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50,師匠or弟子。
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ベロニカさんが、ミリカさんに対峙。
「アリアちゃんがぁ、あなたのものぉ? ちょっとミリカ。頭湧いちゃったんたじゃぁないの? というか、ちょっと汗くさいんじゃないの?」
ミリカさん、そこは女の子。怯む。
「なに汗くさいだと? いや、そんなはずは──確かに基礎トレで百キロほど全力ダッシュしてきたあとだが」
「あーーーー、分かった! ミリカ、腋臭がにおうのねっっ!」
と、テキトーなことを言うベロニカさん。
しかし貴族の令嬢は、こういう不意の一撃に弱いらしい。
「な、な、な、な、なんということを言うのだ! そんなはずがないだろ!」
「はぁ。腋臭がくるとは、これはもう致命的よミリカ、致命的よ」
「わ、わたしの腋臭はくさくなぁぁぁぁい!!」
と、なんか涙目になっているミリカさん。口喧嘩ではベロニカさんに勝てないらしい。そんなミリカさんが、ちょっと可愛い。
しかしこの口喧嘩、まだまだ続きそうなので、私は外の空気を吸ってくることにした。ハーバン伯爵邸の外に出ると、知り合いの騎士さんが困った様子でやって来た。
「アリアさん。お手数ですが、敷地前までお願いできますでしょうか。そのう、アリアさんにどうしても面会したい、という者が来ていまして。われわれも相手が相手だけに、どう対処したものか迷っているのです」
「はぁ」
頼まれたので足を向けると、ロクウさんが謎の土下座スタイルで待っていた。
「………………こんにちは。さようなら」
「おお、アリア殿! どうか拙者の話を聞いてくだされ! 拙者はそなたと戦うことで、否、ぶちのめされることで目を開かされたのだ! この世には、まだまだ猛者たちがいる。拙者などは、小さな池の中で調子にのっている小魚に過ぎないのだと!」
まぁ確かに、私はいまだ【覇王魔窟】200階にも辿り着かぬ、いわばまだまだ雑魚枠。それに一撃で吹っ飛ばされては、猛者というにはほど遠い。
「頑張ってください」
面倒そうなので踵を返して歩き去ろうとしたら、しがみ付かれた。
「アリア殿! いやアリア先生! どうか、拙者を弟子にしてくだされっ!」
弟子を持つ!
というのを想像しただけで、眩暈、頭痛、嘔吐に襲われた。ソロプレイを愛する身として、弟子など一人でももったら地獄である。
それに私は、こう見えて責任感はあるほう。一度もった弟子は放置プレイしていたら、それはそれで罪悪感なので、やはりいくらか相手することになり、ソロプレイ人生に陰りが起こることは必至。よってここは拒否の一択。
いや、ただの拒否ではない。特大の拒否。
「いーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーやですっっっ! お断りしますっ! 弟子をとるくらいなら、マグマに飛び込みますっ!」
まともな人間ならば、ここまで拒否されると諦める。しかしこのロクウという男、変なところが猛者だった。この流れで、瞳を輝かせられるとは。
「おお先生! つまりそれは、『マグマに飛び込むくらいの覚悟が貴様にあるのか? あるのならば弟子にしてやる』という熱いメッセージ! 拙者、先生のはじめの授業に、感涙を禁じ得ませぬ!!」
「……え? まってください。え? どーいうこと?」
ところで、物事が急転するときはあっという間だ。『急転』というのだから、これは当然至極である。予知できていたら、それは『急転』とはいわない。
何が言いたいか、といえば。
私の胸部から、白い右手が出てくる。つづいて〈倦怠艶女(ミスティナ)〉さんの全身が滑りでてきた。裸体であり、おっぱい大きく、血は一滴もついていない。つまり、私は体内から突き破られてはいない。
