38 / 119
38,片足旅。
しおりを挟む
161階に入ったとたん、右足側で浮遊感があった。
この感覚、以前も経験したような。そうそう、はじめて【覇王魔窟】に入ったときにも、こんな感じでしたねぇ。
左足でけんけんしながら、魔改造鍬〈スーパーコンボ〉を構えるも、敵がいない。いや、見えない?
動きは鈍くなるが、《鎧装甲》で全身に鎧を装着し、防御力を爆上げ。
その上でまず左手を伸ばして、切断された右足を回収。
右太腿のところで、あまりに綺麗に切断されているのだ。
こんなに綺麗に切断してくれたので、エルフの里の病院なら再接合手術できるかも?
とにかく左足だけでは戦えないので、〈緊急脱出トンカチ〉を使って脱出するわけだけど。せめて敵の正体くらい知りたい。
そして、見た。鋭い風の塊が吹いていて、いまそれが私に向かって飛来してくる。
紙一重で避けた──と思ったが、右わき腹が抉られ出血する。
理解した。厳密には視認していないが視認したということで、〈魔物図鑑:視覚版〉が機能。敵魔物の名は《鎌鼬》。
視認するのも難しい風の塊、それが161階の魔物の正体だ。しかも、その切れ味が異常すぎる。こっちは『(防御Lv.5)+《鎧装甲》』で防御していたのに、かすっただけで右わき腹を削がれている。
それにあんなに速い敵に打撃を当てられるスキルも手持ちにはないし。
〈緊急脱出トンカチ〉で頭を打ちながら、「いきなり難易度が上がりましたねぇ」と、【覇王魔窟】に心の中で言ってみた。
これは文句ではなくて、『そうなくちゃ!』という賞賛です念のため。
【覇王魔窟】の外へ空間転移。こんなときに限って、ジェシカさんがいない。すると自力でエルフの里に行かなきゃなのかぁ。
右太腿の切断面からの出血がさほどなのは、余程スパッッと切断されたからだろうか。それでもちゃんと止血はしておかないと。
えーと。素人考えだけど、このビュッビッュと鮮やかな血を噴いている大動脈を止血しなきゃだよね。じかに糸で大動脈の切断面を結んでみた。あ、出血がとまったぞい。
ここからエルフの里まで行かなきゃだけど。あそこは王国民には秘密の場所。よって乗合馬車で行ける場所でもない。
が、とりあえずその近くまでは、乗合馬車を利用してもいいよね。
まずは近くの乗合馬車の停留所へ、けんけんで向かう。
停留所では、ちょうど乗合馬車が来たところだ。ラッキー。けんけんのジャンプで、馬車内に乗り込む。先に座っていた乗客たちが、あんぐりと口を開けた。
「なんでしょうか。いまどき、右足を切断された旅人が珍しいのでしょうか?」
隣の席の人がなぜか逃げたので、私はそこに切断された右足を置いた。ちゃんと持っていけば、再接合手術してくれる可能性があるからね。
疲れたので転寝していたところ、しばらく進んでから乗合馬車が急停止した。けんけんで表に出て、御者さんに尋ねる。
「何事ですか?」
御者さんは怯えた様子。乗合馬車の会社が雇ったとみられる用心棒の人が、ブロードソードを右手に持つ。
一方、乗合馬車の進行方向では、ひとめで盗賊さんたちと分かる方々が、ニヤニヤ笑いながら立っていた。あれ。もしかして、あの盗賊さんたちは──おお、これも運命。
用心棒さんたちに止められたが、私はけんけんで盗賊さんたちのもとへ。〈スーパーコンボ〉片手に、道具袋からとあるものを取り出した。ハンカチで包んである。
「あなたたち、バルク盗賊団の残党さんですね? どうか、これをお納めください」
私が差し出したものを見ながら、残党さんたちが笑い出す。
「おいおい、俺たちは有り金ぜんぶいただくんだぜ。こんな汚い代物──なんだか知らんがいるかよバーカ」
「まぁ、お待ちください。実は、ずっと冒険者ギルドに届けるのを忘れていまして。ただギルドに渡すより、あなた達に納めたほうがいいのかなと。ですから、こちらをどうか受け取ってください」
私はハンカチを開いて、とっくに腐っている切断した右耳をぐっと差し出す。
「あなたがたの首領だった、バルクさんの右耳です」
