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57,新興ギルド。
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振り返ってみると、どこでどう間違えてしまったのかが分かるものだ。
初日から、間違いだった。
ロクウさんと旅を始めた朝のこと。街道を歩いていると、乗合馬車が盗賊の襲撃にあっていた。私は街道を歩きながら、なんとなく声をかけた。
このとき、別に正義のもと盗賊を成敗しよう、というテンションではなかった。盗賊もたまには金品を盗まないと、生活に困るだろうし。
もちろん、これがどこかの畑を荒らしていたのならば、それがジャガイモ畑だろうと玉ねぎ畑だろうと、私は正義のために戦っただろうけども。
しかし、乗合馬車の乗客から金品を強奪するくらいなら、別に構わないじゃないか。命が取られるわけではないし。
そこで通り過ぎていくために、私は声をかけたわけだ。
「ここ、通りますね」
盗賊の一人が、ちらっと私を見た。そして凄い形相で叫んだ。
「ぎゃぁぁぁあ鬼畜ぅぅぅぅ、鬼畜だぁぁぁ!!!!」
私は後ろを見た。鬼畜がどこにいるのか探したわけで。しかし誰もいない。
「私ですか? まさか」
「お、おれは見たんだぞ。あんたが、バルクのアニキに何をしたのかを。命乞いしているバルクさんに何をしたのかをぉぉぉぉ!」
「ああ、あなたもバルク盗賊団の残党さんでしたか。よく会いますね」
握手でもしようと一歩近づいたら、
「ひぃぃぃぃ助けてぇぇぇぇ!!」
と盗賊さんたちは逃げていってしまった。バルクさんを殺させていただいたことで、カブ畑虐殺の件は片付いているというのに。
乗合馬車から、一人の恰幅のよい男の人が降りてきた。そして私の両手を握り、ぶんぶんと振る。
「あなたのおかげで助かりました!」
「はぁ。助けてになったようで良かったですね。では、私はこれで」
「お待ちください。ここで、あなたのような勇敢なる少女と出会ったのも、深い運命のようなものを感じる。どうか、私の話を聞いてください。
あなたは女戦士ギルドをご存じか?
知らない? まぁ無理もありません。どこのギルドも、いまだ男尊女卑は甚だしい。そこで私の亡き妻が立ち上げたのが女戦士のためだけのギルド。それが女戦士ギルドでした。全盛期には、ギルド員数50人を誇っていたことも。
しかしながら世間一般においても、『女に仕事を任せられるか?』論はいまだ強く。そのため、女戦士だけのギルドには、あまり依頼がまわってこなかったのです。依頼が来なければ実績を作れず、実績を作れなければ依頼が来ずの悪循環。こうして女戦士ギルドは衰退し、いまや妻からギルド長を引き継いだ娘のサラ含めて、ギルド員はわずか6名。
そこでどうか、あなたにもこのギルドの一員に加わっていただきたいのです!」
「……………」
ここで断ると、この人の長い長い説得が始まるのか。すでにこの時点で、この人の話の長さで脳がやられそうなのに。
「……………いいですよ」
そこでさっそく、女戦士ギルドとやらの本拠地に案内された。
すると、なぜかギルド長のサラさん(23歳)が、私が女戦士の名にふさわしいか試験をする、と言い出す始末。
で、サラさんと一騎打ちすることに。
私はとくに戦わなかったのだが、サラさんが剣を振り下ろしてきたら、私の(防御Lv.6)が起動。サラさんの剣を弾き返したら──その勢いでサラさんは後方へと思い切り転んでしまい、尾骶骨を骨折。
「くぅぅ。なんという強さ! どうか、女戦士ギルドの新たなギルド長となり、われわれを率いてくださいっっっ!!」とサラさん。
サラさんの尾骶骨を骨折させてしまった手前、断るのもなんか罪悪感。
そこで了承してしまった。
その翌日。女戦士ギルドから逃げ出す算段を立てていたところ、お近くの狩人ギルドが襲撃してきたという報告。
何でも狩人ギルドは男ばかりで、女欲しさにこの女戦士ギルドを強制的に吸収するつもりなのだとか。にしても、また聞いたこともないギルドが出て来た。