〈倦怠艶女(ミスティナ)〉さん、寝たそうに伸びをする。それから、ようやく周囲の景色に気づいたようで、
「ん~? ここ、【覇王魔窟】の外? 眠いんだけども~」
ロクウさん、抜刀。
「なんだお主は、先生の体内から出てくるとは? この無礼者、切り捨てるぞ」
いやロクウさん、というか小魚さん。この女の人は、鯨ですよ。食われますよ。
しかし鯨とは、いちいち小魚に興味はないようだ。少なくとも食すとき以外は。だから〈倦怠艶女(ミスティナ)〉さんもロクウさん無視で、まぶしそうに太陽を見る。それから、おもむろに私の体内に戻ろうとしてきた。
「まだ寝足りないし、このベッドは気に入ったんだぁ~」
私、ベッドとして気に入れられたので、まだ突き破られなかったらしい。
ロクウさんが〈倦怠艶女(ミスティナ)〉さんの肩を、乱暴につかむ。無知とは最強なり。
「まて、このくせ者が。わが先生であるアリア殿は、猛者中の猛者。そんなお方を、『ベッド』呼ばわりとは何様だ」
「ん~。面倒な人間だなぁ。猛者中の猛者って、この子がぁ~?」
〈倦怠艶女(ミスティナ)〉さんが、いまさらながら私を値踏みしてくる。そして腕組みして、ふんふんとうなずいた。
「ふーーーん。確かにちょっと見どころがあるかもねぇ。キミさぁ、997階までのぼって、弟を殺してくれるかなぁ? お姉ちゃんのアタシが殺しさなきゃなんだけど、だるくてさぁ?」
「はぁ。あの、【覇王魔窟】完全攻略を狙っているので、その過程で997階の魔物も倒しますけども」
「ん。分かった~。だけどキミ、まだ雑魚すぎだから。あーーーー、面倒くさいけど、ちょっと稽古つけてあげるねぇぇ。うんっ、キミは今から、アタシの弟子だよ」
………………え、私はこの短時間で、師匠になって弟子になったの? なんの罰ゲーム?
「アリアちゃんがぁ、あなたのものぉ? ちょっとミリカ。頭湧いちゃったんたじゃぁないの? というか、ちょっと汗くさいんじゃないの?」
ミリカさん、そこは女の子。怯む。
「なに汗くさいだと? いや、そんなはずは──確かに基礎トレで百キロほど全力ダッシュしてきたあとだが」
「あーーーー、分かった! ミリカ、腋臭がにおうのねっっ!」
と、テキトーなことを言うベロニカさん。
しかし貴族の令嬢は、こういう不意の一撃に弱いらしい。
「な、な、な、な、なんということを言うのだ! そんなはずがないだろ!」
「はぁ。腋臭がくるとは、これはもう致命的よミリカ、致命的よ」
「わ、わたしの腋臭はくさくなぁぁぁぁい!!」
と、なんか涙目になっているミリカさん。口喧嘩ではベロニカさんに勝てないらしい。そんなミリカさんが、ちょっと可愛い。
しかしこの口喧嘩、まだまだ続きそうなので、私は外の空気を吸ってくることにした。ハーバン伯爵邸の外に出ると、知り合いの騎士さんが困った様子でやって来た。
「アリアさん。お手数ですが、敷地前までお願いできますでしょうか。そのう、アリアさんにどうしても面会したい、という者が来ていまして。われわれも相手が相手だけに、どう対処したものか迷っているのです」
「はぁ」
頼まれたので足を向けると、ロクウさんが謎の土下座スタイルで待っていた。
「………………こんにちは。さようなら」
「おお、アリア殿! どうか拙者の話を聞いてくだされ! 拙者はそなたと戦うことで、否、ぶちのめされることで目を開かされたのだ! この世には、まだまだ猛者たちがいる。拙者などは、小さな池の中で調子にのっている小魚に過ぎないのだと!」
まぁ確かに、私はいまだ【覇王魔窟】200階にも辿り着かぬ、いわばまだまだ雑魚枠。それに一撃で吹っ飛ばされては、猛者というにはほど遠い。
「頑張ってください」
面倒そうなので踵を返して歩き去ろうとしたら、しがみ付かれた。
「アリア殿! いやアリア先生! どうか、拙者を弟子にしてくだされっ!」
弟子を持つ!