残党の方々が、なぜか固まっている。まぁ確かに、かつては自分たちを率いていた首領さんの右耳と出会ったら、感動のあまり固まることも分からなくなはない。
「早く受け取ってください。蛆がわいているのは、申し訳なく思いますが。バルクさんの死体の残骸から持ち出して、かれこそ日付も経っていますからねぇ。しかし、愛は残っているはずです」
「てめぇ、ふざげんじゃねぇぞ! そんな気持ちのわりぃものを見せんじゃねぇぇ!!」
と、残党さんの一人が怒鳴るので、私は〈スーパーコンボ〉を反対にもち、柄頭でその方の右膝を粉砕した。
「ぎゃぁぁぁぁあああああぁぁぁぁなんでぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「こら、なんてことを言うんですか? あなた達の首領さんの右耳に対して、『気持ち悪い』とは。謝りなさい」
別の残党さんが「ふざけやがってぇぇぇ!!」と長剣で斬りかかってきたので、私は左腕を振るって、その刃を破壊した。(防御Lv.5)パネルを解放してある身としては、いまさら盗賊さんの通常攻撃ではかすり傷ひとつ負わないので。
〈スーパーコンボ〉を振るって、残党さんたちの足を払い、地面に倒した。そのうち一人の頭に、〈スーパーコンボ〉の柄頭を振り落とし、ぐっと力をこめる。
「ああぁぁぁ頭がぁぁぁぁ潰れるぅぅぅぅう!!!」
大袈裟な。
「謝りなさい。バルクさんの右耳に謝りなさい」
「ぎゃぁぁぁあごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁいい!!」
それから、ほかの残党さんも土下座して、右耳に謝罪。それから私は、右耳を差し出す。分かってくれたようで、残党さんたちは恭しく右耳を受け取った。で、慌てふためきながら逃げていく(右膝を粉砕した方は、仲間たちに引きずられるようにして)。
「良かったですね、バルクさん」
涙ぐんでしまいました。
この感覚、以前も経験したような。そうそう、はじめて【覇王魔窟】に入ったときにも、こんな感じでしたねぇ。
左足でけんけんしながら、魔改造鍬〈スーパーコンボ〉を構えるも、敵がいない。いや、見えない?
動きは鈍くなるが、《鎧装甲》で全身に鎧を装着し、防御力を爆上げ。
その上でまず左手を伸ばして、切断された右足を回収。
右太腿のところで、あまりに綺麗に切断されているのだ。
こんなに綺麗に切断してくれたので、エルフの里の病院なら再接合手術できるかも?
とにかく左足だけでは戦えないので、〈緊急脱出トンカチ〉を使って脱出するわけだけど。せめて敵の正体くらい知りたい。
そして、見た。鋭い風の塊が吹いていて、いまそれが私に向かって飛来してくる。
紙一重で避けた──と思ったが、右わき腹が抉られ出血する。
理解した。厳密には視認していないが視認したということで、〈魔物図鑑:視覚版〉が機能。敵魔物の名は《鎌鼬》。
視認するのも難しい風の塊、それが161階の魔物の正体だ。しかも、その切れ味が異常すぎる。こっちは『(防御Lv.5)+《鎧装甲》』で防御していたのに、かすっただけで右わき腹を削がれている。
それにあんなに速い敵に打撃を当てられるスキルも手持ちにはないし。
〈緊急脱出トンカチ〉で頭を打ちながら、「いきなり難易度が上がりましたねぇ」と、【覇王魔窟】に心の中で言ってみた。
これは文句ではなくて、『そうなくちゃ!』という賞賛です念のため。
【覇王魔窟】の外へ空間転移。こんなときに限って、ジェシカさんがいない。すると自力でエルフの里に行かなきゃなのかぁ。
右太腿の切断面からの出血がさほどなのは、余程スパッッと切断されたからだろうか。それでもちゃんと止血はしておかないと。
えーと。素人考えだけど、このビュッビッュと鮮やかな血を噴いている大動脈を止血しなきゃだよね。じかに糸で大動脈の切断面を結んでみた。あ、出血がとまったぞい。
