31 / 119
31,都市潜入。
しおりを挟む
気づいたら、ミリカさんとはぐれていた。
どこにいるのだろうと捜していると、武装した人たちが大急ぎで通りながら、「邪魔邪魔!」「そんなところにいたら通行の妨げだよ!」「非戦闘員はこんなところにいちゃダメだろ!」などなど、やたらと叱られるハメに。
仕方ないので、ずっと隅っこのほうで立っていたら、雨が降ってきた。
どこかのテントに入ろうとするが、そのたびに「ここは騎士団用だよ」「このテントは冒険者ギルド専用だから部外者はよそに行って」「このテントは女人禁制だ」「あんた娼館から派遣された子? スタイルはいいけど、その片方がグロい顔じゃぁ………悪いけど、チェンジで」などなど、とにかく私が入れるテントがなかった。
ざぁざぁ降りになる。
傭兵たちの会話の断片をつなぐと、まだ中核都市ボーン内には、避難できなかった市民が多数いて、地下室などに隠れているそうだ。
逃げられないのは、ドラゴン以外にも魔物がいるため。
実はあのドラゴン、ノミが寄生していたらしい。この大量のノミ、というかノミ型の魔物が、ドラゴンの表皮から飛び散り、都市内をウロウロしているそうだ。
なんたって、元のドラゴンが頭から尻尾の先までで80メートルはある(少年くんが召喚したときより、二回りは大きくなっているなぁ)。
そんなドラゴンのノミだから、人間の子供くらいの大きさ。これがまた人間を襲う上に敏捷で、訓練された都市の守護隊でさえ、全滅させられたという。
そんなノミ型魔物、しかも肉食性のが跋扈しているのでは、市民も脱出できないわけだ。しかも、悪いことは重なるもので、このノミ型魔物には固有スキルがあった。
噛みつかれたものは、自我を失い、同時に狂暴化。噂によると、人肉を喰らうらしい。というわけで、どうもゾンビ化されるのではないかと。
かくして中核都市ボーン内は、中央の市庁舎をベッドがわりに眠っているドラゴン、ドラゴンから解き放たれたノミ型魔物、それによってゾンビ化し徘徊する市民たち──
という、なかなかの地獄絵状態と化しているそうだ。
どうりで騎士団たちも、どう市民の避難に乗り出すか、そもそもこんな状態でドラゴン討伐など可能なのか、と頭を悩ませ動きが取れないわけである。
しかし、だ。私はどうしてくれる。こんな大雨の中、突っ立っている。別に雨は、そこまで嫌いじゃない。恵みの雨ともいうし。
ただ、やることがないのはどうも、ねぇ。
もう都市に入っちゃおうか? 私としては、一刻も早くドラゴンを討伐し、【覇王魔窟】に戻りたいし。それにカブ畑の復興という使命もあるのだ。
やっぱり、こんなところで油を売っている場合じゃないよっっ!
そこで《操縦》した魔改造鍬〈スーパーコンボ〉にまたがり、魔女飛行の方法で飛翔。ボーンを囲う都市壁を越えて、都市内に着地。
都市壁を越えてみると、ふむ、ドラゴンがよく見える。まだ距離としては、直線距離でも数キロはあるけども。なんたって、とんでもなくいデカい上に、市庁舎にのっかり、ようはベッドがわりにして熟睡しているので。
さてと。とりあえず、近づいてみようかなぁ。
しばし都市内の通路を歩く。死んだような静かさ。なんとなく口笛ふいていたら、路地裏からぞくぞくとゾンビさんたちがやって来た。口笛に反応したらしい。
しかしゾンビさんというのは、動きが緩慢だ。これなら逃げるのも容易い。
小走りで移動していると、素早く飛び掛かってくるものがあった。
最小限の動きで〈スーパーコンボ〉を振るい、飛び掛かってきたノミ型魔物を潰す。死骸を眺めると、〈魔物図鑑:視覚版〉が機能。
魔物名は〈蚤量魔〉というそうだ。
一体ならともかく、一気に何十体にも囲まれると、面倒かも。それに噛まれると、強制的にゾンビ化というのは、なかなかに脅威。
とにかく、ドラゴンさんだよ、ドラゴンさん。
〈魔物図鑑:視覚版〉によると、正しくは〈橙鎧龍〉というそうだ。
私の手持ちスキルで倒せるかなぁ? とにかく、何事もやってみることだ。
あれは8歳のとき。木登りして得意になった私は、自力で降りられないことに気づいた。だけど助けを呼ぼうにも、近くには誰もいない。そこで思い切って飛び降りた。20メートルはある高みから。しかし、案外にして無事だった。やってみると、たいしたことがなかったりする。ドラゴン退治も、たぶんそんな感じ。