「この国って、そんなにギルドがあるんですか」
まわりが女ばかりで居心地が悪そうなロクウさんが答えた。
「大手ギルドは数えるほどですが、ギルド員数が小規模のギルドはごまんとあります。もとは、ギルドからギルド税を取り立てるため、王政府がギルドの立ち上げを推奨し始めたことが原因でありますな」
とにかく、一時的かつ気乗りしないとはいえ、今ばかりは女戦士ギルドの長。ギルド員を守る責任があるので、私も本気を出す。本気を出して、弟子に指示。
「ロクウさん。狩人ギルドの人たちを、テキトーに追い払ってきてください。あんまり大怪我はさせないよう手加減するように」
「了解しました!!」
意気揚々と飛び出したロクウさん。
しばらくして、嬉しそうに戻ってきた。
「先生! やりましたぞ! 狩人ギルドの長が頭を下げてきて、アリア先生の女戦士ギルドに従属したいと、すなわち従属ギルドにさせて欲しいと頼み込んできました!」
「当然、ロクウさん?」
当然ながら断りましたよね、という問いかけ。
対してロクウさん、ぐっと力をこめて。
「当然、受けましたぞ! 先生が長を務めるギルド、たかがギルド員数が6人というのは侮辱以外の何物でもありませんでしたからな。これで従属ギルドも含めて、ぜんぶで54人。しかし、これは手始めにすぎませんぞ先生!!」
悪い予言というものは、当たるものだ。
翌日には、別のギルドが乗り込んできた。小規模なギルドというのは、別の小規模ギルドを乗っ取ることで勢力を拡大するらしい。
女戦士ギルドが規模を拡大したと聞きつけ、さっそく侵略しにきたというわけだとか。
今回もロクウさんが飛び出し、乗り込んできたギルドを蹂躙。
そして、またも従属ギルドにしてきた、と嬉しそうに報告してきた。それが繰り返され、気づいたころには、ギルド員が500人を超えていたわけ。
「やりましたな、先生! 先生のギルドは、いまや中規模ギルドですぞ! 先生は今や、500人の配下をもつギルド長なのです! この新興ギルドが、王都や中核都市で話題になるのもそう遠くないことでしょうな! 先生?」
「死にたい」
「え、先生、いまなんと?」
「死にたい」
「先生、お気を確かに!!」
「人が多すぎ、死にたい」
「先生ぇぇぇぇぇ!!!」
初日から、間違いだった。
ロクウさんと旅を始めた朝のこと。街道を歩いていると、乗合馬車が盗賊の襲撃にあっていた。私は街道を歩きながら、なんとなく声をかけた。
このとき、別に正義のもと盗賊を成敗しよう、というテンションではなかった。盗賊もたまには金品を盗まないと、生活に困るだろうし。
もちろん、これがどこかの畑を荒らしていたのならば、それがジャガイモ畑だろうと玉ねぎ畑だろうと、私は正義のために戦っただろうけども。
しかし、乗合馬車の乗客から金品を強奪するくらいなら、別に構わないじゃないか。命が取られるわけではないし。
そこで通り過ぎていくために、私は声をかけたわけだ。
「ここ、通りますね」
盗賊の一人が、ちらっと私を見た。そして凄い形相で叫んだ。
「ぎゃぁぁぁあ鬼畜ぅぅぅぅ、鬼畜だぁぁぁ!!!!」
私は後ろを見た。鬼畜がどこにいるのか探したわけで。しかし誰もいない。
「私ですか? まさか」
「お、おれは見たんだぞ。あんたが、バルクのアニキに何をしたのかを。命乞いしているバルクさんに何をしたのかをぉぉぉぉ!」
「ああ、あなたもバルク盗賊団の残党さんでしたか。よく会いますね」
握手でもしようと一歩近づいたら、
「ひぃぃぃぃ助けてぇぇぇぇ!!」
と盗賊さんたちは逃げていってしまった。バルクさんを殺させていただいたことで、カブ畑虐殺の件は片付いているというのに。
乗合馬車から、一人の恰幅のよい男の人が降りてきた。そして私の両手を握り、ぶんぶんと振る。
「あなたのおかげで助かりました!」
「はぁ。助けてになったようで良かったですね。では、私はこれで」
「お待ちください。ここで、あなたのような勇敢なる少女と出会ったのも、深い運命のようなものを感じる。どうか、私の話を聞いてください。
あなたは女戦士ギルドをご存じか?