ここからエルフの里まで行かなきゃだけど。あそこは王国民には秘密の場所。よって乗合馬車で行ける場所でもない。
が、とりあえずその近くまでは、乗合馬車を利用してもいいよね。
まずは近くの乗合馬車の停留所へ、けんけんで向かう。
停留所では、ちょうど乗合馬車が来たところだ。ラッキー。けんけんのジャンプで、馬車内に乗り込む。先に座っていた乗客たちが、あんぐりと口を開けた。
「なんでしょうか。いまどき、右足を切断された旅人が珍しいのでしょうか?」
隣の席の人がなぜか逃げたので、私はそこに切断された右足を置いた。ちゃんと持っていけば、再接合手術してくれる可能性があるからね。
疲れたので転寝していたところ、しばらく進んでから乗合馬車が急停止した。けんけんで表に出て、御者さんに尋ねる。
「何事ですか?」
御者さんは怯えた様子。乗合馬車の会社が雇ったとみられる用心棒の人が、ブロードソードを右手に持つ。
一方、乗合馬車の進行方向では、ひとめで盗賊さんたちと分かる方々が、ニヤニヤ笑いながら立っていた。あれ。もしかして、あの盗賊さんたちは──おお、これも運命。
用心棒さんたちに止められたが、私はけんけんで盗賊さんたちのもとへ。〈スーパーコンボ〉片手に、道具袋からとあるものを取り出した。ハンカチで包んである。
「あなたたち、バルク盗賊団の残党さんですね? どうか、これをお納めください」
私が差し出したものを見ながら、残党さんたちが笑い出す。
「おいおい、俺たちは有り金ぜんぶいただくんだぜ。こんな汚い代物──なんだか知らんがいるかよバーカ」
「まぁ、お待ちください。実は、ずっと冒険者ギルドに届けるのを忘れていまして。ただギルドに渡すより、あなた達に納めたほうがいいのかなと。ですから、こちらをどうか受け取ってください」
私はハンカチを開いて、とっくに腐っている切断した右耳をぐっと差し出す。
「あなたがたの首領だった、バルクさんの右耳です」
残党の方々が、なぜか固まっている。まぁ確かに、かつては自分たちを率いていた首領さんの右耳と出会ったら、感動のあまり固まることも分からなくなはない。
「早く受け取ってください。蛆がわいているのは、申し訳なく思いますが。バルクさんの死体の残骸から持ち出して、かれこそ日付も経っていますからねぇ。しかし、愛は残っているはずです」
「てめぇ、ふざげんじゃねぇぞ! そんな気持ちのわりぃものを見せんじゃねぇぇ!!」
と、残党さんの一人が怒鳴るので、私は〈スーパーコンボ〉を反対にもち、柄頭でその方の右膝を粉砕した。
「ぎゃぁぁぁぁあああああぁぁぁぁなんでぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「こら、なんてことを言うんですか? あなた達の首領さんの右耳に対して、『気持ち悪い』とは。謝りなさい」
別の残党さんが「ふざけやがってぇぇぇ!!」と長剣で斬りかかってきたので、私は左腕を振るって、その刃を破壊した。(防御Lv.5)パネルを解放してある身としては、いまさら盗賊さんの通常攻撃ではかすり傷ひとつ負わないので。
〈スーパーコンボ〉を振るって、残党さんたちの足を払い、地面に倒した。そのうち一人の頭に、〈スーパーコンボ〉の柄頭を振り落とし、ぐっと力をこめる。
「ああぁぁぁ頭がぁぁぁぁ潰れるぅぅぅぅう!!!」
大袈裟な。
「謝りなさい。バルクさんの右耳に謝りなさい」
「ぎゃぁぁぁあごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁいい!!」
それから、ほかの残党さんも土下座して、右耳に謝罪。それから私は、右耳を差し出す。分かってくれたようで、残党さんたちは恭しく右耳を受け取った。で、慌てふためきながら逃げていく(右膝を粉砕した方は、仲間たちに引きずられるようにして)。
「良かったですね、バルクさん」
涙ぐんでしまいました。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる