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31,都市潜入。

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気づいたら、ミリカさんとはぐれていた。
 
 どこにいるのだろうと捜していると、武装した人たちが大急ぎで通りながら、「邪魔邪魔!」「そんなところにいたら通行の妨げだよ!」「非戦闘員はこんなところにいちゃダメだろ!」などなど、やたらと叱られるハメに。

 仕方ないので、ずっと隅っこのほうで立っていたら、雨が降ってきた。

 どこかのテントに入ろうとするが、そのたびに「ここは騎士団用だよ」「このテントは冒険者ギルド専用だから部外者はよそに行って」「このテントは女人禁制だ」「あんた娼館から派遣された子? スタイルはいいけど、その片方がグロい顔じゃぁ………悪いけど、チェンジで」などなど、とにかく私が入れるテントがなかった。

 ざぁざぁ降りになる。

 傭兵たちの会話の断片をつなぐと、まだ中核都市ボーン内には、避難できなかった市民が多数いて、地下室などに隠れているそうだ。
 逃げられないのは、ドラゴン以外にも魔物がいるため。
 実はあのドラゴン、ノミが寄生していたらしい。この大量のノミ、というかノミ型の魔物が、ドラゴンの表皮から飛び散り、都市内をウロウロしているそうだ。

 なんたって、元のドラゴンが頭から尻尾の先までで80メートルはある(少年くんが召喚したときより、二回りは大きくなっているなぁ)。
 そんなドラゴンのノミだから、人間の子供くらいの大きさ。これがまた人間を襲う上に敏捷で、訓練された都市の守護隊でさえ、全滅させられたという。
 そんなノミ型魔物、しかも肉食性のが跋扈しているのでは、市民も脱出できないわけだ。しかも、悪いことは重なるもので、このノミ型魔物には固有スキルがあった。
 噛みつかれたものは、自我を失い、同時に狂暴化。噂によると、人肉を喰らうらしい。というわけで、どうもゾンビ化されるのではないかと。

 かくして中核都市ボーン内は、中央の市庁舎をベッドがわりに眠っているドラゴン、ドラゴンから解き放たれたノミ型魔物、それによってゾンビ化し徘徊する市民たち──
 という、なかなかの地獄絵状態と化しているそうだ。
 どうりで騎士団たちも、どう市民の避難に乗り出すか、そもそもこんな状態でドラゴン討伐など可能なのか、と頭を悩ませ動きが取れないわけである。

 しかし、だ。私はどうしてくれる。こんな大雨の中、突っ立っている。別に雨は、そこまで嫌いじゃない。恵みの雨ともいうし。
 ただ、やることがないのはどうも、ねぇ。

 もう都市に入っちゃおうか? 私としては、一刻も早くドラゴンを討伐し、【覇王魔窟】に戻りたいし。それにカブ畑の復興という使命もあるのだ。
 やっぱり、こんなところで油を売っている場合じゃないよっっ! 

 そこで《操縦》した魔改造くわ〈スーパーコンボ〉にまたがり、魔女飛行の方法で飛翔。ボーンを囲う都市壁を越えて、都市内に着地。
 都市壁を越えてみると、ふむ、ドラゴンがよく見える。まだ距離としては、直線距離でも数キロはあるけども。なんたって、とんでもなくいデカい上に、市庁舎にのっかり、ようはベッドがわりにして熟睡しているので。

 さてと。とりあえず、近づいてみようかなぁ。
 しばし都市内の通路を歩く。死んだような静かさ。なんとなく口笛ふいていたら、路地裏からぞくぞくとゾンビさんたちがやって来た。口笛に反応したらしい。
 しかしゾンビさんというのは、動きが緩慢だ。これなら逃げるのも容易い。

 小走りで移動していると、素早く飛び掛かってくるものがあった。
 最小限の動きで〈スーパーコンボ〉を振るい、飛び掛かってきたノミ型魔物を潰す。死骸を眺めると、〈魔物図鑑:視覚版〉が機能。
 魔物名は〈蚤量魔フリーデッド〉というそうだ。
 一体ならともかく、一気に何十体にも囲まれると、面倒かも。それに噛まれると、強制的にゾンビ化というのは、なかなかに脅威。

 とにかく、ドラゴンさんだよ、ドラゴンさん。
〈魔物図鑑:視覚版〉によると、正しくは〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉というそうだ。
 私の手持ちスキルで倒せるかなぁ? とにかく、何事もやってみることだ。
 あれは8歳のとき。木登りして得意になった私は、自力で降りられないことに気づいた。だけど助けを呼ぼうにも、近くには誰もいない。そこで思い切って飛び降りた。20メートルはある高みから。しかし、案外にして無事だった。やってみると、たいしたことがなかったりする。ドラゴン退治も、たぶんそんな感じ。

 ところで──助けを呼ぶ声がしますね。

「誰かぁぁ助けてぇぇ!!」

 という悲鳴が、聞こえてくる。
《操縦》で飛翔させた〈スーパーコンボ〉に乗って、そちらに向かう。

「はいはい、『誰か』が来ましたよっっ!」

 悲鳴を上げていたのは、20歳くらいの女性。その人のまわりには、何十人もの子供たちがいた。さらに彼らを取り囲むようにして、何十体もの〈蚤量魔フリーデッド〉。
 私は脳内でイメージを描いてから、〈スーパーコンボ〉をつかみ急降下。何十体もいる〈蚤量魔フリーデッド〉を連続攻撃で、無駄な動きなく撃破、撃破、撃破。
 最後の〈蚤量魔フリーデッド〉を叩き潰し、ふぅと吐息をついた。

「イメージより、全撃破まで2秒遅れましたね」

 20代の女性が駆け寄ってきた。

「あの、ありがとうございます。市民の救出にきた冒険者ギルドの方ですか? 私は、ジョアンナといいます。学校の教師をしていまして、どうにか生徒たちだけでも逃そうとしていたところ、魔物に囲まれてしまいまして」

 私は、子供たちが気になった。〈蚤量魔フリーデッド〉たちに囲まれながら、悲鳴ひとつあげなかった。勇敢なのか、または。
 私は、子供の一人に近づいて、「アリアといいます、よろしくお願いしますね」と声をかける。
 その子供の目はうつろで、口のはしから白い泡が噴き出ていた。それで、私が近づくと噛みつこうとしてくる。
 私は後ろに移動して、噛みつきを回避。それから、ほかの子供たちも同じ様子だと分かった。

 私はジョアンナさんを振り返る。

「あのー」

「はい?」

「この子供たち、みなさん。アレですよね?」

 ジョアンナさん、満面の笑顔。

「ええ、可愛い生徒たちですわ」

 えーーーーー。
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