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49,新婚さん。
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平和的解決を見たので、私は自宅に帰ろうとした。
しかし、ミリカさんに全力で止められる。
「まってくれ、アリアさん。このまま帰られると、その、あのう…………今回、われわれハーバン伯爵が所有する主力軍は、この場に来て、エルベン侯爵軍に睨みをきかせていたのだが、それが、そのう、えーと」
私は、周囲を見回した。あいにく《破嵐打》に指向性はないので、被害は両軍に至っていた。死者は出していないつもりだが、とりあえず軍の機能としてはダウンもいいところ。
その上で、ミリカさんが言いにくそうにしていることは、分からなくもない。
だが、それを受け入れるというのは、当分のあいだ【覇王魔窟】攻略に行けないことを意味する。入院やリハビリ期間でもないのに、私に我慢しろと? なんという暴虐的なる発想。
しかし、そんなことを考えている時点で、少しばかり中毒的なのかもしれない。私は【覇王魔窟】中毒なのでしょうか?
違うといいたいし、違うというためには、自主的に我慢してみせるしかないのかもしれない。
「ミリカさんの言いたいことは分かりますよ。ハーバン伯爵の所有軍が大ダメージを受けた今、エルベン侯爵以外の脅威が侵攻してくる可能性があると」
通常ならば、そういった内戦が行われないように取り締まるのが王政府のはずだけど。最近、すっかり弱体化しているという話だし。私たちの国家の未来が暗たんでは? いっそ帝国に組み込まれてしまえばいいのに。どうでもいいけど。
「こうしましょう。これも私の責任なので、しばらくハーバン伯爵邸でお世話になります。つまり、私の魔改造鍬〈スーパーコンボ〉が抑止力となるように。ですから、私は──」
住み込みの用心棒、的なことを言おうと思ったのだが、なぜかミリカさんが言うには、
「わたしと同棲を始めてくれるというのだね、アリアさんっ!」
同棲というのは同性婚ではないので、アーテル国でも違法ではないのかぁ。いや、そういう問題かな。
「あのですねミリカさん。私にはセシリアさんという心に決めた人がいるので」
「構わない。わたしは古い考えに囚われていないので、アリアさんが3股くらいかけていても、心から気にならないといえる。しかしながら、ベロニカだけはやめてくれるかな?」
「はぁ」
翌日。くだんのベロニカさんが、遊びにきた。というか、勝手に伯爵邸に乗り込んできた。
「アリア! ミリカと同棲を始めたって本当なの! このあたしがいるというのに!」
「住み込みの用心棒ですよ」
「な~んだ。ん、まって。それってアリアちゃんがそう思い込まされているだけで、ミリカは初夜の準備とかしているかもよ。油断も隙もないわぁ、あの女剣士」
ベロニカさんが来たとき、私は〈攻略不可能体〉について思いをはせていた。なんの因果か、まだ中層階にも至っていないのに、6体いるとされる〈攻略不可能体〉のうち、半分と遭遇している。
まずミリカさんの右眼を奪った〈寄生操魔(パペットマスター)〉。
現在進行形で、私の体内で眠っている〈倦怠艶女(ミスティナ)〉。
そしてベロニカさんの仲間を皆殺しにし、〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を解き放った〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉。
「そういえばベロニカさん。バルク盗賊団を討伐した日から、いまどれくらい日数が経過しましたっけ?」
「アリアとあたしが、運命的な出会いをした日ね。ちゃんと記録をとっているから、明確に今日が198日目と言い切れるわよぉ~」
するとベロニカさんに残されたのは468日か。
あのとき〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉はベロニカさんの体内に魔素の塊を仕込んで、爆発するまで666日とほざいたのだった。
それまでに、私が〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉を殺さねば。
このことは、ベロニカさんには黙っていたが。もしかすると、ちゃんと教えるべきなのかもしれない。いや、やはり黙っておくのが親切かも?
ひとつ確かなのは、このままのペースでは、間に合わないということ。私には、超絶的進化の時が必要だ。
「ところで、あのとき遭遇した少年型の魔物、つまり〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉ですが。ずっと疑問には思っていたんですけど、とくに興味もなかったので聞かなかったんですよ。ただせっかくなので尋ねますけど──事前に知っていましたよね? バルク盗賊団のアジトに、アレがいるということを。というか、真の目的は、〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉の討伐だったのでは?」
「さっすがアリアね! 鋭いわぁ」
と言って、私に抱きついて、すりすりしてくるベロニカさん。
うーむ。この直接攻撃は、さすがに卑怯だよね。女の子好きの私としては、理性でぐっと耐えるのだ。
「それでベロニカさん?」
「うん。あたしも詳細までは知らないのだけどもね。なんでも、うちの上のほう。つまり冒険者ギルドの上層部の誰かが、〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉と取引したそうなのよねぇ。その取引内容は不明なのだけど、ほら、魔物と取引なんて冒険者ギルドの信用にかかわる事態じゃない? だから内々でケリをつけるためにも、その取引した魔物を討伐するため、あたしたちは派遣されたわけ」
「【覇王魔窟】999階の魔物ですよ。勝てるわけがないでしょう」
「え? 999階? またまたぁ~。アリアちゃん、こんな話を知っている? 【覇王魔窟】の950階層以上にいる魔物は、規格外すぎて、一体ごとに国家を滅ぼせる力があるそうだよ。999階ときたら、もうこの惑星自体がピンチという感じ。そんな化け物が、外の世界を出回っているはずがないって」
惑星規模でピンチとは、それまたスケールが大きい話。
とはいえ──アーテル王国を蹂躙した〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を、〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉は花束を出す手品みたいに気軽に召喚してきたわけだし。
やろうと思えば、もしかして?
そんな化け物を倒す力を、あと468日のうちに身につけないと。この痴女なベロニカさんが、醜い魔物と化してしまう。そんなことはさせませんよっ!
ところでベロニカさんが密着していたとき、ミリカさんがやって来た。
「貴様、ベロニカ! どこから沸いて出たっ! 私のアリアさんから離れろ!」
こういう修羅場は武器強化につながる経験値にはならないので、大いに無意味である。
しかし、ミリカさんに全力で止められる。
「まってくれ、アリアさん。このまま帰られると、その、あのう…………今回、われわれハーバン伯爵が所有する主力軍は、この場に来て、エルベン侯爵軍に睨みをきかせていたのだが、それが、そのう、えーと」
私は、周囲を見回した。あいにく《破嵐打》に指向性はないので、被害は両軍に至っていた。死者は出していないつもりだが、とりあえず軍の機能としてはダウンもいいところ。
その上で、ミリカさんが言いにくそうにしていることは、分からなくもない。
だが、それを受け入れるというのは、当分のあいだ【覇王魔窟】攻略に行けないことを意味する。入院やリハビリ期間でもないのに、私に我慢しろと? なんという暴虐的なる発想。
しかし、そんなことを考えている時点で、少しばかり中毒的なのかもしれない。私は【覇王魔窟】中毒なのでしょうか?
違うといいたいし、違うというためには、自主的に我慢してみせるしかないのかもしれない。
「ミリカさんの言いたいことは分かりますよ。ハーバン伯爵の所有軍が大ダメージを受けた今、エルベン侯爵以外の脅威が侵攻してくる可能性があると」
通常ならば、そういった内戦が行われないように取り締まるのが王政府のはずだけど。最近、すっかり弱体化しているという話だし。私たちの国家の未来が暗たんでは? いっそ帝国に組み込まれてしまえばいいのに。どうでもいいけど。
「こうしましょう。これも私の責任なので、しばらくハーバン伯爵邸でお世話になります。つまり、私の魔改造鍬〈スーパーコンボ〉が抑止力となるように。ですから、私は──」
住み込みの用心棒、的なことを言おうと思ったのだが、なぜかミリカさんが言うには、
「わたしと同棲を始めてくれるというのだね、アリアさんっ!」
同棲というのは同性婚ではないので、アーテル国でも違法ではないのかぁ。いや、そういう問題かな。
「あのですねミリカさん。私にはセシリアさんという心に決めた人がいるので」
「構わない。わたしは古い考えに囚われていないので、アリアさんが3股くらいかけていても、心から気にならないといえる。しかしながら、ベロニカだけはやめてくれるかな?」
「はぁ」
翌日。くだんのベロニカさんが、遊びにきた。というか、勝手に伯爵邸に乗り込んできた。
「アリア! ミリカと同棲を始めたって本当なの! このあたしがいるというのに!」
「住み込みの用心棒ですよ」
「な~んだ。ん、まって。それってアリアちゃんがそう思い込まされているだけで、ミリカは初夜の準備とかしているかもよ。油断も隙もないわぁ、あの女剣士」
ベロニカさんが来たとき、私は〈攻略不可能体〉について思いをはせていた。なんの因果か、まだ中層階にも至っていないのに、6体いるとされる〈攻略不可能体〉のうち、半分と遭遇している。
まずミリカさんの右眼を奪った〈寄生操魔(パペットマスター)〉。
現在進行形で、私の体内で眠っている〈倦怠艶女(ミスティナ)〉。
そしてベロニカさんの仲間を皆殺しにし、〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を解き放った〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉。
「そういえばベロニカさん。バルク盗賊団を討伐した日から、いまどれくらい日数が経過しましたっけ?」
「アリアとあたしが、運命的な出会いをした日ね。ちゃんと記録をとっているから、明確に今日が198日目と言い切れるわよぉ~」
するとベロニカさんに残されたのは468日か。
あのとき〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉はベロニカさんの体内に魔素の塊を仕込んで、爆発するまで666日とほざいたのだった。
それまでに、私が〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉を殺さねば。
このことは、ベロニカさんには黙っていたが。もしかすると、ちゃんと教えるべきなのかもしれない。いや、やはり黙っておくのが親切かも?
ひとつ確かなのは、このままのペースでは、間に合わないということ。私には、超絶的進化の時が必要だ。
「ところで、あのとき遭遇した少年型の魔物、つまり〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉ですが。ずっと疑問には思っていたんですけど、とくに興味もなかったので聞かなかったんですよ。ただせっかくなので尋ねますけど──事前に知っていましたよね? バルク盗賊団のアジトに、アレがいるということを。というか、真の目的は、〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉の討伐だったのでは?」
「さっすがアリアね! 鋭いわぁ」
と言って、私に抱きついて、すりすりしてくるベロニカさん。
うーむ。この直接攻撃は、さすがに卑怯だよね。女の子好きの私としては、理性でぐっと耐えるのだ。
「それでベロニカさん?」
「うん。あたしも詳細までは知らないのだけどもね。なんでも、うちの上のほう。つまり冒険者ギルドの上層部の誰かが、〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉と取引したそうなのよねぇ。その取引内容は不明なのだけど、ほら、魔物と取引なんて冒険者ギルドの信用にかかわる事態じゃない? だから内々でケリをつけるためにも、その取引した魔物を討伐するため、あたしたちは派遣されたわけ」
「【覇王魔窟】999階の魔物ですよ。勝てるわけがないでしょう」
「え? 999階? またまたぁ~。アリアちゃん、こんな話を知っている? 【覇王魔窟】の950階層以上にいる魔物は、規格外すぎて、一体ごとに国家を滅ぼせる力があるそうだよ。999階ときたら、もうこの惑星自体がピンチという感じ。そんな化け物が、外の世界を出回っているはずがないって」
惑星規模でピンチとは、それまたスケールが大きい話。
とはいえ──アーテル王国を蹂躙した〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を、〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉は花束を出す手品みたいに気軽に召喚してきたわけだし。
やろうと思えば、もしかして?
そんな化け物を倒す力を、あと468日のうちに身につけないと。この痴女なベロニカさんが、醜い魔物と化してしまう。そんなことはさせませんよっ!
ところでベロニカさんが密着していたとき、ミリカさんがやって来た。
「貴様、ベロニカ! どこから沸いて出たっ! 私のアリアさんから離れろ!」
こういう修羅場は武器強化につながる経験値にはならないので、大いに無意味である。
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