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58,後退も進歩。

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 さらに数日が経ち──私も、やっと立ち直った。

 さて。農作業は計画からはじまる。私の【覇王魔窟】復帰も、まずは計画をたてることから。
 最低限やるべきことは、魔改造くわ〈スーパーコンボ〉の復活だ。私の強化武器〈スーパーコンボ〉なくして【覇王魔窟】攻略はありえない。

 それにしても、地下迷宮〈死の楽園〉で強化素材を集めてレベルを上げるはずが、まさかその記念すべき一撃目で、〈スーパーコンボ〉を失うハメになるとは。
 なんという後退だろう。しかし、時には日照りが続くこともある。前に進むためには、後ろに下がらねばならないときも有るのだ。
 後退も進歩である。

 とにかく、目標としてまず〈スーパーコンボ〉の復活。そのために助言を求められる相手は、ベロニカさんか。ふむ。ただベロニカさんのもとに行くと迷惑をかけかねないので、こっちに来てもらうとしよう。

 ところで、やたらと規模の大きくなった女戦士ギルドについては、考えがある。誰にギルド長を引き継いでもらうか、ということだ。
 候補1,ミリカさん。候補2,ベロニカさん。
 まぁ、その段階にはまだ至らない。聖ルーン騎士団をどうにかするのが先だ。

 ところで、私が魔物化しているのを知っているのは、現在のところ聖ルーン騎士団だけだと思われる(エルフさんたちは別にして)。
 というのも、誰も聖ルーン騎士団のことを知らないようなので、これはもう極秘機関と解釈するしかない。ならば、他の組織と情報を共有しているとは考えられない。
 しかしながら、この聖ルーン騎士団が私を追っているうちは、私もミリカさんたちにおおやけに接触できないし、女戦士ギルドの引継ぎ作業なんかもできない。
 そもそも【覇王魔窟】攻略に集中する日々に戻るためには、やはり聖ルーン騎士団には──

「しかし、私にとって邪魔だからといって、魔物狩りに勤しんでいる人たちを排除していいものでしょうか? うーーーーーーーん、ダメなような気がする。ダメなのかなぁ? ダメってことはないよね? いや、やっぱりダメでしょう。ダメかなぁ?」

「おねえたま、なにを悩んでいるのですか?」

 と、可愛らしい声がした。
 見ると、女戦士ギルドの最年少メンバー、4歳のアニカちゃん! 
 遊牧ギルドという、ただの遊牧している人たちの集団が従属ギルドになったとき、そこから女戦士ギルドに引き抜いたのだ。理由:可愛いから。

「実は、困った人たちがいて、どうすればいいのか悩んでいたんですよ」

 アニカちゃんは両手を広げて言うのだった。

「それなら、みーーーーーーんな、お友達になるのです!」

 みんな、お友達? 
 おお、そうか。なんて簡単なことだったのだろう。
 聖ルーン騎士団が頭痛の種なのは、私を追跡するから。だからといって、排除するというのも違う気がする。
 ならば、どうするか。お友達になればいいのだ。手っ取り早く、聖ルーン騎士団を女戦士ギルドに吸収してしまおう。簡単な解決策でした。

 その前に、〈スーパーコンボ〉を復活させる必要があるよね。いつまでもロクウさん任せではいけないので。
 まずベロニカさんへの手紙を書く。それを配達ギルド(今朝がた従属ギルドになった)の一員に届けてもらうことにした。

 ところで、どうしてこんなにも従属ギルドが増えているのか。初期のころは、乗っ取りに来たギルドをロクウさんが返り討ちにして、従属させていた。
 ところがここ数日は、向こうからわれわれの本拠地を見つけては、すがり付くようにして従属化を希望してくるのだ。

 どうやら、これには壊滅ギルドなるものの存在が大きいそう。
 昨今、なんでもギルド化する風潮があるらしいが、この壊滅ギルドはある意味では、その極みといえる。なんたって壊滅ギルドの目的は、他ギルドを壊滅に追い込むことなのだから。
 手段は至ってシンプルであり、残酷。標的としたギルドを『皆殺し』にするのだ。

 壊滅ギルドの目的は不明。愉快犯なのかもしれず、王政府に納められるギルド税を減らそうという魂胆かもしれない(ただし王政府の財源の最たるものは領主からの富裕税なので、あんまり痛手にならないけど)。

 とにかく、そんな暴虐的なギルドが暗躍しているので、小規模の脆弱なギルドは、大手ギルドの庇護下に入ることを望む。
 ところが一般的に、大手ギルドは従属ギルドなど必要としない。そんな中、新興ギルドとして名を広めることになった女戦士ギルドが、ちょうど良い『保護者』となることになったわけだ。

 とにかく配達ギルドに、ベロニカさんへの手紙を託したし、あとは待つだけ。
 ちなみに現在、女戦士ギルドとその従属ギルド群がいるのは、トガ大森林内にある開けた場所。仮設住宅を立てて、ちょっとしたコミューンを形成している。

 ふぅ。やることもなくなったので、書記さんが作成した従属ギルドの一覧を確認でもしていようか。
 しばらくして、ロクウさんが入ってきた。緊張した面持ち。何かがあったようだ。

「アリア先生、本拠地の周囲へと巡回に出た狩人ギルドの小隊が帰ってきません。不慮の自然的な事故にあったのかもしれず、または──」

「壊滅ギルドさんたちが、奇襲前に巡回隊を狩り取ったかもしれない、と?」

「この本拠地の見張りを強化させてきましたが──先生。現在のところ、このギルド内でスキルツリーを開拓させているのは、拙者と先生のみ。拙者も獅子奮迅の働きをするつもりですが、先生のお手を煩わせることになるかもしれません」

「そのようですね」

 ロクウさんが去り、私は一人となった。
 道具袋から、〈スーパーコンボ〉の残骸を取り出す。ベロニカさんの助言を得るまでもないのでは? 答えは出ている。
 魔改造武器を強くするものとは何か? 魔素である。
 では破壊された魔改造武器を復活させるものも、やはり魔素のはずだ。それも大量の。

 そして、大量の魔素は、私の体内にも流れている。
 豆知識。自傷では、(防御Lv.6)は起動しない。そこでペーパーナイフを取り出し、両手首の血管を切った。
 流れだす血を、〈スーパーコンボ〉の残骸へと降り注がせる。

 さぁ、復活するのです、〈スーパーコンボ〉。ギルド長として、責任を果たすとき。いわば、いまはこのギルドが私のカブ畑。
 私のカブ畑には、手出しはさせんのです。
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