というのを想像しただけで、眩暈、頭痛、嘔吐に襲われた。ソロプレイを愛する身として、弟子など一人でももったら地獄である。
それに私は、こう見えて責任感はあるほう。一度もった弟子は放置プレイしていたら、それはそれで罪悪感なので、やはりいくらか相手することになり、ソロプレイ人生に陰りが起こることは必至。よってここは拒否の一択。
いや、ただの拒否ではない。特大の拒否。
「いーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーやですっっっ! お断りしますっ! 弟子をとるくらいなら、マグマに飛び込みますっ!」
まともな人間ならば、ここまで拒否されると諦める。しかしこのロクウという男、変なところが猛者だった。この流れで、瞳を輝かせられるとは。
「おお先生! つまりそれは、『マグマに飛び込むくらいの覚悟が貴様にあるのか? あるのならば弟子にしてやる』という熱いメッセージ! 拙者、先生のはじめの授業に、感涙を禁じ得ませぬ!!」
「……え? まってください。え? どーいうこと?」
ところで、物事が急転するときはあっという間だ。『急転』というのだから、これは当然至極である。予知できていたら、それは『急転』とはいわない。
何が言いたいか、といえば。
私の胸部から、白い右手が出てくる。つづいて〈倦怠艶女(ミスティナ)〉さんの全身が滑りでてきた。裸体であり、おっぱい大きく、血は一滴もついていない。つまり、私は体内から突き破られてはいない。
〈倦怠艶女(ミスティナ)〉さん、寝たそうに伸びをする。それから、ようやく周囲の景色に気づいたようで、
「ん~? ここ、【覇王魔窟】の外? 眠いんだけども~」
ロクウさん、抜刀。
「なんだお主は、先生の体内から出てくるとは? この無礼者、切り捨てるぞ」
いやロクウさん、というか小魚さん。この女の人は、鯨ですよ。食われますよ。
しかし鯨とは、いちいち小魚に興味はないようだ。少なくとも食すとき以外は。だから〈倦怠艶女(ミスティナ)〉さんもロクウさん無視で、まぶしそうに太陽を見る。それから、おもむろに私の体内に戻ろうとしてきた。
「まだ寝足りないし、このベッドは気に入ったんだぁ~」
私、ベッドとして気に入れられたので、まだ突き破られなかったらしい。
ロクウさんが〈倦怠艶女(ミスティナ)〉さんの肩を、乱暴につかむ。無知とは最強なり。
「まて、このくせ者が。わが先生であるアリア殿は、猛者中の猛者。そんなお方を、『ベッド』呼ばわりとは何様だ」
「ん~。面倒な人間だなぁ。猛者中の猛者って、この子がぁ~?」
〈倦怠艶女(ミスティナ)〉さんが、いまさらながら私を値踏みしてくる。そして腕組みして、ふんふんとうなずいた。
「ふーーーん。確かにちょっと見どころがあるかもねぇ。キミさぁ、997階までのぼって、弟を殺してくれるかなぁ? お姉ちゃんのアタシが殺しさなきゃなんだけど、だるくてさぁ?」
「はぁ。あの、【覇王魔窟】完全攻略を狙っているので、その過程で997階の魔物も倒しますけども」
「ん。分かった~。だけどキミ、まだ雑魚すぎだから。あーーーー、面倒くさいけど、ちょっと稽古つけてあげるねぇぇ。うんっ、キミは今から、アタシの弟子だよ」
………………え、私はこの短時間で、師匠になって弟子になったの? なんの罰ゲーム?
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