知らない? まぁ無理もありません。どこのギルドも、いまだ男尊女卑は甚だしい。そこで私の亡き妻が立ち上げたのが女戦士のためだけのギルド。それが女戦士ギルドでした。全盛期には、ギルド員数50人を誇っていたことも。
しかしながら世間一般においても、『女に仕事を任せられるか?』論はいまだ強く。そのため、女戦士だけのギルドには、あまり依頼がまわってこなかったのです。依頼が来なければ実績を作れず、実績を作れなければ依頼が来ずの悪循環。こうして女戦士ギルドは衰退し、いまや妻からギルド長を引き継いだ娘のサラ含めて、ギルド員はわずか6名。
そこでどうか、あなたにもこのギルドの一員に加わっていただきたいのです!」
「……………」
ここで断ると、この人の長い長い説得が始まるのか。すでにこの時点で、この人の話の長さで脳がやられそうなのに。
「……………いいですよ」
そこでさっそく、女戦士ギルドとやらの本拠地に案内された。
すると、なぜかギルド長のサラさん(23歳)が、私が女戦士の名にふさわしいか試験をする、と言い出す始末。
で、サラさんと一騎打ちすることに。
私はとくに戦わなかったのだが、サラさんが剣を振り下ろしてきたら、私の(防御Lv.6)が起動。サラさんの剣を弾き返したら──その勢いでサラさんは後方へと思い切り転んでしまい、尾骶骨を骨折。
「くぅぅ。なんという強さ! どうか、女戦士ギルドの新たなギルド長となり、われわれを率いてくださいっっっ!!」とサラさん。
サラさんの尾骶骨を骨折させてしまった手前、断るのもなんか罪悪感。
そこで了承してしまった。
その翌日。女戦士ギルドから逃げ出す算段を立てていたところ、お近くの狩人ギルドが襲撃してきたという報告。
何でも狩人ギルドは男ばかりで、女欲しさにこの女戦士ギルドを強制的に吸収するつもりなのだとか。にしても、また聞いたこともないギルドが出て来た。
「この国って、そんなにギルドがあるんですか」
まわりが女ばかりで居心地が悪そうなロクウさんが答えた。
「大手ギルドは数えるほどですが、ギルド員数が小規模のギルドはごまんとあります。もとは、ギルドからギルド税を取り立てるため、王政府がギルドの立ち上げを推奨し始めたことが原因でありますな」
とにかく、一時的かつ気乗りしないとはいえ、今ばかりは女戦士ギルドの長。ギルド員を守る責任があるので、私も本気を出す。本気を出して、弟子に指示。
「ロクウさん。狩人ギルドの人たちを、テキトーに追い払ってきてください。あんまり大怪我はさせないよう手加減するように」
「了解しました!!」
意気揚々と飛び出したロクウさん。
しばらくして、嬉しそうに戻ってきた。
「先生! やりましたぞ! 狩人ギルドの長が頭を下げてきて、アリア先生の女戦士ギルドに従属したいと、すなわち従属ギルドにさせて欲しいと頼み込んできました!」
「当然、ロクウさん?」
当然ながら断りましたよね、という問いかけ。
対してロクウさん、ぐっと力をこめて。
「当然、受けましたぞ! 先生が長を務めるギルド、たかがギルド員数が6人というのは侮辱以外の何物でもありませんでしたからな。これで従属ギルドも含めて、ぜんぶで54人。しかし、これは手始めにすぎませんぞ先生!!」
悪い予言というものは、当たるものだ。
翌日には、別のギルドが乗り込んできた。小規模なギルドというのは、別の小規模ギルドを乗っ取ることで勢力を拡大するらしい。
女戦士ギルドが規模を拡大したと聞きつけ、さっそく侵略しにきたというわけだとか。
今回もロクウさんが飛び出し、乗り込んできたギルドを蹂躙。
そして、またも従属ギルドにしてきた、と嬉しそうに報告してきた。それが繰り返され、気づいたころには、ギルド員が500人を超えていたわけ。
「やりましたな、先生! 先生のギルドは、いまや中規模ギルドですぞ! 先生は今や、500人の配下をもつギルド長なのです! この新興ギルドが、王都や中核都市で話題になるのもそう遠くないことでしょうな! 先生?」
「死にたい」
「え、先生、いまなんと?」
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「先生、お気を確かに!!」
「人が多すぎ、死にたい」
「先生ぇぇぇぇぇ!!!」
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