ところで──助けを呼ぶ声がしますね。
「誰かぁぁ助けてぇぇ!!」
という悲鳴が、聞こえてくる。
《操縦》で飛翔させた〈スーパーコンボ〉に乗って、そちらに向かう。
「はいはい、『誰か』が来ましたよっっ!」
悲鳴を上げていたのは、20歳くらいの女性。その人のまわりには、何十人もの子供たちがいた。さらに彼らを取り囲むようにして、何十体もの〈蚤量魔〉。
私は脳内でイメージを描いてから、〈スーパーコンボ〉をつかみ急降下。何十体もいる〈蚤量魔〉を連続攻撃で、無駄な動きなく撃破、撃破、撃破。
最後の〈蚤量魔〉を叩き潰し、ふぅと吐息をついた。
「イメージより、全撃破まで2秒遅れましたね」
20代の女性が駆け寄ってきた。
「あの、ありがとうございます。市民の救出にきた冒険者ギルドの方ですか? 私は、ジョアンナといいます。学校の教師をしていまして、どうにか生徒たちだけでも逃そうとしていたところ、魔物に囲まれてしまいまして」
私は、子供たちが気になった。〈蚤量魔〉たちに囲まれながら、悲鳴ひとつあげなかった。勇敢なのか、または。
私は、子供の一人に近づいて、「アリアといいます、よろしくお願いしますね」と声をかける。
その子供の目はうつろで、口のはしから白い泡が噴き出ていた。それで、私が近づくと噛みつこうとしてくる。
私は後ろに移動して、噛みつきを回避。それから、ほかの子供たちも同じ様子だと分かった。
私はジョアンナさんを振り返る。
「あのー」
「はい?」
「この子供たち、みなさん。アレですよね?」
ジョアンナさん、満面の笑顔。
「ええ、可愛い生徒たちですわ」
えーーーーー。
どこにいるのだろうと捜していると、武装した人たちが大急ぎで通りながら、「邪魔邪魔!」「そんなところにいたら通行の妨げだよ!」「非戦闘員はこんなところにいちゃダメだろ!」などなど、やたらと叱られるハメに。
仕方ないので、ずっと隅っこのほうで立っていたら、雨が降ってきた。
どこかのテントに入ろうとするが、そのたびに「ここは騎士団用だよ」「このテントは冒険者ギルド専用だから部外者はよそに行って」「このテントは女人禁制だ」「あんた娼館から派遣された子? スタイルはいいけど、その片方がグロい顔じゃぁ………悪いけど、チェンジで」などなど、とにかく私が入れるテントがなかった。
ざぁざぁ降りになる。
傭兵たちの会話の断片をつなぐと、まだ中核都市ボーン内には、避難できなかった市民が多数いて、地下室などに隠れているそうだ。
逃げられないのは、ドラゴン以外にも魔物がいるため。
実はあのドラゴン、ノミが寄生していたらしい。この大量のノミ、というかノミ型の魔物が、ドラゴンの表皮から飛び散り、都市内をウロウロしているそうだ。
なんたって、元のドラゴンが頭から尻尾の先までで80メートルはある(少年くんが召喚したときより、二回りは大きくなっているなぁ)。
そんなドラゴンのノミだから、人間の子供くらいの大きさ。これがまた人間を襲う上に敏捷で、訓練された都市の守護隊でさえ、全滅させられたという。
そんなノミ型魔物、しかも肉食性のが跋扈しているのでは、市民も脱出できないわけだ。しかも、悪いことは重なるもので、このノミ型魔物には固有スキルがあった。
噛みつかれたものは、自我を失い、同時に狂暴化。噂によると、人肉を喰らうらしい。というわけで、どうもゾンビ化されるのではないかと。
かくして中核都市ボーン内は、中央の市庁舎をベッドがわりに眠っているドラゴン、ドラゴンから解き放たれたノミ型魔物、それによってゾンビ化し徘徊する市民たち──
という、なかなかの地獄絵状態と化しているそうだ。
どうりで騎士団たちも、どう市民の避難に乗り出すか、そもそもこんな状態でドラゴン討伐など可能なのか、と頭を悩ませ動きが取れないわけである。
しかし、だ。私はどうしてくれる。こんな大雨の中、突っ立っている。別に雨は、そこまで嫌いじゃない。恵みの雨ともいうし。
ただ、やることがないのはどうも、ねぇ。
もう都市に入っちゃおうか? 私としては、一刻も早くドラゴンを討伐し、【覇王魔窟】に戻りたいし。それにカブ畑の復興という使命もあるのだ。
やっぱり、こんなところで油を売っている場合じゃないよっっ!
そこで《操縦》した魔改造鍬〈スーパーコンボ〉にまたがり、魔女飛行の方法で飛翔。ボーンを囲う都市壁を越えて、都市内に着地。
都市壁を越えてみると、ふむ、ドラゴンがよく見える。まだ距離としては、直線距離でも数キロはあるけども。なんたって、とんでもなくいデカい上に、市庁舎にのっかり、ようはベッドがわりにして熟睡しているので。
さてと。とりあえず、近づいてみようかなぁ。
しばし都市内の通路を歩く。死んだような静かさ。なんとなく口笛ふいていたら、路地裏からぞくぞくとゾンビさんたちがやって来た。口笛に反応したらしい。
しかしゾンビさんというのは、動きが緩慢だ。これなら逃げるのも容易い。
小走りで移動していると、素早く飛び掛かってくるものがあった。
最小限の動きで〈スーパーコンボ〉を振るい、飛び掛かってきたノミ型魔物を潰す。死骸を眺めると、〈魔物図鑑:視覚版〉が機能。
魔物名は〈蚤量魔〉というそうだ。
一体ならともかく、一気に何十体にも囲まれると、面倒かも。それに噛まれると、強制的にゾンビ化というのは、なかなかに脅威。
とにかく、ドラゴンさんだよ、ドラゴンさん。
〈魔物図鑑:視覚版〉によると、正しくは〈橙鎧龍〉というそうだ。
私の手持ちスキルで倒せるかなぁ? とにかく、何事もやってみることだ。
あれは8歳のとき。木登りして得意になった私は、自力で降りられないことに気づいた。だけど助けを呼ぼうにも、近くには誰もいない。そこで思い切って飛び降りた。20メートルはある高みから。しかし、案外にして無事だった。やってみると、たいしたことがなかったりする。ドラゴン退治も、たぶんそんな感じ。
ところで──助けを呼ぶ声がしますね。
「誰かぁぁ助けてぇぇ!!」
という悲鳴が、聞こえてくる。
《操縦》で飛翔させた〈スーパーコンボ〉に乗って、そちらに向かう。
「はいはい、『誰か』が来ましたよっっ!」
悲鳴を上げていたのは、20歳くらいの女性。その人のまわりには、何十人もの子供たちがいた。さらに彼らを取り囲むようにして、何十体もの〈蚤量魔〉。
私は脳内でイメージを描いてから、〈スーパーコンボ〉をつかみ急降下。何十体もいる〈蚤量魔〉を連続攻撃で、無駄な動きなく撃破、撃破、撃破。
最後の〈蚤量魔〉を叩き潰し、ふぅと吐息をついた。
「イメージより、全撃破まで2秒遅れましたね」
20代の女性が駆け寄ってきた。
「あの、ありがとうございます。市民の救出にきた冒険者ギルドの方ですか? 私は、ジョアンナといいます。学校の教師をしていまして、どうにか生徒たちだけでも逃そうとしていたところ、魔物に囲まれてしまいまして」
私は、子供たちが気になった。〈蚤量魔〉たちに囲まれながら、悲鳴ひとつあげなかった。勇敢なのか、または。
私は、子供の一人に近づいて、「アリアといいます、よろしくお願いしますね」と声をかける。
その子供の目はうつろで、口のはしから白い泡が噴き出ていた。それで、私が近づくと噛みつこうとしてくる。
私は後ろに移動して、噛みつきを回避。それから、ほかの子供たちも同じ様子だと分かった。
私はジョアンナさんを振り返る。
「あのー」
「はい?」
「この子供たち、みなさん。アレですよね?」
ジョアンナさん、満面の笑顔。
「ええ、可愛い生徒たちですわ」
えーーーーー。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる