強化素材を回収する。ところで──よく出来ている。【覇王魔窟】を創った神さまは、勘所をおさえているようだ。
〈蠍群魔(スコーピオン)〉はバラバラになったが、強化素材として使用する毒針だけは傷ひとつない。
 さっそく魔改造くわ〈スーパーコンボ〉に近づけて、暗黒粒子に変換させて吸収させる。ふむ。今回、〈スーパーコンボ〉の形態変化はなかった。おそらく、よほど強力な魔物からの強化素材でなければ、形態変化までには至らないのだろう。

 武装Lv.は1032から、1089へと上がる。新たなスキルツリー領域として、毒化領域が出現。しかし毒タイプの攻撃なら、打撃領域でも《毒ノ打》を会得済みだけれども。
 ただ毒化領域にはスキルパネルではなく効果パネルとして、『耐毒体質Lv.1』があった。こちらのパネルを解放しておく。

 その後は、探索を再開。さまざまな魔物と戦いたいところも山々だが、いまは時間もないので、目当ての魔物とエンカウントするまでは、ひたすら《操縦》スキルによる飛行で逃げておく。

 ところで射程領域の《電光石火》は《操縦》中に発動し、敵へと突撃する攻撃系スキル。だが別の使い道があった。
 何も敵へと向かわずとも、《操縦》で飛行中に《電光石化》を使っていいのだ。すると、それは加速となる。
 これまで《操縦》だけだと、最高速は時速150キロ前後。
 だが《電光石化》を加速に使えば、最高時速300キロはいけそう。

 ただ速すぎて、危うく見逃すところだった。森林地帯で移動している、カメレオン型の魔物。〈爬虫有魔カメレオン〉を。
 地上階では92階に出現する、体色変化によって不可視になる敵さんでした。

 空中より急降下し、不意打ち。体色変化スキルが起こる前に、《阿吽竜巻》で体内より破壊させていただく。
 武装Lv.は1102へ。
〈蠍群魔(スコーピオン)〉より上階に出現する魔物だったが、オリジナルは〈蠍群魔(スコーピオン)〉より、ずっと下の印象。体色変化が起こる前に仕留めたからだろうか。

 さっそく強化素材を採取し、〈スーパーコンボ〉に投入。
 新たなるスキルツリー領域として、隠密領域が開く。さっそく隠密領域のスキルパネル《視界不良》を解放。
 ただしこれは、私が不可視になるスキルではなく、単純に『敵から発見されにくくなる』だけらしい。いきなり不可視になるスキルパネルがあるとは、そんな都合がよいこと考えてはいなかったけれども。
 ただ《視界不良》は、私だけでなくパーティ仲間にも使えるようなので、そこは便利かな。

 とりあえず、これでいいかな。〈鍵〉を使って、【覇王魔窟】より出る。《操縦》+《電光石火》で空を駆け抜けて、ギルド本拠地に戻る。
 ぜんぶで5時間か。

 ベロニカさんは、私の枕を両足のあいだに挟んで、また爆睡している。
 揺り起こす。

「起きてください、ベロニカさん。帝国に行きますよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

処理中です...